あの手この手を使うといえば本作の徳川家康ですが、屋敷Pもなかなかのものです。
私もぼんやりとこの二文字かと思うところはありますが、最終回を見たら気が変わるかもしれません。
果たしてどうなることでしょうか。
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砲弾はもう尽きている! されど茶々の恐怖は拭いきれず
さて今週の内容へ。
大坂城天守を襲った砲弾。目の前で侍女が圧死した茶々は気が変わり、幸村や牢人たちの思いを裏切って和睦へと舵を切ります。
作劇上、茶々の決断が重要視されてはいますが、実際にはもっと複合的要因が絡んでいました。
このとき心理的に大打撃を受けたのは茶々だけではありません。
結果的に豊臣家を最悪の裏切り方をしてしまった片桐且元は、これよりおよそ半年後急死したとのこと。
「病死とも、自ら命を絶ったとも言われる」という言葉は、ナレ死の中でも最も残酷な気がします。
史実では夏の陣も参戦していますが、本作での且元はここで退場となります。
幸村は、砲弾はもう尽きているから撃って来ない、和睦の時ではないと主張します。
しかし精神的に打撃を受けた茶々は面会すら出来ないと、きりに言われます。
このとき茶々の心配だけして現場にいたきりを心配しない幸村はちょっと酷いと思います。
毎度のことではありますが、彼は女の扱いが雑です。それにしてもきりは頼もしくなったものです。
和睦となったら後はどうなるのか。不満を募らせる牢人たち。
いくら上層部が和睦を決めたとしても、この牢人たちの進路が決まらなければどうにもならないわけです。
十万にも達するという牢人たちは、頼りになる戦力から巨大な火薬庫へと化しました。牢人たちに近い立場の大野治房も、和睦に反対します。
和睦となれば、あとはどこで妥協するかが問題です。上層部は評定を開きます。
ここで重要なのは今や火薬庫と化した牢人の処遇ですが、大蔵卿局は牢人を軽視し、使い捨てにする気満々。
秀頼は牢人に報いたいと考えてはいるようなのですが、大蔵卿局をどうにかしないとそれも難しいでしょう。
強硬な大蔵卿局と違い、秀頼は大坂城を出ることも視野に入れ、柔軟な態度を示します。
豊臣秀頼" width="370" height="320" />
そこへ茶々に遣わされたきりが来て、幸村を呼び出します。
茶々はやつれた様子で、幸村に砲撃の衝撃を淡々と語ります。
茶々は幸村の胸に顔をうずめ、少女のような声音でこうしぼり出すのでした。
「茶々を叱ってください、あれほど和睦をしないと言っておきながら……」
本作の天真爛漫さと哀しさを持ち合わせた、少女のような茶々を見ていると、本当にこの人が気の毒でなりません。
男女が抱き合うようでも艶っぽい雰囲気はあまりなく、茶々は頼りなく幼く見えます。
小谷城炎上の時に、どこか止まってしまった部分があるのでしょう。
幸村は茶々の様子を見て、彼女が城を離れるのもありだときりに漏らします。
この城にいる間ずっと彼女はつらかったのだろう、と気遣う幸村。大坂城は茶々にとって、絢爛豪華な牢獄だったのかもしれません。
五人衆はじめ牢人たちは、苛立ち幸村に詰め寄ります。
毛利勝永は「お前もしかして茶々様とできてないよな? 牢人を利用して自分だけいい目を見るつもりなら切り捨てるぞ」とまで凄みます。
そういう艶っぽい関係ではありませんが、これは誤解されるのもやむを得ないところでしょうか。
稲とおこう、お通に囲まれた信之がカッコ悪いよ、悪すぎる……
一方、江戸では信之が小野お通に膝枕され、弟の境遇を案じています。
弟が生きるか死ぬかのときに、真剣な口調でありながら女の膝枕とは。やはり兄上の全盛期は第三十五回「犬伏」だったということでしょう。
『真田丸』感想レビュー第35回「犬伏」 兄・信幸が旗を振り、船頭となるとき
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そこへ、ただならぬBGMとともに、稲とこうが乱入!
信之は「別にいやらしいことしていたんじゃなくて、相談に乗ってもらって癒やされていただけ!」と言います。
「はい、はい」
稲は塩対応。こういう塩対応が修羅場では一番怖いんですよね。
こうは「旦那様の癒やし係は私だったのに!」とお通につかみかかり、稲にたしなめられます。
お通はにっこり微笑み「お帰りください、次のお客様がいますので」と爆弾発言!
この展開には何かデジャヴがあります。昌幸が偽吉野太夫に騙されていて、見抜いた出浦昌相が偽吉野太夫を視察する回です(第三十回)。
しょーもないハニートラップ、しかも京女に弱いのは父子譲りか!
京の才媛・お通がクラブの女みたいな扱いでいいのか、と突っ込みつつ、なんとも身につまされると言いますか、脂汗が出そうな展開です。
小松姫" width="370" height="320" />
信之はなんとかその場を誤魔化し出て行こうとしますが、お通のプロとしての顔を見て隠しきれぬ動揺を浮かべます。
これはキャバ嬢の営業LINEトークに騙されていた男の顔だ。
さらにお通は「支払いは家来の方がしていました。今月まだ支払われていませんけど」と言いだし、稲がレシートを受け取ります。
信之はあわててレシートをひったくり、言うのです。
「膝枕オプション二百文はぼったくり価格ではないか!」
ああ、どこまで格好悪いんだ、信之……知らぬ間にチャージされるオプションサービスには気をつけよう。彼と我々はそんな教訓を得ることができました。
真田信之" width="370" height="320" />
信玄に忠義を捧げた昌幸 幸村はその意志を継いでいる!
場面は大坂城に戻ります。
城内菜園を作っていた堀田作兵衛は、勝永や後藤又兵衛から「幸村は信じられるのか」と尋問されます。
作兵衛は「本人はよく知らないが、昌幸様ほど義にあつい方はおられなかった」と返します。
ここで視聴者も牢人たちも総突っ込みを入れたと思いますが、作兵衛がフォロー。
生涯武田信玄に忠義を捧げ、武田の旧領回復を願い、その恩に報いるためならば何でもした、と。幸村も太閤殿下の恩に報いるためなら何でもする御方だと啖呵を切り、作兵衛は畑仕事に戻ります。
ただ、ここで考えるべきことがあります。
昌幸の忠義をもってしても武田旧領回復は叶わなかったということを。もはや事態は、一指揮官の忠義や人間性によってなんとかなるほど甘いものではありません。
大坂方から和睦条件を受け取った家康に、秀忠は和睦することなどないと詰め寄ります。
正信は「和睦と見せかけて敵を無力化し、それから総攻めをするんです」と家康の腹づもりを明かします。
徳川方から突きつけられた到底飲むことの出来ない和睦修正条件に、豊臣方は困惑します。
「こうなったら使者同士で話し合わせるべきだ」と織田有楽斎が言いだしますが、幸村はここで条件をつけます。
相手方にある最強のカード・本多正信を使えなくするために、敢えて女同士で話し合わせようとするのでした。
大蔵卿局がここで張り切ります。
舌打ちしてお前は引っ込んでいろと思う視聴者も多いことでしょうが、これも彼女なりの茶々・秀頼母子を守りたいという気持ち、彼らのために活躍したいというやる気のあらわれでしょう。
まあ、無能な働き者が一番厄介というのは、この人にも当てはまる言葉ではありますが。
これに対し幸村は、茶々の妹である初(常高院)を強く推薦します。
家康が出てこずとも徳川方には女狐がおりまして
初の亡夫は徳川方の大名・京極高次でした。交渉に立つ人物としてはうってつけかもしれません。
しかし彼女にとっては辛いことでしょう。なんせ豊臣秀吉の側室・茶々は実姉であり、徳川秀忠の正室・江は実妹なのですから。
実際、初は不安がり、幸村と茶々はその背中を押します。
ここでの誤算は、初が心許ないからと大蔵卿局をつけて欲しいと言ったことでしょうか。初にとっても大蔵卿は乳母ですから、頼りになるのでしょう。
徳川方の相手が阿茶局だということで、彼女を知るきりがどのような人物かと幸村に聞かれます。
きりは顔をしかめ、本多正信が古狐ならば阿茶局は女狐、見た目は雌狸だと評価。幸村はきりも和平交渉の場に同行させることにします。
女優さんの顔を狸に譬える台詞を書く三谷さんはなかなか凄いと思います。
しかし、そんなことよりここで突っ込みたいのは、幸村が交渉相手を女にすると決める前に、きりに探りを入れなかったかということです。
そうしていれば、きりは「だめよだめ、古狐を避けたところで相手には女狐がいるんだから」と忠告したでしょうに。
どのみち交渉できる人材がいないという次点で、大坂方は詰んでいた気もしますが……。
ここでコーエーマップが出現。まさかきりまでこの図面に登場するとは思いませんでした。
和睦の場で、阿茶局は「戦なんて男の都合で始まることばっかり、それに女の手で始末をつけるのは愉快なことですね」と言います。
なかなか巧みな滑り出しです。おおっと、このままだと阿茶局のペースになってしまいますぞ。
阿茶局は、茶々を人質にしない、秀頼の領地はそのままで危害を加えない、大坂城もそのままでよい、大坂を離れるならばどこの国でも希望をかなえる、牢人は罪を問わない、といいことづくめの条件を切りだします。
さらには「そちらが戦に勝ちましたし」とおだてます。
阿茶局は「あとはおいおい」と追加オプションの存在をにおわせます。
ここできりが「脚がつりました!」と叫び渾身の演技で、初に合図を出します。
そもそもこんなに聡明で機転が利くきりを、たかが侍女にとどめておくのは大失敗でした。
なんのかんので肩書きをつけて、交渉の場で口を挟める旅場にすればよかったのではないかと思います。
阿茶局と直接やりとりできなくとも、初に助言するくらいできるポジションに、きりをつけておけば!
初は牢人のために所領の加増がなければ和睦できないと言い出します。
しかし阿茶局は巧みに大蔵卿の牢人を軽んじる立場に同調するふりをして、相手をうまく乗せます。
さらには「軍事施設があるから牢人が戦おうとするんです。真田丸は取り壊し、堀も埋めましょう。そうなれば牢人もあきらめて退去。大御所様も一安心、よいことづくめではありませんか。そういたしましょ」と話をまとめようとします。
まさに悪魔のオプション!
再度きりが脚をつったふりをして初に合図。
初は「このことはいったん城に持ち帰りたい」と言いますが、阿茶局と大蔵卿局は強引に和睦を決めてしまいました。
あまりに出来すぎた和睦条件の上に牢人たちの処遇は曖昧
和睦の条件を持ち帰った阿茶局に、家康たちは有頂天。家康は阿茶局の肩を揉み浮かれます。
これは大坂方、つらいことになりそうです。
一方、大坂方では、和睦条件において牢人の処遇があいまいであることが不安視されます。あまりにうまい話に幸村は不安を抱き、その場にいたきりに話を聞きます。
ここで堀の埋め立てと真田丸の破壊を聞いた幸村。
タイミングよく高梨内記があわてて駆け込んできます!
果たして幸村と視聴者の夢と受信料が詰まった真田丸は、徳川の兵によって無残にも壊されていました。
愕然とする幸村たちの気持ちがわかるのは、これが我々の受信料だと思えばこそかもしれません。
幸村はどういうことなのかと大蔵卿局に詰め寄りますが、相手は事の重大さをわかっていません。
見かねた大蔵卿局の息子・治長は「母上は豊臣を滅ぼすつもりか」と呻きます。
大野治長" width="370" height="320" />
この堀の埋め立てや真田丸の破壊ですが、「堀の埋め立ては上層部が了承の上でなされたが、戦う気のあった牢人にとっては騙し討ちのように感じられた」という描写になっていると思います。
徳川方が前触れもなしにいきなり騙し討ちのように埋めたという説ではなく、双方了承の上で埋め立てられたという最新の研究をふまえた描写でしょう。
かくして難攻不落の大坂城は、防衛の要を失い、ただの絢爛豪華な高層住宅と化したのでした。
絶望……その先には絶望があります。
徳川父子は裸の城と化した大坂城を見てあと一歩だと喜びます。あとは相手が和睦を破るよう、仕向けるだけです。
牢人たちの処遇をあいまいにし、不平不満を焚きつけるように追い詰めたのも家康の策でした。
「これぞ城攻めよ! わはははははは! わははははは!」
「望みを捨てぬ者だけに、道は開けるとそなたは言った」
幸村ですらもはやもう万事休すと見定め、勝ち目はないと言い切ります。全ては私の力不足と反省する幸村です。
が、再三書いて来たように石田三成と大谷吉継をもってしても救えなかった豊臣、倒せなかった徳川ですからね。仕方ないでしょう。
幸村は残念ながら、この二人にも才能は及びません。
父・昌幸譲りの策と戦術は、せいぜい千単位の兵士がぶつかる、山の小城を守り抜く程度のスケールだと、だんだんこちらにも伝わりつつあります。
幸村は牢人に、城を枕に討ち死にするなど考えず立ち去れと言い放ちます。
しかしここを去ったところで、もはや行くあてのない牢人たちでした。
いわば彼らはやけっぱちでした。牢人の処遇を保証することは、和睦においてやはり絶対必要な条件で、曖昧にしてはいけなかったものなのです。
妻の春と長男・大助に上田へ戻るよう言いつける幸村。
その元に、牢人たちが集まってきます。もはや行く場所がない彼らは、勝つためにここへ来たのではないかと幸村に訴えます。
火薬庫は湿気っているどころか、もう火がくすぶっていました。
さらに秀頼も幸村の元に来て、手を執りこう語ります。
「望みを捨てぬ者だけに、道は開けるとそなたは言った。私はまだ捨ててはいない」
ここまで言われたら幸村は応じる他ありません。大坂の城は、再度戦へと動き出します。
思えば幸村が秀頼に語り、そして秀頼が幸村に語ったこの台詞は、第一回で昌幸が勝頼に言ったものと同じでした。
こうしてくすぶる牢人が決起することも、すべては家康の策なのです。
MVP:阿茶局
第四十五回で、大軍が落とすことができなかった「真田丸」を弁舌ひとつで彼女が破壊してしまいました。
こういうことをやられると、いかに策が大事なものであるかわかるというものです。
本作で策を多用したということであれば真田昌幸が真っ先に来るでしょうが、相手にとって最も致命的な策を用いてきたということであれば本多正信の方が上ではないかと思います。
そして阿茶局は、まさしく女版本多正信です。
こんな手強いカードが複数ある徳川方に死角はありません。
大蔵卿局はおもしろいように墓穴を掘りましたが、たとえ初ときりだけで向かったところで、為す術はなかったことでしょう。
そして裏MVPはきりです。
前半はトラブルメーカーとして嫌われていた彼女を、頼みの綱として応援することになるとは思いませんでした。
茶々の命を救い、和平交渉では体を張った活躍で事態を打開しようとしたきり。
阿茶局が女版本多正信ならば、彼女は女版真田幸村であり、本作の裏主人公であったと言えるのではないでしょうか。
そうなると結局主人公と結ばれない異色のヒロインであることも納得ができます。
ある意味彼らもまた「ふたりでひとつ」でした。
皮肉なことに、実力はあってもなかなか認められず埋もれていたところまで、このふたりはそっくりなのです。
総評
序盤、本作のヒロインがブーイングを浴びていたとき、私はこう書きました。
「阿茶局や大蔵卿局が既にキャスティングされているということは、終盤で女性が交渉役として活躍するのではないか。今は鬱陶しくてもこの先それだけではない女性の活躍が見られるのではないか」
まずは自慢させてください。当たりました!
不吉な予言ばかり当ててきた自覚があるので、良かったと思います。それでもきりの化けぶりは流石に予想すらできませんでしたが。
本作のこの女性による交渉がおもしろいのは、従来の「優等生的」大河ヒロイン像を逆手にとっているところです。
今回の交渉の場では、阿茶局が見事に猫をかぶって「男が始めた戦に女は巻き込まれるばかりで」と切り出します。
私たち女は被害者です、女は平和を愛するのに男はわからない、といういわばテンプレ的ヒロイン像です。
それから甘く優しい言葉で、大坂城の防衛施設を骨抜きにしてしまうわけです。
新聞のラテ欄には「阿茶局の尊大な態度」とありましたが、実際に見てみると阿茶局の態度はいつになく柔らかいものでした。
それゆえ、いかにも胡散臭いのです。
男が求める癒やしを提供し続け上昇婚を成し遂げた梅然り、お嬢様のようでとんでもない性格だった春然り、膝枕が実は有料サービスだった小野お通然り、本作でやたらと優等生的な態度を取るヒロインには裏があります。
男も女も、生きるために策と嘘を使うのがこの世界なのです。
先日『スタジオパークからこんにちは』にゲスト出演した堺雅人さんは、本作には「お嫁さんにしたい女性が一人もいないからおもしろい」と語ったそうです。
その通りだと思います。
かわいげのない無茶苦茶なヒロインを、ブーイングにもめげずに出し続けた本作は、退屈な大河優等生ヒロインというテンプレートをも、OPのパッカーンと割れる壁のように壊しました。
来年もこの手の強くてかわいげがなく、それだからこそ魅力的なヒロイン路線を踏襲して欲しいものです。
そうだ、大河ヒロインが笑顔でおにぎりを握る時代は終わったんだ……!
◆堺雅人と柴咲コウ「柿」と「凧」交換 “大河主役”をバトンタッチ(→link)
と、ここまで褒めていて何ですが、女性の扱いについては極端な部分もあります。
その筆頭が大蔵卿局です。
秀頼や茶々に向かう憎悪を彼女と有楽斎が一身に引き受けている印象があり、損な役回りですよね。
しかし、彼女だけが悪いわけではないのです。
なぜここまで豊臣と徳川、女性の差がついたかと言いますと、そこは根本的に権限を持つ男性が、女性という切り札をうまく使えていないからです。
家康には女であろうと実力を見抜く目がありました。
だからこそ、出生はきりと大差ない後家である阿茶局の素質を見抜き、側に置いて鍛えることで、最強の手札とすることができたわけです。
後家好みだの、経産婦を選ぶだの言われてきた家康の女性遍歴ですが、頭の中身で側室を選んでいたのだとすればただ者ではありませんね。
女を見る目で言えば、偽吉野太夫に騙された昌幸、営業膝枕が見抜けない信之、きりの持ち腐れである幸村と比較して、本作の家康は抜きんでています。
特に幸村に関しては女の扱い方が雑で、なめくさっているからこそ阿茶局のような存在すら想像もできないわけです。
最上級の手札となるポテンシャルを秘めたきりを、あまりにぞんざいに扱い続けました。
コーエーのゲームと現実の違いはたくさんありますが、能力値がまったくわからないこともそのひとつです。
ゲームと違い現実では、能力値を読み取る側の素質が重要なのです。
たとえそれが、女相手であっても。
「女はこわい」
「歴史の影に女あり」
などなどよく言われることですが、むしろ男の女を見る目、使い方次第、ということではないでしょうか。
そしてもうひとつ、堀を埋め立て、牢人を退去させようという考えは、そんなに悪くないのではないか、ということです。
堀の埋め立ては徳川方が勝手に騙し討ちするように埋めてしまったという通説がありましたが、本作では和睦交渉時に条件としてつけられました。
この堀の埋め立てを卑劣と見なしたくなる気持ちもわかります。それは真田幸村ら徹底抗戦派に感情移入した結果だと思います。
考えてもみてください。「和睦」というのは停戦であり、和平交渉です。
十万人の兵士が収容できる軍事施設をそのままにしておいて、和平交渉もあったものじゃないでしょう。
もうこれ以上戦わないと示すからには、城を軍事施設ではなく、ただの政庁や居住区域に作り替えることはむしろ当然と言えます。
冬の陣のあとを徳川から見れば、むしろ豊臣方が約定違反をしているわけなんですね。停戦すると言っておきながら、武装解除しないわけですから。
そしてそういう状況を作り出しているのは、大蔵卿局が「戦いたくて仕方ないものたち」と評した、幸村をはじめとする牢人たちなのです。
大蔵卿局のように彼らを和睦の障害と見なして切り捨て、さっさと秀頼が四国にでも移ってしまえば、家康は歯がみしつつ、見逃したかもしれません。
華々しく戦うことが目的の牢人とは違い、茶々と秀頼の命がともかく大事な大蔵卿局ならば、この選択肢はごく当然のことではないでしょうか。
権力の移り変わりの場において、ひたすら恭順の姿勢を示し、家臣を切り捨て、居城を出て、領地を返上し、悠々自適の余生を過ごした権力者がいます。
徳川家康の子孫である慶喜です。
今回の中途半端な情けに流されて滅びる秀頼と比べると、確かに慶喜は聡明であったのでしょう。
ただし、生き様としてどちらが美しいか、物語になるか、と問われたならばなかなか難しいところですが。
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著:武者震之助
絵:霜月けい
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