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【麒麟がくる第29回感想あらすじ】
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お好きな項目に飛べる目次
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摂津に仕掛けられた罠
数日後、本圀寺に細川藤孝がやってきて、慌てて光秀の部屋へきます。
「十兵衛殿、面倒なことに巻き込まれておりますぞ!」
そう言い切る藤孝。なんでも、東寺八幡宮領一部を横領したので返せと訴えられているとか。光秀は愕然とし、公方様がくだされたのでいただいたと返します。
それから苦しそうかつ、怒りを滲ませ、廊下をドスドスと歩いてどこかへ向かう。
そこにいたのは摂津晴門でした。
光秀は相手に書状をつきつけ、土地のことを迫ります。
公方様から京へ妻子を呼び寄せるために、領地を授けられた。まさか横領した土地とは思わなかった。公方様もご存知なかった! この手筈をつけたのは政所ではないか?
そう問い詰めると、「それで?」としらを切ろうとする摂津は、山城国は土地が広い、八幡宮はどこの誰が横領したか存じてないと答えるのです。
むろん光秀も引き下がりません。公方様のおそばに仕える者が訴えられているのに、政所はどう裁いているのか。
すると摂津は5年か10年掛けて吟味しているとのらりくらり。そもそも寺領を守るのは武士、御礼に預かるのは当然のことと開き直ります。
光秀はそうやって帝の丹波の御領地も味方に与えたのかと、怒りを見せます。誰が横領したのか処断するように迫る光秀をかわし続ける摂津は、詮議をするとは言いつつ「長々とした詮議になりましょうな」とトボけた口調です。
相手の根負け狙った卑劣な手口ですね。そのうえで光秀が去るとこう言い出す。
「困ったお方じゃ。世の仕組みを教えてさしあげたのじゃが!」
いやらしさの境地。いますよね、こうやってえらそうに世の習いだの、そんなことだと世間から相手にされないだの言ってくる相手が。
大抵が余計なお世話であり、卑劣なマウンティングです。
光秀は疲れ果てつつ、伊呂波太夫の元へ向かいます。
鼓打ちこと近衛前久はもういないと伊呂波太夫は返しますが、そんな彼女に光秀は御所への案内を頼むのでした。
温石と帝
二人は、塀すら壊れた御所へ向かいます。
これでもずいぶんあちこち直したと語る伊呂波太夫。それでもまだお公家衆が夜警備するしかない。こうも壊れていては、誰でも中に入れてしまう。子どもが入り込んで木を折ったり、石を投げてしまう。
中に入ってみますかと問いかけ、光秀は躊躇します。
「中に入るとまず小座所がございます」
伊呂波太夫が淡々と語ります。
捨て子だった彼女は、近衛家に拾われた。そのうえで尼寺に預けることを関白様が決めたのだと。
まだ幼い彼女は捨てられるのかと思い、ずっと泣いていた。冬の寒い日のこと。
それでここを歩いていたら、若いお公家様が蹴鞠の稽古をしていた。大層上手で見惚れていたら、彼女に気づいて声を掛けてきた。
そんなに悲しいことがあるのか。そういう顔をしている――。
そう近づいてきて、これをやるからもう泣くなと、懐から温石を取り出し手のひらに載せたのでした。
とてもあたたかい石。焚き火で温めた温石(おんじゃく)。
その石を、今でも大事に伊呂波太夫は持っているのだとか。
あとで、その方が方仁親王、今の帝だとわかったのだった。
あのとき、初めて人の顔を美しいと思った――そう振り返る伊呂波太夫。回想に出てくる彼は確かに美しく、幻のようです。
伊呂波太夫はそれで尼寺に行きたくなくなり、近衛家を飛び出したのでした。
そんな彼女は、この壊れた塀を見ると直さなくてはならない、ここだけも綺麗にしておかねば、そう思ってしまうのです。自分が泥まみれに生きているものだから。そう淡々と語ります。
おおっ、伊呂波太夫……なんという業に塗れた愛なのか!
天皇との恋が叶うなんてありえないのに、その思いに突き進んでしまう。
尼寺という道は、安定を考えれば最善と言えたはず。劇中でそこまではっきりとは描かれないものの、彼女は身を売るようなこともきっとあったとは思います。尼寺に行かないことで、そういうことも味わってしまう。
世間からすれば堕落した女、安い女になってしまう。それでも初恋を守るべく、彼女は突き進んでしまう。塀を作ることが愛のあかしだと思いこみ、危険なことまでして金を稼いでしまう。
駒が義昭に共鳴して、人助けという仁愛に生きるのであれば。伊呂波太夫は、生々しい愛欲に絡め取られて生きている。
聖と俗に振り切ったような、見事かつ対照的なヒロイン像です。その知力と行動力は、男ならばひとかどの武将になりそうだったと言いたくなるけど、それは封じねばならないのでしょう。
この時代を生きる女の像として、彼女たちはたくましく輝いています。
そんな妖艶である伊呂波太夫。圧倒的に見る側を引き摺り込むような彼女には、美しいというよりも“妖姫”という言葉がふさわしいと思ってしまう。
そんな彼女が愛を捧げる正親町天皇がいかに神々しく、天上人としての美を見せつけるか。
坂東玉三郎丈ですよ! もう、ほんとうに見たくてたまらなくなる、説得力のある姿なのです。
二条城の完成
信長は総力をあげて二条城を作り、約束に違わず二ヶ月あまりで完成させました。
各地の大名に、織田信長の底力を示す出来事でした。
義昭は完成した城に喜んでやってきます。
信長を前にして見事な城だ、大した出来栄えじゃと褒め称え、「かたじけない! かたじけない!」と喜ぶのでした。
「皆礼を申せ、信長殿こそ、この都を蘇らせた恩人じゃ、大恩人じゃ!」
そう浮かれる相手に、皆が力を合わせたことだと信長は返す。
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そして藤吉郎に案内をさせます。
「公方様、皆様方も、ずずっと中へ〜」
そう明るく陽気に案内をする藤吉郎。
中身まで明るく見えないと言いますか。ギラギラ明るいようで、中身の暗さを想像させるから、佐々木蔵之介さんはいちいち怖くてすごい……。
大河の秀吉像はたくさんあります。Amazonプライム『MAGI』は、その最高峰・緒形拳さんそっくりな秀吉を、緒方直人さんに演じさせている。
そういう像をどう乗り越えるか?
その一つの答えを佐々木さんが毎週見せてくる。
そのあと、信長は光秀と藤孝の両名に、苦労をかけたと声を掛けてきます。
そして浅井殿にこの二人を紹介するのです。
浅井殿――つまりは浅井長政は、近江より職人や大工を送り込んできたそうです。妹のお市を送り込んだ甲斐があったと信長は上機嫌。
長政は中を拝見すると藤孝と向かいます。
このドラマ、織田信長のおそろしさを再確認して突きつけてきますね。その妹を嫁がせた相手を、殺してしまうのが織田信長。改めてゾッとします。
歴史知識に血肉を与え、目の前で飛び散らせるドラマ。
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信長は、光秀に折り入って話があると言います。
二、三日でよいから、自分の後から美濃へ来て欲しいのだと、越前の朝倉義景について、そなたの話を聞いておきたい。そう言います。
あっ……また怖い。
光秀がこのあと、越前で見聞きしたこと、一乗谷は戦の支度もできていなくてぬるいと明け透けに語ったら。それはそれで、おぞましさを感じることでしょう。光秀の言葉は、かつて彼が暮らした土地の人を殺すのだから。
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かくして二条城を築き、信長は岐阜へ戻ります。次の戦が迫っているのです。
その一方で、光秀は御所の塀を見て何事かを思うのでした。
MVP:摂津晴門
悪とは何か?
そう問われたところで、人は、きっぱりハッキリ答えられるか。
摂津晴門周辺の濁りきった悪を、現代人が悪だと言い切れるか。ここは肝心ではありませんか。
◆SNSで揺らぐ平和意識 戦争容認、簡単に「いいね」:日本経済新聞(→link)
こういう記事がある。
若者だけの歴史認識が歪んでいるということよりも、じわじわと社会全体が【凡庸な悪】に絡め取られているのかもしれない。
第二次大戦中に起きたナチスによるユダヤ人迫害のような悪は、根源的・悪魔的なものではなく、思考や判断を停止し外的規範に盲従した人々によって行われた陳腐なものだが、表層的な悪であるからこそ、社会に蔓延し世界を荒廃させうる、という考え方。(コトバンク)
「でも、摂津さんも家族には優しいかもしれないし……」
「摂津さんのやり口を否定したら、困る人もいるだろうし」
「それで今までやってきたんでしょ」
「和を乱しちゃダメ」
「誰も殺しちゃいないよ」
「摂津さんはいい人。だって光秀が妻子を呼べるように土地くれたんでしょ。それを断る光秀が空気読めないよね」
たとえ上記のような考えがあったところで、別に驚きはしません。
むろん自分とは全く一致しないし、そういうことを言う人と一緒に楽しくご飯を食べる気にはなりませんが。
摂津晴門は、信長のように箱詰め生首を持ってくるわけじゃない。
サイコパス連呼される人間でもない。
だからこそ、私の周囲にも、あなたの周囲にもいるかもしれない。
まさしく【凡庸な悪】です。
彼は誰かを殺したわけではないけれども、そのせいで飢えて死ぬ人はいるかもしれないし、プライドを傷つけられる人、困る人はいます。それでも血飛沫を浴びるわけじゃないし、世の中そういうものだからいいでしょ。
そんな導き方をするとともに、激しい作り手の怒りも感じます。
こんなぬるい腐った空気が蔓延する世の中では、麒麟なんて来ない! そう苛立つ光秀には、リアリティを伴った怒りがありました。
本作は、概念を人のかたちにするのがうまい。絶品です。
陣内孝則さんの今井宗久が、武器商人、戦争を動かす経済ならば、摂津晴門は【凡庸な悪】の擬人化でした。
こういう難役を『軍師官兵衛』で不完全燃焼だったこの二人にやらせる本作は巧妙です。
あ、そうそう。あれは関係ないと思うんですよね。『半沢直樹』です。
あれのことを持ち出されるのも、どういうことか?
あのドラマの解説では「歌舞伎調」とよく言う。歌舞伎というか、昔の日本映画調、伝統手法ということでよいのではありませんか。
映画『柳生一族の陰謀』萬屋錦之介さんの「夢でござーーるーーー!」みたいなものでしょう。
あれは当時ですら古いと言われていたものです。そういう時代劇のお約束回帰で済むところに、いちいち半沢を持ってくる理由がちょっとわからない。ああ、今何かと話題だからですか。
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ともあれ、そんな伝統回帰の台本を渡され、演出され、どう体現するのか。
そう悩みつつも楽しむ片岡鶴太郎さんを想像するだけで頭痛も吹っ飛ぶ。
役者冥利とはこのこと、それを体現した彼はまさしくあっぱれ。役者として、今まさに、一段登った姿が神々しいほどゲスでした。
どういう思いで、役者としてまた高みに登ったのか。片岡鶴太郎さんの心境を、私は知りたくてたまりません。
こんな形で、実力なり今まで積み重ねてきたものを評価されるって、どんな気持ちでしょうね。すごいなあ、ほんとうに片岡さん、すごいですよ!
総評
毎回毎回、圧倒的で極上だと思える本作。
視聴率云々ではなく、伝統の継承だとは思います。ですので、こういう関係者証言が本物かどうかわからない記事はどうでもよいかと。
「麒麟がくる」放送再開も苦戦 関係者が明かす“3つの要因(→link)
そりゃ、越年してもフルでやりますって。
NHK大河「麒麟がくる」最終回は来年2・7 越年放送を正式発表!話数縮めず予定通り全44回(→link)
今週も悪酔いしそうではあった……この世界で一番おもしろくて、わけのわからんものは、人間だと示される。人間の心理がどう面白く複雑なのか、そこをぐっと近づいてみせるドラマです。
信長の屈折、藤吉郎の奥深さ。のみならず、駒の聖なる愛や、伊呂波太夫の悲しい愛も素晴らしいものがあった。
人間そのものがおもしろいと示す本作は、只者ではない。それに、こうでなくてはVOD時代に勝てない。
そうそう、本作とセットで見て楽しめるドラマをAmazonプライムで見つけました。
『三国志 Secret of Three Kingdoms』(→amazon)です。
猜疑心をギラギラさせる曹操周辺と、とある別勢力の攻防を描いています。
このドラマは、時系列的に【官渡の戦い】から始まるのに、戦場は会話のみででてきて、宮中での陰謀が進行します。
時代劇でも、ダイナミックな合戦より陰謀劇がメインとなること。
歴史書からこぼれ落ちてきた女性の語り手を増やすこと。
そういうトレンドがあるんですね。いつまでも『太平記』の話だけしていたら、それは池端さんに失礼ってものです。
『麒麟がくる』は、シャープで緻密な会話劇を主軸とした、世界のトレンドをふまえた作りです。
帰蝶様が出てこないのはなぜ?
あのタレントは結婚で出番が増えるの?
どうでしょう。
本作の作り手は、そういう芸能界の古臭いルールやニーズより、もっとはるか先を見据えていると感じています。
Yahoo!ニュースの本作関連記事に「駒や東庵など架空の人物はいらない」と書き込んでいては、見えなくなってしまうことも多々あるのではないでしょうか。
なお、NHKは何を血迷ったのか『コウラン伝』という最低クラスの中国時代劇を買い取り、編集吹き替えまでして放送しています。
が、あんなものより中国時代劇の平均レベルははるかに高いので、ご注意ください。
※関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
麒麟がくる/公式サイト