『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』/amazonより引用

真田丸感想あらすじ

『真田丸』感想レビュー第23回「攻略」 堅城とプライドにすがり、落つる哀れはブーメラン

こんばんは。本作の勢いが止まりません。

◆これは家康もプンスカしそう!「真田丸」直江役・村上新悟の直江状朗読動画が公開(→link

◆県内「真田丸」効果は200億円 日銀松本支店が試算(→link

こうなると「うちも大河招致しよう!」と思う自治体も多いとは思いますが……昨年のことを考えますとリスクがないわけではありません。当然ながら捕らぬ狸の皮算用になる年もあるわけで。

「大河を誘致しよう!」ではなく「大河を誘致しよう。そして主役にしても無理のない人物で、歴史考証にも協力して、変な大河にならないようにしよう!」くらいの意気込みをもって誘致するのでなければ危険ということですね。

もっともその要望や熱意をNHKがくみ取るとは限りませんけれども。

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『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』(→amazon

 


小田原攻めの総大将は家康ではなく豊臣秀次に

さて今週。いよいよ北条攻めが始まります。

その前に陣立てが発表されます。名目上の総大将は豊臣秀次

真田昌幸ですが、徳川の与力大名でありながら変則的に上杉・前田家の別道東山道組に配置されます。

家康は苦い顔ですが、昌幸は露骨なまでに大喜びします。

ニヤニヤと笑いながら「いやあ残念でござったなあ〜、徳川殿の元で戦いたかったんですけどねえ〜」と家康本人を煽る昌幸。

本当にこの人は大人げないな。こんなに根性悪い主人公父って、今更ながらZA・N・SHI・N・・・斬新!

一方、信繁を伴い大坂に来ておきながら、無断帰国した上杉景勝(第十六回)はばつが悪いのでしょう。信繁を避けるようにそそくさと立ち去ろうとします。

そこで信繁が彼を呼び止め「ぼくはそれでも御館様が好きです!(意訳)」と言うと、景勝の顔に灯がともるように明るくなります。

久々に登場した景勝はやはり癒やし要員になりそうです。

昌幸にダマされるのか?

昌幸にダマされるのか?

信繁は石田三成に、昌幸を徳川配下に入れなかった真意を聞きます。

三成は、徳川をまだ信じきれないとのこと。この家康への不信感がのちの伏線になるのでしょうか。徳川が離反したとして、真田まで連れて行かれたら困るからゆえの措置だそうです。

そしてまだ、三成はこの戦をすることに賛成ではない、とのこと。それでも与えられた仕事はこなすのが三成です。

 


黄母衣着用で陣内を駆けずり回る

小田原城の包囲は、コーエーグラフィックであっという間に説明されます。

本当にこのマップは便利なので、もういっそ毎年採用して欲しいくらいです。

今週の見所は、北条攻めという大きな戦でありながら、省エネ、もとい予算をうまく節約。

コーエーマップ、グリーンバックのスタジオ撮影にVFXで小田原の遠景を合成し、奥行きを出しています。

スタジオ撮影部分の照明や小道具がちょっと貧弱な見た目になりがちですが、VFX合成でかなり奥行きが出ています。

さて、小田原での信繁の役目は、本来の馬廻りらしく黄母衣を背負い、戦場を往来し伝言を様々な相手に伝えること。

怠惰な上司である平野長泰は、ここぞとばかりに膝が痛いと言い、役目を避けるのでした。

この役目の振り方は巧妙です。

馬廻りなら戦場を往来しても不自然ではなく、主人公を追えば各人の動向を追うことができるのです。

霜月けい真田丸<a href=真田信繁" width="370" height="320" />

秀次は景色を眺めながら、もう一ヶ月早ければ桜が満開で綺麗だったろうに、と風流なことを言います。

彼は北条攻めでは戦果をあげているのですが、今回クローズアップされるのは「うまくいったところ」ではなく「うまくいかないところ」なので、残念ながらそこは描かれません。

それにしても秀次は、台詞をひとつ言うごとに憎めない愛嬌、そしてそんな好青年に待ち受ける運命への痛ましい気持ちが増してゆきます。

家康は信繁を「連れション」に誘います。

小用を足しながら、家康は信繁に本音を語りだします。

北条氏直に娘を嫁がせているから信頼されないのだろうか、でも離縁させるのだから心配無用と伝えてくれ、と信繁に言います。

 


連れションの合間に「徳川は江戸にお引越しね」

秀吉は諸将を集め、今回の戦の意図を語ります。

圧倒的な軍勢で北条を攻め、その威容を見せ付けることで、まだ従っていない陸奥・出羽の大名の臣従を促すということ。

そのためには敢えて長期戦にするわけです。

秀吉は家康を「関東の連れ小便」に誘います。

僅か十分の間に二度の連れション!

そして羽がついているようなファンタジックな秀吉の陣羽織の異様さ!(衣装担当がふざけているわけではなく史実準拠です。公式サイトに解説あり)。

真田丸<a href=豊臣秀吉" width="370" height="320" />

この小用を足しながらの会話で、秀吉は北条領関八州を家康に与え、駿河・三河を召し上げると通告。

短く一方的な会話で、日本の歴史と運命も変わります。

江戸を本拠とした家康が天下を統一し幕府を開いたからこそ、現在日本の首都はかつての江戸、今の東京であるわけです。

この場面は大河ではよく取り上げられますが、今回はこの前に家康が既に用を足していたこと、そのせいもあってかおどおどとしていることが特徴的だと思います。

本作の家康はまだ成長途上で、秀吉と比べるとどこか小物臭いのです。

この男がどこまで大きくなり、壁としてたちふさがるか。それも本作の見所です。

 

伊達政宗の援軍にすがるだけしか道はナシ

圧倒的大軍に包囲された北条氏政は、打って出るという息子・氏直の策を却下し、籠城戦を選びます。

まだまだ皆が秀吉に服従していないのだから、伊達政宗の援軍を頼りにし、その時点で打って出ると指示を出す氏政。

しかし、氏直も江板部岡江雪斎も納得しません。

秀吉は、長期戦にそなえて茶々を呼び出します。

留守を守ることとなった北政所は、秀長ら周囲の心配をよそにどこかさっぱりした顔をしています。

以前描かれた彼女の本心を考慮しますと、あの恐ろしい夫の横で戦を見守らなくて済むことが嬉しくてもおかしくないと思います。

このさっぱりとした北政所の表情と、あとで出てくる茶々のそれとの比較はなかなか興味深いものがあります。

東山道組は忍城攻略へと向かって進軍。

どうにも昌幸は、秀吉のために戦うことがひっかかっており(そのためこの場では呼び捨て!)、景勝は大義がない戦だと苦い顔をしております。

景勝は内心、義のために戦い滅びる氏政に同情を感じているようにも思えます。

昌幸は上杉主従に向かって、忍城は小さいから自分に任せて欲しいと提案し、さらにその指揮権を信幸にゆだねるのでした。

このとき、廊下で出浦昌相と佐助が信幸を呼び止め、秘策を持ちかけます。

北条と手を結べば、秀吉を倒せると提案する昌相。

何を考えているのだ?とあきれる信幸は、昌相の策を一蹴。佐助は信繁の元へと派遣することとし、昌相から引き離します。

それにしても、「乱世でしか生きられぬ男もいる」とつぶやく昌相の痛々しさ。

あのクールで格好よい昌相が、空気と時代の変化を読めないただの暴力装置のようになってしまうとは。

彼は何も変わっていません。ゲームのルールが、変わってしまったのです。

真田丸出浦昌相霜月けい

 


風呂にも入れないほど秀吉に怯える、悲惨な北条家TOP

北条方は、実りのない軍備を繰り返しています。

そんな中、氏政は蹴鞠を楽しみ、薄化粧すらしています。

その父の行動が、氏直には奇行にしか映りません。しかし江雪斎は主君の胸の内を知っていました。

蹴鞠に興じるのは、家臣に動揺していないふりをするため。

薄化粧は顔色の悪さを隠すため。部屋に焚かれた香は体臭をごまかすため。

氏政は入浴中に敵が襲ってくることを恐れ、風呂にすら入れないという悲惨な状態なのでした。

負けを先延ばしにできても、勝つことはできないと説く江雪斎に、氏政は「伊達さえ来てくれれば……」と漏らします。

「クックック」と不敵な笑みが特徴的だった高嶋政伸さんの氏政/イラスト霜月けい

秀吉は茶々を傍らに呼び寄せ、出雲の阿国の舞を見て大喜び。

茶々はどこか寂しいような、疲れているような、複雑な表情をしています。

秀吉が阿国らと踊っている間に、そっと場を抜け出す茶々。

彼女は険しい顔で城を眺め、ほっとため息をつきます。その様子を見かけた信繁に、茶々は退屈しているから千利休の元へ案内して欲しいとねだります。

利休はこんな時も、最新ファッションアイテムを取りそろえ、茶々に見せます。

今作の利休は黒いだけではなく、俗っぽく胡散臭く、どこかミーハーな商人という顔があります。

まさか小田原で品物を売るために、戦を焚きつけたわけじゃあないですよね?

後世の人間は聖人のように思ってしまう利休ですが、当時の人から見たらこのくらい胡散臭かったのかもしれません。

扇を手にして喜ぶ茶々を、信繁はそろそろ戻るべきだとたしなめます。

茶々は、ここまで来たからには城の焼け落ちる様も見たいのに、と言います。

悪女そのもののような台詞ですが、本心からそう言っているとは思えないのが、本作の茶々です。

 

政宗が白装束で小田原へ 氏政、最後の希望は見事に打ち砕かれ……

そうこうしているうちに1590年も六月に入りました。

信幸は忍城を攻めるのですが、この「のぼうの城」は守りが堅く、なかなか落ちません。

三成は、忍城がなかなか落ちないことと、伊達政宗の遅刻に苛立っています。

親友である吉継は三成をちょっとからかいながら、なだめようとします。

三成はストレスで胃腸がやられたようで厠へと向かいます。三成の子孫の方は、いざという時に腹具合が悪くなることを「三成腹」と呼んでいるそうで、この体質は子孫に遺伝してしまったのだとか。

真田丸石田三成

六月九日、白装束の伊達政宗が参陣。

政宗の台詞はなく、出番もごく短いものです。

彼の本格的な出番は来週からのようです。政宗の参陣は、氏政最後の希望を打ち砕きました。

追い詰められた氏政は、鏡を見ながらおしろいをやつれた頰にはたきつけます。

茶々は暗い目をして、滅びを待つ小田原城を見つめています。

城が焼け落ちる様が見たいと口走った彼女の過去のことを考えると、この陣中に彼女を伴うということは極めて残酷に思えてきます。

立場が逆転したからこそ、平気というものでもないでしょう。

秀吉は茶々を口説き落とす際に二度と血なまぐさいものは見せないと誓っておりました(第十九回の感想はコチラ)。

ところが彼はそう言いながら、戦陣に茶々を呼び寄せるわけです。

すっかり忘れたのか、わざとなのか。どのみち、最愛のものでもこんな扱いをする秀吉は、どこか異常なところがあると思えてきます。

伊達政宗が従った以上、もはやこれ以上北条を攻める理由もなくなりました。

一気に攻めようとする秀吉に、吉継と家康は支城を落とすことで降伏を促す策を提案。

さらに吉継は計画練り直しに汗を流し、ストレスをため込んでいる三成に、忍城攻めを任せたらどうかとも提案します。

これが採用され、三成が忍城へ向かうことに。吉継は純粋に親友のためを思ってそうしたのでしょうが、これが三成をさらなるストレスへと追い込みます。

 


北条早雲公以来の家を滅ぼすつもりか!

氏政は降伏するくらいならば、城に火を放ち、腹を切ると言います。

江雪斎は何とか降伏の交渉をしようとするのですが、氏政はどうせ処刑され梟首になるだけだと言い張り、降伏を頑として拒みます。

江雪斎は北条早雲公以来の家を滅ぼすつもりか!と強く詰め寄ります。

氏政はようやく降伏条件を出すのですが、その中身が「本領安堵」「上杉と同等の扱い」という、かなり条件のゆるいものです。

もはや氏政は常識的な判断力すら喪ってしまったのでしょう。

真田丸板部岡江雪斎霜月けい

江雪斎は、当主である氏直の説得を試みます。

しかし彼は父に逆らえない、父の降伏条件を秀吉側に伝えろと言うのみ。

案の定、この条件を聞いた秀吉は「アホぬかせ!」と却下、小田原城へ攻め込むと言います。

吉継と家康は、氏政を死なせるには惜しいと助命嘆願。

おもしろいことに、この時点での三成親友である吉継と、のちに三成と対立する家康は意見が一致しているのですね。

本作が興味深いのは、関ヶ原で激突する家康と三成が、性格的立場的にはあわないものの、戦略面での思考においては一致したところを見せているところだと思います。

両者とも近世的なセンスをにおわせてもいます。

秀吉は、家康と三成に「北条贔屓なのか」と悪態をつき、戻るまでに片を付けておけと言い残し、茶々と箱根の温泉に向かってしまいます。

秀吉の陣中に側室を呼び寄せる、芸人と踊る、温泉に行ってしまうという行動は、彼の突拍子もなく型破りな魅力とすら描かれかねないものです。

しかし本作を見ていると、どうにも無神経でいやなものに思えてきます。

 

「陥落宣言」三成 オレより先に、落としちゃいけない

かくして三成はいそいそと忍城に向かい、真田昌幸・信幸父子、上杉景勝・直江兼続主従にお説教タイム。

「いつまで長引かせるつもりだ! おまえらがこうしている間、どれだけ兵粮が無駄になるかわかっているのか!」

と怒鳴る三成。馬鹿じゃないのと言いたげな昌幸。これはないわと目で語る信幸。これはもう駄目なんじゃないのかと表情で雄弁にあらわす兼続。そして「いい加減にしろ!」と言い返す景勝。

ああ〜、職場でも時々、こんなギスギスした空気の会議ってありますよね。

上司が失敗確実にする計画を出してきた会議って、こうなりますよね。

真田丸直江兼続霜月けい

彼らを別の城に向かわせ、三成は水攻めを用いて短期間で城を落とす宣言。

堤を作るのは楽ではないと昌幸は嫌味ったらしく言うのですが、三成は聞く耳を持ちません。

信幸、景勝、兼続も表情で「こりゃもう駄目だ」と語ります。

そして案の定、堤防がまったく作れず、城攻めは失敗するのでした。

忍城攻めに関しては、三成一人のミスにするのは気の毒で、そもそも水攻めをしろというのは秀吉の指示ではあるのです。

ただしそれに固執する三成も、ミスがなかったとは言えないところでしょうね。

一方、信繁は小田原の大谷吉継の陣に呼び出されます。

そこにいたのは何と家康です。小田原城に入り込んだ徳川方の使者と合流し、何とか氏政を説得して欲しいとの密命が、吉継と家康から信繁に下されます。

なぜこんな重要な使命を信繁が帯びるのか、単なる主人公補正ではないのか。

その疑念は、彼を迎えた本多正信と江雪斎によって説明されます。

先週の裁定の場で見せた弁舌を買われてのことでした。受け狙いかと思われた戦国裁判ですが、翌週こうして伏線として回収してくるのだから、今年は侮れません。

「主人公補正とご都合主義」と「史実としてありえなくもない」の間で今年はバランスを取っています。

今年は序盤さんざん主人公が活躍しない、父親の方が目立っていると言われてきたわけで、ここにきて少々ご都合主義的に信繁が動いてもそれはそれで仕方ない範囲ではないかと思います。

ここで、どこからともなくするっと佐助が現れ、信繁の護衛をすると告げ、またするっと闇の中へ消えてゆきます。

江雪斎の案内で氏直に引き合わされた信繁。

氏直は何としても父を説き伏せて欲しいと頼まれます。

今週の氏直は、涙がこぼれおちるほどではありませんが、大きな目がうるんでいて、悲運の貴公子といった風情であります。

あのキレる若者から随分印象が変わったものです。

そして信繁は、氏直が「ま〜〜さ〜〜ゆ〜〜きぃ〜〜〜」と呼んでいた男の息子です。あの頃から立場はこれだけ変わってしまいました。かつての彼なら、信繁など鼻にも引っかけなかったはずです。

氏直の頼みを受け説得に向かう信繁ですが、降伏に不服を持つ北条勢が次から次へと襲って来ます。

堺雅人さんの殺陣はなかなか迫力があるのですが、そういえば彼は以前、剣聖として名高い塚原卜伝を演じていたのでした。

信繁は佐助の援護、そして突如現れた謎の男によって窮地を逃れます。

信繁に親しげに語りかけてきた男は、なんと姉・松の夫にあたる小山田茂誠でした。

 


今週のMVP:北条氏直

今週は皆がんばっております。

北条父子、先週に引き続き江雪斎。

神出鬼没、役に立つ佐助。

家康配下につかないからと実にいやらしい喜びを見せ、三成を小馬鹿にしたような笑みを見せた昌幸。

チベットスナギツネ顔で三成の策を聞く直江兼続。

信繁相手にばつが悪そうにしていた上杉景勝。複雑な表情で城を眺める茶々。

親友をあたたかく見守る大谷吉継。

ストレスで胃痛が生じる人間は涙なしには見られない石田三成。

そんな中、序盤(第八回~十回)あたりで見せた傲慢で何かが足りないキレる若者っぷりから、悲劇の貴公子へと変貌を遂げた氏直へ一票。

「ま~~さ~~ゆ~~きぃ~~~」と首を傾けながらキレていた頃から想像がつかないような進歩を遂げています。

前述の通り、泣くのをこらえるかのように目がいつもうるんでいるのがまたよかったと思います。

先週あたりから、歴史は変えられないとわかっていても、なんとか北条が生き延びて欲しいと何度も思ってしまいました。

そう思ってしまうのも、引き込まれる演技をする役者さんあってのものでしょう。

 

総評

今週は変化球ばかりが投げられている印象です。

定番の北条攻め描写から、何もかも少しずらしてあるような印象です。

「関東の連れ小便」は、それより先に信繁と家康の連れ小便を入れる。白装束の政宗は瞬時に出番終了。

得意の絶頂で浮かれているように見える秀吉と茶々は、それぞれ無神経さと苦悩を混ぜる。

利休は徹底して俗物的。そして何より、時勢の読めない愚か者とされがちな北条氏政らを、苦悩する悲劇の一族として、感情移入できるように描いています。

今年は武田勝頼から真田信繁まで、敗者にやさしい作品になるはず。

定番描写からずらしながら、そこにおもしろさや個性を入れているのが今年の作品です。

今回、フレームの外では黒田官兵衛が北条の説得を行っています。

一昨年の『軍師官兵衛』では第一回アバンタイトルに官兵衛が北条を説得する場面が使われており、かなり重要でした。

「命を無駄にするな」と言いながら、彼自身は矢玉飛び交う中ずんずん歩いて行くという時点で、あの歳は嫌な予感がしたものです。

あの官兵衛はともかく上から目線の恫喝一点張りでしたが、今年の信繁はきめ細やかに北条側の心情に寄り添い、説得し、そして失敗すると信じています。

そう、失敗することが大事です。

一昨年の官兵衛のように失敗したのに成功したかのように誤魔化すよりはるかに誠実です。

そして、はっきりと失敗を描けば、「主人公補正のご都合主義」批判をかわすこともできます。

何より失敗することは事実なのですから、そこは信繁の苦い経験として今後生かせばよいのだと思います。

そしてこの北条攻めは、今後の伏線も盛り込まれています。

堅固な城とプライドを頼りに時勢に背くと、滅びてしまうということ。

これは本作最終局面において、もう一度繰り返されます。

そのとき豊臣の立場は、攻める側から攻められる側へ、勝者から敗者へと逆転しているのです。


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著:武者震之助
絵:霜月けい

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