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【麒麟がくる第29回感想あらすじ】
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鼓を打つ光秀
「打ってみよ」
前久の求めに応じて光秀が鼓を打ちます。
よくもこんなめんどくさい場面を撮影したと思います。ここまでできるとなると、もう今週も池端さんは遠慮なく全力を出せますな。
まず、光秀の鼓を打つ所作と掛け声が綺麗でなければいけない。
どの音をどの指で打つか。そういうことを調べねばならない。コロナでこういうところにむしろ準備が使えたのかもしれませんし、ハセヒロさんがやはりえらい。
そしてどうして鼓を打たせたのか?
前久なりの誠意の確認かもしれない。光秀がカッコつけて嘘をついていたら、鼓をきちんと打てないのです。それがむしろうまい。
うまいことを自慢するわけでもないし、嘘も言わない。謙虚で人間性もできているという判断材料になる。そんな試し方はいやらしいように思えるけれども、なかなか大事でして。
東洋の文人は、琴棋書画(琴・囲碁・初動・絵画)をこなすことが理想とされる。
なんでそんなにマルチタレントにならなきゃならんのよ……そういうツッコミは入れたくなりますが、「精神性がそうしたものにあらわれるからマスターしてこそだ」という考え方があります。
楽器を奏でることで、精神の音色もわかるかもしれない――そういうとんでもなく高度なヤリトリなんですね。
前久は、光秀の誠意を確認できたのか。
摂津たちから追われておる内幕を語ります。
なんでも、義輝暗殺に関与していることにされた。背後にいるのは二条晴良。邪魔者を追払い、近衛領を得るつもりだというのです。
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そして上杉輝虎と話したことを言い出します。
立派な武将である輝虎は、今の幕府は己の利しか頭にないと言う。天下のために働くものがおらぬという。それゆえ、いつまでも世がおさまらぬと。
そのうえで、前久はそれができるのは織田信長だと思うておる、あの上洛ぶりをみてそう思うたと言うのです。駒と今井宗久がプロデュースした上洛演出は成功でした。
蔑ろにされたままの御所
自身の苦境のみならず幕府への不満を隠そうとしない前久に対し、光秀は尋ねます。
なぜ私にそんな話をするのか、と。
前久が説明するには、将軍の側にいて信長にも憚りなく物を申せるだけでなく、摂津を嫌っているから――。
消去法ながらも幕府再興を託される人材になったのですね。
本作の光秀は賢く、気品があり、性格もよろしい。けれども「さすが十兵衛じゃ!」みたいなわかりやすく安っぽいおだて方は、そこまでされない。
真実を真っ直ぐ見通す目。人と人を結びつける暖かさ。そういうところが評価されています。
「タの音がよかったぞ。薬指かな」
そう言い残すと、伊呂波太夫にあとを任せて去ってゆく前久。
伊呂波太夫が、もっとお話があったはずなのではと問いかけると、こう言いきります。
「命乞いまではしたくない」
いい強がりです。
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前久が去ったあと、伊呂波太夫はこういうことも言いたかったと説明します。
この都には、公家や武家、私のような町衆がいて、そして帝がおいでです。帝も御領地を奪われ、大層お困りと聞きます。
今の帝のひいお爺様(後土御門天皇)は、お弔いの費用もなく、二月放っておかれたと言います。それを助けるべき幕府は手を差し伸べず、見て見ぬふりをした。御所をご覧になればよくわかります。帝がどれほどお困りか……。
冠婚葬祭費用すらない、そんな帝の窮状。日本人がいついかなるときも天皇を崇拝していたというのは史実でもない。そういう問題提起をしてきましたね。
いい取り組みですよね。大河の罪業を反省するよい機会。
幕末は、明治天皇の出生時に、その費用すら孝明天皇が出せなかったほどであるし。孝明天皇のおわす御所が襲われた【禁門の変】は、襲撃側の長州藩過激派が無理矢理美化されるし。
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そういう天皇がらみの不都合な史実も、日本史の勉強としてきっちりやるべきだとは思っていました。
個々人の不敬だとかそういうことでなく、歴史から見た権力のありようとして興味深いところです。
藤吉郎の不気味さはどこから来る
信長の寝所・妙覚寺に光秀が向かうと、木下藤吉郎(豊臣秀吉)が声を掛けてきました。
公方様のお城がなんとかなりそうだという仕事の進捗確認から会話がスタート。藤吉郎は、城の工事にも関わっています。なんでも信長から、今後の京のことを任されているとか。
光秀が「信長様に申し上げたき儀がある」と言うと、藤吉郎は近衛前久の件か?と確認してきます。
公家衆の動向はだいたい掴んでいる。京を治めるためには、公家の機嫌を取らねばならないのだと。
こ、こいつ……怖い!
言ってる本人が、後に公家にとって垂涎の的である関白になる。
あんなふうに子どもを使い、工作をしていたのに。
光秀は、木下殿が京の奉行だと確認し、将軍家が信長を裏切らぬよう動向を探り、私のことまで調べているのかと確認します。
まさか!
そう藤吉郎は笑い飛ばすのですが、もう、こいつが心の底から嫌ですね。笑顔で嘘つくんじゃないよ!
光秀は尾行をされているのはいい気がしないと返します。それに対し佐々木蔵之介さんの目の底がギラリと光ると、頭を壁に打ちつけたくなる。おそろしいほどの不気味さが続きます。
藤吉郎は、明智様も信長の御意向で近々奉行になると聞いていると話し、そんなお方を畏れ多くて尾行しないと続けるわけですが。いやいや、尾行しそうじゃん。まるで気にしていないでしょ。
そして藤吉郎はこうも付け足す。
公家は寺とも繋がっている。油断すれば足を掬われる。それだけでも申し上げたかったと。
「ではこれにてっ!」
去ってゆく藤吉郎。
うーん、権力者が自分を神格化する心理がわかった気がする。
気持ち悪いナルシシズムの果てだと思っていたけれども、自分を権威化して、他の宗教勢力の上に置いたら、いろいろ便利で楽なのではないか? 秀吉の気持ちはわかりませんが、のちに彼自身が神社で祀られるようになるわけです。
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幕府の腐敗をただすのは信長の役目にあらず
信長は光秀の話を聞き、豪快に笑い飛ばします。
藤吉郎はそういう奴だと。光秀は尾行されてよい気がしないと戸惑っています。
信長の性格の危うさよ……まずそこは光秀に謝るとか、不安を和らげることはできるでしょうに。
それなのに、わしが調べろと命じたら、犬の尻の穴まで調べてくる、それゆえ信頼できると笑い飛ばすのです。
何かと使える男ゆえ、うまく使うて、幕府の役に立てていただきたいとも。
このセリフも怖い。
というのも秀吉の所業を知っているんですね。
ご存知の通り、秀吉は信長後継者であるとして天下を取る。その過程で茶々を己の側室にする。信長の姪をそうする。茶々がどれほど美人であったかとか、そういうことが問題ではない。
本気で信長を主君とみなしていたならば。主筋と尊敬していたのであれば。その姪を側室にするものかどうか。
秀吉の女好きはユーモラスな描かれ方もするけれど、性欲ではなく支配欲を感じて、ゾッとしてしまう。今年の三英傑、なんでこんなにいちいち怖いんだ……。
光秀はこう切り出します。
「その幕府ですが……」
「腐り果てておるのであろう」
そう明るくキッパリと断言する信長。カラッととしていて豪快ではあるものの、自分の目の前でずっと続けられると辛いかも。相手の言葉を遮るというか、先走って捉えることを繰り返させると、疲弊がたまります。
信長は続けます。
皆口を揃えて、幕府の非道を責め、わしになんとかしろと言うてくる。しかしわしは将軍ではない、幕府のやることにいちいち口出しはせぬ。
それに対し光秀は、口を出すべきだと言います。
城だけを作れば都が安泰というわけにはいかない。
4月に岐阜に帰ると聞きつけ、光秀は焦っていて、その前に幕府の方々を全て入れ替えたいと訴えるのです。
しかし信長の返答は、にべもないものでした。
将軍の側にいるそなたの役割だと放り投げたのです。
そのうえで越前のことを言い出す。
三好の一党が出入りし、留守中に美濃を攻めるつもりだと。美濃を失えば京都も危うい。帰って戦支度じゃと告げます。
それゆえ、光秀、権六(柴田勝家)、藤吉郎を奉行に据えたと言うのです。
信長が話を続けます。
昔、幼き頃、父・信秀に尋ねたことがある。
この世で一番偉いのは誰か?
答えはお日様であり、その次は都におわす天子様、帝。
その次は、帝をお守りする将軍様だと。
なんだ、将軍は帝をお守りする門番かと信長は思った。我々はその門番をお守りするため、城を作っているのだと。
「わしの父は不思議なお方でな。近頃の将軍様は帝をお守りすることを忘れていると申して、帝の御所の塀を直すために、4000貫贈った。都に来たがその塀を見たことがない。近頃その塀が気になっておる。奇妙じゃな」
そう面白そうに語る。
でも、父・信秀をここで“不思議なお方”という信長こそ不思議かもしれない。
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“立派なお方”、“たいしたお方”――というような言い方ではなく、“不思議”であると。信長は何かがおかしい。親への敬愛があるのか、ないのか。
ここで光秀は、伊呂波太夫の言葉がよぎります。
「御所をご覧になればよくわかります。帝がどれほどお困りか」
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