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徳川に味方はするが戦には加担しない――そんな都合の良い話が?
別れの朝、しのは虎松に父の形見である笛を託します。
虎松は「ふーふー」と吹くのですが音がどうしても出せません。
直虎は松下常慶に対し、しのとの約束を果たすかのように強気に条件を掲げます。
徳川に味方し城を譲るが、戦には加担しない。領土拡大より民百姓を殺さぬこと、と直虎は理想を語るのです。
甘い言葉とも思われそうですが、今川との戦に駆り出されて井伊がどれだけ負担を強いられていたか考えてみると、なかなか納得はできます。
かくして井伊と三河、ついに同盟成立です。
ただしあくまで、水面下ではあります。
しのは松下家のある曳馬に向かいます。
その母の姿を見送り、虎松は一生懸命笛を吹くのでした。
母子涙の別れです。哀しいだけではない、希望のある別れでした。
朝比奈泰朝、キレて生首を投げつける!
その頃、駿府では大事件が起こります。
武田の家臣・山県昌景から「上杉と同盟しているそうですねえ。遠江を寄越さないと戦争仕掛けますよ?」と要求、もとい恫喝されます。
先に昌景が徳川に「遠江はおまえらにやるから今川滅ぼそうぜ!」提案していたことを考えると、極悪非道にもほどがあるでしょ!
要は、今川領は「駿河も遠江も全て武田がもらいます」ってことじゃないですか。
これに怒った今川家臣・朝比奈泰朝が、武田と内通した家臣を殺し、その首を投げ込む修羅場に。
ちなみに泰朝役のヨシダ朝さん、昨年は片倉景綱役でした。ずんだ餅から生首担当にチェンジ。
ニヤニヤしながら計算通りという顔で、首を抱えて立ち去る武田家臣一行。痛くも痒くもない、むしろこちらの好都合言わんばかりの態度に背筋に寒気が走ります。
武田め、このマッドマックス軍団め!
武田の憎たらしさがハンパじゃないが同時に楽しくなるドラマ
これにて両者、交渉は決裂となりました。まあ、交渉もあったもんじゃないのですが。
すべては信玄の策! 鮎をむしゃむしゃと食べながらドヤ顔で笑うのでした。
酷い、こんなことをする家はむごたらしく滅びて欲しい、と思う方もいるでしょう。
そして昨年の『真田丸』第一話になるわけですが。昨年、真田昌幸があまりに謀略を駆使するため「山梨・長野県民がずるいと思われないか心配で」という意見もチラホラとあったと言います。
心配すべきはむしろ今年かもしれません。
武田が憎くて頭が沸騰しそうですが、彼らが出てくるとドラマが一気に面白くなるのもまた、悔しいが事実!
「もはや戦しかない!」
上杉・北条と同盟しつつ戦うと決意する今川氏真。
さらに氏真は、寿桂尼が用意した計略を井伊に仕掛けることにします。恐ろしい罠の中身とは?
死せる寿桂尼は、井伊を滅ぼすことになるのでしょうか。
井伊谷に数奇な運命が迫ります。
MVP:しの
スポットライトが直虎ばかりに当たる中、母として、武家の奥方として成長していたしの。
その鮮やかな成長ぶりに目をみはりました。
生まれ育ち、亡夫との思い出もつまった場所を離れ、知る人がいないような土地、家に嫁ぐこと。誰よりも愛おしい我が子と別れること。言われなくとも辛いに決まっています。
それでもそのことで、亡き夫の遺志を叶える助けになる。我が子の将来をより確かなものにできる。決して苦労するだけではない、不幸になるだけではない、そんな覚悟です。
直虎、寿桂尼、佑椿尼、瀬名、氏真の妻・春、そしてしの。
辛いこともあり、厳しい時代を生きていて、自らを犠牲にすることもある。それでも不幸なだけではなく、自らの意志を貫いて生き抜く充実感もあるのだと、本作は示しています。
オープニングで伸びて咲く花のように、彼女らはたくましく生きている。
女性を主体とした大河の規範を示すような、力強い回でした。
総評
戦国女性の覚悟と武田の極悪非道さが際だった今回。戦国女性の生きる道は鮮やかですが、その輝きも、ドス黒い武田軍団の所業を前にして……非常に厳しい状況です。
しかし、考えてみれば現在BSプレミアムで再放送中の『風林火山』でも、主役の武田は割と酷いことをしています。
それでもなんとなく、残酷さ、腹黒さを感じないのは、「遠国を生き抜く為には苦悩しつつも手を汚す」そういう葛藤を演出しているからでしょう。
昨年の真田昌幸や今年の武田信玄のように、「ノリノリで謀略を楽しんでまーす! 三度の飯より策が好き!」と描くとねえ。
感傷の余地もないというかねえ、胸焼けしそうです。
それがいいとも言えますが。戦国だからこのくらい当然と言うことかも知れませんが、現代人からだけではなく、同時代人からも「武田信玄ってゲスの極み」と言われているので、そういうことなのでしょう。
得意げな顔をして何が「人は城、人は石垣、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」だ!
お前は武田が嫌いなのか、と思うかもしれませんが、むしろ私は好きです。大好きです。本作をぐっと面白くする、スパイスのような悪役です。
演出も好きです。昨年の真田昌幸は春日信達を謀略の道具にしたあと、ひとっ風呂浴びて上機嫌でした。
今年の武田信玄は今川に死刑宣告を突きつけた後、嬉しそうな顔で鮎にかぶりつきました。こういう、誰かを殺した後も俺の日常は続くという、ふてぶてしい演出が好きなのです。
人を卑劣な罠にかけて、そのせいで眠れなくなるような奴では悪役になれません。
そういう意味では、今川氏真は小さすぎる。小野政次は洟垂れ小僧だ。徳川家康だって少し足りない。
断末魔のおかげで今日もメシがうまい! そういう絶対悪が欲しかったのです。
松平健さんの武田信玄はまさにこれで、偽悪者らしい陰険さではなく、悪を悪とも思わないつややかな血色と、あふれんばかりの生命力を感じます。
自分が信じる正しい道に間違いはないと信じている、そういう嫌なキラキラ感が彼にはあります。
目の前にいたら絶対嫌なんだけれども、テレビ画面越しならば楽しい存在です。今回は首を持ってニヤニヤ笑う武田マッドマックス軍団を見て、思わずガッツポーズをしてしまいました。
信玄のあの目の輝きは、真田昌幸との連続性があります。
生き馬の目を抜く戦国時代でもトップクラスの悪党ぶりを、短い出番で体現した本作の底力を感じます。
二年連続、日曜夜八時に胃もたれしそうな悪党を見ることができて、私は幸せです。
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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)