土田御前

信長の誕生を喜ぶ土田御前と夫・織田信秀の像

織田家

謎多き信長の母・土田御前に迫る~生まれや名前は?信長の死後はどう過ごした?

歴史が何らかの動きを見せたとき――。

日本史では、女性の影響を受けたケースが比較的多く記録されています。

信長の母・土田御前(どたごぜん)もまた、戦国史に大きな影響を与えたと考えられる一人でしょう。

創作物では、以下のような人物像で登場することの多い女性です。

【土田御前(~1594年)】

織田信秀の正室として嫁ぎ、信長と信勝(信行)、ほか数人の子供を産んだ。

嫡男は信長だったが、あまりにもひどい言動をしていたため、土田御前は信勝を可愛がり、跡を継がせたがった

かようにフィクションではシンプルにまとめられる人物ですが、実のところ彼女自身に関することはあまりよくわかっていません。

歴史に影響を与えた記録は残っていても、女性の人となりそのものの記録は乏しいのです。

それでも日本史に衝撃を与えた織田信長の母ですから、どうしても興味は尽きません。

文禄3年(1594年)1月7日はそんな彼女の命日。

本稿では、知りうる限りの実像に迫ってみましょう。

大河ドラマ『麒麟がくる』では檀れいさんが演じた土田御前/絵・小久ヒロ

 


生まれは?

土田御前は出自どころか、名前の読み方すら確定していません。

今のところ【素性】については以下のような説があります。

佐々木六角氏後裔・土田政久の娘説

土田政久の娘説が最も知られておりますが、裏付ける一次史料は今のところありません。

後年になって、土田氏の縁者・生駒氏を母とする信雄関係の史料から、この説が出てきたとされています。

小嶋信房の娘説

信長の姉・くらの方が嫁いだ大橋重長の記録『津島大橋記』や『干城録』などでそう記されています。

『干城録』は徳川家康徳川家光時代の江戸幕府の家臣について書かれた本ですが、小嶋信房という人の素性がそもそもハッキリしていません。

小嶋という名字は関東~東海にかけ、特に愛知県に多く、小島という武士の家も当時あったらしいので、まったく根拠がない説ともいいきれません。

くらの方が嫁ぐ際、小嶋信房の養女として輿入れしたというので、小嶋家にはそれなりの力があったはず。

土田御前が小嶋家の出身かつ、当時の織田弾正忠家(信長の家)よりも格上だったからこそ、養女にしたのでしょうか。


六角高頼(義賢の祖父)の娘説

『美濃国諸旧記』に、信長生母は六角高頼の娘だという記述があるのですが……。

この本の成立が寛永末期(1640年代ごろ)の上、著者の素性がわからず、やはり信憑性はアヤフヤ。

土田氏自体にも近江六角氏の庶流説がありますし、根拠がないというわけでもないのがモヤっとするところです。

織田信長/wikipediaより引用

 


名前は?

読み方も複数の説があります。

この時代、女性の呼び名は実家の地名から取ることが多いので、実は素性がわからないと読み方も確定できません。

例えば、美濃可児郡の土田から来たのであれば「どた」、尾張清洲の土田なら「つちだ」になるとか。

字面は変わりませんので、別人と混同されることは少なく、文章上での問題はありませんね。

そういうわけで、嫁ぐ以前のことも、それ以降のことも、記録が多いとはいえません。

織田信勝が兄・信長に謀殺される前は、一緒に末森城に住んでいたようです。

信勝(信行)の居城だった末森城址/wikipediaより引用

俗説では完全に信勝の味方だった彼女。

信長を敵視していたかのように語られますが、記録上の言動ではそうでもありません。

信長と信勝の対立が深刻化し、【稲生の戦い】で信勝方が敗れた後は仲立ちとなって、弟・信勝の赦免を信長から引き出しています。

また、信長が計略のため重病のふりをしたときも、信勝に

「日頃のことはともかく、実の兄上なのですから、お見舞いに行きなさい」

と言っていたことが、信長公記に書かれています。

 


孫たちの面倒を見ていた

永禄元年(1558年)11月に信勝が謀殺された後は、信長のもとで暮らしていたようです。

信長の息子たち(織田信忠織田信雄織田信孝など)や、浅井氏滅亡後のお市の方の娘たち(茶々・初・江)の世話をしていたともいわれています。

浅井三姉妹イメージ/絵・富永商太

祖父母にあたるワケですから、かわいい孫たちだったのでしょう。

彼らに信長への反抗心がみられないため、土田御前も信長を嫌っていたというわけではなさそうです。

仮に本心を隠していたとしても、子供って親族の不仲を敏感に感じ取るものですしね。

そして、ここからしばらく、土田御前に関する記録は途絶えます。

次に足跡が追えそうなのが【本能寺の変】以降のことでした。

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