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「俺の手は冷たかろう……」の一言に滲み出る
一方で直虎は、時間稼ぎのために毒を飲みます。直虎は高熱を出していると直之が報告し、流行病ならば危ないからと政次が氏経にかわって確認をかって出ます。
寺までやって来た政次。直虎は直之に水を汲みに行かせると、二人きりになったところで本音を打ち明けます。
政次は毒を飲んだ直虎の容態を案じて、手を直虎の頰に当てます。
「俺の手は冷たかろう」
そう言う政次に、直虎は「昔から誰よりも冷たい」と返すわけですが、高熱でうなされている状況では「冷たい=快適」ですからね。
それにしても政次、これは乗っ取りを企む男の顔ではありませんな。つまり運命に流されると……。
海上では龍雲党と六左衛門、方久が成川屋の船乗っ取りを敢行します。
この船、これはもしや『平清盛』の宋船ではないか! まだ解体されてなかったんだ! ちょっとこれは感動の再会ですよ! こうして再利用されるのならば、作った甲斐があったというもの。
首尾良く船を乗っ取った龍雲党は、一路駿府を目指します。一味のマスコット的存在のゴクウが、航行祈願のために柱に縛り付けられています。
ゴクウの名前の由来は「人身御供」で、かつて船の航行安全祈願のために海に沈められ、助けられた過去があるとか。そういえばゴクウ役の前田航基さん、『平清盛』にも出ていましたっけ。これは清盛クラスタ歓喜の展開では。
二十年ぶりに氏真と対面「蹴鞠で決着はつかぬぞ」
毒による高熱も下がった直虎は駿府に参り、直之に対していつもの「館が焼け落ちるかもしれぬ」という強がりを見せています。
二十年ぶりに氏真と対面する直虎。氏真は「蹴鞠で決着はつかぬぞ」と釘を刺します。直虎は商人がどこに売るかまでは知らない、今川と井伊は縁談も成立したし、こんなに忠義を尽くしているのに何故、と泣き落としにかかります。氏真も「おなごいじめなど好かぬ」とちょっと軟化したようなことを言うのですが、そう甘くはありません。
「いち早く松平に通じようとした井伊。信じてやりたいところじゃがのう……」
政次がフォローしようとしたところ、直虎はうつむき言葉をしぼりだします。
「くやしゅうございます……家督を継いでからは、心を入れ替え尽くそうとしてきました! 謀叛を企てたことなどありません。民を潤すことは井伊を潤すこと、井伊を潤すことは今川を潤すこと……それなのに、このようなやり方は、今川は真に忠義の者を失うことにとお考えにはなりませぬか!」
氏真、ちょっと動揺しています。実は結構甘いんだよなあ。
直虎は寿桂尼との対面時(第15回)とは態度が違います。あのときは相手に自分の実力をアピールしていましたが、今回はどちらかというと情けに訴えた泣き落としです。女性であるということをうまく使ってもいます。相手の甘さ、弱点を見て態度を変えているわけで、なかなかしたたかです。
直虎がしおらしく健気にそう語ったタイミングで、材木が到着します。
氏真は唖然とします。直虎に材木を取り戻すよう命じたと告げられた氏真は、言葉を失うのでした。
ここでそれはそれ、これはこれで処断できないのが氏真なのです。
来週は15分遅れ、午後8:15からの放送となります。ご注意ください。
MVP:今川氏真
井伊を追い詰める立場なのに、どこか憎めない氏真です。
「桶狭間の戦い」(第9回)のあと、あっという間に滅びた印象のある大名としての今川家ですが、氏真と寿桂尼は粘っていました。
その悪戦苦闘を描いているのが今年です。今まではあまり目立たず、出番も少なかった氏真が今回は個性を見せました。
妻に父親に似ていると言われるとちょっと嬉しそうな氏真ですが、そもそも義元ならばこんなにもぺらぺらと話すわけがないんですね。政次にニヤニヤ笑いながら迫るところは不気味ですが、やはり軽い。
直虎との対峙も、女だからとちょっと甘く見ていたり、泣き落としには弱かったり、頑張っているけれども、どこか残念なのです。そして愛嬌があり、憎めない。
尾上松也さんの演技が光ります。どこか極端に振り切った人物よりも、このくらいのスケール感で、表情がころころ変わる人物の方が難しいかもしれません。品が良いのに何かが欠けていて、それでいて魅力もある氏真像として、うまくまとまっていると思います。
総評
先週までで姫としての部分を捨てた直虎。その学期修了試験といった試練でした。
試験の課題は「駿府での申し開き」。井伊直満と直親は落命し、前回の直虎は精一杯の奇策で切り抜けたのです。
それが今回はどこか余裕があり、何重にも策を考える余裕がありました。
その態度にはふてぶてしさすら見えます。
直虎の精神的成長が見えました。材木をあやしまずに大量売却したことは迂闊ではあるのですが、その失敗を補うことができました。直虎は順調。精神的成長を見せているのは虎松もそうで、一見明るい未来が待っているように思えます。
一方で、暗い影が差し込んだのが政次でした。
直虎との信頼関係は、いつか終わる儚いものだと彼自身悟ってはいたはずです。
それでもその日が一日でもあとになればと視聴者ともども願っていたことでしょう。
その期限がいよいよ切られました。もしかすると今回、高熱に苦しむ直虎の頰に手を当てたのが、政次にとって最後の幸福だったのでは、と思うとやりきれません。
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著:武者震之助
絵:霜月けい
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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)