十 ~忍法魔界転生~

『十 ~忍法魔界転生~』一巻/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

転生した剣豪たちを十兵衛が薙ぎ倒す!漫画『十 ~忍法魔界転生~』

「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……我は求め訴えたり!」

というセリフで一躍日本中の話題となった映画『魔界転生』の沢田研二さん。

 

妖艶な天草四郎が衝撃的であり、1981年の公開当時は以下の記事の通り、子どもたちの間でも話題になりましたので、

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アラフォー・アラフィフ世代より上の方なら『あぁ、アレね!』とご理解いただけるのではないでしょうか。

しかし、意外と知られていないのが原作者が山田風太郎であるということ。

そもそもは“山風”屈指の人気小説であり、それを「作画・せがわまさき」で一つの作品にしたのが本記事のテーマである

であります。

山風の妖艶な世界観を描かせたら右に出る者はいない――せがわまさきによる『魔界転生』は一体どんな漫画なのか?

ネタバレも含めてご紹介させていただきます!

 

現世で満たされず魔界転生を求める男たち

寛永15年(1638年)――。

多数の犠牲者を出し【島原の乱】は終結した。

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しかし、そこで恐るべき光景が繰り広げられる。

なんと、一揆を率いた天草四郎が現世に蘇ったのだ。

忍法“魔界転生”である。

キリシタンの森宗意軒(もり そういけん)が、西洋の黒魔術と忍法を融合させ、生み出した驚異的な秘術。

切り落とした宗意軒の指を女の子宮に植え付け、“忍体”にした女と瀕死の男が交合すれば、新たなる魔人・転生衆としてこの世に蘇る。

驚異的な力を持つ転生衆に挑むのは、剣豪・柳生十兵衛であった。

『十~忍法魔界転生~』6巻(→amazon

 

最強剣豪・柳生十兵衛と山田風太郎が挑むもの

山田風太郎に欠かせない剣豪と言えば、なんといっても柳生十兵衛。

各種作品に登場する最強の存在であり、それぞれの作品で切り札のカード的存在となっています。

作品①『柳生忍法帖』

→自分ではなく堀一族の女に仇討ちをさせるハンデをつける

作品②『魔界転生』

→最強剣豪チーム・転生衆と戦う

作品③『柳生十兵衛死す』

→タイムスリップして「十兵衛vs十兵衛」に挑む

通常の歴史小説では考えられない、まさに山風ワールド全開の設定ですが、厄介なことに柳生十兵衛とは、作者の考えた最強のカードでもあるのです。

転生衆は、大衆文学で強く愛されてきた剣豪、柳生宗矩や宝蔵院胤舜などが揃っています。

中でも重要なのが、吉川英治の宮本武蔵

『十~忍法魔界転生~』13巻(→amazon

原作で彼が最終的な敵となるのは、人気作家・吉川英治に勝負を挑んだ山田風太郎流の挑戦でもありました。

映画版の影響もあってか。

天草四郎の印象が強い本作ですが、原作ではあくまで宮本武蔵が最後の敵。

柳生十兵衛と宮本武蔵の対決は、山田風太郎と吉川英治の対決でもあるのです。

でも、なぜ……山田風太郎は、こうして吉川英治に喧嘩を売るような真似をしたのか?

 

青年を高揚させた役割もあった?

山風が吉川英治にケンカを売った理由。あくまで私の推察ですが……。

山田風太郎のように、大正末期から昭和初期に生まれた世代は、太平洋戦争による打撃が甚大でした。

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戦時中が青年期であっただけに、兵士として死んでいった率が高いのです。

山田自身は病弱であったがため出征はしていません。

しかし日記に「不戦」とつけるほど鬱屈した気持ちはあります。

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そんな彼らが青春時代に読み耽った作家といえば吉川英治。

昭和10年(1935年)から昭和14年(1939年)にかけて連載されたこの小説は、ただの剣豪小説とはいえない、戦争へ向かう青年を高揚させた役割もありました。

同作品には、お通というヒロインが登場します。

「武蔵の周辺をうろつくだけで、結ばれないお通に意味があるの?」

そんな意見もありますが、発表年代を考えると奥深いものがあります。

いつ死ぬかわからぬ男は、いくら自分を慕う女だからといって、思いを遂げるわけにはいかない――そういう精神性誘導があっても、おかしくないわけです。

 

戦地から帰国した若者たちが目にしたものは

山田風太郎が推理小説を書いていた時代には、作者と同世代の青年たちの血を吐くような思いが作中に出てきます。

武蔵がお通の思いに応じなかったように、俺たちは女を抱かずに戦争に向かっていった。

そのまま死んでしまった者も多い。

生き永らえて戻ってきた俺たちが目にしたのは、米兵と腕を組んで歩く女たちの姿だった――平成になってふざけ半分に“NTR”なんて呼ばれる状況が、世代単位で地獄のようなリアルとしてそこにはあったのです。

本作では、宮本武蔵がお通の姪を通して魔界転生を遂げます。

それはパロディ元の制作年代、そして夢中になった山田風太郎のことを考えて読むと、絶望的な恐ろしさすら漂ってくるのです。

武蔵はお通と結ばれないことを後悔していた。

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