天文18年(1549年)11月――。
尾張と駿河の人質交換が行われました。
【尾張から】松平竹千代
【駿河から】織田信広
-

織田信広の生涯|なぜ謀反を画策した信長の庶兄は織田家で重用されたのか
続きを見る
真上からカメラが見下ろすそんな場面が繰り広げられます。
平手政秀が立ち会っております。
このことによって、東海の覇権争いは大きく動くこととなるのです。
信秀の憂鬱
末盛城の織田信秀は、政秀の報告を受けています。信広が無傷であったことが告げられると、信秀は苛立ちを見せます。
戦をして捕らえられたのに、かすり傷一つない。我が子だから助けたとはいえ、城を失った主であれば、せめて満身創痍で帰ってくるべきものを……。不甲斐ない。そう言いつつ、弓を引いています。
信長と信秀の性格の差が出ています。
信長:負けて城を落とされたならば、腹を切れ!
信秀:腹を切れとまでは言わないが、満身創痍になるくらいは本気見せろよ
信長はいちいち極端すぎて、信秀はじめ周囲には過激に見えるのです。力の加減がわからないんですね。
信秀は、弓を引けずにうめいております。政秀が「いかがなされました」と心配すると、もはや弓を引けぬと漏らします。
弦も鳴らぬ。かつては敵に五百の矢を放っていたそうです。政秀は「尾張一の弓の使い手でございました」と言います。
-

織田信秀(信長の父)の生涯|軍事以上に経済も重視した手腕巧みな戦国大名
続きを見る
信秀と政秀は、やっぱり普通の人だとは思う。
武士にとって暗黙のルールである弓を重視しています。
武士は「弓馬の道」と呼ばれるくらいで、弓の強さは武士の名誉に直結するのです。
でも……武士の弓って、どうなんでしょう。
腕力がなければ引けないし、引っ張っている間、無防備でもある。使用者は限られるし、非効率的と言えばそうなのです。
アイヌの弓の方が武器としては使いやすいところはあります。蠣崎氏は、アイヌの弓を自慢していたそうですよ。
-

なぜ松前藩は石高ゼロでも運営できたのか?戦国期から幕末までのドタバタな歴史
続きを見る
そんな信秀は、我が子に絶望しております。
子は全員駄目。自分ももう駄目。今川に戦を仕掛けられたら勝ち目がない。
-

織田信勝(信行)の生涯|信長に誅殺された実弟 最後は腹心の勝家にも見限られ
続きを見る
絶望的だ!
平手政秀は、今川の監視命じられるのでした。
信秀は弓。信長は鉄砲。このドラマの父子は、気質の違いを見ていく上で重要です。
そこを注目すると、このドラマは理解しやすくなると思うんだなぁ。
竹千代は見ている
駿河の今川義元の館に、竹千代が到着しました。義元は、寛大さを見せつつ、迎えております。
この義元って、白塗りでも不気味な公家でもなくて、名将の最大公約数のようなところがある。やたらと癖の強い信長と比較するまでもないし。信秀より上品だし。蝮こと利政のような不穏さもないし。
最も一緒に食事をしたいのは誰ですか? そう問われたら、義元じゃないかな? と答えそうです。
「竹千代殿、よう参られた」
そう迎える義元は、途中で生まれ育った三河を通った感想を聞いて来ると。
竹千代は、何もかもが懐かしく、夢を見ているようだったと返します。もう、この竹千代が何を言ってもある意味信じられないところはある。
-

人質時代の徳川家康(竹千代)|織田と今川の下でどんな境遇に置かれていた?
続きを見る
義元はここで「よしよし」と言い、この駿府でも夢のような環境を整えると言います。
美しい館! 庭! インテリア! 大きな市場で集められた珍しき品々! そなたを楽しませてくれるであろう!
いいですねぇ。竹千代は、ご存知の通り大した子です。この小さくてどこまでも広がるような頭の中に、知識をたっぷりと詰め込むのでしょう。
ここは教育環境が大事。漢籍を読み、知識を蓄えてゆくのです。
「長い道中、腹が減ったであろう。この義元、相伴致す」
そう義元が告げると、尾頭つきの鯛をはじめ、なかなか豪華なお膳が運ばれてきます。
-

今川義元の生涯|“海道一の弓取り”と呼ばれる名門武士の実力とは?
続きを見る
けれども、竹千代は喜ばない。淡々と、こう聞いてきます。
「私はいつ、三河へお返しいただけるのでしょうか?」
ここで太原雪斎が、三河のことを説明するのです。
-

義元を支えた黒衣の宰相「太原雪斎」武田や北条と渡り合い今川を躍進させる
続きを見る
織田信秀につく者。今川義元につく者。合い争っている。このままでは、いずれ三河は滅びる。
義元としては、隣国が争っているのは見るに耐えない。三河を滅ぼす勢力を、完膚なきまで叩く――。
しばしの辛抱じゃ。そう言われて、竹千代はその言葉をじっと聞いています。
義元はこう宣言します。
「歳が明けたら戦じゃ、三河を救うための戦ぞ!」
「心得ましてございまする」
そう君臣は言うわけですが……ここでもやはり、竹千代はすごい。
先週と違って、そこまで能動的ではありません。
今週は普通のように見える。けれども、これぞ本作が描いてゆく徳川家康のおそろしさの真髄だとは思いました。
・義元の親切心にさしたる反応がない。空腹でも、豪華な食事に喜ばない
→自分自身がこの年齢の頃を思い出してください。かわいげのある子ならば、喜びませんか? 信長の母・土田御前が「かわいげがない」と言ったのも、このあたりに原因があるのでしょう。
・三河へ戻る期限を聞いて来る
→しかも、冷静にです。淡々と、幼いながらに三河情勢を引き出すための質問ができる。
家康のおそろしいところは、観察眼とみた。ジッと静かに状況を見ている。将棋の盤面を見るように、自分を含めた状況を見る。
そんな家康にとって、目の前の食事は些細なことなのです。
「片岡愛之助さんと伊吹吾郎さんとのシーンは、おふたりの迫力がすごくて、とても緊張しました。お芝居もすごくむずかしかったです。あと、このドラマに出演して、日本の歴史が好きになりました。戦国時代が一番好きです!」(岩田琉聖)#麒麟がくる pic.twitter.com/Ll7R7wIgNv
— 【公式】大河ドラマ「麒麟がくる」毎週日曜放送 (@nhk_kirin) March 29, 2020
竹千代は、敵の顔を「見る」といった。
その「見る」ということが、普通の概念の「見る」と同じではないかもしれない。度胸ではなく、思考と観察の問題だとすれば?
ここである実在の人物のことを持ち出したいと思います。
ジョゼフ・ベル博士です。
コナン・ドイルを指導したこの医師は、診察に訪れた患者を見るだけで、職業や出身地まで当てて見せた。ドイルは彼をモデルにして、シャーロック・ホームズを生み出しました。
ホームズはベルのように、特徴だけでその人のことを当ててしまう。
どういう仕組みなのか?
BBC版の『SHERLOCK』は、現代を舞台しただけではなく最新の知見を元にして、その仕組みを映像化しています。
※どうしてジョンが軍医とわかるのか?
竹千代も、このベルと同じ見方をしているとすれば?
じっと見て、分析して、今川の特徴を観察しているとすれば?
そういう人物に開けっぴろげな態度で接することをどう思いますか。こんな人物が見ていることを想像するだけで、気分が悪くなりませんか。
度胸じゃない。賢さじゃない。
この竹千代がおそろしいのは、ものの見方です。観察眼そのものなのです。
徳川家康が家康たる本質は、もうこの幼い時点で出ております。
-

徳川家康の生涯|信長と秀吉の下で歩んだ艱難辛苦の75年を史実で振り返る
続きを見る
人間の本質とは、加齢とともによって変わるものでもない。彼はこの時点で、おそろしい目を持っている。
そんな彼の目からすれば、今川義元の言い訳なんて嘘っぱちだとわかっているのです。
大義名分をふりかざし、三河のためだと言いつつ、踏みにじることくらい理解できる。だからこそ、そんな嘘につきあう父が憎くてたまらなかった。
まだ幼いから、その思いを言語化できないかもしれない。けれども、いずれ彼は今川への憎悪をきっちりと整理することでしょう。
今川で学び、世話にはなる。天下をつかむ基礎は身につける。
されど、それはそれ、これはこれ。キッパリ割り切って、彼は彼の道を歩いてゆくのでしょう。
蝮、評定がかったるい
翌年夏、知多は今川によって蹂躙されます。織田信秀はあまりに非力でした。
こうなると、美濃も火傷しかねない。斎藤と織田の盟約は、迫りくる今川によって今にも崩れようとしていたのです。
はい、そんな美濃の評定タイム!
蝮の評定テーマ「織田との盟約をどうする?」
高政「もう織田信秀に押し返す力はありません。どうしますか? 知多を責められ、もう熱田まで迫っているんですよ!」
斎藤利政(斎藤道三)は、様子を見るしかないとどこかやる気がない返事。基本的に、ミーティングが嫌いなんでしょう。そうなんです、こいつはムカつく上司なんです。
利政のことを嫌いな稲葉良通(稲葉一鉄)は、織田に巻き込まれて今川と戦うなんて冗談じゃないと迫って来る。
利政は戦うつもりがある、今川と戦う覚悟を聞くわけです。
良通は、今は稲刈りの時期で誰も動かないとキッパリ断ります。覚悟があろうが、兵が集まらない。現実は非情です。
-

稲葉一鉄の生涯|信長に寝返った美濃三人衆の猛将は織田家でどんな働きをした?
続きを見る
利政は、織田が潰れたら今川が迫って来ると返す。そうなれば覚悟を決めて戦うと良通は言う。
結局、話し合うだけ無駄ではある。
何もならないことに無駄な時間使ったというかったるさを漂わせるそんな利政。いきなり笑いだすしさぁ。怖いっていうよりも、こいつは態度がひたすらムカつくところはありますよね。個人的には好きですけど。
彼は明智光安を相手にぼやいております。
もう、明智しか本音言えないドツボに陥っているんでしょう。
-

明智光安の生涯|光秀の叔父とされる謎多き武将は明智城を枕に討死す
続きを見る
織田の弱さをぼやきつつ、平手政秀の援軍要請が来ていると光安に告げます。
とりあえず、米は送るけど兵は送らないという、時間稼ぎめいたごまかしを思いつきます。
利政に誠意を期待するなって話ですね……。しかも、ここで当然のように十兵衛光秀がその使者に指名される。光秀がなまじ信長と知り合いになったことがよくなかったようです。光秀の人生は、ずっとこんな感じなのか……。
光秀が旅ばかりをすることがRPGだのなんだの言われていますが、むしろ延々と『1917』の伝令状態のような気がしてきました。命がいくつあっても足らんわ!
この利政に、思いやりを期待するなってもんで。
「いざとなったら盟約を乗り換えるまでじゃ!」と、血も涙もない思考ルーティンを発揮しています。
土岐頼純に毒入りのお茶を飲ませるよりも、こっちの方が個人的には嫌かな。
ゆうちょの宣伝を蝮顔の俳優さんがしているのを見るわけですが、むしろゆうちょなんて信じられないと思えるようになったから、困ったもんです。何がコツコツだ! いや、まあ、冗談ですけどね。
ここで踏まえたいこと。
利政は基本的に、評定をかったるい態度でやってます。実際、評定を無視して使者を派遣してしまう。
家臣や国衆からすれば苛立ちますね。ただ、利政にも言い分はあるし、それが正しい部分はありまして。
会議にせよ、ブレインストリーミングにせよ。あんなもん知ったこっちゃねえ、そう思う気持ち、わかりませんか?
評定(ブレインストリーミング、会議)は無駄だ!
船頭多くして船山に登るとは、このこと。一応、理由を説明しますとことは単純で【手抜き】ですね。人が多いと誰かがやるから自分は考えなくていい。そう思う人が出てくる。
非生産的。誰かがやるから、自分は黙っているしかない。言いたくても言えない。アイデアが埋没する。
評価懸念。こういうことを発言して、周囲はどう思うのか。そう思うと実は思い切ったことは言えなくなる。
逆に、何も考えていない無能と思われたくないばかりに、さしたる根拠もないことを「ああでこうなるワケ」と称して言ってしまったりするのです。
よい意見は、独創的なことよりも周囲と調和すること。そういう現象も起きる。
実験してみた結果もあるのです。
95パーセントが正解する簡単な問題をチームでにやらせてみる。この正答率を下げるにはどうしたらいいか?
自信満々でありながら、誤答をする者をチームに入れるのです。
そうすると、正解がわかっていたはずの人でも、
「そうかな……あの人が堂々とああいうってことは、そうかも」
と、誤答に同調してしまうのです。
こうした話を踏まえて私にも不思議だなと思うことがあった。
ドラマレビューの際、他の記事を参照していると、判で押したように、テンプレでもあるように、同じ理屈で貶す、あるいは褒める記事や投稿が続くことがあるのです。
誰かが指導しているのか?
そう疑いたくなったのですが、理屈を知れば簡単でした。
誰かが水に染料を流し込めば、同じ色に染まる。そういうことが、人間の心理でもできる。
チャーチルはこう言いました。
「民主主義とは最悪の政治形態らしい。ただし、これまでに試されたすべての政治形態を別にすれば、ではあるが」
ファシズム国家と戦い勝利を収めた彼らしい発言ではあります。
でも、民主主義と会議を常にすることを混同してもよろしくない。
どう意思決定すべきか。
その手段は改善されていく必要があるのでしょう。
利政のやり方も不足はある。けれども、利政に反発する側にも間違いはある。両者ともに最善の選択ができないのです。それが人間の悲しい限界でもあります。
-

斎藤道三の生涯|二代に渡る下剋上で国盗りを果たした美濃のマムシ63年の軌跡
続きを見る
平手政秀、ストレスを溜める
光秀は、胃に穴の開きそうな顔をして那古屋城へ。
使者を殺すのはやってはいけないことですし、そこはまあ、いいにせよ、用件を言いたくないですよね。
さぞや織田家も落ち込んでいるかと思ったら、なんだか楽しそうです。信長が楽しそうに相撲をとっています。
信長は相撲大好きだもんね……いや、空気読めよ。
この信長はサイコパスだのなんだの言われており、そのことに対しては反論したいのですが。
サイコパスっていうか、全く空気を読まないのだとは思いますよ。だから首を箱詰めにしてしまうと。
平手信秀がものすごく嫌そうな態度で、美濃から使者が来たと告げます。知多では戦しているのに相撲じゃないだろ。そう愚痴るわけです。
「明智十兵衛っしょ。帰蝶から聞いてら。あとで行く〜」
ここは綺麗なセリフ回しですが、このくらい舐め腐った態度ということで。
光秀と信長の運命はともかく壮絶だのなんだの言われておりますが、信長はいつも自分の都合がナンバーワン、俺の味方は俺、そういう性格でしょう。
なんで相撲をしてんだよ。日課かよ。ストレス解消かよ。そう突っ込みたいことはありますが、しょうもない理由だとは思います。
そんな自分の都合が光秀よりも大事だと。信長に期待するのは、もうやめるんだ!
-

信長は大の相撲好き|異常なほどのめり込み安土では1500人のイベントも開催
続きを見る
はい、ここでは見ているだけで胃が痛くなる、光秀と政秀の会話になりまして。
「若殿とは一度お会いになられた。その折はどのようなお話をなされましたか?」
「鉄砲のお話をいたしました」
「鉄砲以外の話は?」
「……鉄砲だけでございます」
うん、ほら、やっぱり絶望的ですよね……信長くんは、マイブームがあるとハマっちゃう。今は相撲がそうなんでしょう。
天下の話なんてしてない! 帰蝶のこともだよ! 信長に何を期待してんだ!
光秀も、楽しくなかったとは思いますよ。延々と、延々と、鉄砲。帰蝶のことを聞こうとしても、味噌の話を振ろうとしても、鉄砲。どこで地雷を踏むかもわからないし、こんな信長と飲み会で隣席になったらつらい。そういう信長なんだ!
平手政秀は絶望しつつ、今川義元と戦う話はしなかったのかと言います。
「ありませぬ」
舌打ちする政秀。
こうやって、この若殿を育ててきた。切腹はストレス由来なんじゃないかと思えますよね。かわいそうすぎるよな……。
-

平手政秀の生涯|自害した信長の傅役 その原因は息子と信長が不仲だったから?
続きを見る
政秀はここで愚痴ってしまう。
若殿は今のところ、鉄砲以外眼中にない。国友の鉄砲職人に数百挺注文して困惑させるわ。尾張が傾きかけているのに、いかなるお考えか!
うーん、これは確かに絶望する。
政秀は若殿にぶち切れそうになりつつ、美濃の守護代がどう尾張を支えてくれるのかと聞いてきます。
光秀はここで、援軍を出せないという回答をするのでした。はじめにお話しておくべきだったと振り返る、そんな光秀がつらい。
おお、もう、光秀の人生はずっとこんな感じなのか……。ここで光秀が告げる利政の言い分がイラつくわけですよ。
◆蝮のええかっこした言い訳
兵は刈入れ時だから集まらないけど、末盛城の織田信秀殿の背後に迫らぬよう、織田彦五郎には目を光らせておきます。ご案じ召されますな。
嫌味かよ。織田彦五郎と内紛起こしていることへの嫌味かよ!
-

織田信友(彦五郎)の生涯|信長に謀略を仕掛け逆に切腹へ追い込まれた元主君筋
続きを見る
政秀は「今川との戦いに参じいただけるものかと!」と絶望しております。
「その儀は平にご容赦いただきたい、申し訳ございませぬ!」
政秀は、光秀とこの場に同席している帰蝶を、ゴミを見るような目で見ています。
気持ちはわかりますよ。
利政さぁ……もっとマシな伝言ってもんがあるだろうがよぉ!
彦五郎のこと言う必要あるの? もう本当に、この空気を読めない連中なんなのよ。
無茶振りをされ続ける光秀の人生よ……
「私も先ほどその話を聞いたばかりで、情けなきことこの上もない……」
そんな政秀が去り、光秀と帰蝶が残されます。
地獄みがある中、帰蝶はこう尋ねてきます。
「どう思う? 私はもう美濃へ帰るべきか?」
「お帰りになりたいのですか? たとえそうであっても、お返しはいただけませぬぞ」
「左様であったな。私は人質ゆえ。父上が裏切れば、磔じゃ」
割とサラリと言ってしまう帰蝶。光秀はここで「何を考えておる?」と聞かれます。何か打つ手はないかと考えていると光秀は返します。
やはり、この二人にはそこまで恋愛感情はないと思うのです。そこをミスリードされている人は多いかと思うのですが。
光秀が燃える家の中から少女を助けた時、別に恋愛感情はありません。
三好長慶を暗殺から助けた時? 恋愛感情がむしろあってたまるか!
-

麒麟がくる第1回 感想あらすじレビュー「光秀、西へ」
続きを見る
-

麒麟がくる第6回 感想あらすじレビュー「三好長慶襲撃計画」
続きを見る
光秀は、困っている人がいれば理性が止めるまでもなく、動いてしまうところがある。
そういう人は他にも実在します。
誰だって会ったことはあるのではありませんか。困っている時、サッと助けてくれた人。電車で席を譲る、ベビーカーを運んで階段を登ってくれる。痴漢を追いかけて捕まえようとする。
そういう周囲からどう見られるか、自分の苦難をものともしない人には、何かあるのではないかという探究はまだまだこれからではあるのです。
ずば抜けたボランティア活動、臓器や骨髄提供をした人を集めて調べるとか。そういう試みはまだまだ始まったばかりなのだそうで。
でも、人類史にはそういう人の話は出てくる。
宗教の説話とか。『三国志演義』の劉備とか。『西遊記』の三蔵法師とか。『水滸伝』の宋江とか。
光秀の凄みは未解明で古典的。だからこそ、いろいろ面倒なことに巻き込まれるわけでもあります。
これは個人的な愚痴ですけれども。本作の長谷川さんのイラストは、他の作品由来の殺気だったイメージを忘れて、目の前にあるむしろ清らかなイメージなんじゃないかと思うんですよね。
実年齢の限界はあるとか言われておりますが、今週なんて見ていて無邪気で子どもっぽい場面もありましたからね。
光秀はむしろ、心優しいんだってば! 現時点では、とりあえず、そういう人です。
ここで、一汗かいてさっぱりした信長がやってきます。
楽にせよと言います。
美濃のことは平出から聞いて、理解しております。「面目次第もございませぬ」と言われても、特に気にしておりません。はなから期待していなかったのかもしれない。
熱田からの知らせでは、刈谷城の水野が食い止めているとか。三ヶ月は守ると頑張っているそうです。
-

水野信元の生涯|織田徳川の同盟に欠かせなかった家康伯父は突如切腹を命じられ
続きを見る
その間に兵をかき集めて、それで戦えるかどうか。
そう言いつつ、帰蝶にゴロンと膝枕。帰蝶もまったく恥ずかしげがないわけです。
帰蝶は「元好きだった相手に今のダーリンを見せつけちゃお❤︎」みたいなことは意識しないと思います。川口春奈さんのサバサバした感じがピタリとハマった、そんな帰蝶です。
そんな川口さんと共演女優が争っているとかいう、しょうもねえ記事を書く側も、信じる側も、「もっと真面目に観察しろ!」と言いたくはなります。女同士が争う記事でホクホクしたところで、読む側の価値なんざあがりません。現実を見つめないと。
信長は、分析もしっかりしているし、うつけじゃないのです。
でも、行動はすごくうつけっぽい。帰蝶の頬に手を伸ばして、光秀が目のやり場に困り切っています。
信長は、帰蝶が光秀を好きだったにせよ、はっきり言ってどうでもいいとは思うのです。
過去、どんな恋愛があろうと、この瞬間、俺が比較するまでもないほど上書きすればいいんだよ!
嫉妬なんて自信がないつまんねえ奴の感情だよ!
この瞬間にもっと熱く燃えればいいんだよ!
そういう情熱を感じる。
そういうことが、なまじ信長役ともなれば一番大事ではありませんか。生まれる前の大河を持ち出してまで、誰かがなんか言ってくる。知らねえし! 俺の信長がベストってことにすればいいし。そういう厚かましいほどの心意気がないと、大河の信長なんてつとまらないんじゃないですかね。ましてや染谷将太さんはお若いのだから。浦島太郎? ブッダ? 知らねーよ!
やっぱり空気を読めないんですよ。
自分が相撲をしようが、帰蝶に膝枕しようが、状況は悪くもよくもならない。ならどうでもいいだろ。そういう気持ちだ。むしろ状況を好転できるのであれば、わけわからんことをしても許されるという意識もある。ゆえに、生首箱詰めしちゃう。周囲は疲れるし、呆れ果てるし、絶望するとは思います。
サイコパスだのなんだの言われている信長ですが、本作で一番わかりやすくて、素直であるとは思うのです。
怖くもないし、理解できるというか。面倒がなさそうで、慣れてしまえばむしろ楽かなと。パーティション区切ったオフィスで、好きなだけ好きなものを食べさせておけば役立つと思うんです。
漫画だと『デスノート』のLタイプかな。
椅子に変なポーズで座って、好きなものを食べている。そう好きなようにさせておけば、いろんなことを思いついてくれるのです。無理にスーツを着せてオフィスワークさせたら使えないのでしょうけれども、環境を整えれば使える奴だし、そう悪くないとも思うんだな。
そんな信長は、これはもう和議しかないと結論は出ている。刈谷城を渡して、戦はここまでにしてくれと、今川を止めさせるしかあるまい。
できるかできないかじゃない。やるしかない。そう言い切ります。なんでも、村の者の喧嘩を止めたこともあるとか。強い方の顔を立ててやればよい。誰が仲立ちをするのか? そこがポイントのようです。
やはりこの信長、バカなのか賢いのかわからないような。村の者の喧嘩と、大名同士の抗争を一緒にするなって?
そこはどうでしょう。
人間の心の動きは、規模の大小には関わりなく通じるものがありますからね。
ここで光秀は、黙っていられない。
かつて、美濃で土岐頼純と頼芸が争って大戦になったことがある。あのときは、将軍家のお取りなしでおさまった。帰蝶もその話を覚えています。
とはいえ、織田家は守護ですらない。動いてくれるのかどうか。
ここで、光秀が京都で将軍の側に仕える者とよしみを結んだことを持ち出されます。それを頼ってみてはどうじゃ。そういう流れで、また光秀が旅に出るしかないわけです。
思案のしどころです。なんせ人質に出された帰蝶の命もかかっているぞ!
そう当然の顔で迫ってくる信長と帰蝶。なんなんだ、こいつらなんなんだ! もっと丁寧に頼むそぶりを見せて!
と、ここでふと思ったんですけど。信長さぁ……帰蝶の命がかかっているのに、余裕ぶっこきすぎでしょ。いや、いいんです。信長にそこは期待しないでおこう。
確かに信長は帰蝶にベタベタして入るんですけれども、心を痛めているのは光秀に見える。
あまりにいろいろ無頓着な信長。心を動かされてしまう繊細な光秀。そういうことなのでしょう。
ケチな上司は最低だ!
美濃に戻った光秀は、将軍とりなし和議プランを利政に語ります。
しかし、利政の反応は鈍い。
蝮のコスパチェックタイム「いくらかかると思ってる?」
土岐頼芸の時は、六角家経由で頼んで金3枚。将軍家にはそれ以上。
高いよな。
光秀が帰蝶様の命がかかっていると言っても、「逃げ出せるようなプランはある」と具体性の欠けたことをなんやかんやと言い募り(本当にそんなことがあるのかどうか……)、役目はここまでだと打ち切ります。
光秀はボソッとこう呟きます。
「……ケチ!」
うん、ケチだな、セコいな。まったく最低だな、蝮は。
光秀はこれでは話にならないと、今度は高政(斎藤義龍)に頼みに行きます。
廊下で光秀に出くわした高政は、近習を下がらせて、二人きりで一室に入ります、
「入れ」
「うん」
ここでこう言われたときの光秀は、子どもっぽさすらありました。幼なじみに戻った瞬間を感じます。長谷川博己さんは誠意があるなぁ。濁る時、狂気ばかりをどうこう言われがちですが、透き通った時は、とことんそうなると。
光秀は尾張の干物を取り出します。若君の口に合うかどうかはわからぬが、酒には合うと。
そのうえで、おりいって頼みたきこととして、土岐頼芸のもとへ連れて行ってくれるよう言うのです。
-

土岐頼芸の生涯|斎藤道三に国を追われ武田信玄に拾われた美濃の戦国大名
続きを見る
今川と織田の戦を止めたい。その仲介を頼むのだと。織田が滅びれば美濃が危なくなるのだと。
けれども高政は、父が織田と同盟を結んだのが悪い、尻拭いなどしたくないと言い切ります。
帰蝶の命を考えていないのか? そう思いたくはなりませんか。
サイコパスだのなんだの信長ばかりが言われますが、彼よりもわかりやすく、むしろ空気を読める高政も、鈍感かつ残酷なことをする。目立たないだけで、そうしている。ここは考えたいところ。
光秀は、それをやってくれとは言いません。ただ、頼芸と引き合わせてくれと頼むのです。顔を合わせてくれたら、そなたの申すことはなんでも聞く。そう条件を示されて、高政はやっとこうです。
「よし、その言葉忘れるなよ!」
【凡庸な悪】の体現者
かくして、頼芸のもとへ二人が向かいます。
鼻をかみつつ、彼はこの歳になると洟が出ると言います。悲しいと涙とともに、うれしいと涙とともに出るのだとか。
そのうえで、今日は誠に嬉しい日、そなたたち若者がわざわざ会いにきたと喜んでいるような態度をとるのです。
尾張の和議について聞くと、わしに手紙を書けということかと聞いてきます。光秀は、使者も立てて欲しいと言います。その使者のお供をしてもよいとおずおずと言うのです。
一刻も早くそうしたいと光秀が、それでもきっぱりと言うと、頼芸はいやそうなそぶりになる。
「何かお差し支えがおありでしょうか?」
「将軍家にお取りなしを頼むとなると、何かと金がかかる。金5、6枚では済むまいの」
ここで高政は、父は出さないとキッパリ言い切ります。吝嗇ゆえ。
吝嗇、ケチということか。そう頼芸が返すと、高政はこうまで言います。
「出が出でございます。油売りの子ゆえ」
「その利政の子がそこまで申すか」
「子とは思うておりませぬ」
「ほお……」
「されど此度のことは、利政が撒いた種じゃ。織田と愚かな盟約を結びおって。その利政が出さぬ金をわしが出さねばならぬ」
そう頼芸は責めてきます。こいつはやはりおそろしい。高政が子ではないと父へ不信感を出した途端、その傷口を抉るようにつけ込んできた。
しかも、稲葉良通から聞いたとして、利政が守護の座を狙っていると高政に言います。
「そのような話存じませぬ!」
「稲葉が漏らした。疑うのであれば稲葉に聞いてみよ。それでもわしに、利政の失態の穴埋めをせよと?」
「それがまことなら、私にも覚悟が……」
「ほう?」
「私はお館様をお守りし、父・利政を……」
光秀がこのやりとりを聞いています。あまりのことに衝撃を受けています。
「父・利政を……」
「殺せるか?」
かすかにうなずく利政。光秀が愕然としています。
信長がサイコパスとか。竹千代がおそろしいとか。気持ちはわかるのですけれども、サイコパスを連呼することには本当に言いたいことが山ほどありまして。
その対立概念、そう言われたら一言で嫌気が差すような言葉がないか、ずっと考えていて、結論は出ました。
斎藤高政はサイコパスですか?
むしろ、空気を読めるし、周囲の支持は得られる。光秀だって親しい。彼は箱詰めの首を笑顔で贈り物にはしない。
それでも、なまじ空気を読み、周囲の心に一致してしまうからこそ、父殺しという最悪の所業へ突っ走りつつあります
信長のように、断固たる自分の意思があるわけではない。それゆえ、操られる。
竹千代のように、自分なりの理論で父を疎んじるわけではない。洗脳状態へ持っていかれる。
つまり、この高政は【凡庸な悪】だと。
これは、ユダヤ人の政治哲学者であるハンナ・アーレントがアイヒマン裁判を通して至った言葉です。
第二次世界大戦中、ナチスによるユダヤ人迫害と虐殺が起こった。それに加担した人々は、根源的に悪魔的な邪悪さを持っていたわけではない。自分の思考や判断を停止させ、外的規範に従った結果、陳腐で表層的な悪が蔓延してしまった。世界が荒廃し、多くの命を失わせたのです。
高政はまさに、この【凡庸な悪】にとりつかれてはいませんか。停止した思考に、頼芸のプライド問題という悪が流れ込み、染まっていってはいませんか?
これはまったくもって私の考えだと前置きしますが。
このドラマの信長より、定義も曖昧な【サイコパス】という極めて曖昧な概念に押し込めて、おもしろがって賛否両論だの言い続ける感想の方が邪悪でおそろしくて、差別的で偏見をばら撒いていて、ゾッとすると感じていました。
それをすっきり言語化できて、気分は晴れやかです。
首を箱詰めに持ってくるようなことはできないと言い切れても、「そうしていい、皆そうしている」と囁かれれば、誰かに石を投げて傷つける。そういうことって、案外簡単に敷居をこえてしまいそうではありませんか?
そして石をぶつけられて死んだ誰かを前にして、さしたる反省もなく、皆そうしていたと目を逸らして誤魔化す。
私は悪いことだと知らなかった。皆でそう言って、なんとなく片付けてしまう。そういう【凡庸な悪】って、どこにでも割とあるんじゃないですかね?
定義すら結構曖昧な【サイコバス】呼ばわりする前に、自分は【凡庸な悪】と無縁で生きていけるかどうか。それを問われているような気がします。これはお互い様ではありますが。
私は信長、利政、竹千代よりも、頼芸、高政、良通の方が怖いし、人間として苦手で確実に気が合わないだろうと想像できます……。徒党を組まずに、はっきりキッパリ立ち向かわれるほうが、まだしも対処がしやすい。
そうそう、【サイコパス】ですけどね。
【ヒーロー】のような人物と【サイコパス】は、先天的なことでいくと同じ枝から別れた存在だという提唱もなされているとか。平均からの外れ値にある人間が、善に向かうか、悪に向かうか。違いはそこなのだと。
プロフェッサーXとマグニートー、ホームズとモリアーティみたいなもんですね。あるいは『ジョジョの奇妙な冒険』のディオとその息子ジョルノの関係を思い出してください。
父子だけに似ている。ジョルノだってギャングのボスを目指すし、敵対した相手はなかなか残酷な手段で始末する。そこまで父親と隔たっていないのかもしれない。
それでもジョルノは最終目的に善性があるがゆえに、主人公として成立するのです。性格や手段がどこかぶっ飛んでいても、それを善悪どちらに行使するかで、ヒーローにもヴィランにもなれる。
フィクションではなく、現実でもそういう研究はなされていること。そこは考えていきたい。
信長みたいな奴が仮にあなたのオフィスや周囲にいたとしても、実はそこまで怖くない。その性格や特性をよい目標実現に設定すればよいのです。オフィスが悪徳企業、詐欺師グループあたりならば、ダメってことになりますけれども。
武士は病んでいる
頼芸からなんとか文を書いてもらい、光秀は京都を目指し旅立ちます。
このころ、京都はまたも大変なことになっておりました。細川晴元と三好長慶が争い、将軍・足利義輝は近江国まで落ちのびるしかなかったのです。
-

細川晴元の生涯|信長以前の天下人はなぜ家臣の三好長慶に取って代わられたか
続きを見る
堅田まで行きたい光秀。
近江近辺はじめ、取締りが厳しい中、光秀はなんとか旅をしていきます。
そして宿で、主人からもういっぱいで泊められないと言われてしまう。どこもそうだ、なんとかならぬか。そうすがる光秀。
RPGだののなんだの言われる光秀ですが、こんなRPGむしろ難易度高すぎて嫌だぞ! 薬売りや山伏から、厳しい情勢のことを聞いて、光秀は疲れ切ったまま座り込んでしまいます。
「明智殿、お見忘れか」
ここで、一人の男性が嬉しそうにそっと声を掛けてきます。
「……細川藤孝にございます」
「おう、ふじ!」
思わず口走りそうになり、あわてる光秀。あのナイスガイ細川藤孝、再登場です。
-

細川藤孝(幽斎)の生涯|光秀の盟友は本能寺後の戦乱をどう生き延びたのか
続きを見る
藤孝は今川と織田の和議のことを光秀から聞いています。
光秀が堅田においでである将軍に拝謁できぬかと頼むと、藤孝は悔しそうに朽木まで落ち延びていると言うのです。
-

朽木元綱の生涯|信長のピンチを救った名門武将は関ヶ原で微妙な立場に置かれ
続きを見る
途中で抜け道があり、そこを使って藤孝は京都と往復して、なんとか将軍が京都へ戻れるようにしているとか。そんな彼に会えた光秀はついていましたね。
藤孝はしみじみと、世を嘆くことを言い出します。
公方様は武家の棟梁であり、鑑。しかしその公方様を、側に置き、利用する道具としか考えておらぬ武家が多い。
-

刀を握ったまま敵勢に斃された剣豪将軍・足利義輝|室町幕府13代の壮絶な生涯
続きを見る
我々武家が寄って慕うべき柱を自ら貶めている。それゆえ、このような内輪揉めが起こる。
我々武士は病んでいます――。
そう語り終えて、朽木へ案内すると言ってくるのです。
ものすごく感動的で、心動かされる話ではあるのですが、「だから何?」とあっけらかんと言いそうな人もいるわけです。
松永久秀とか。斎藤利政とか。そして織田信長とか。
なんで公方様がありがたいのか?
そんなものは過去の権威ゆえじゃないか。血筋だけだろうが。そんなものをありがたがる必要はない。実力で取って代わればよい。弓ではなく鉄砲を使うように、古いものは朽ち果てるのみ。
そういう新旧の対比が本作ではハッキリしている。鉄砲がわかりやすい小道具とされています。
鉄砲を新しいものとして興味を抱くか。それとも胡散臭さをこめて見ているか。
そういう新旧の世代交代は、別の基準で裁かれてきたこともわかります。
梟雄。蝮。魔王。
古い価値観を打破しようとする者は、悪名がついてまわるのだと。
将軍の涙
近江・朽木で、その公方様こと義輝は光秀の文を読んでいます。
「明智十兵衛、面をあげよ。そなたに会うのは三度目じゃな」
光秀は驚きます。
一度目。本能寺の門前で、藤高と斬り合うていた。見事な腕前だと感心した。剣術を好む義輝ならば、目を留めても不思議ではありません。
二度目。藤英の館で声を聞いた。
「私が幼き頃、父から教わったのは、将軍は武家の棟梁であらせられるということです。すべての武士の頭であり、すべての武士の鑑であり、すべての武士を束ね、世を平かに治める方であると。今、この世は平かではありませぬ。この京都も家臣同士が争い合う。それを目にしたなら、武士をひとつにまとめ、将軍が争うなと一言お命じになれば、世は平かにはなりませぬ! 三淵殿が将軍のお側にいるのであれば、そう申し上げていただきたい! 私情ではない。武士の一人として、お願い申し上げておるのです!」
将軍でありながら、世を平らかにできぬ。
けれども、それを望む武士が美濃に一人いる。それを聞き、どれほど励まされたか。光秀が恐縮していると、義輝は嘆きます。
「そなたの申す通りじゃ。いまだに世は平らかにはならぬ。わしの力が足りぬゆえに……」
三淵藤英、細川藤孝はじめ家臣たちは、力が足りぬのは我らであると悔しそうに口にします。
我らが非力ゆえ。そう噛み締めているのです。
こういう君臣に感情移入したら、将軍なんてなんぼのもんじゃいと鼻で笑う。そんな松永久秀が梟雄扱いされる理由もわかりますよね。
そして光秀は、そのどちらからも好かれるのですから、困ったものです。光秀の人生とは……。
-

信長を2度も裏切った松永久秀は梟雄というより智将である 爆死もしていない
続きを見る
義輝は思い出しています。
父・足利義晴のこと。己が病弱であるがゆえ、幼き頃より、噛んで含めるように強くなれと言ってきたこと。声は大きく、よい耳を持て、さすれば立派な征夷大将軍になれる。世を平らかにできる。
-

足利義晴の生涯|奮闘し続けた室町幕府12代将軍は義輝や義昭の父親だった
続きを見る
「さすれば、麒麟が来る。この世に麒麟が参ると。わしは父上のその話が好きであった。この世に誰も見たことのない、麒麟という生き物がいる。穏やかな世を作るものだけが、連れてこられる不思議な生き物だという。わしは、その麒麟をまだ連れてくることができぬ。無念じゃ」
公方様の嘆きを、家臣たちは苦しそうに見守るしかありません。
麒麟どころか、羽を折られた鳥が地面に落ちて、血を吐くように鳴いているような。そういう物悲しさがある。哀愁があります。
目が涙でキラリと光るところが、見ていて胸がかきむしられるような苦しみを感じさせるのです。
剣豪将軍ということから、向井理さんは頼りないだのなんだの言う意見もあるようです。
けれども、本作の義輝は哀愁をにじませるような着地点を見出しているはず。落ちて散る花のような、そんな向井さんは役を理解し切って演じていると思います。所作ひとつとっても、圧倒的に美しいんですよね。
比較対象として、やっぱりそこは信長です。はしゃいで相撲を取って、帰蝶で膝枕をする信長は、ネコ科の獣じみたものがある。意識せずに動いているだけで、圧倒的に魅力的。染谷さんが演じる上で意識していないというわけじゃないですよ。
それに対して義輝は、幼い頃からどう動くことが正しいのか、人の上に立つべく意識を作り上げてきた繊細な美しさがあると思えるのです。
誰が上とか、正しいということではなくて。皆それぞれが美しいし、役柄を読み込んで挑んでいると思える。そんな素敵な作品です。
光秀はそんな将軍から得たものを持って、美濃へと歩いてゆきます。
白い雪を踏みしめ、彼は歩いてゆくのです。
MVP:足利義輝
圧倒的な哀愁がある。そんな人物像でした。
麒麟がくる――そんな思いを、駒という民衆にせよ、公方様にせよ、口にするところに本作のテーマを感じます。
藤英と藤孝が「おいたわしや……不甲斐ない我らが!」という目線を向けてくる。忸怩たる思いを出してくる。
それを受け止めるだけのもの。光秀が語るだけの重さ。それを出しつつ、哀愁ももちろん出す。そのリクエストに答えるのって、相当難しいことだと思う。
能動的にはっちゃける信長や久秀以上に難易度が高いと思うのですけれども。
この義輝は、その要求をこなせている。あの涙が光る目だけで、完璧にこなしていて。
あの涙だけで、絵になっていて。これ以上は望めないほどでした。
総評
ちょっとツッコミ。
週刊誌の記事でもありましたが、信長の花押が麟だけに【麒麟=信長】という過剰な誘導はどうかと思います。
そこは中国史の原典回帰もしましょう!
-

『麒麟がくる』で「来ない」と話題になった――そもそも「麒麟」とは何か問題
続きを見る
はい、それはさておき。
衣装の派手さとか。帰蝶役の交代とか。4Kだとか。子役かわいいとか。そういうことは、誰か別の人が書くから、はっきり言ってどうでもいいとは思っていまして。
個人的な気持ちを書いてしまって申し訳ないのですが。
【サイコパス】信長に、【凡庸な悪】高政をぶつけてかなり納得できているところではあります。
信長をさんざんおかしいだの、賛否両論だの、そういうことを読んできて、「じゃあ何が正しいのか?」と考えてきまして。
今週を見ていて、その答えは見えてきたと思えます。朝ドラの『スカーレット』でもかなり整理されていましたが。
どういう思考回路を使っているのか。
本作はそこを見ていかないと、罠にハマり続けるんじゃないかという気がして、緊張感が漂っています。
今週でなくて先週の話ですが、感想を読んでいて妙なことに気づきました。
ともかく駒と伊呂波太夫パートを叩くコメントが出てくる。テンプレかよ。
「駒の時間いるの?」
「駒の出番はスマホいじってた」
「女を喜ばせたいんでしょ? 歴史好きの私はこういうの求めていない」
そういう感想に、毒を投げ込むような提言をしますと……。
駒の出番に伏線を仕込めば、ひっかけられますよね。
それに、これって海外の歴史劇では定番の手法でもあります。映画の『1917』は傑作でした。
あの映画に対して、
「どうして有名な軍人の話にしないの? オリキャラの伝令の話なんて退屈……」
「伝令が話している場面でスマホいじってた」
そういう感想を言う奴がいたら「あんたは見なくていいですよ」で終了でしょう。
そういうマクロとミクロを切り替えるのって、基礎中の基礎になりつつあるわけです。
そんなことは今日始まったわけでもない。戦争画を見てみると顕著です。
南北戦争やナポレオン戦争あたりまでは、有名な将軍が指揮をとる題材が好まれていた。それが第一次世界大戦ともなると、苦しむ名もなき兵士の姿が題材となってゆく。
視点移動、Points of Viewの変換は当然のことです。
『MAGI』にも、四人のガキじゃなくて信長を描くべきだというようなコメントがつくのですが、一体いつの話をしているのでしょう?
ハッキリ言い切ります。
「駒の出番はスマホいじってた」
そういう感想には、こう返したい。
「21世紀ですよ? 21世紀を生きましょうよ」
朝礼で司馬遼太郎、山岡荘八の話を始める。そんな昭和のおっさんと同じところでジタバタしていて、何か得られるものはあるんでしょうか?
ただ、なぜそういう行動をしたがるか、というのはわかる。
共感ですね。界隈で通じる理屈を表明すれば、リツイート、いいね、コメントを稼げる。共感を得ると、人の心は気持ちが良くなるらしい。個人差はあるけど。
そしてこういう共感を求めると、自分の認識が曖昧になることでもある。
ゆえに、私は共感を考えないでいくしかないとますます確信してしまった……クソレビュアーはクソレビュアーでいい。ステマの誘いはこないだろう。でも、それでいいかな。そう発見したのです。
大河レビューって、思っていた以上に手強くておもしろいな。そうしみじみと疲労しつつ、思っております。
あわせて読みたい関連記事
-

織田信広の生涯|なぜ謀反を画策した信長の庶兄は織田家で重用されたのか
続きを見る
-

織田信秀(信長の父)の生涯|軍事以上に経済も重視した手腕巧みな戦国大名
続きを見る
-

織田信勝(信行)の生涯|信長に誅殺された実弟 最後は腹心の勝家にも見限られ
続きを見る
-

人質時代の徳川家康(竹千代)|織田と今川の下でどんな境遇に置かれていた?
続きを見る
-

今川義元の生涯|“海道一の弓取り”と呼ばれる名門武士の実力とは?
続きを見る
【参考】
麒麟がくる/公式サイト




































