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【麟がくる第28回感想あらすじ】
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二月で城を完成させよ!
そんな信長は、新たな城を作ると宣言します。
場所は決めた、来月から築城して四月には完成させるのだと。
二月で城!
そう焦る相手に「やれるな」と反論を許さずに迫る信長。
晴門は、「どなたがおやりになっても二月で城は……」と戸惑うばかりです。
「やれる!」
信長はそう迫る。近隣諸国の大工たち、材木師を集め、そのほうたちも汗水垂らして釘を打て、さればできる! そう言い切る。
光秀はこれを横で聞き、どこか不快感を顔にうっすらと見せています。
はっきりとは、わからないけれど、光秀なりに、信長の危うさを肌で察知しているのかもしれない。
それにしても本作は見事です。信長が上洛を機にして、幕府を支えるようでいかにして破壊していくかをきっちり描いている。
将軍の城まで作り、自分の息のかかった人物を名代に据える――。
こんなことをされたら、幕府は主導権が分裂し、取り返しのつかないことになる。歴史は繰り返すと言いましょうか。幕末期も京都で諸藩がパワーゲームを展開して、江戸幕府の屋台骨が破壊されたわけです。
かくして二条城の普請が始まります。光秀も熱心に働いておりました。
大工も職人も人足も集まってきます。「よいやさ、よいやさ」そう声をかけて縄をひく者もいる。
そこで光秀は、人足が運ぶあるものに目をつけます。
石仏でした。
「これはなんだ?」
「山寺にあった石仏でございます」
どこで使うかというと、割って石垣にするそうです。ご奉行のご下知で、使えるものはなーんでも持ってこいと言われたとか。
そして信長もやってきて、命令を出しています。光秀と比べると、言い回しがきつくて、高圧的ですね。
信長は光秀の姿を認めると、うれしそうな顔を見せます。
伊勢、三河、丹後、播磨。14の国から人とものを集めた。やればできるのだ! そう得意げなところで、「信長様の力」と返され、うれしいのかそうでないのか、よくわからない信長です。
そのうえで、わし一人では誰も力を貸さん、やはり公方様の名前に力があるとしみじみと言います。
「そなたの申す通り、大きな世を作るには欠かせぬ方!」
そう言いつつ、難しいのは摂津晴門だと指摘する。公方様がああいうお方だから、都合よく操られるのが怖いと懸念しています。
光秀は、私と藤孝殿で抑えると返します。信長はそうしてくれと言い、自分も手を打つと言います。
合理主義だけではどうにもならない
そしてここで、信長は石仏を見ています。これも使うのかと光秀に問われ、信長はおもしろそうに話を続けます。
子どもの頃、仏間に忍び込んで遊んでいて、仏様をひっくり返したことがある。
母上に大層叱られた。
仏様の罰が当たると脅された。
仏の罰とはどんなものか興味があり、何日もそれを待った。
「何も起こらなかった! 何も」
そう言いつつ、石仏を掌で叩く信長。
信長の性格的な欠点が、じわじわと出て来ました。
仏像を壊すことそのものの悪というよりも、人の心を踏み躙ることをなんとも思わないこと。話がそもそも通じにくいこと。このあたりが実に怖い。
土田御前からすれば、我が子がそんな自分自身をも、仏をも馬鹿にするような発想をするなんて、思いもよらないことでしょう。
我が子というよりも、まるで獣のような気持ちすらしてしまってもおかしくはない。
そして信長の言動は、父からも隔たっているのです。
信秀は斎藤道三との合戦に、熱田神宮の神主を連れて来ていて、これで勝てると自信満々でした。
それでも敗北した。あの一連の描写からは、神通力を信じることの愚かさが見えてくるようであった。
けれども、それだけではなく、過去のレビューを確認したところ、私はこう書いていました。
占いを信じない人が合理的でクールなわけでもない。
人のお守りを踏んづけ、墓を蹴り飛ばすような人間は、いつの時代だって嫌われます。
そういうことは最近でもある。慰霊施設をポケストップにすると、問題になるでしょう。
でも、そういう暗黙の了解を無視する人もいる……前述の曹操も、占いだの予言だのバカにしまくって生きてきました。
それで「流石ぁ、合理的!」と言われたかというと、むしろ人の心を無視する最低最悪の奴だと当時から嫌われていました。
合理主義だけではどうにもならない――人の心を踏みにじる奴は問題ありだとみなされるのです。
この先、信秀さんの嫡男が墓石をガンガンぶっ壊すようなことをやらかして、両親と教育担当者揃って苦い顔になることも、想像できてきました。
キャラクタービジュアルの時点で、土田御前は顔がうっすらと疲れている。我が子が理由なのでしょう。
麒麟がくる第2回 感想あらすじレビュー「道三の罠(わな)」
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やはりでしたよね……。
けれども信長には、そんなことがわかるわけもない。仏像を壊すことに、うっすらと快感すら覚えているのかもしれない。この口ぶりからして、そういうものは感じさせる。
やはりとても哀しいとは思う。時代の子だとは思う。世の中大きく動いて、人の認識も変わってゆく。
そうそう、吉川晃司さんが織田信長に扮したAmazonプライムの『MAGI』にも、そういう宗教と人間の関わりが描かれています。
ガリレオは天上説を否定し、地動説を提唱し、それで教会から睨まれてしまう。それを嘆く描写があるのです。
人間って、宗教を持っている。じゃあなぜ、神を求めたのか? 宗教というルールがあったほうが、世の中うまくいくこともある。誰もがガリレオのように、地動説の検証をしているわけにはいきません。神様が決めたから太陽は東から登る。そう片付けた方がよいこともある。
そういう「暗黙の了解」、「読むべき空気」を宗教は規定してくれます。
けれども、人間の中にはそういうことを疑ってかかるものが少数いる。先天性の何かを持って生まれてしまう者がいる。
彼らが世の中を変えていく。
宗教改革のルター。陽明学の王陽明。それぞれ、カトリックなり、朱子学なり、世の中を支配する思想に異議を唱えて、かつ織田信長と近い時代を生きた人物です。
そういう人物のこと、世の中のルールを変えてしまうような人を称え、憧れてきたわけだけれども、現実に少数派に生まれついた本人は、周囲と理解し合えず、とてつもなく哀しくて孤独だったのかもしれない。
周囲からすれば、その人はあまりに変わっていて、振り回されて困り果てたかもしれない。
そんな哀しみを考えることの提起が、本作にはあると思えるのです。
人間は進化します。歴史にせよ、人間そのもののことにせよ、研究が変わりつつあります。
そういう新視点で信長を見つめること。それを引っ張ってゆく、そういう意義がある。
そのためには、染谷さんが必要だったのでしょう。
染谷さんをファンとして追いかけたことはないから、私には彼そのものはよく知らない。結婚しているのか。趣味は何か。そんなこともハッキリ言って、どうでもよい。
ただ、目の前で繰り広げられる演技がもう、わけがわかりません。
彼はスチル写真では伝わらないものがある。
発声がすごい。人間が喋っているというよりも、楽器が演奏されているよう。
感情にあわせて、声がうねるよう。顔の表情にあわせて、声まで変わる。
一体何が起きているのか、毎週見ても、さっぱり理解できない。ただ、すごいということだけはわかります。
朝倉義景を討つ――
さて、そんな信長が「松永から聞いた情報を知っているだろう」と光秀に話を振ってきます。
越前・朝倉義景です。
朝倉が三好と手を握れば危険だから、早めに手を打たねばならない。そう思うが、どうだ。
そしてこう宣言します。
朝倉義景を討つ――。
アッサリ言い切り、肩にポンと触れ、世間話をします。
帰蝶が美濃に戻って来て、十兵衛に会いたがっている。己の妻も子も美濃にいる。美濃は二日の道のり、これを作ったら一度戻ってこれぬか。そう誘うのです。
いや、信長さんよ。どうリアクションしたらよいのよ……。朝倉を討つという後に、こんななごみ系の世間話をして。あまりに急展開な話題についていけない、疲れる……そう感じる人も周囲には絶対いるはず。
「おう公方様じゃ!」
ここで義昭登場です!
義輝とは、どうしたって何もかもが違う。
本作の適材適所ぶりが光りますね。向井理さんと滝藤賢一さんの個性よ……。
義輝が繊細な白磁なら、義昭は自然釉というか。そういう個性を、佇まいでも演技でも出せる、滝藤さんは素晴らしい。
そんな義昭はこう来ました。
「信長殿、ここにおられたか!」
信長は公方様がかような所へ来られたことに恐縮する。義昭は、立派な城になりそうだ、信長様のおかげだと感謝している。
汚れた手を握られて困惑する信長。義昭はそれに構わず、都を美しく保てるのはあなたのおかげだ、この手は離さないと言い切り、強く握る。もし義輝なら、こうはならないでしょう。
本作は、おそろしい酒みたいなもんです。酒をぐいぐい飲ませて、酔わせるような危険なところがある。信長の気持ちに、恐ろしいほどに引き摺り込まれる。信長の気持ちと一体化できる気がする。
そしてそれは、とてつもなく悪酔いをさせる。
こんなことを開けっ広げにされたら、いかにして公方様を使えるか、そこに向かっていってしまう。あまりに素直すぎる……。
信長は、義輝には冷たい顔になった。でも、義昭はそうならない。
たっぷりと利用し尽くす。吸血鬼のように、干からびるまで相手を吸い尽くすことすら想像できる。まぁ、でも、殺すと松永久秀状態だから、あくまで生かさず殺さずだ。
残酷な作品だ!
残酷な思考回路に見るこちらまで引き摺り込む!
この義昭と信長がどう壊れるかなんて、そんなの、はじめから噛み合っていないのです。
生まれながらにして改革をすると運命が決まった信長からすれば、旧来の勢力なんて、血をすすって捨て去るものでしかない。そういう宿命は、本人だって哀しいものかもしれないけれど。
信長は、人の心を平気で踏みつける。その悪どさや痛みに気づけない。
けれども、そうできない人がいる、それが光秀。
光秀は、石仏をじっとみつめてしまう。なぜですか? なぜ、あなたは、この石仏を信じる人の心を踏みつけにできるのですか? そういう問いかけを、表情で表現する長谷川博己さんが今週も圧巻だ。
染谷さんが動ならば、ハセヒロさんは静で。静かなようで、感情はこんこんと表情の背後で流れていて。もうハセヒロさんの演技力と知力前提で動くような作品だから、説明するのは野暮だと思うけれども。それでも毎週言いたくもなる。
長谷川博己さんは、ほんとうに誠実で唯一無二の、素晴らしい役者なのです。
さて、そのころ摂津晴門は――。
三好の片割れが越前にいて、朝倉義景に何かと入れ知恵していると、聞かされております。それをおもしろいと言い、企んでいるのです。
「織田信長め! 成り上がりの分際で、満座でわしに恥をかかせおった。今に見ておれ、一泡吹かせてみせようぞ!」
そう言い切るのでした。
このあと、石仏を見つめる光秀の目線で終わります。
作り手の意図が噛み合った、神秘的なものがある。そんな今回でした。
MVP:織田信長
染谷さんは信長を楽しんでいる。だからこそ、彼が演じたのだろうと確信しています。
若手俳優が新解釈の信長を演じた大河といえば、1992年の『信長 KING OF ZIPANGU』がある。あの緒方直人さんはさんざんいろいろなことを言われました。
あれは彼が悪いというよりも、作る側も、見る側も、何かが欠けていたのだとは思います。あの放送年に生まれた染谷さんが、今度こそ新解釈の信長を演じることになる。
となれば、彼も様々なプレッシャーに苦しめられる。
往年の名俳優という伝説やら司馬遼太郎の作品前提で比べてきて、あれやこれやと言われる。こんなのは信長でないと馬鹿にされる。
並のハートだったら、そこで砕けてしまうかもしれないけれど。
でも、それを力に変えてこそ、新解釈の信長はより力強くなる。
だって、当時の信長こそ、成り上がりでわけがわからなくて、乱世をエンジョイしていて、だからこそ反発されていたのだから。
こんな大変な状況を楽しんでいるといい、役を演じきってこそ、新解釈はできあがる。
その度胸の強さまで含めて、信長に抜擢されたのでしょう。
彼のファンでもないし、実は過去の出演作もそこまで見てはいない。配偶者や経歴のことくらい調べればすぐにわかるけど、それもどうでもいい。
天才?
それは見るこちら側がどう感じるかの話であって、周囲が誉めていようが貶していようが、どうでもよいのです。
そうなのです。問題は、この作品で、今どう演じているか? 毎週毎週、大型のネコ科のように素晴らしい。そこにいるだけでおそろしくて、魅力的。よいものを見せていただいております。
と同時に、とてつもなくおそろしい。見ていると、何もかもどうでもいいから破壊してしまえとも思えてくる。
そんな信長だ。
総評
だんだんと、本作の凄まじいものが見えてくる。
土岐氏をお守り札と言い切る斎藤道三。
将軍を利用するとぬけぬけと考える織田信長。
下克上を遂げ、改革する側を主軸とする一方で、保守は断固悪だと言い切るおそろしさがある。
親に会うたら親を殺す。そういう境地すら感じさせる。保守的、現状維持を唱える奴らは斬り捨てろ。そういうものをうっすらと感じる、おそろしいドラマだ!
前年と比較し、もういい歳こいた脚本家ならば、保守的に決まっている。そんな意見も見かけたけれども。いやはや、池畑俊策さんはそれを否定する力強い方なのです。
そんな不穏な、煽動のようなパワーがある今週でした。
そうそう、宣伝で申し訳ありません。
『ウチの娘は、彼氏が出来ない!!』の感想をnoteでやります。よろしくお願いします。
※関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
麒麟がくる/公式サイト