こんばんは。前回は久々に視聴率18パーセントをキープし、とりあえず一安心でしょう。
しかしそんな中、こんな事件がありました。本作にも影響がありました。
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信繁の妻も思い込みがキツい!
さて、本編です。
徳川家康襲撃を企画するも、かえって家康を天下人として覚醒させてしまった石田三成。
しかも謹慎処分となってしまい、踏んだり蹴ったりです。
真田信繁は、それでも自宅で黙々と書類仕事に励む三成の元を訪れ激励します。
三成の妻・うたは、夫と屋敷で過ごせることが嬉しそうな様子です。この人も出番は少ないものの、その少ない出番で夫婦の情愛をしっとりと表現しています。
そこで信繁は、心の隅に引っかかっていたあることを聞き出しました。
信繁の妻である春(大谷吉継の娘)には苦労するぞ、と三成が評しましたが、あれはどういうことですか、と。この会話を聞いて、うたは席をはずします。
昔、三成は大谷屋敷を訪れた折、軽い気持ちで筆を春に贈りました。すると春は三成が自分を好きなのだと勘違いして、惚れてしまいます。
暴走し、うたに離縁まで迫る春。三成は、それは思い違いだと春の思いを拒否したのです。
「いやあああああああああッ!!」
大河ヒロインらしからぬ絶叫を見せる春……いいぞ、これを待っていた!
これぞ松岡茉優さんです。可愛いだけでは物足りなかった!
それにしても本作の主要女性キャラには見事なまでにまともな性格がいないという。まさに個性の殴り合い状態のヒロインですが、私としては好きです。
一昨年かなり愚痴った記憶があるのですが、良妻賢母キラキラヒロインだけだとつまらないんですよね。
欲を言えば、ヒロインのお召し物をもうちょっと増やして欲しいな、と。
薫は流石に衣装持ちですが、春や稲あたりは未婚時代から結婚後まで、同じ明るい色の着た切り雀状態なので、ここは改善して欲しいところです。
そんな春の秘密を知ってしまった信繁は、顔がかすかにひきつります。信繁はそういう思い込みの激しいタイプをよく知っています。
そう、元祖暴走ヒロイン「きり」です。
櫛をあげてしまったばっかりに、しかもその櫛は安物で梅にあげたものよりはるかにランクが下だったにも関わらず、暴走してついてくるあの「きり」ですよ。
「きり」を避けてきたのに、気がつけば同じタイプが妻になっていたのですから、これはもう驚愕です。
蟄居後はどうなることやら。
豊臣恩顧の武将に睨まれ四面楚歌の三成
慶長四年二月二十九日、前田利家は徳川家康に三成の謹慎解除を依頼します(ちなみにこの蟄居措置はドラマ上の創作だそうです)。
これを受け、三成は晴れて政務に復帰。
しかし三成は四面楚歌状態です。
ついに反三成派の急先鋒である七将(加藤清正、福島正則、細川忠興、浅野幸長、黒田長政、蜂須賀家政、藤堂高虎)が、三成を征伐しようとします。
利家のとりなしでいったんは収まった彼らですが、まさしく一触即発の状態に……。
三成は寧に政務復帰の挨拶をします。
寧は我が子のように可愛がってきた秀吉子飼いの将たちが対立する状況に心を痛めています。
彼女はフィクションにおいてかなり解釈が変わってくる人物で、作品によっては茶々憎しのあまり反三成に暗躍する動きを見せることもあります。
本作の場合、茶々とは対立しておらず、子飼いの将が対立することそのものを嫌っています。
心情としては理解できるのですが、どうにもその行動はマイナスに働いてしまうようです。三成もたまには寧に甘える可愛げがあればよいのですが、彼にはそれができません。
また寧は、三成が死の床にある秀吉に無理矢理遺言状を書かせた場面を見たことにより(第三十一回)、三成への不信感が芽生えているようです。
うまくそれを隠している寧ではありますが、三成への不信が行動や判断を鈍らせています。
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寧は秀頼の結婚後に出家する決意を固め、身辺整理を進めます。
その一環で、寧の侍女であったきりもリストラ対象になったのでした。
きりの役目は「死者を見送る生者」なのか
そのきりは、なんと今後は細川屋敷に勤めることに。
細川家といえば、奥方の玉(ガラシャ)は熱心な切支丹です。
お前も切支丹になるつもりかと信繁は不安になってきりに尋ねますが、きり本人は能天気です。信繁はきりを心配し、これから不穏な事態が起こりかねないから上田に戻れと言うのですが。
「不穏だ~い好き! また一緒に乗り越えましょ!」
と、一向に気にしないきりでした。
吊り橋効果狙いかもしれませんが、彼女は彼女なりに信繁の役に立ちたいのでしょう。鬱陶しい性格ながら、可愛げはあるんですよね。
それにしてもきりはナゼ、切支丹に傾倒しているのか――物語上の装置としての彼女を考えると、意図がわかる気がします。
きりはフランシスコ吉蔵が殉教へと突き進む姿を止めようとしたが、できませんでした(第三十回)。
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そして彼女はその後も、信念のために命を捨てる人を見送ることになります。
きりは自らの危機は回避しますが、命を賭けて信念を貫こうとする者を止めることとなると、まったくの無力なのです。
梅を送り出した上田時代(第十三回)、秀次に気に入られた豊臣時代、そしてこれから彼女が歩むであろう人生を考慮すると、彼女に割り振られた役目は「死者を見送る生者」ではないかと思えるのです。
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前田利家が死ぬとついに反三成派は立ち上がる
三成は政務復帰報告と同時に、縁起物である桃の木を秀頼に進呈します。
茶々に接触する機会を逃すまいと、三成は茶々に家康を警戒せよと直訴します。
大蔵卿局はむっとして、三成を制します。
大蔵卿局は数奇な人生を送ってきた茶々を、なるべく厄介ごとに近づけたくないようです。
しかし茶々を政局から遠ざけるこのアプローチは、果たして正しいのでしょうか。
危難や情勢から遠ざけられることで、茶々は鈍感になってゆきます。生来愚かなわけではありません。周囲のあやまった気遣いが彼女の判断力を奪います。
そんな彼女が秀頼の養育においても影響を持つのですから、これは深刻な事態です。
なまじ悪意ではなく善意由来の気遣いだけに厄介です。
そして閏三月三日、前田利家が死去しました。
利家の出番もまたほんの少しではありますが、重鎮という雰囲気があったと思います。
かくして歯止めの利かなくなった反三成派の武将たちが結集し、三成襲撃を実行に移すことに。
このうち実行犯の一人である細川忠興は、その妻である玉に計画を漏らします。
忠興は他の武将の前では食えない仏頂面ですが、妻に対してはちょっと甘い顔を見せるのがよい味を出しています。き
りの思い人が石田屋敷にいると知っている玉は、早速きりに伝えます。
きりから計画を聞いた信繁は、石田屋敷へ急行。
このとききりはいじらしくも「私って役に立ってる?」と信繁に聞くわけです。
信繁は「たまに!」とぞんざいに返します。いやいや、きりは役立っているじゃないかと擁護したくなります。
襲撃を受けたら、石田屋敷が火事になることも考えられます。
信繁は三成の書類を守るため、信幸に応援を要請します。兄弟が三成の書類を片付けていると、武装した七将が屋敷に突入して来てしまいます。
兄弟は強硬に迫る者たちを前に、涼しい顔で崩し将棋をしています。この兄弟の崩し将棋の場面は、第一回の再現のようです。
信幸は「石田三成との争いは身内のもめ事ですむが、真田と争うならばもはや国と国の合戦ですぞ。覚悟があるなら受けますが」と相手に啖呵を切ります。
信幸もなかなか風格が出てきました。
いきり立つ襲撃側が立ち去ったあとで、一人の男が将棋の駒の山を崩します。
黒田家臣であり、のちに大坂の陣で活躍する後藤基次又兵衛の顔見せです。
それにしても実はこの襲撃側の思いが一つではないようです。
オラオラ系チンピラと化した福島正則とちがって、加藤清正は表情が冴えず、迷いがあります。
この二人はペアで描かれることが多いのですが、本作は性格の違いがわかります。
加藤清正に漂う微かな迷い 調停役は家康に
このころ、宇喜多秀家の屋敷に潜伏した三成は、伏見城の治部少輔丸に移動します。
三成の送迎役として、宇喜多家臣の明石全登もまた顔見せ登場です。
このときの三成は、長いこと徳川家康のもとへと逃げ込んだことになっていました。今度公開される映画『関ヶ原』でも、原作を再現するならばその設定になると思います。
しかし、2000年頃から徳川家康のもとではなく、伏見城内の治部少輔丸に逃げたのだという説が有力となり、本作はそれを反映しています。
信繁は「三成を出せ」といきりたつ七将と対峙することに。福島正則は激昂していますが、やはり加藤清正にはどこか迷いがあるようです。
寧の力添えを乞う信繁は侍女のわくさに断られ、茶々にお願いしていた三成についても同様に大蔵卿局が断ろうとします。
が、コチラでは茶々本人がハッキリと「秀頼のためになりますか? そうでないならお帰り下さい」と反応が異なります。
八方塞りの三成&信繁に対し、両者と関係の深い大谷吉継は、病に苦しみながらも解決策を提案します。
吉継の策とは、家康に調停を依頼することでした。
屋敷で家康に対面した信繁でしたがのらりくらりと交わされ、家康は正信といったん相談。
「ことを起こした七将ごと始末してしまえばよい」と正信は提案しますが、家康は「清正や正則はまだ使い道がある」とほくそ笑みます。もはや完璧な悪役と化しました。最高です。
ついでに本多正信について言いますと、この一見好々爺的な佇まいが絶妙です。
視聴者は彼の謀略の数々を知っていますから油断がならないと思うわけですが、そうした一面を知らなければ彼は上品で穏やかな、好感が持てる人物です。
例えばあの正信とマンションのゴミ捨て場で顔を合わせる程度の仲であれば、好印象を受けるか、あるいはまったく印象に残らないかでしょう。
これこそが本物の「軍師」の風貌だと思います。
一昨年の『軍師官兵衛』終盤の岡田准一さんの腹黒い演技は評判がよかったのですが、あれは彼自身の責任というより脚本と演出のせいで、実に陳腐になっていたと個人的には思います。
あの官兵衛とマンションのゴミ置き場で出くわしたら、警戒するし印象にも残ると思います。
そういう見るからに腹黒い人が策をめぐらせたら、相手は警戒するんです。
わかりやすい軍師は、リアリティに欠けていると私は思うわけです。まあ大河はあくまでドラマですから、そういうわかりやすさも必要ではあると思いますが。
佐和山蟄居処分で政治生命を絶たれ……
話を戻します。
七将は徳川屋敷でも三成を倒してやると意気軒昂ですが、本多忠勝がそこへ入ってくるとしんと静まります。
なんという猛将の説得力。そこへ家康が登場し、いかにも大人(たいじん)の悠揚とした風格で、三成への処分を語り出します。
三成の声は、高めのトーンで、一気にまくしたてるようにやや早口です。
特に緊張し感情が高まると、その特徴がより一層強くなります。
それに対して、家康はその逆です。低めのトーン、ゆっくりと話します。
さらに家康は、この場面のように大名や武将相手となると、この特徴が強くなります。
これだけでもう、勝敗がある程度わかると思います。家康は豊臣にとって信頼できない性格ですが、仕草はいかにも信頼できそうなのです。そして三成はその真逆です。
三成は彼の領地である佐和山での蟄居処分となりました。
政治生命は絶たれたも同然。
知らせを正信から聞いた信繁は、苦しみながら三成に伝えます。
三成は秀吉に全てを捧げ、その亡き後は豊臣家のため全てをなげうってきたのに、なぜ伏見を追われるのか、と無念の涙を見せます。
信繁は「太閤殿下は三成様の献身をわかっています、見ておられます」と励ましますが、もう何もかもが虚しい言葉なのです。
冷静に考えれば、そんなスピリチュアルな慰めなんか何の意味もないんです。気休めです。
ただしこれを太閤=視聴者・後世の人間と考えるとなかなか感動的です。
作品を通して、三成の汚名はそそがれています。
このとき三成は、最後に「虎之助」に会いたいと信繁に伝えます。ずっと官職名で呼んできた三成が幼い頃の名を使ったのです。
長束正家から蟄居処分を正式に受け取る三成。
正家は三成に同情的です。
三成は清正を「虎之助」と呼び、耳元で何かをささやきます。このささやきは、視聴者にはわかりません。
三成は「今生の別れだ」と信繁に残すと、伏見を出立するのでした。
家康をキッパリ断る、痛快なれど破滅の道
その三日後、家康は伏見城に入ります。
ドヤ顔で高笑いし、勝利宣言。視聴者だけに見える家康真の姿は、ふてぶてしく完成された悪役です。
ただし、この姿はドラマ内で動いている人々にはわかりません。
わかっているのは、三成や信繁といったごく一部の彼の敵か、あるいは腹心の本多正信くらいです。
だからこそ皆、家康の仮の姿に騙されるのです。
得意の絶頂となった家康。
信繁の実力を認めたのか、あるいは三成と志を同じくする信繁を得ることで、さらなる勝利の実感を得たいのか。
直々に彼をスカウトします。
しかし信繁は「三成と違って豊臣を裏切る者に仕えるわけにはいきません」ときっぱり断ります。
痛快です。まさにこれぞ、快男児です。
しかし、このとき信繁は破滅の道をまたも選びました。何度も彼には正解ルートが示されますが、ことごとく彼はその道を選ばないのです。
そう考えると、信繁の啖呵もまた苦いものに見えてくるのです。
もっとも家康にも、ムリにでも信繁を配下に加えなかったことを後悔する日が来るわけですが。
信繁はお役御免、これからは真田のために兄とともに生きるのだと語ります。
しかし運命は既に信繁をのみ込んでいます。
信繁は片桐且元と茶々に呼ばれ、三成が秀頼に贈った桃の木の世話を頼まれます。
「桃は水が多すぎると根が腐る」と信繁は植え替えを提案。
この会話、ただの桃の木の話とは、思えないんですよね。桃の木を贈られた秀頼も、水はけの悪い土地に飢えられ、根が腐るのではないか、と。
この煽り、この直江状、絶品なり
一年後、慶長五年(1600年)五月。
家康は大坂城に入り、ついに天下に王手をかけたかに見えます。
そんな家康に対して、待ったを掛ける声ははるか北から聞こえて来ました。会津の上杉景勝が上洛命令を再三無視し、さらに歴史を変える煽り文書「直江状」を届けてきます。
家康は長い長い「直江状」を破り捨て激怒。上杉討伐が決まります。
それにしてもこの「直江状」の場面が絶品なのです。
ドヤ顔で書をしたため、いきいきとした美声で読み上げる直江兼続。
「直江状」の痛快さに思わず破顔する景勝。
この場面には多くの視聴者が大興奮です。
その反応を見ていると、何故上杉主従をメインとした2009年の大河ドラマ『天地人』が評価的に大失敗とみなされるかわかる気がします。
直江主従のファンは、見た目が綺麗だけの義や愛ではなく、こういう煽りが見たかったんですよ。
さてこの「直江状」ですが、偽作説もあります。
しかし近年の研究では、江戸時代に写しを作成する際に様々な文言が追加されてしまったものの、そのものはあったという説が有力となっているようです。
信玄の背中を追い求め続ける純粋な昌幸
上杉討伐の前、真田昌幸のもとにも密書が届きました。
家康を迎え撃つため、協力して欲しいという内容です。昌幸はそれに乗ることにしました。
父の決意を聞く二人の息子の顔は、複雑な表情を帯びています。
昌幸は乱世に飢えています。乱れた世で、旧武田領奪回を目指しているのです。
この昌幸の思考については、草刈正雄さんのインタビューが参考になります。
◆草刈正雄が語る『真田丸』と俳優人生「三谷さんに出会って変わった」(→link)
あっちこっちチョロチョロして義がないと言われていますが、昌幸は素直なんですよ。結局、一番義があるのは昌幸だと思っています。彼はずっと御屋形様(武田信玄公)への義を貫いているんですよ
三成然り、死者の思いに振り回されるあまり損な役回りを引き受ける人が本作には存在します。
真田昌幸こそ、その一人でありました。
「表裏比興」と言われながら、昌幸が追い続けたのは武田信玄の背中だったわけです。なんとも哀しいではありませんか。
協力して欲しいと頭を下げる父に、信繁は父に従うと返します。
信幸もまた迷いつつも、真田家の嫡男として父に従うと返す。昌幸は感激し、「よい息子を持った!」と息子たちの手を取ります。
別れの時が迫っているせいか、将棋崩しに続いて序盤の繰り返しとなる演出があります。昌幸が「よき息子だ」を連呼するのは、第六回でもあった場面です。
息子を前にして父が決断を問うというのは、やはり第二回を思い出します。
しかし、あの時とはまるで違うのです。
状況ではなく、息子たちが違うのです。
この場面の昌幸は小さく見えます。序盤ではあれほど大きく見えた背中の小ささにハッとします。
実のところ昌幸はさほど変わっていない。むしろ変わらなすぎて時代の流れについて行けないのです。
一方で息子たちは、父とは別の己が進む道を見いだしているのです。
主人公の才知は色褪せ兄には以前のような嫉妬はなく
兄弟は二人きりになると、信幸は「やはり父上は戦がなければ生きていけないのだな」と漏らします。
兄弟は他の大名たちとしのぎを削っていた頃を思い出します。
信幸は、舅である本多忠勝と対立すること、そして妻の稲を思いやりつつも、仕方ないのだと自らに言い聞かせます。
打倒家康後の天下情勢はどうなるか、と信繁に問います。
実のところ、信繁は昌幸のように乱世に戻そうという気はありません。
乱世を作るためではなく、ただ豊臣の敵である家康を倒すため、父の野心に乗っかると決めているのです。
そう語る信繁に、信幸は豊臣政権の展望をさらに尋ねます。
「宇喜多殿はまだ若いが立派な大名になります。大谷吉継殿もいます。秀頼様は幼いながらも聡明です。成人したら、父を上回る立派な天下人になるでしょう」
そう語る信繁。
信幸は一見弟の言葉を感心したようで、口では弟を褒めていますが、どこか冷たく突き放した目です。
理由は何故かわかります。
信繁の見通しはあまりに楽観的で、見通しというよりはただの願望です。
宇喜多秀家が頼りなく、成長性もあまりないことはドラマ内で証明済みですし、大谷吉継は回復の見込みのない病に罹り、半引退状態です。
そして秀頼が大人になるまで先はまだまだ長い。信繁の言う根拠なんて何の意味もありません。
信繁は豊臣に入れ込むあまり、客観性を失いました。
真田のために動くという原則も通じなくなりました。
そして大局を見る目や先見性は、最初から信幸の方が上でした。
少年時代は弟のあふれる才知に対して感心しつつも、嫉妬していた信幸ですが、もうその必要がなくなったと理解したのでしょう。
「ふたりでひとつ」とことあるごとに言われていたこの兄弟ですが、もうその必要はなくなったのです。
兄弟ではあっても、互いを補う存在ではなくなってしまったのです。
主人公の才知が色褪せ、兄弟の絆がほころびる瞬間をこうも残酷に描くとは、本当に本作は意地が悪いと思います。
真田信幸" width="370" height="320" />
家康は、徳川vs上杉ではなく、豊臣VS上杉という名分にしようと策をめぐらします。
ところが、いつもは頼りない片桐且元が粘り、断固としていったんはこの策を断ります。
家康は、次の手を打ち茶々に交渉します。
茶々を籠絡する上で厄介なのは大蔵卿局。家康は厄介なこの婦人を首尾良く追い払うと、茶々本人から豊臣の旗と幟の使用許可を得ます。最善ではありませんが、ほぼそれに近い次善の結果を得たわけです。
家康の意図を見抜けない茶々は浅はかで愚かに見えますが、彼女の才知を潰したのは周囲のあやまった気遣いなのです。
豊臣の幟を掲げた徳川家康の軍勢は、コーエーCGマップ上を北へと向かってゆきます。
家康の軍勢が全て出立したあと、大坂では宇喜多秀家、小早川秀秋、片桐且元らがある決意を固めました。
家康の横暴を止めるべく、彼らは決起したのです。
そして彼らの背後にいたのは、佐和山から戻った石田三成でした。
天下分け目の戦が、いよいよ始まります。
MVP:直江兼続
家康と正信はセットでもはや殿堂入り、三成もほぼその域に入る主役ぶり。
加藤清正もよい味を出していますが、後半の「直江状」ですべてこの人が持っていきました。
公式サイトで彼の顔写真を見たときから、この顔で「直江状」を読むなんて最高だなと思っていましたが、もう実際に見たら最高オブ最高といいますか。
理想通りの場面で感動のあまり笑いながら涙すらにじんできました。想像以上でした。
顔も素晴らしいのですが、声がね、もう、最高。
イラっと煽るように軽くため息をつくようだったり、声音に侮蔑をこめていたり、煽り方が絶品でした。
公式サイトで音声ファイルを配布して欲しいほどです。
総評
秀頼は、石田三成の贈り物である桃の木を植えました。
三成が残した木は、きっとこれだけではありません。
清正、寧、茶々……。彼の思いや警告を受け止められなかった者たちは、今後、三成こそが正しかったと信じ、苦悩することでしょう。
四百年の時を経て、三成が己の汚名をそそいでいるような、そんな思いを感じる回でした。
本作のユニークな点はいくつもあります。
主人公がどんどんスポイルされて、若い頃持っていた宝石のようにきらめく才知を失ってゆく点もそうだと思います。
豊臣家への楽観的過ぎる見通しは、本作序盤の信繁ならば言わなかったと思うんですよ。
これは信繁一人に限ったことではなく、茶々もそうです。
茶々もまた、鋭敏な感性を失ってゆきます。今、聡明さを見せている秀頼も、そうなるかもしれません。
人の根を腐らせる水のようなものが、豊臣家周辺には流れているように思えます。
これもまた、秀次の鬱や秀吉の老衰同様、残酷なリアリズムではないでしょうか。
十代のころ、輝くような才能と可能性にあふれていた人物が、歳をとるに従って世間の風にくたびれて摩耗してしまうなんて、よくある話です。
最終回に近づけば近づくほど、主人公が出世して老成してゆく――そんな話のほうがむしろ夢物語なんですよと、つらい現実を突きつけて来ます。
しかも、本作では信繁の才能はどんどん摩耗していくのに対して、敵である家康と兄である信幸はその逆なんですね。
信繁が主役なのに、その兄やその敵の方が実は優れていると描くのだから、本作はとことんひねくれています。
このひりつくような痛みと苦さが、本作を忘れられないドラマにするのだと思います。
と、ここまでしんみりと書いて来て何ですが、今週は様々な伏線を吹っ飛ばしてあまりある「直江状」がともかく素晴らしくて、今週はそれに尽きると思うわけですよ。
45分延々と「直江状」でもよかったくらいです。
村上新悟さんが直江兼続を演じる、それを見る幸せというものが、2016年の今確かに存在します。
もう感謝しかありません。ありがとう、最高の「直江状」を、ありがとう。
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著:武者震之助
絵:霜月けい
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