天正5年(1577年)――。
毛利・上杉と手を組んだ本願寺は反信長の中心にいて、その戦いは七年にも及びました。
その戦いの最中、松永久秀が織田陣営からの逃亡をはかり、光秀らに衝撃を与えるのでした。
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光秀にとって煕子の存在とは
京の屋敷で、光秀は庭を眺めています。
その掌には、愛妻・煕子の爪。小さな容器にそっとしまいます。
駒相手にそのことを語っているのは娘の明智たま。
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なんでも亡き妻の爪を小さな入れ物に収めて、大事に持ち歩いているのだとか。耳のところで振ると爪が可愛らしい音を立てるのです。
妻が生きていた証を、優しい音に求める光秀でした。
駒は光秀がそんな話まですることに驚いています。
たまは微笑み、以前は無口だったのに、母が亡くなって以来話しかけてくると告げます。
駒が美濃にいた頃の話もするとか。
駒が何を話しているのかと聞くと、たまはこう返します。
「内緒!」
芦田愛菜さんが愛くるしく演じるたま。微笑ましいようで、光秀の精神状態の変化がわかります。
今までは、煕子と話すことで気持ちが整理できました。
煕子はこれみよがしに目立つことはない。ただ、坂本城で京と岐阜どちらに心があるのか尋ねる場面があった。妻との対話でいかに光秀が思考回路を整理できていたのか。理解するヒントとなっていたのでしょう。
光秀はそれができなくなってしまった。
愛娘では、過ごした時間や状況が違う。光秀は以前よりも精神が不安定になる状況にいます。
糟糠の妻は堂より下さず――。
若い頃から連れ添った妻とは、自分の考えをまとめてくれる。若さ、美貌、妊娠できるかどうか。そこだけ見ているとろくなことにならないという戒めです。
この言葉を頭の隅にでも入れておきたい。大事な要素ですね。
光秀の精神状態が崩れかけている!?
そこへ光秀が入ってきます。
「女子同士で何の密談かな?」
なんでもたまは、駒から薬のことを習っているとか。
たまが駒から薬のことを学びたいと言い出した時は疑っていた光秀。けれども、たまは覚えが早いと駒は言います。十兵衛様の腹痛の薬くらいなら調合できるそうです。
光秀は笑い、ならたまを医者として長生きすると言い出すのでした。
そして駒は、伊呂波太夫からの密書を渡してきました。ハッとする光秀。
本作では東洋医学が重要な存在となっていますが、そのことについて少々見ておきますと……。
日本、中国、朝鮮半島ではそれぞれ独自の発展を遂げていることも踏まえていました。
駒が触れた「十兵衛様の腹痛の薬」とは?
漢方薬はまず患者の体質を踏まえて調合すると考えてください。
現代の薬局でも買えますが、本気で治療したいのであれば初めに自分の体質を診断するのがよいでしょう。
駒の芳仁丸は、幅広く効くもので、いわば薬局に置いているようなものです。なんでも効くようで、決定的に治療するものではありません。
落語には「誰が来てもあの医者は葛根湯ばかり調合しやがる」という『泳ぎの医者』なんて演目がありますね。
葛根湯は風邪には満遍なく効くうえに、副作用が少ないので使いやすいと。
東洋医学では、患者の生きる力を引き出して、そのもの自身が病魔を追い出す。その力が停滞する、あるいはバランスが崩れると危険という考え方があります。
光秀はじめ誰かの精神状態が崩れていくことを考えていくとわかりやすくなります。
何かが足りない。何かが増えすぎている。何かが停滞している。バランスが崩れた。いずれも不健全な状態です。
◆【麒麟がくる】と東洋医学(→link)
ちなみに『鬼滅の刃』でおなじみの「全集中の呼吸」ですが、あれも東洋医学由来と言えなくもありません。
呼吸をすることで精神状態のバランスを回復すると、健康状態や思考回路を安定させられる。そういう効果が認められているのです。
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スマートフォンやスマートウォッチには呼吸アプリがありますね。あれはそういう効能から実装されています。
小屋にいたのは久秀
光秀が下京に向かうと、そこに三条西実澄がおりました。
実澄は光秀が変わりないかと挨拶。光秀は戦に追われ歌を詠むこともできず、お恥ずかしい限りだと言います。
この言葉は、もしかしたら再来年も有効かもしれません。『鎌倉殿の13人』の源氏ともなれば、
「歌なんて詠んでも何の役にも立たねえのによーッ!」
という価値観でした。現に鎌倉武士の書いた文章は誤字脱字が多いのだそうです。教養レベルの違いですね。鎌倉武士と比較すると、戦国武士は洗練されています。
人とは、人間の歴史とは、進歩してゆくもの。再来年、三谷幸喜さんがどんだけ鎌倉武士を無茶振りするか期待しておきたい!
実澄はそんな光秀に対し、光秀を待つ誰かも同じ意見だと告げるのです。いつまで経っても戦が続き、目が回るんだとか。
その誰かとは……実澄が、もう一度帝が光秀と話したがっていると伝えてきます。光秀が驚くと、信長の行く末を案じておると理由を告げるのでした。
光秀がその小屋に入っていくところを、怪しげな男が見ています。この出番だけなのに、圧倒的な存在感。こういうキャストまで本作は素晴らしいものがある。
そして小屋の中にいたのは――。
「よっ、来たな」
フランクに声を掛けてくるのは、松永久秀ではありませんか!
伊呂波太夫は三条西のじい様がいま出て行ったばかり。会ったかと聞いてくる中、久秀は光秀に座れと促します。
なんでも久秀と実澄は長い付き合いだとか。死んだ女房が何かと世話になったそうです。京にくるたび、昔話をする関係のようです。
久秀は洗練された審美眼の男だとわかりますし、愛妻家でもある。
何かと久秀はフィクション由来でどぎつい扱いをされますが、愛妻を挟んだ思い出を大切にする、心も綺麗な人なんだとわかりますね。
信長は実力主義のようで、そうではない
光秀はむすっとして、酒をいただくと言い出します。
伊呂波太夫が珍しがっていると、時折飲んでわしに絡むと久秀が笑います。たしかに二人は初対面でも飲んでいましたね。
白く濁った酒を飲み干す光秀。
そして、二月前のことを話し始めます。
加賀で戦をしていた羽柴秀吉が、柴田勝家と大喧嘩をして陣を立ち去り大騒ぎになったとか。
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理由はどうあれ、戦の最中に人を抜け出す者は死罪と決まっている。軍規は大事。信長は怒り、秀吉を切腹させると言ったものの、家臣一同がひたすら謝り、ようやく許されたのだとか。
そのことを松永様もご存知のはずだと光秀は怒っている。
久秀はここで、何かにカッと火がついたような目になる。
秀吉の気持ちがわかる。
上杉謙信相手に無能な柴田勝家が総大将になれたのは、織田家代々の重臣の家柄だからだと目をギラつかせる。
信長は実力主義のようで、そうではない。原田直政の死後、大和の守護は当然久秀だと本人は思っていた。それなのに、古い家柄で血筋がよいと筒井順慶を据えた!
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これは松永久秀にとって、彼の美学を破壊するものではあったのでしょう。
初登場時から、彼は斎藤道三に心を寄せていた。
下克上こそ美しく、自分の目指すものだと思っていた。そのことを信長に賭けた。
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けれども彼は裏切った!
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