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【麟がくる第28回感想あらすじ】
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負傷者だらけの本国寺で
本国寺では、負傷者が運ばれて治療を受けています。これも本作らしさだ。
戦国時代を舞台にしたフィクションはある。けれども、負傷者なり死体はすぐさま消えてゆきます。
それを本作では映す。
光秀はそんな中、鉄砲組を集めて門を破られぬよう増やせと指示を出しています。破られたところを修繕せよとも。
そこへ東庵が声をかけます。何か手伝えることがあるかと思い、親しい医者にも声をかけて参ったと告げるのです。
光秀がお礼を言うと、駒を見つけます。二人は声をかけあいます。
「よくご無事で」
「案ずるなわしは負けぬ、東の門も見るぞ」
すっかり戦友になったような、乱世の二人です。
駒は、もっとお湯がいると言われ。台所へ向かい、湯を用意しようとします。
すると侍女が慌てふためいている。
なんと、そこには「なんのこれしき!」と湯を運ぶ義昭がいる。なんでも毎日運んでいたとか。僧侶時代はそうでしょうけれども。
ここで駒とすれ違い、振り向く。
「そなた……」
「覚慶様!」
義昭は、名前を忘れていても顔は覚えていました。駒だと聞いて思い出します。何年ぶりかと言い合う二人は善良です。
ふと思ったのですが、こういう普通の人とは違う人間のやりとりをする人物がいる。信長です。
信長は、出会った人間を試す。光秀に鉄砲を渡して値踏みした。義昭にも関の太刀を献上して、反応で値踏みをした。
人に出会っただけで喜び、笑う。そういうことができない織田信長は、どれほど哀しい存在なのか? そこも考えてゆきたいところです。
伊呂波太夫の頼み事
場面は変わり、伊呂波太夫が駒と義昭の再会話を聞いています。
お坊様の頃と変わらない、それが優しくて良い方だと語る駒。
伊呂波太夫は挨拶したあとを知りたがります。今はこの騒ぎだけど、おさまったら使いをよこすから遊びに来ればよい、と。けれども駒は、そんな偉いお方には会いに行かないと言う。十兵衛様の無事を確認できたとほっとしています。
駒も変わったところはある。名誉に無頓着と言いましょうか。彼女はさんざん、偉い人に会いすぎると突っ込まれてはいますが、そういうことをしても駒だからこそプロットがぶち壊れないところはあると思うのです。
普通、もっとチヤホヤされて浮かれません? しかし駒はとことん謙虚。“普通”が視聴者側とも違うのでしょう。
伊呂波太夫とはまだビジネスの関係もあるようで、駒はお金を受け取ったようです。東庵はその金を数えます。
ここで伊呂波太夫は、駒に公方様にお願いがあると切り出します。
関白様こと近衛前久のこと。三好方に与したとみなされ、命すら狙われて大変な目に遭っているそうです。
思えば前久相手に、将軍なんか誰でもいいと迂闊な方向へ後押ししたと言えなくもない、そんな伊呂波太夫。彼女なりの責任感でしょうか。
東庵は、そういうことはいきなり公方様に頼むものかと釘を刺します。そのうえで、光秀が公方様のそばで力をつけている。立派に振る舞っていると言うのです。
「なるほど、明智様か」
伊呂波太夫はハッとしています。
藤孝の疑念
そのころ光秀は書類仕事をしていました。
そこへ藤孝が入ってきます。
こういう細かいところも素晴らしくて、まずは照明です。日差しが障子を通して屋内に差し込む、それがとても美しく撮影されている。
さらには障子を開ける人がちゃんと藤孝の横にそっといる。当時の貴人なら自分で開けない。こういう細かくて丁寧な演出がよいのです。
障子すら自分で開けない当時の貴人なのに、将軍自らお湯を運ぶ義昭の特異性も浮かび上がりますね。彼も変わっているのです。
藤孝には疑念がありました。
勝軍山から一気に、三好の大軍がくだってきて、それに幕府のものが気づかない。京に入るには関所がある。本国寺にふって湧いたわけがない。
要は、幕府内部の内通者の可能性を察知したのです。
本作の登場人物は、そういう考察がきちんとできるのがいいですね。一乗谷でも、光秀が市場の動向を観察して「戦の支度をしていないから上洛できない」と朝倉義景に言い切った場面もその一例でしょう。
決定的な証拠はなくとも、いくつか自分なりに疑念やひっかかった点を集めてゆけば、絵が見えてくる。
そこで光秀は、藤孝に書類に目を通すよう差し出します。
幕府内の何人もの役人が、不正に公家や寺の領地を横取りしている。訴えられているのは、10や20で済まない。何年にもわたってそうだ、と腐敗の証拠を突きつけるのです。
藤孝は驚き、どうやってこの文書を手に入れたのかと返します。今回の騒ぎに乗じて手に入れたとか。
やりましたね、光秀、やりました!
今回のようなことを防ぐのであれば、幕府腐敗の根を絶つことが肝要。その根を光秀は見出しました。
幕府内に三好に戻ってきてもらいたい一味がいる。それこそが根本的原因だと見出したのです。
光秀と藤孝は、よいコンビになると確信できては来ました。
ただ、幕府再興はもう間に合わないとは思えるのです。
信長が悟った2つのこと
本国寺の一件から数日後、岐阜から織田信長が数名だけの供をつけて駆けつけました。
村井貞勝を連れて来ています。
そしていきなり激怒!
「わしの助けがなくとも戦えると思ったのか!」と摂津晴門を問い詰めます。
細川藤孝らに知らせた……そう、おどおど返答する晴門に対し、細川に先に知らせたのかと信長はギラっと怒りを見せます。その折は政所も狼狽えていたと言ったところで、通じない。
「幕府にとって織田信長とはその程度の代物か!」
扇をぶん投げつつ、怒り狂う信長。信長はそう、ものにあたる悪癖がありますね。
現代のアンガーマネジメントなら「6秒待ちましょう!」と助言できるのでしょうけれども、信長は怒りで全身をぎらつかせる。人というよりも、怒り狂って毛を逆立てる獣のようだ。
そして、摂津晴門に二つのことを学んだと語りかけます。
一つ。そのほうたちだけでは、公方様をお守りすることはできぬということ。
もう一つ。この寺を公方様のご座所として安心していたわしは、愚かであったということ。
続けてこう宣言します。
以後、京にはわしの信用する者たちを名代として置き、新たな城をつくり、将軍様のご座所として、ご動座願うこととする。
「わかったか!」
信長は話し合いが苦手だ。している間、露骨にしらけ切った顔をすることも多い。なぜなら自分が決めて、指示を出した方が効率がよいから。
信長はめざめてしまいました。自分の力が優れていると理解してしまった。それがどれほど孤独で、哀しく、危険であることか。
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