こんばんは、武者震之助です。
悲しいかな、今週も厳しいレビューとなってしまいました。
本作をお好きなレビューをご覧になりたい方は他を当たってください。
※西郷どん・薩摩ことばが聞きづらい……という方は以下の記事をご参照ください
難解な薩摩ことばを理解するコツは? 西郷どん字幕ONで劇的に変わる!
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騒いで怒鳴る以外に手立ては講じない?
今週は、赤山靭負(沢村一樹さん)の切腹という、衝撃の展開です。
西郷は走って、郷中仲間と島津久光(青木崇高さん)の屋敷へと向かって直訴します。このドラマ、ダッシュして直訴が多いような気がするなぁ。
見ていてイマイチ入りきれないのは、藩主の息子のいる屋敷が結構簡単に強行突破できてしまう点です。セキュリティについて大丈夫なのか……と毎週、突っ込んでいる気がします……。
久光は口を半開きにしたり、いかにもアホ坊ちゃまっぽい感じでして。
「おいに何ができる?」
と、まるでヤル気なし。
まあ、そうでしょうね。
史実ではこの騒動のために勝手に担ぎ上げられて困っていたそうです。
それでも騒ぐ西郷。ともかく怒鳴る。何とかしろと言い出します。
なんなのでしょう。
あれだけ人数がいて、何か自分たちで策を講じようという方はいないのでしょうか。
2016年『真田丸』の真田一族が智謀70から80の世界、2017年『おんな城主 直虎』の井伊家が智謀40から60だとすると、本作の薩摩藩は智謀10くらいの世界……という気がしてなりません。
だって、毎度毎度、正面突破しかないんだもん。
西郷は熱いだけの男?
ならば大久保利通は?
策謀蠢く幕末での醍醐味、ゆくゆくは期待したいですが……。
騒動を描いた瓦版 江戸で出回る
久光は重度のマザコンでして。
由羅が「江戸では、私に関して根も葉もないことを書いた瓦版が出回っている」と嘆き出すと、怒り出します。
まぁ、実際、由羅は何もしていないんですよね。
この騒動、「お由羅騒動」という名前だけど、実はお由羅は関係ないやろ、でありましょう。結局のところ「江戸町人の娘風情が寵愛されやがって」という嫉妬ベースのネガキャンですね。
しかしあの瓦版、時代を考慮せず一枚の絵としてみれば面白いのですが、幕末当時の印刷物なのか?と考えるとなんだかおかしくて。
この辺の考証は問題ないんですかね。
中村半次郎がサツマイモを家に届に来ます。西郷が脱藩を止めてくれてありがたかったそうです。
そもそもが脱藩がカジュアルでは、というツッコミもあったそうですが。
◆『西郷どん』本来は重罪? カジュアルな脱藩に慣れすぎて戸惑う大河クラスタ(→link)
それと……子役の熱演が好評なのはわかります。半次郎(後の桐野利秋)の木刀殺陣シーンも面白かったですよね。
けど、「薩摩の元気な子供たち、それを助ける西郷どん」の構図がちょっと多すぎでは?
ここに、赤山靭負(沢村一樹さん)の弟・島津歳貞(のちの桂久武・井戸田潤さん)が、西郷の父・吉兵衛に赤山の介錯を頼みにやって来ます。
※赤山靭負・桂久武兄弟は、もともと日置島津家(島津四兄弟の島津歳久が家祖で薩摩藩内でも重要な一族)出身のエリート家系です。
薩摩の食糧事情 猪の肉はそもそも売れたのか?
赤山は、西郷と大久保ら郷中仲間を招き、最期の酒を酌み交わします。
岩山糸(黒木華さん)もしれっと参加しますが、本作での糸は郷中仲間設定(公式HP人物紹介より)ですので、仕方ないですね。
※史実の郷中教育は、女人禁制どころか女性と関わることすら禁止事項
ここでの話題は、食べ物のこと。
幼い頃からいつも腹を空かせていた、と言い出します。
言われてみれば磯御殿のお菓子を盗みに入ったり(第一話)、半次郎が芋を盗んだり(第三話)、食べ物がらみの話が多かったと思います。
「貧乏=腹を空かせている」ということなのでしょう。
しかし、ここでちょっと意地悪なツッコミをしてしまいます。
薩摩は全国で例外的に、古くから食肉文化が盛んで、栄養状態はむしろ良好。
西郷も大久保も中村も、当時の日本人としてはかなり大柄な170センチから180センチ台まで背が伸びているのです。
下級藩士でそんな体格(食糧事情)ですからね。確かに貧乏な藩でしたが、いつも腹を空かせていた、というわけではないのでは?
西郷が猪狩りをしている場面もありました(第三話)。これも今にして思えば不思議な場面でして。
薩摩は戦国時代から、
「豚は歩く野菜」
と言われているほどでした。
わざわざ猪を狩る必要性も、せっかく狩った猪の肉を誰かが買う可能性も、低かったのではないでしょうか。
だって豚肉は入手しやすいわけで。
屈強な藩士たちを作り上げた薩摩藩の食文化!唐芋・豚肉・焼酎など異国情緒な食卓
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そういえば、『おんな城主 直虎』でも、猪狩りの場面があったなあ、と。
第二回から「隠し田」、「猪狩り」、「逃散」と『直虎』と重なる展開が続いている気がしますが、偶然?ですよね……ハハッ。
※編集部注:林真理子氏の原作で数えたら豚肉に関する記述は6ヶ所ありました(簡単に入手できるという書き方ではありませんが参考までに)
赤山靭負が転勤する担任の先生みたいだ
さて、話を赤山邸での、最後の晩餐に戻しまして。
ここでも糸が半次郎の芋を持って登場。糸どんはおうちで家事を手伝わないのかな?というツッコミは野暮ですね。普段はやっているのでしょう。
西郷と大久保の妹も、せっせと働いていますしね。
ただ、ヒロインが食べ物の話をしている若者に食べ物を差し入れる幕末大河ドラマって……なんだか既視感が……。
ここで赤山は、「お前たちは芋だ、形は違うし考え方も違うけど、切磋琢磨して頑張れ」と励まします。
思わず頷いた方もおられるかもしれませんが、この喩えは微妙かもしれません。
たしかに薩摩藩士は「芋侍」と呼ばれてはいましたが、そもそもそれって蔑称なんですよね。
それだけ赤山と西郷たちが親しい間柄という狙いかな?
ただ、そうだとすれば全体的に緊張感がない。
わかります。赤山が、わざと明るい態度で気丈に振る舞う――それはわかります。
しかし、度が過ぎると、なんだか「転勤する担任の先生」みたいで……。
なぜ誰も処分に不服を言い出して激昂したりしないのかなぁ。
赤山が気丈に振る舞うからこそ、我慢していた感情が湧き上がって止まらない、それが自然な気がするんですよね。
だって、このままでは理不尽な流れで死んでしまうんですよ。
カメラワークや映像美にこだわり感じる血染めの肩衣
吉兵衛は、介錯に備えて刀を振っています。
そして、切腹へ――。
切腹後、映像がモノクロになり、血染めの肩衣がアップになってからカラーに戻るのはよい演出だと思います。
今年はカメラワークや映像美にこだわりを感じます。
そういう意味では世界観に入り込みやすい方も多いでしょう。
ただ、西郷激怒のセリフになんだか違和感が……。
「あん妾のために……あん妾、決して許さんぞ! 叩き斬ってくれる!」
斉彬派から見ればそりゃそうなんでしょうけど、両者の対応を知っている視聴者から見ますと「いや、先週ドヤ顔で密貿易の件をチクッた斉彬のせいなんですよね……」と突っ込んでしまうんだ。
史実の「お由羅騒動」でも斉彬派の暴走が強いのに、今回のドラマでも斉彬がやらかしたせいで、見ていて辛い、辛いのです。いったい何がしたいのでしょう。
島津斉興(鹿賀丈史さん)から見れば、途方もない財政赤字の薩摩を建て直した調所広郷が自害に追い込まれてるわけで。
にしても、です。
西郷を怒らせたり、怒鳴らせたりして、赤山の切腹が理不尽だということを強調していますが……。
そこに至るまでの過程も、理由も、背景も、よくわからなくて。
「赤山よくわからないまま突然死!」になっていませんか。
脚本の中園さんは、こう語っております。
◆【西郷どん】脚本・中園ミホ氏の裏テーマ「逆境が、人を強くする」(→link)
私自身、大河ドラマは初めてですし、歴史ものに強いわけではありませんが、監修をしてくださっている先生方の協力のもとで作っていますので、歴史ファン、大河ドラマファンの方にも存分に楽しんでいただける作品になっていると思います。
さらに、歴史に詳しくない人、いままであまり興味が持てなかった人にも、ぜひ観ていただきたいな、と思っています。なぜなら、歴史に疎かった私でも、この時代に興味津々になり書いているからです。(ORICON NEWSより引用)
いや、これ……歴史好きなら「どうしてこうなった」と天を仰ぎ、歴史に疎い人も「何が起こっているの?」となる最悪のパターンでは?
ある程度予習しないと疎い方はキツイぞ、これは!
相撲とか取ってないで背景を描いて欲しい
江戸の斉彬も、側近の山田為久から赤山の死を伝えられて、悼みます。
ケン・ワタナベだから、なんだかカッコイイけど、大体お前のせいだぞ?
大久保家にも処分は及び、父・次右衛門は喜界島へ流罪、正助は謹慎処分となります。
ここで流罪になる前にと、吉兵衛と次右衛門は相撲を取ります。
そういうホームドラマいいから。歴史背景やってくださいよ。
まさか、西南戦争の最中でまで、犬にボール投げて遊んだりしませんよね?
なんだかよくわかりませんが、関係者はさらに続々と処分を受けました。
薩摩の歴史の中では「宝暦治水事件」と並ぶ大惨事なのですが、よくわからないまま「お由羅騒動」が流れてゆくよ~。
※宝暦治水事件とは、幕府から治水工事を負わされた薩摩藩の悲劇で、このときはもう一人の靭負こと平田靱負が切腹させられております・詳細は以下の記事へ
木曽三川の悲劇・宝暦治水事件~そして薩摩義士と家老の平田靱負は腹を切った
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