2020年6月7日の第21回放送で休止となった『麒麟がくる』。
再開までの間は、過去作品の名シーンを振り返る企画が放送されましたが、僭越ながら私からも休止期間に見ておきたい作品をピックアップさせていただきます。
抽出条件は以下の二つ。
・大河ドラマ以外
・最終回放送が10年以内
世を変えるには、我らも変わらねばならない――なんてことを『麒麟がくる』の織田信長も宣言していましたように、できるだけ時代に沿った作品を選んでいきたいと思います。
過去を偲ぶのも悪くはありません。
されど、あの名作映画『風とともに去りぬ』すら、配信が停止される時代です(時代背景をふまえた解説付きでの配信再開は検討中との報道もあります)。
見る側の我々もアップデートしていきながら、歴史作品を楽しんで参りましょう。
※本記事で取り上げた映像作品はすべてアマゾンプライムビデオで見ることができます
もはやこのドラマ以前には戻れない
『ゲーム・オブ・スローンズ』
制作国・局:アメリカ、HBO
主な舞台:架空のウェスタロス
時代:薔薇戦争が大まかなモデルとされている
放送年:2011-2019(完結済)
世界規模で社会現象となった本作。
それと比べると、残念ながら日本では「盛り上がっていない方」の部類に入ります。
ゆえに今更でありながら、ピックアップさせていただきました。
もう一つ大きな理由があります。
本作は、世界規模で歴史映像モノを変貌させてしまい、もうこれ以前には戻れない――そんな劇的な変化をもたらしました。
それを大河スタッフが見ていないわけがありません。
中世の歴史観を見せること
『ゲーム・オブ・スローンズ』の何が斬新だったのか?
それはまず、中世の世界観がいかに残虐で、不合理で、人の命を簡単に消し去るかを描き切ったことにあります。
アーサー王伝説を典型例に、中世にはうっすらと「騎士と淑女がロマンチック」なことをしていたイメージがあるわけです。
しかし、イメージはあくまでイメージ。
たとえ魔法とドラゴンがあろうが、中世騎士のいる世界に放り込まれたら、いきなり倒され動けなくなっても不思議はない――本作はそう突きつけてきます。
劇中で描かれるあまりに残酷な事件は、実は一から作り上げられたフィクションでもありません。
こんな残酷な世界観はファンタジーだ!
そう思っていると、元ネタになった事件を見つけてしまい、暗澹たる気持ちになるまで落ち込むのがお約束なのです。
暗い気持ちになるというのは人類の変化であり、進歩でもあります。
「こんな酷い殺し方が正当化される時代じゃなくてよかったな……」
そう認識することで、得られるものはあるはず。
別にこのファンは惨殺劇場を楽しみたいわけではありません。
※「作中屈指のグロテスクシーンで、人々はどんな反応をするか?」を集めた動画
存在しなかったことにされた者たちよ
この作品は「エロい『指輪物語』」という形容もされます。
実際にその通りです。
毎年恒例「大河視聴率アップのため、あの女優を脱がせるのか!?」というニュースを見かけると、いいから『ゲーム・オブ・スローンズ』でも眺めておきなさい、という気持ちにもなります。
いや、エロはどうでもよい話ですね。
もっと重要な点として、歴史において日の当たらない存在を大きく取り上げている点に特徴があります。
・身体に障害がある者:ティリオン・ライスター、ブラン・スターク等
・私生児(キリスト教圏では家督継承権がない):ジョン・スノウ、ラムジー・ボルトン
・女性支配者:デナーリス・ターガリエン、サーセイ・ラニスター、サンサ・スターク他
彼らは実在しなかったのか? 排除されたのか? 見なかったことにされてきたのか?
どうなのでしょう。
本作について「いくらなんでも女が強すぎる!」という反応もあるそうです。
しかし、製作者側が「女性だけの軍議は歴史的だった」と振り返っているのですから、意図的なものなのです。
女が強いのはファンタジーだから? 嘘なのか?
それはどうでしょう。
『麒麟がくる』では帰蝶の策がやりすぎだという意見がつきまといます。戦国時代に、女性の権限が今よりも制限されていたことは確かです。しかし、それはどういうことでしょう?
・女性に発言権がなかったから
・女性は発言したいと思っていなかったから
・女性が賢い発言をできる能力がそもそもないから
この三つでは、結果は同じでも理由はまるで違います。理由まで探れば、発言主の感覚もわかるのです。
女性が発言したいと思わない? 能力がない?
そんな理由を投稿している方は、自分自身の偏見と向き合う必要があるようです。そこまであぶりだしてこそ、今後のドラマなのです。
大河に押し寄せる波
ここで、近年大河との比較をしてみましょう。
2016年『真田丸』:真田昌幸による祝言暗殺劇
主人公の父・昌幸は、主人公である信繁の祝言を暗殺劇の舞台にします。
『ゲーム・オブ・スローンズ』でも、婚礼で人を集めた惨殺事件が描かれます。
2017年『おんな城主 直虎』:井伊直虎が小野政次を自ら処刑する
ヒロイン自ら、泥をかぶった小野政次を刺殺する。何もそこまでする必要はあったのか?
そう指摘されていました。
この2作品の場面は不可解ではあるのです。
2020年『麒麟がくる』:斎藤道三のお茶会、織田信長のプレゼント
斎藤道三は、娘婿である土岐頼純に毒入り茶を飲ませ、殺害する。
のちの徳川家康の父・松平広忠の生首を箱詰めにする。その他いろいろと……。
真田昌幸による暗殺は史実だとしても、よりにもよって我が子の祝言という場所でする必要はない。ちょっとは配慮ってもんがあるだろ! そう突っ込みたくはなります。
井伊直虎だって、自ら刺さずともよい。刺される瞬間、読経していても別に構わないわけです。
ましてや斎藤道三や織田信長など暗殺三昧。
どうにも、視聴者の心を逆撫でするようなことをしていると思えるんですね。
大河は、『ゲーム・オブ・スローンズ』あたりから、人の心をざわつかせることを学んだように思えます。
人間は、ショッキングな場面を見れば印象が強固に残ります。
いくら真田昌幸がおもしろかろうが、利害をつきつめればこんな手酷い暗殺をしてしまう。
斎藤道三にせよ、織田信長にせよ。何かがズレてしまっている。
それを悪と言い切れるのか?
複雑なざわめきを心に訴えかけると、視聴者は考えるしかない。そういう効果を生かしたプロットや演出を感じます。
シェイクスピアと戦国時代
『ホロウ・クラウン』
制作国・局:イギリス、BBC
主な舞台:イングランド
時代:リチャード2世治世からリチャード3世敗死まで(14世紀前半から15世紀後半)
放送年:2012-2016(完結済)
『麒麟がくる』の斬新性と長所はたくさんあります。
シェイクスピア俳優である吉田鋼太郎さんの起用はその一つ。のみならず、ガイドブックで彼がシェイクスピアヒロイン像との比較を語るコーナーがありました。
イギリスと日本の乱世が似ている――そう感じたのは、シェイクスピア劇を日本を舞台にして翻案した黒澤明監督はじめおられます。
偶然なのか? 必然なのか?
この『ホロウクラウン』で確かめてみませんか。
国の頂点に立ちながら、己の無力さになす術もなく滅びへの道を歩む。そんなリチャード2世と足利義輝。
若い頃はうつけ者とされ、父はじめ周囲に失望されながらも、己の力に覚醒してゆく。そんなハル王子と織田信長。
悪辣。最低最悪の梟雄。策謀を楽しんでいるようで、どこか苦しい。彼を悪だと決めつけてよいものかどうか? そんなリチャード3世と松永久秀。
国と時を超越した人間像が、新たな何かを見せてくれることでしょう。
イングランドに下剋上あり
『ウルフ・ホール』
制作国・局:イギリス、BBC
主な舞台:イングランド
年代:アン・ブーリン即位前夜から処刑まで(16世紀前半)
放送年:2015-(未完)
シェイクスピアが描いた、王冠をめぐる乱世が終わったあと。チューダー朝以降、王冠をめぐる王同士の内戦は消滅します。
時代は変わり、そこには下剋上の風が吹くのです。
それが本作主役のトマス・クロムウェル。そして、王妃をめざす野心家のアン・ブーリンです。
王権が強化され、教皇の持つ力が低下しつつある、そんな時代ならではの下剋上。
陰険で邪悪な人物とされる彼らは、確かに清らかな性格とは言いかねるものではあります。
しかし、それは誇張されている姿なのではないか?
低い身分から成り上がることそのものが、憎まれる運命にあったのではないかと思わせる。そんな秀逸な作品です。
-

世界史の勉強にも役立つBBC作品|英国ドラマ『ウルフ・ホール』レビュー
続きを見る
VOD黒船 ついに来航す
『MAGI』
制作国・局:アメリカ、Amazonプライムビデオ
主な舞台:日本、バチカン他カトリック教国
時代:安土桃山時代
放送年:2019-(未完)
江戸時代後期、幕府は黒船が来ることを知らなかったわけでもありません。
いつか来る。きっと来る。どうすればいい?
そうソワソワしつつ、情報を集める日々を送っていました。
『MAGI』を見たとき、こうした幕臣の気分と重なったものがありました。VODという黒船は、ついに日本の時代劇にまで手を伸ばしてきたのです。
日本は勝利できるのか?
不安は的中したと言いましょうか。
彼らは……。
予算がある!
船を作れる!
(船を作ったせいで2012年『平清盛』の予算が枯渇したことがありましたっけ)
海外ロケもする!
殺陣も衣装も流麗だ!
大河主演歴のある緒方ファミリーから二人が出ている!
全世界で配信!
織田信長も豊臣秀吉も絶品だ!
徳川家康はどうなる!
そんなまさしく大河キラーとも呼べるおそろしいものができてしまいました。
豪華さだけではありません。
ストーリーそのものが、アップデートされた歴史観で素晴らしいものがありました。
本作はなまじ天正遣欧少年使節をテーマとするだけに、カトリックを美化していると誤解と偏見があるようです。
そういうレビューもありますが、そういうことでもありません。
宗教改革で劣勢となったカトリックが、極東島国のいたいけな少年を利用し、逆転を狙うという生々しいお話でして。カトリックの本音と建前が生々しいのです。
実に妙味深く、勉強になる作品です。大河と干渉し、相互補完にするのもありでしょう。
そしてこの作品の三英傑は、従来の像模範例のようでもあります。家康のみが出ていないとはいえ、必見です。
こういう従来の像の高得点を叩き出された『麒麟がくる』が、三英傑新バージョンを模索するのは、よい手です。
正面からぶつかりあって勝利が難しいのであれば、別の手を狙うのが正解ですから。
神っちは昭和の織田信長
『なつぞら』
制作国・局:日本、NHK
主な舞台:日本、北海道および東京都
時代:昭和(20世紀)
放送年:2019
なんで朝ドラを?
しかも去年の作品を?
染谷将太さんの予習ですね。
この作品における草刈正雄さんの泰樹は「真田昌幸が昭和で牧場主になったら?」バージョンでした。
「抹殺」と言いながら一撃を喰らわせる朝ドラ人物。改めて、それでよかったのか。昌幸だから、そこは仕方ない。
そんな本作を見直していただきたい理由は、染谷将太さん扮する神地です。
天才アニメーター。
その才能ゆえに周囲を焦燥感に打ち込む。
わけのわからん言動で周囲を困惑と疲弊させる。
雇用先が締め切りと予算を設定しただけで理不尽な怒り方をし、同僚と離反作戦を繰り広げる。
目標(アニメ)のために女性とつきあわないだの。ここから天下を取るだの、いつの時代に生きているのか理解できないことをぶちかます。
まちがって昭和のアニメ業界に生まれた織田信長です。いや、冗談ではありません。
言動や演技のニュアンスが乱世――『麒麟がくる』の肩慣らしをこの作品でしたのではないかと思える。そんな作品なのです。
才能は周囲を傷つけ 時に孤高こそが救いとなる
『スカーレット』
制作国・局:日本、NHK
主な舞台:日本、滋賀県信楽地方
時代:昭和(20世紀)
放送年:2019-2020
『アナと雪の女王2』
制作国・局:アメリカ、ディズニー
主な舞台:アレンデール
時代:衣装等から19世紀から20世紀初頭と推察できる
放送年:2019
神っちが織田信長ならば『スカーレット』の川原喜美子も乱世感のあるヒロインでした。
若い頃うつけとされた信長。才能を認められずに悩んでいます。
この喜美子はほとばしる才能を、家庭事情や性別ゆえに認められず、悶々としていました。
しかし、才能が爆発した瞬間、愛する夫ごと家庭を吹き飛ばしてゆく。地獄のような展開に、いろいろと荒れたもんです。
狂気だのなんだの言われるわ。
炎を見つめる瞳が輝いているわ。
そんな朝ドラヒロインがいたか?
いろんなテーマがあるこの作品。明瞭であることは、才能が周囲を傷つけかねないということ。乱世でないので死傷者が出ないだけで、かなりの混沌がありました。
『アナと雪の女王2』も同様です。
エルサのふっきり続ける言動が突っ込まれ続けました。
才能は周囲を傷つけてしまう。本人にとっても周囲にとっても、孤高こそが救いになる。そう示される時代になったというころです。
信長も、出家して才能発揮するルートがあれば、光秀もあそこまで悩まないのですむのに……そう考えてみたくなります。
天才の認識は時代で変わる
『SHERLOCK』
制作国・局:イギリス、BBC
主な舞台:イギリス、ロンドン
時代:現代(スピンオフは除く)
放送年:2010-2017(完結したと推察される)
シャーロック・ホームズは原典に忠実なバージョンはいくつもあります。その中からBBC版を選ぶ理由は、何も放送年だけでもありません。
原典と現代BBC版では、シャーロック・ホームズの描かれ方が変わっています。
現代人だからこそおかしな言動をしてもよいのか?
そう単純な話でもなく、周囲は困惑し、変人扱いをしています。
これほどまでに賢いシャーロックなのに、ただの変人扱いをされて、ジョンと出会うまで迷惑がられていたのはなぜなのか?
このバディからは、天才だけれども社会常識が欠落した人物と、知能はそこまで冴えていなくとも社会にコミットできる役割が見えてきます。
決裂しそうでしない。彼らなりにメンテナンスをして、保っているのです。
ただの天才が描かれること。それは2010年代以降、古くなりつつあります。
どうすればアルマゲドンにたどり着かないで済むのだろう?
『グッド・オーメンズ』
制作国・局:アメリカ、Amazon、イギリス、BBC
主な舞台:イギリス、ロンドン
時代:古代から現在まで!
放送年:2019(完結済)
天使アジラフェルと悪魔クローリーが、ゆる〜くアルマゲドンを回避するドラマ。
なぜ本作を見ろって?
正反対のようで似たもの同士、天使と悪魔が共闘することでしか、破滅は避けられないと学べるからであります。
コメディドラマで何を言っているのか――そういうツッコミはあるけれども、これは大事です。
『麒麟がくる』のラストにおいて、光秀と信長は決裂をして、破滅に至ります。
どうすればそれが避けられるのか?
同じことは『ゲーム・オブ・スローンズ』最終シーズンにも言えます。野望を言い募る相手と、それについていけない相手。さぁどうする?
その解決策を『グッドオーメンズ』から学べるのではないでしょうか。
ゆる〜く、やっているようでやっていないような。そういう着地点を目指す。
本作は天使であろうと殺意バリバリ、やるなら徹底的に戦うと息巻くわけでして、ときに悪魔のほうが話が通じそうでもある。
悪魔もそこまで悪くない? そういうおもしろさがある。
おもしろいだけではなくて、従来いがみ合っていた個性同士が協力することで、破滅が避けられるという気づきもあるのです。
これも21世紀らしいドラマでしょう。
宗教がらみでここまで笑いにしてしまえるのも、人類と歴史の進歩です。
対立を避ける知恵が、このドラマにはちゃんとある。
天使と悪魔が戦いどちらかが勝つことよりも、天使と悪魔の共闘が求められる。
これからはそういう時代になるのではないでしょうか。
ただし、それができなかった悲しい例を示すこともまたドラマの使命です。
『麒麟がくる』の本能寺は、コミニケーションのズレが燃え上がる悲しい展開となることでしょう。
その悲劇は、我々の日常にも潜んでいます。
越年が決定した『麒麟がくる』――せっかくだからこそ改革に取り組むこともできるのかもしれません。
【参考】
『ゲーム・オブ・スローンズ』(→amazon)
『ホロウ・クラウン』(→amazon)
『ウルフ・ホール』(→amazon)
『MAGI』(→amazon)
『なつぞら』(→amazon)
『スカーレット』(→amazon)
『アナと雪の女王2』(→amazon)
『SHERLOCK』(→amazon)
『グッド・オーメンズ (字幕版)』(→amazon)
麒麟がくる/公式サイト

