信長は厭戦的な義昭に失望してしまう。それでも使えるだけ使いたい野心があり、義昭を擁して上洛し、幕府を再興、“大きな世”を作ると言い出すのです。
永禄11年(1568年)9月、足利義昭が、織田信長とともについに上洛を果たしたのでした。
この上洛により、京を支配した三好は、摂津・大和に退却。14代将軍・足利義栄は摂津で病死を遂げてしまいます。
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信長が三好勢を畿内で一蹴するために摂津に流れ込み、芥川城を落とすと、信長に味方をする勢力と、献上品が集まってきました。光秀はそこで様々な処理をしています。
そうそう本作ですが、合戦シーンをそこまで多くはやらないようです。
別にそれが悪いとも思いませんし、どこに重点を置くか決めるのは、作り手の判断です。
駒はすっ飛ばして合戦をしろという指摘もあるようですが、余計なお世話ではありませんかね。
合戦をどれだけ重視するのか、そこは作り手の価値観次第。
合戦シーンこそ醍醐味という気持ちはわからなくもありませんが、東映時代劇の頃ではありません。角川映画の時代劇だって、合戦がない『みをつくし料理帖』をやる時代です。
予算が膨大だった『ゲーム・オブ・スローンズ』ですら、大規模な合戦は原作からかなりカットして、1シーズン1エピソードにある程度なのです。
それよりも本作は、政治劇、会話劇、心理の交錯に力を入れていると思えるのです。
もちろん、合戦を撮影する技術を消すことだけは回避せねばならない。そういう技術継承と開拓要素はありましょう。
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久秀との再会
光秀は松永久秀と再会します。
豪快な笑い声と共に、久秀がやってきました。
光秀が出迎えが遅れたことを詫びると、久秀は幕臣として奉公衆に加わった光秀の出世を褒めます。
けれども、光あるところに陰はある。彼らの横を、髪を乱し、汚れた武士たちが縛られて歩いてゆく。これぞまさに合戦だ。
「見よ、負けて許しを乞う者、命乞いに来る者。見苦しい限りだ」
久秀は信長のことを褒め始めます。
京で織田殿にお会いして以来、只者ではないと思っていた。信長様に味方して、大和に蔓延る三好の一党と戦ってきて、いささか苦戦しているのだと。
この言葉には、いろいろな要素はあると思います。
自分の見る目を確認し、勝ち誇るようで、苦戦というあたりには自虐も滲む。それに、一時は、我が子に跡目を譲り隠居も考えていた久秀です。
計画は狂っている。そこをどう思っているのかがわからない。
吉田鋼太郎さんですから、実に巧みです。正々堂々としているようで、複雑なニュアンスも感じる。この久秀が、どう転落してゆくのか。
困惑する光秀
そして久秀は、見事な土産物を持参していると言います。背後の武士が、何か茶器を持っています。
そうなのです。久秀という男は、あのおそろしい織田信長に、自分の利用価値をアピールしなければなりません。
商人に茶器の目利きを頼まれるセンスは、きっと役立つことでしょう。
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信長にお会いして渡したい――そう頼み込む久秀に、光秀は評定の最中だと困惑しています。今回の戦で三好に味方した側をどうするのか。その扱いを詮議しているのだそうです。
「それは大儀じゃ。わしは気長に待つゆえ」
そう久秀は言ったあと、「待て」と光秀に声をかけます。自分が三好方に通じているという噂があると、彼も知っている。
「まさか、わしも詮議されているのではありますまいな?」
光秀は、評定の最中であり、詳しくは申し上げられないと言葉を濁します。
そのうえで、信長は久秀の働きを知っているからには、ご案じになることはないと返す。
とはいえ、言葉のトーンも表情も、どこか冴えない。
本作はなかなか厄介で、演技のニュアンスが細かい。言っていることと、考えていることに違いがある。
時代劇では、現代劇以上にこういうことをしてこそだと思えます。
譲らぬ藤英
さて、その評定では。
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三好に味方した池田勝正、伊丹親興が許されるのに、松永久秀が許されないのはおかしいと主張するのです。
が、幕臣である三淵藤英は譲らない。今後の幕府のこともふまえ、前の将軍である義輝を暗殺した三好一党と手を組んでいた松永久秀を許すべきではないと譲りません。
久秀の嫡男が将軍殺害に関わったことは確か。
嫡男は嫡男、父は父だから別なのか。本人がしたことではないという言い訳はできるのかどうか?
「話にならん!」
そう揉めています。
これはただの【情】の問題だけでもない。藤英がそこまで義輝の死を悼んでいるかどうか、そこは考えた方がよさそうです。
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柴田勝家としては、人事の掌握を織田の基準で決めることにこだわっている。織田にここで味方したかどうか、そこが問題である。
一方で三淵藤英は、将軍権威を保つためにも、範囲を広げてでも松永久秀を処罰しておきたい。
向井理さんの義輝は美しかったけれども、その命は死んだ後でも値踏みされ続け、利用されるのです。
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人は誰でも死ぬ。けれどもその死に関わる葬儀にせよ、何にせよ、利用はされる。死、しかも暗殺となればその傾向は顕著。素直に追悼しないものは不埒だのなんだの言われますから。
藤英としては【義輝の死】というカードを存分に使いたいところでしょう。
そんな老獪な藤英に対して、フレッシュで生き生きとした柴田勝家がやはりよい。
安藤政信さんはまだちょっと硬くて、そこが役柄と噛み合っていて、谷原章介さんとのケミストリーが絶品で。適材適所のうまみが随所にあります。
不穏な摂津晴門の登場
ギスギスと揉めるパワーゲームな評定に、光秀が戻ってきてしまいました。
義昭が辛そうに、悲しそうな顔で、この場にいます。滝藤賢一さんは、どうしてこんなに可憐なのやら。
一方で、信長はこの混沌さえ、にっと笑みを浮かべておもしろそうに見ている。
彼は学んだのかもしれない。すごく、邪悪なことを。松永久秀の弱みは握った。今後、「義輝殺し」の一件でじわじわといたぶれそうだ。
公方様なんて頼りなくて、ただの傀儡ではある。そんな傀儡でも、殺してしまえば面倒なことになる。生かさず、殺さず、せいぜい使ってやるか……。
そういう不穏さと不敵さと、ドロドロに煮詰まった微笑を浮かべる染谷将太さんが、今週も圧倒的。
邪悪だ……この信長は、飲み込まれそうなほどに邪悪だ……。
ここで義昭は、おずおずと議は尽くしたと言い出す。
皆の思うところに理解を示したうえで、三好の根城である芥川城を抑えられたのは、全て織田信長の力があったこそ。他の大名家が名乗りを上げぬ中、自ら出陣してわしを助けてくれた。
織田殿こそ、兄とも父とも思っている、改めて礼を申し上げると。
「身に余るお言葉、かたじけのう存じまする」
信長はここで、ドロドロしたものを全部綺麗に封じて、愛嬌すら見せつつそう言い切ります。
そしてその織田殿が松永殿を受け入れるのであれば、そうしたいと賛成を見せる。松永殿には思うところはあるけれども、力を合わせてこそ幕府を力あるものにできると。
「三淵、どうじゃ」
「上様がそう仰せなら、もはや私は……」
そのやりとりを、信長はじとっとした目で見ている。よくもこんな不穏な目を。演技を超えて、なりきっている。染谷さんは、新解釈信長像を生きているのですね。
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それにしても、これはどういうことなのか。
義昭は優しすぎて、幕府権威にすら無頓着なのか。ただ単に、松永久秀を殺したくないだけなのか。信長のあの目は何か? もしも、ここで義昭が松永久秀を断固殺していたら、見る目は変わったのか。
義昭は、そのうえで織田殿に頼みたい儀があると言い出します。
幕府を立て直すために、奉行所を設置したい。都で暮らす民のこと、諸国の訴えのことを処理していかねばならない。そのためにも、あの者を呼べというのです。
摂津晴門です。
ここでの彼は背中しか映らない。それなのに、身のこなし、背中ですらどこか何か不穏な気配がある。一体本作は、どういう演技をさせているのか!
なんでもこの男は、代々足利家に仕えてきた者で、義輝時代も仕切っていた、政所の頭人だそうです。
「この晴門に、引き続き幕府の政所を任せようと思うが、いかに?」
「ははーっ」
声音すら胡散臭い晴門です。
信長が「よろしいかと」と答えつつ、ますます不気味な熱を出している。光秀も、疑念を浮かべで見ているのです。
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