これは本当に喜ばしいことだと思います。
それというのも江は2011年に大河で主役だったにも関わらず、とんでもない脚本のおかげであまりよろしくないイメージがついてしまったからなんですね(主演女優のせいではありません)。
同様の人物である直江兼続もやっと今年、珍妙なイメージが払拭されました。
江もそうあることを願うばかりです。
◆「真田丸」後半戦突入 長丁場乗り切る秘訣 1年間ゆえの盛り上がり(→link)
さて、季節はいよいよ夏から秋です。
この時期は視聴率が落ち込み、ニュースの話題にものぼらなくなります。
中盤に重要なイベントがあり、それが合戦や政変であったりすると、今までおなじみであったレギュラーメンバーがごっそり抜けるからなんですね。
本作の場合、石田三成、大谷吉継らが退場する来月の関ヶ原がそのイベントにあたるでしょう。
また、この季節になると、世代交代により主人公より年下の世代が新レギュラーとして登場することになります。
そうなると新キャストが主演の役者より年下であることが多いわけです。
三十前の主演を起用した場合、必然的に二十代までの若手役者が追加。
フレッシュな若返りとも言えますが、味のあるベテランが減ることにもつながるわけで、この切り替えがなかなか難しいわけです。
その点、今年は後半戦に有利な材料が揃っています。
1. 主演の年齢が比較的高い
2. 中盤まで退場する人物がさほど多いわけではない(昌幸、信幸、家康、茶々らが残留)
3. 大坂の陣があるため、追加キャストが若手だけにならない
4. 最終盤に最大のイベント「大坂の陣」が控える
本作はどちらかといえば、前半戦が厳しいドラマでした。
主人公の前半生に関する史料が乏しい、どうしても主演が若作りに見えてしまう、マイナー国衆の小競り合いでどれだけ視聴者を惹きつけられるか未知数……。
困難山積みの前半をうまく処理し、関ヶ原へ向かっていると言えるのではないでしょうか。
秀吉の死まで若干もたついた印象はありますが、今週から関ヶ原、そして大坂の陣まではフルスロットルで進行するようです。
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板部岡江雪斎とバッタリ! 襲撃計画は漏れていた
それでは今週本編です。
弁舌と正攻法では老衆・徳川家康を排除できないと悟った奉行・石田三成。
彼は腹心の真田信繁、島左近、さらには信頼できる小早川秀秋、宇喜多秀家と謀議を重ね、襲撃準備と整えます。
信繁はそのとき、意外な人物を見かけます。
北条滅亡後(第24回)、小早川秀秋に仕えているという、板部岡江雪斎です。
彼ほどの才知の持ち主は、やはり第二の道があったようです。視聴者にとっても懐かしい人物でしょう。
信繁は腹心である矢沢三十郎に、今回の襲撃は正しいことかどうかわからない、と苦しい胸の内を明かします。
真田のことだけを考えていた時代よりも、もっと混迷を極めた中に彼はいます。
ところがこの襲撃計画は、江雪斎経由で徳川家の本多正信に筒抜けでした。
江雪斎が北条時代にもこんなことをしたとはちょっと思えないんですよね。
長年仕えた主家の滅亡は、彼を変えてしまったのでしょうか。江雪斎が再会した信繁と正信は、第22回で顔をあわせた相手でした。
あれから時は流れ、状況はすっかり変わりました。
家康は暗殺をおそれて江戸へ逃亡しようとしますが、これに待ったをかけたのが正信。
この計画を大ごとに吹聴し、伏見に集う諸大名に声を掛けてみてはどうか、彼らが徳川になびくかどうか、その心がけを試したらいかがか、と提案するわけです。
家康は急に強気になり、乗り気になります。
それにしてもこの正信の、窮地をも喰らい有利に持っていく鮮やかさの見事なこと。三成に足りないものを、彼は持っています。
毛利も上杉も三成の味方にはならず?
徳川屋敷では、本多忠勝はじめ武装した将兵たちが防備を固めることに。
ドラマ開始十分になるかならぬかのうちに、三成の計画は大失敗に終わるであろうことがはっきりとわかります。
これはもはや計画中止しかないと、信繁は三成に訴えます。
しかし三成はあきらめません。
秀秋に毛利家、信繁に上杉家の説得を依頼し、自らは秀頼の許可を得るため大坂に向かいます。
秀秋は「毛利様を説き伏せるなんてちょっと無理……」と弱気です。
江雪斎のリークといい、計画に加えてプラスどころかむしろマイナスでしかない秀秋でした。
信繁も景勝に面会はできず、直江兼続に止められてしまいます。
「これ以上ごたごたに巻き込むな、守れぬ約束をして苦しむ殿を見たくない、時間の無駄だから帰れ」
きっぱり断られてしまう信繁。
このやりとりを外で聞いていた景勝は「すまぬ」とつぶやくしかできません。
盟友三成の暴走に、病床の大谷吉継は心を痛めています。
味方が揃わなかった時、三成はどう出るのか。吉継の不安はつのるばかりです。
徳川からの書状は、真田屋敷にも届きました。
昌幸は「俺、この間、家康殺す気で刺客放ったじゃん(第31回)。どのツラ下げて暗殺中止すんの?」と開き直ります。
しかし信幸は舅が徳川家随一の猛将・本多忠勝です。つきあわないわけにはいきません。
「おまえはどうするのだ? 敵味方に分かれて戦うのだけは勘弁してくれ」
弟に苦しい胸の内を打ち明ける信幸。
ここで信繁は、きり経由で寧に呼び出されます。
いくさのない世の中を作ったのは秀吉だがね
寧は夫の死を発表してから一月も経ていないにも関わらず、家康暗殺騒動が起こっていることに随分と怒っております。
どちらに味方すべきか迷う二人に、寧は「いくさのない世を作ったのは秀吉。その命令に逆らう三成に加勢してはならぬ」と告げました。さらには秀秋を騒ぎに巻き込むなとも釘を刺します。
寧には、三成の暴走する正義が理解できないのです。
哀しいことではありますが、無理もないことでしょう。
秀吉は家康も含めた老衆を秀頼の後見人に指名していました。
寧は茶々への嫉妬だとか、フィクションでありがちなネガティブな感情ではなく、むしろ優しく愛情にあふれた立場から、結果的に徳川に味方してしまうわけです。
誰もが皆、明るい未来を目指しているのに、考えがすれ違いズレていきます。
信繁は寧の元を去ると、きりに「お前って突拍子もないけどぶっちゃけた本音が結構鋭い。今回のことどう思う?」と聞いてみます。
きりはどういう意味かとちょっとふくれつつも、彼女なりの意見を言います。
「三成は、プライドが邪魔して今さら折れられないんでしょ。男の人ってそうよね」
きりのこの意見は、ただのおしゃべりのようで実は本質を突いていることが、このあと明らかになります。
よっぽどむかついていたんだな! ストレス解消に腕相撲しよう!
徳川屋敷を訪れた信幸は、大名たちが大勢集まっている様子に驚きます。
中でも目立っているのが、お祭り系大名・伊達政宗。
こっそりとなるべく目立たないようにしようとする信幸ですが、早速舅の忠勝に見つかり「これでもう怖いものなしじゃあ!」と紹介されてしまうのでした。
三成は秀頼に会うため大坂へ。
しかし幼い本人はおろか、その母である茶々に面会することもできず、前田利家に「秀吉の馬印を借り、義を示したい」と頼みこみます。
しかし利家も、大蔵卿局も、三成の言うことに耳を貸そうとはしません。
豊臣の馬印はこのずっとあと、やっと出馬することでしょう。その時にはもう金の瓢箪は威光を失っているのです。
夜は更けていきます。
大名たちは続々と徳川屋敷の集まり、酒を飲んでは盛り上がっています。
伊達政宗は「内府自ら武装なんかしなくてもいいですよ! 俺がぶっとばします!」と張り切ります。
本多正信は居並ぶ大名に、三成が忍(実は真田家の出浦昌相)を放って家康暗殺を計画した、と漏らします。
この話をじっと聞いていた加藤清正は酒器を握りつぶし、石田屋敷へと向かいます。
もの凄い血相で石田屋敷に押しかけた清正。
しかし、彼は三成に対して怒っていただけではありません。
清正は「力づくで相手を倒そうなんてお前のタイプじゃないぜ。よっぽどむかついていたんだな、ならストレス解消に腕相撲しよう」と言い出します……が、こういうスポ根熱血体育会系のノリは三成に通用しません。
清正は助け船を出しているとも言えるんですけどねえ。
もしも三成がもっと器用ならば、内心は馬鹿にしてしらけながらも、腕相撲をとったと思います。
それから目を潤ませて清正に、「実は秀吉から死の間際に家康を殺せと言われた(第31回)」と告げたらば、状況は違ってきたでしょう。
清正は三成に反発するも、心底嫌っているわけではありません。
兄弟のようなもので、反発しても結局離れられないと思っているのではないか。そう感じさせるフシがあります。
ところが三成はそんな相手の気持ちをくみとろうとすらしないんですね。
プライドを折れないわけです。
干し柿で釣ろうとして、忠興、冷たい目つきでガンギレ
さらに三成は、信繁らから上杉・毛利失敗の知らせを受けます。
苛立ちマックス! となった三成は、ストレス性腹痛をこらえつつ、細川忠興の説得へ。
細川屋敷に向かった三成は、何故か干し柿を持参……なんでこんな大事な頼みに、よりによって干し柿……スイーツで問題が解決する大河は去年で終わったというのに。
三成が今回の件で加勢をして欲しいと切りだすと、忠興はこう言います。
「俺は加藤清正とか福島正則とか大嫌い。でもそれ以上にてめえ見ていると怒りが爆発するわ。こんなもんで俺の心がつれると思ってんの?」
キレて干し柿を握りつぶし、三成に投げ飛ばす忠興。
激怒した忠興は、徳川屋敷に向かう、お前は帰れと三成を追い払います。
すっかり涙目の三成が何とも切ないです。忠興も蛇のような冷たい目つきで、いい味出していますなぁ。
空が白み始めて来ました。
信繁は真田屋敷に向かい、昌幸も徳川屋敷に向かうよう策を提案します。
三成心の師匠である昌幸までも徳川についたら、三成も折れてあきらめるだろう、ということです。
その作戦は三成の精神もバキバキにヘシ折ると思うんですが。
コイツだけは絶対に裏切らない! ハズの吉継まで……
三成は彼だけは絶対に裏切らないと信じてきた、大谷吉継の元へと向かいます。
折しも吉継は、病身を鞭打って甲冑を身につけていました。
吉継が味方に付くと顔を輝かせる三成に、吉継は残酷な事実をつきつけます。
自分はこれから、徳川屋敷に向かうのだ、お前は間違っている、家康に秀頼を守らせる以外に道はない、と。
三成は死の間際であった秀吉が家康を殺せと告げたと言います。
しかし吉継は、死を目の前にした老人の世迷い言に惑わされるな!と言います。
激昂する三成に、吉継や三成には人望がない、到底人の上には立てないと、さらに残酷な真実を突きつけます。
「今ならまだ間に合う。今、兵を引けば、咎められることはない」
親身になって語りかける吉継。
見えぬ目でも、三成が泣いていることはわかる吉継。
そんな彼の言葉ですら、三成の心を変えることはできません。
視力が低下した吉継は、杖を突き、体を支えられながら、やっと徳川屋敷に到着します。
喜んだ家康と正信は、吉継を大歓迎するのでした。
すると吉継は、毅然とこう言います。
「誤解のないよう申し上げる。某、内府のために参ったわけではござらぬ。大谷刑部は、秀頼公の家臣でござる」
正信が苦々しげに言葉を選ぶように釘を刺しますが、家康は吉継の忠義を賞賛します。
燦然と輝く吉継の忠義は、損得勘定で動く大名たちの中で際立っています。
お調子者っぷりがお見事な伊達政宗さん
そこへ昌幸も、しれっとした顔で家康の前に到着。
家康は喜色を満面に浮かべ、これではもう三成の勝ち目はないと言い切ります。
昌幸は図面を持参し、防衛計画軍議を提案。
この場面で昌幸が「発言者は名乗ってください」と言ったのは、目の見えない吉継への思いやりでしょうか。
目立とうとする昌幸に清正は不満げですが、ウェイウェイ系大名の伊達政宗、さらに細川忠興はノリノリで昌幸の提案に賛成します。
政宗の出番はあまり多くはありませんが、やけに目立っていてお調子者っぷりが伝わってくるのは、本当に美味しいと思います。これぞ政宗。
そんな政宗がこう言い出します。
「三成、内府を殺そうとして刺客放ったってよ」
すると昌幸はこう返します。
「マジかよ、それは絶対許せないな」
出浦昌相を放っておいて、しれっとこういうことを言うから、ゲス系親父は今日も平常運転です。横の信幸も淡々と父の芝居につきあいます。
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それでも諦めない三成の前に現れたのは「義」の漢たちだった
絶対に成功しない襲撃計画であるにも関わらず、三成は譲ろうとはしません。
出陣の支度を命じられ信繁は動揺します。
そのころ、上杉屋敷では景勝と兼続がこう語り合っていました。
「義のためなら命を捨てるか」
「それができる男です」
「では……わしはどんな男じゃ?」
ここで兼続の答えは映りません。一体何と言ったのでしょうか。
三成がついに出陣しようとしたそのとき、矢沢三十郎が大谷吉継と真田昌幸が徳川に味方したと告げます。
どういうことなのか?と尋ねる三成に、信繁は今ならまだ間に合うと止めようとします。
しかし、ここまで騒ぎを大きくし、大名同士の争いを禁じた惣無事令に違反したのだから、もう切腹しかない、そうなるくらいなら討ち死にすると三成は決意を固める。
三成は宇喜多秀家を巻き込まぬよう、帰って家康の暴走を止めて欲しいと言います(秀秋はスルー)。
信繁は、三成の前にたちふさがり、これからも三成は生きねばならないと叫びます。
天下万民のため、命を賭けて尽くしてきた、あなたにしかなしえないことがある、己の欲で動く家康には思いも付かぬことができる。
死んではならない。そう真摯に語りかけます。
そこへ、上杉景勝と直江兼続主従がやって来ます。
景勝は、ここはもうあきらめろと説得します。反論しようとする三成に、景勝はこう決意を語ります。
「徳川内府は、わしが倒す」
この言葉に兼続はしらけた顔になるのかと思っていたら、彼はこう言います。
「御屋方様は本気になられた」
今までずっと思うようにならなかったこの二人は、この重大な決意をむしろすっきりとした顔で語るのでした。
寡黙な景勝は、ここぞとばかりに饒舌になります。
「太閤殿下の前で、皆は義を誓った。それを破り、義をないがしろにするものを、わしは断じて許すわけにはいかん。我等で徳川に大いくさを仕掛けるのだ。今は命をつなぎ、時を待つのだ」
そう言うと、景勝は三成を抱き寄せます。
こうして彼らは、大きな悪を倒すべく大いくさに挑もうと、義によって繋がるのでした。
一方の徳川屋敷。
三成の武装解除を知った家康は「たいしたことがなかったなあ」と笑います。家康は、目をきらきらと輝かせて満足げな様子。
「わしは決めたぞ。わしの一声で豊臣恩顧の大名がこれだけ集まった。これはいけるかもしれんなあ」
正信の狙いはまさにそこでした。
不気味なまでに目をらんらんと輝かせた家康は、ついに天下を取るべく決意を固めます。
「生き延びられたら十分じゃ」と語っていた男(第2回)が、ついに天下にふさわしい存在へと変貌を遂げたのです。
義を守るため戦を起こすと誓う三成たち。
天下を取ると決めた家康。
天下分け目の大いくさが、迫っています。
MVP:大谷吉継と石田三成
本作を視聴していてよかったなとしみじみ思えることが数回に一度ありますが、今週のこの二人の場面もそうでした。
本作における吉継は、存在感こそあったものの途中で病にかかるという事情もあってか、今まで出番が多かったとは言えません。
ハマリ役で素晴らしい役であるのも関わらず、そこまで目立てない……このうえなく美味であるのに、箱の中にはほんの数粒しかない、高級チョコレートを思い出します。
もっと食べたい、鼻血が出て気持ち悪くなるまで食べ尽くしたいと思うのに、もう箱は空っぽなんです!
その不満を補ってなお余りあるのが今週の熱演です。
病に苦しみ、友の暴走にも苦しむ吉継。
三成を誰よりも理解しているからこそ、突き放さねばならぬ、そんな苦悩を演じきっておりました。
徳川屋敷でもこれみよがしに手を握って親しげにしてきた家康を突き放し、自分はあくまで秀頼の忠臣だと言い切ったあの見事さ。まさに忠臣の鑑そのものです。
演じる片岡愛之助さんの台詞回しは上は病で苦しんでいる演技であるにも関わらず、聞き取りにくさがありません。
さらに本業である歌舞伎の口上をも思わせる格調高さもにじみ出ていて、まさに片岡吉継の演技はここで頂点に達したと言えるでしょう。
堂々たる忠臣・大谷刑部吉継。お見事です。
そして平静を装いつつ、空回りして追い詰められていく三成。
細川屋敷での渋柿を断られたあと、何が悪いのかわからないのか、あるいは自分の愚かさに気づいたのか。
目を見開き潤ませたあの姿は、まさしく絶望そのものです。道ばたで震える仔猫のように哀れで、そりゃ信繁も放っておけないなあ、としみじみ感じさせました。
感情を抑えているにも関わらず動揺がにじみ出る、山本耕史さんの演技は本当に見事だと思います。
三成は視聴者にとっては嫌いになれない好意的に描かれている部分も多い人物ですが、これでは絶対に勝てないとも同時に思わせます。
理想的な石田三成像です。
2010年代以降の石田三成は、今年を越えられるかどうかで判断されることになるでしょう。それほど素晴らしい出来です。
そして次点は本多正信です。
壊れやすく薄いガラスのような三成と比べると、水のように柔軟に動き回り、絶対に勝てる気がしないこの男の智謀。
主君を本気にさせた、煮ても焼いても食えないこの「キングメーカー」こそ、作中最強の謀将であることは間違いないでしょう。
この男を演じる近藤正臣さんの演技は邪悪で、吸い込まれそうで、円熟の技巧に気がつけばすっかり酔わされてしまいます。
総評
文字通りずっと三成が涙目の週です。
そして相変わらず信繁はあまり役に立っていません。
追い詰められる辛い展開とはいえ、秀吉晩年の展開よりはるかに面白くなっています。
停滞期を抜け、信繁青春編のテンポのよさに、大坂編から登場したキャラが立った人物像がからみあうという、かなり理想的な出来ではないでしょうか。
それにしても今回が驚異的なのは、作中の時系列では一日しか経過していないところです。
それなのに、三成の問題点、それぞれの人物の立ち位置、対立構造、意識の醸成、そういった流れがみっちりと詰まっているせいで、関ヶ原前夜へ向かう流れがきっちりと描けています。
しかも登場人物一人一人の魅力が際立っています。豪華な松花堂弁当のような味わいです。
今回一番目立っていたのは石田三成ですが、その他の人物も俺はここにいるんだぞ、と自己主張しています。
伊達政宗や細川忠興の出番は多くはありません。
それでも印象的で、この人物らしさがあふれているとわくわくしてきます。
今週の出来に文句はありません。人物の個性をうまく際立たせる例として、脚本家志願者の教科書に載せてもよいほどだと思います。
そしてもうひとつ見事なのは、先週から募っていた閉塞感をラストの数分で吹き飛ばしたことです。
追い詰められる三成、役に立たない信繁、怯えるばかりの景勝。
こうした視聴者の眉間に皺を寄せさせてきた人物が最後に義のもとに誓い合ったことで、雲がすっと晴れるような気持ちになりました。
あまりに青臭く、陳腐にすら見えかねない場面です。しかも、結果を考えれば彼らは負けます。
だがそれがいい……いや、それがいいんじゃないですか!
家康に比べれば脇が甘くて、失敗することはわかっています。
でも、ハッピーエンドではないからと、劉備・関羽・張飛の「桃園の誓い」は無意味であるとか。
あるいは『三銃士』でダルタニャンと三銃士がレイピアを掲げて「一人は皆の為に、皆は一人の為に」と誓うのはばかばかしいとか、そんなことを言ったら哀しいですよ。
損得勘定だけではない美しさや生きる意義というものが、きっとどこかにあると思いたい。
敗れて無念の死を迎えるとしても、あの瞬間を思い出して自分は間違っていなかった、そう思える義がどこかにある。そういうロマンを追い求めるからこそ、私たちは歴史作品を愛好するんではないでしょうか。
真田信繁や石田三成を好きになる理由とは、まさしくそこにあると思うわけです。
「負ける側の話なんて不景気だから見たくない」という人にこそ、今週を突きつけたいんですよ。
石田三成は負けます。
真田信繁は負けます。
でもそれが何でしょうか。
彼らの人生には、信念のためにこんなにも輝いた、濃密な瞬間があったんです。
それこそ劇中の信繁が言うような私欲だけに生きる人間には味わえない瞬間です。
彼らは敗者かもしれませんが、この上なく美しい敗者です。それを知らしめる本作は、やはり愛があり、信念があります。
意地が悪くひねくれた部分もある作品ですが、根底にはあたたかみがあるのです。
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著:武者震之助
絵:霜月けい
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【参考】
真田丸感想