天文18年(1549年)11月――。
尾張と駿河の人質交換が行われました。
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真上からカメラが見下ろすそんな場面が繰り広げられます。
平手政秀が立ち会っております。
このことによって、東海の覇権争いは大きく動くこととなるのです。
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信秀の憂鬱
末盛城の織田信秀は、政秀の報告を受けています。信広が無傷であったことが告げられると、信秀は苛立ちを見せます。
戦をして捕らえられたのに、かすり傷一つない。我が子だから助けたとはいえ、城を失った主であれば、せめて満身創痍で帰ってくるべきものを……。不甲斐ない。そう言いつつ、弓を引いています。
信長と信秀の性格の差が出ています。
信長:負けて城を落とされたならば、腹を切れ!
信秀:腹を切れとまでは言わないが、満身創痍になるくらいは本気見せろよ
信長はいちいち極端すぎて、信秀はじめ周囲には過激に見えるのです。力の加減がわからないんですね。
信秀は、弓を引けずにうめいております。政秀が「いかがなされました」と心配すると、もはや弓を引けぬと漏らします。
弦も鳴らぬ。かつては敵に五百の矢を放っていたそうです。政秀は「尾張一の弓の使い手でございました」と言います。
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信秀と政秀は、やっぱり普通の人だとは思う。
武士にとって暗黙のルールである弓を重視しています。
武士は「弓馬の道」と呼ばれるくらいで、弓の強さは武士の名誉に直結するのです。
でも……武士の弓って、どうなんでしょう。
腕力がなければ引けないし、引っ張っている間、無防備でもある。使用者は限られるし、非効率的と言えばそうなのです。
アイヌの弓の方が武器としては使いやすいところはあります。蠣崎氏は、アイヌの弓を自慢していたそうですよ。
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そんな信秀は、我が子に絶望しております。
子は全員駄目。自分ももう駄目。今川に戦を仕掛けられたら勝ち目がない。
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絶望的だ!
平手政秀は、今川の監視命じられるのでした。
信秀は弓。信長は鉄砲。このドラマの父子は、気質の違いを見ていく上で重要です。
そこを注目すると、このドラマは理解しやすくなると思うんだなぁ。
竹千代は見ている
駿河の今川義元の館に、竹千代が到着しました。義元は、寛大さを見せつつ、迎えております。
この義元って、白塗りでも不気味な公家でもなくて、名将の最大公約数のようなところがある。やたらと癖の強い信長と比較するまでもないし。信秀より上品だし。蝮こと利政のような不穏さもないし。
最も一緒に食事をしたいのは誰ですか? そう問われたら、義元じゃないかな? と答えそうです。
「竹千代殿、よう参られた」
そう迎える義元は、途中で生まれ育った三河を通った感想を聞いて来ると。
竹千代は、何もかもが懐かしく、夢を見ているようだったと返します。もう、この竹千代が何を言ってもある意味信じられないところはある。
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義元はここで「よしよし」と言い、この駿府でも夢のような環境を整えると言います。
美しい館! 庭! インテリア! 大きな市場で集められた珍しき品々! そなたを楽しませてくれるであろう!
いいですねぇ。竹千代は、ご存知の通り大した子です。この小さくてどこまでも広がるような頭の中に、知識をたっぷりと詰め込むのでしょう。
ここは教育環境が大事。漢籍を読み、知識を蓄えてゆくのです。
「長い道中、腹が減ったであろう。この義元、相伴致す」
そう義元が告げると、尾頭つきの鯛をはじめ、なかなか豪華なお膳が運ばれてきます。
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けれども、竹千代は喜ばない。淡々と、こう聞いてきます。
「私はいつ、三河へお返しいただけるのでしょうか?」
ここで太原雪斎が、三河のことを説明するのです。
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織田信秀につく者。今川義元につく者。合い争っている。このままでは、いずれ三河は滅びる。
義元としては、隣国が争っているのは見るに耐えない。三河を滅ぼす勢力を、完膚なきまで叩く――。
しばしの辛抱じゃ。そう言われて、竹千代はその言葉をじっと聞いています。
義元はこう宣言します。
「歳が明けたら戦じゃ、三河を救うための戦ぞ!」
「心得ましてございまする」
そう君臣は言うわけですが……ここでもやはり、竹千代はすごい。
先週と違って、そこまで能動的ではありません。
今週は普通のように見える。けれども、これぞ本作が描いてゆく徳川家康のおそろしさの真髄だとは思いました。
・義元の親切心にさしたる反応がない。空腹でも、豪華な食事に喜ばない
→自分自身がこの年齢の頃を思い出してください。かわいげのある子ならば、喜びませんか? 信長の母・土田御前が「かわいげがない」と言ったのも、このあたりに原因があるのでしょう。
・三河へ戻る期限を聞いて来る
→しかも、冷静にです。淡々と、幼いながらに三河情勢を引き出すための質問ができる。
家康のおそろしいところは、観察眼とみた。ジッと静かに状況を見ている。将棋の盤面を見るように、自分を含めた状況を見る。
そんな家康にとって、目の前の食事は些細なことなのです。
「片岡愛之助さんと伊吹吾郎さんとのシーンは、おふたりの迫力がすごくて、とても緊張しました。お芝居もすごくむずかしかったです。あと、このドラマに出演して、日本の歴史が好きになりました。戦国時代が一番好きです!」(岩田琉聖)#麒麟がくる pic.twitter.com/Ll7R7wIgNv
— 【公式】大河ドラマ「麒麟がくる」毎週日曜放送 (@nhk_kirin) March 29, 2020
竹千代は、敵の顔を「見る」といった。
その「見る」ということが、普通の概念の「見る」と同じではないかもしれない。度胸ではなく、思考と観察の問題だとすれば?
ここである実在の人物のことを持ち出したいと思います。
ジョゼフ・ベル博士です。
コナン・ドイルを指導したこの医師は、診察に訪れた患者を見るだけで、職業や出身地まで当てて見せた。ドイルは彼をモデルにして、シャーロック・ホームズを生み出しました。
ホームズはベルのように、特徴だけでその人のことを当ててしまう。
どういう仕組みなのか?
BBC版の『SHERLOCK』は、現代を舞台しただけではなく最新の知見を元にして、その仕組みを映像化しています。
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竹千代も、このベルと同じ見方をしているとすれば?
じっと見て、分析して、今川の特徴を観察しているとすれば?
そういう人物に開けっぴろげな態度で接することをどう思いますか。こんな人物が見ていることを想像するだけで、気分が悪くなりませんか。
度胸じゃない。賢さじゃない。
この竹千代がおそろしいのは、ものの見方です。観察眼そのものなのです。
徳川家康が家康たる本質は、もうこの幼い時点で出ております。
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人間の本質とは、加齢とともによって変わるものでもない。彼はこの時点で、おそろしい目を持っている。
そんな彼の目からすれば、今川義元の言い訳なんて嘘っぱちだとわかっているのです。
大義名分をふりかざし、三河のためだと言いつつ、踏みにじることくらい理解できる。だからこそ、そんな嘘につきあう父が憎くてたまらなかった。
まだ幼いから、その思いを言語化できないかもしれない。けれども、いずれ彼は今川への憎悪をきっちりと整理することでしょう。
今川で学び、世話にはなる。天下をつかむ基礎は身につける。
されど、それはそれ、これはこれ。キッパリ割り切って、彼は彼の道を歩いてゆくのでしょう。
蝮、評定がかったるい
翌年夏、知多は今川によって蹂躙されます。織田信秀はあまりに非力でした。
こうなると、美濃も火傷しかねない。斎藤と織田の盟約は、迫りくる今川によって今にも崩れようとしていたのです。
はい、そんな美濃の評定タイム!
蝮の評定テーマ「織田との盟約をどうする?」
高政「もう織田信秀に押し返す力はありません。どうしますか? 知多を責められ、もう熱田まで迫っているんですよ!」
斎藤利政(斎藤道三)は、様子を見るしかないとどこかやる気がない返事。基本的に、ミーティングが嫌いなんでしょう。そうなんです、こいつはムカつく上司なんです。
利政のことを嫌いな稲葉良通(稲葉一鉄)は、織田に巻き込まれて今川と戦うなんて冗談じゃないと迫って来る。
利政は戦うつもりがある、今川と戦う覚悟を聞くわけです。
良通は、今は稲刈りの時期で誰も動かないとキッパリ断ります。覚悟があろうが、兵が集まらない。現実は非情です。
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利政は、織田が潰れたら今川が迫って来ると返す。そうなれば覚悟を決めて戦うと良通は言う。
結局、話し合うだけ無駄ではある。
何もならないことに無駄な時間使ったというかったるさを漂わせるそんな利政。いきなり笑いだすしさぁ。怖いっていうよりも、こいつは態度がひたすらムカつくところはありますよね。個人的には好きですけど。
彼は明智光安を相手にぼやいております。
もう、明智しか本音言えないドツボに陥っているんでしょう。
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織田の弱さをぼやきつつ、平手政秀の援軍要請が来ていると光安に告げます。
とりあえず、米は送るけど兵は送らないという、時間稼ぎめいたごまかしを思いつきます。
利政に誠意を期待するなって話ですね……。しかも、ここで当然のように十兵衛光秀がその使者に指名される。光秀がなまじ信長と知り合いになったことがよくなかったようです。光秀の人生は、ずっとこんな感じなのか……。
光秀が旅ばかりをすることがRPGだのなんだの言われていますが、むしろ延々と『1917』の伝令状態のような気がしてきました。命がいくつあっても足らんわ!
この利政に、思いやりを期待するなってもんで。
「いざとなったら盟約を乗り換えるまでじゃ!」と、血も涙もない思考ルーティンを発揮しています。
土岐頼純に毒入りのお茶を飲ませるよりも、こっちの方が個人的には嫌かな。
ゆうちょの宣伝を蝮顔の俳優さんがしているのを見るわけですが、むしろゆうちょなんて信じられないと思えるようになったから、困ったもんです。何がコツコツだ! いや、まあ、冗談ですけどね。
ここで踏まえたいこと。
利政は基本的に、評定をかったるい態度でやってます。実際、評定を無視して使者を派遣してしまう。
家臣や国衆からすれば苛立ちますね。ただ、利政にも言い分はあるし、それが正しい部分はありまして。
会議にせよ、ブレインストリーミングにせよ。あんなもん知ったこっちゃねえ、そう思う気持ち、わかりませんか?
評定(ブレインストリーミング、会議)は無駄だ!
船頭多くして船山に登るとは、このこと。一応、理由を説明しますとことは単純で【手抜き】ですね。人が多いと誰かがやるから自分は考えなくていい。そう思う人が出てくる。
非生産的。誰かがやるから、自分は黙っているしかない。言いたくても言えない。アイデアが埋没する。
評価懸念。こういうことを発言して、周囲はどう思うのか。そう思うと実は思い切ったことは言えなくなる。
逆に、何も考えていない無能と思われたくないばかりに、さしたる根拠もないことを「ああでこうなるワケ」と称して言ってしまったりするのです。
よい意見は、独創的なことよりも周囲と調和すること。そういう現象も起きる。
実験してみた結果もあるのです。
95パーセントが正解する簡単な問題をチームでにやらせてみる。この正答率を下げるにはどうしたらいいか?
自信満々でありながら、誤答をする者をチームに入れるのです。
そうすると、正解がわかっていたはずの人でも、
「そうかな……あの人が堂々とああいうってことは、そうかも」
と、誤答に同調してしまうのです。
こうした話を踏まえて私にも不思議だなと思うことがあった。
ドラマレビューの際、他の記事を参照していると、判で押したように、テンプレでもあるように、同じ理屈で貶す、あるいは褒める記事や投稿が続くことがあるのです。
誰かが指導しているのか?
そう疑いたくなったのですが、理屈を知れば簡単でした。
誰かが水に染料を流し込めば、同じ色に染まる。そういうことが、人間の心理でもできる。
チャーチルはこう言いました。
「民主主義とは最悪の政治形態らしい。ただし、これまでに試されたすべての政治形態を別にすれば、ではあるが」
ファシズム国家と戦い勝利を収めた彼らしい発言ではあります。
でも、民主主義と会議を常にすることを混同してもよろしくない。
どう意思決定すべきか。
その手段は改善されていく必要があるのでしょう。
利政のやり方も不足はある。けれども、利政に反発する側にも間違いはある。両者ともに最善の選択ができないのです。それが人間の悲しい限界でもあります。
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平手政秀、ストレスを溜める
光秀は、胃に穴の開きそうな顔をして那古屋城へ。
使者を殺すのはやってはいけないことですし、そこはまあ、いいにせよ、用件を言いたくないですよね。
さぞや織田家も落ち込んでいるかと思ったら、なんだか楽しそうです。信長が楽しそうに相撲をとっています。
信長は相撲大好きだもんね……いや、空気読めよ。
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