麒麟がくる感想あらすじ

麒麟がくる第40回 感想あらすじ視聴率「松永久秀の平蜘蛛(ひらぐも)」

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十兵衛が初めてウソをついた……

光秀が去ったあと、信長の顔に怒りがのぼってきます。

「十兵衛ば初めてわしに嘘をついたぞ……このわしに嘘をつきおった、十兵衛が!」

そしてこう叫ぶのです。

羽柴秀吉はいずこにいる!」

ここですかさず秀吉が姿を見せます。

調べたことに間違いはないかと問われると、秀吉はこう言い切ります。

「この秀吉、ぬかりはござりませぬ」

嗚呼、今回もこんな短い出番なのに、秀吉が心底憎々しい。

秀吉みたいな人間はいる。舌なめずりをしている。人の弱みにするりとつけ込む奴。佐々木蔵之介さんがこれまた今回も絶妙にお上手なのです。

坂本城では、たまが薬を作っていました。そこへ光秀が帰って来る。たまはお出迎えもしないことを謝りつつ、父上がいつお帰りになるか誰も教えてくれぬと漏らします。

光秀はすごい臭いがすると顔をしかめます。

駒直伝の薬を調合しているのでした。

戦で疲れた時に飲んでもらおうという秘伝の薬だそうで、光秀は、まずそうな顔をしつつも薬湯を飲み干します。

何気ない場面のようで、これまた重要だと思えてきます。

前回のことで訂正します。家康が「薬酒」を飲んでいるとしましたが、状況や色からして「薬湯」の方が妥当で可能性が高いです。失礼しました。

そうなのです。苦い薬湯を敢えて飲むところが、家康と光秀にはある。

最終回間近になって、その後への導線が見えてきます。

信長と秀吉。

光秀と家康。

そう繋がっていると思えるのです。

ここで伊呂波太夫の来訪が告げられます。

松永久秀との約束通り、彼女が平蜘蛛を持参してきました。

光秀は膝行(しっこう・膝をついて進むこと)で後退りしつつ、受け取るのですが……この膝行はかなり難しいものです。

現代人は武道でもしていない限りは無縁の動きで、関節をうまく動かせないもの。絵を見てください。相当辛いのです。ましてや綺麗にするとなるとかなり大変でしょう。

こういう時代劇特有の所作をどう継承するのか。実は昭和の頃から色々と指摘されていました。

そこを手抜きしない本作は気合十分ですし、それに応じる長谷川博己さんはやはり素晴らしいと思えます。

先日『ファミリーヒストリー』を見て、そんなハセヒロさんが素晴らしい理由がわかった気がします。

これを知る者はこれを好む者に如(し)かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如(し)かず。

知っているだけの人よりも、好きな人のほうがうまくできる。好きな人よりも、楽しめる人の方がうまくできる。

映画なりドラマが好きで好きで仕方なくて、大量に鑑賞してきた。演技が好きだし、楽しみながら演じている。だからこそうまいのだと。

ドラマをよくするために責任感を抱くだけではなく、楽しむこともできる。そんな彼自身も、楽しめる環境にするチームも、素晴らしいものがあるのでしょう。そういう空気が伝わってきます。

 


久秀の罠とは?

夕日が差し込む中、そう平蜘蛛に向き合う光秀。

その動きからは、どうしたって相手への敬愛が見えてきます。

「いかがなされました?」

「信長様にこの平蜘蛛の行方を問われ知っていると……ここまで言いかけたが……言えなかった。言えばこれが信長様の手に落ちわしは楽になれた。しかしなぜか言えなかった。そうかこれは罠だ」

ここで笑い出す光秀。

「まんまと引っ掛かってしもうた! これは松永久秀の罠じゃ、松永様の笑い声が聞こえておるぞ、ふふふ、どうじゃ、どうじゃ十兵衛、恐れ入ったかと……はははは、はははははっ!」

光秀は笑い出す。

そこには紛れもない愛があった。

士は己を知る者の為に死す。松永久秀は、己を知っている十兵衛にために死んだようにも思えます。審美眼の男である久秀は、光秀の心に美を見出し、愛していた。

だからこそ、平蜘蛛の姿になって彼の前に現れると信じていたのでしょう。

そしてその罠とは――久秀が信じ、賞賛した、下克上を為す心を渡すということ。

平蜘蛛の中には、主を討ってでも己の道を行けという、そんな久秀の心が入っていた。そんな魔星の入った茶道具を手にしたからには、もう手遅れだ。

三淵藤英が見せたような、何があろうと主君に尽くす忠義は燃え尽きてしまうのです。

伊呂波太夫はここで、久秀からの言葉を伝えます。

これほどの名物を持つ者は、持つだけの覚悟がいる。

いかなる折にも、誇りを失わぬ者。

志高き者。

わしはその覚悟をどこかに置き忘れてしもうたと。十兵衛にそれを申し伝えてくれと。

そこまで伝えて、伊呂波太夫は去って行こうとします。そんな伊呂波太夫に、光秀はこう呼びかけます。

「待たれよ! わしは明日丹波に入る。戦じゃ。それが終わって帰り次第、帝に拝謁したい。今の世を、信長様を、帝がいかかがご覧なのか。それをお尋ねしたい」

「その旨、三条西のじい様にお伝えします。では」

そう伊呂波太夫は去ってゆくのでした。

 


MVP:松永久秀

積年の、自分が持っていた松永久秀への思いをすっきりとさせるような、圧巻の像でした。

どうしたって、彼にはどぎついイメージがつきまとう。そこも含めて愛は感じるけれども、違和感はあった。

それは『鬼滅の刃』で聖地になった一刀岩を訪れた時の印象がある。

あの静かな、緑が濃い、空気すら透き通っている大和の印象がある。だからこそ、あの大和と、フィクションで描かれる毒々しい松永久秀はどうにも合わない。

しかも、一刀岩伝説の柳生石舟斎が仕えた主君が松永久秀?

違和感がずっとあって、調べていくうちにわかってきたことはある。

松永久秀とは、柳生石舟斎、もとい宗厳が全身全霊を賭けて仕えるに値する人物だということ。

久秀に賭けていたからこそ、彼の死もあって、石の舟として浮かび上がらないと名乗ることにしたのだと。

そういう魅力があって、納得のいく松永久秀が見られて、感無量です。

こういうことを書きたくはないけれども、いろいろ思うと涙がにじむような久秀の最期でした。人間とは、こうも見事に生きられるのか!

そういう感動がずんと胸にきて、ざわついて、去ってゆかない。自分が柳生宗厳になって、主君の死を見てしまったとような気分にすらなれました。

吉田鋼太郎さんも素晴らしい。

吉田さんといえばシェイクスピアですね。けれども、和装や日本伝統の動きも決まっていて、見ていて惚れ惚れとします。今回も切腹で、鞘を投げるあたりが完璧に決まっていて見惚れました。

シェイクスピア役者が戦国武将を演じても様になるというのは、とても素晴らしいことです。

人間というのは、国境や人種で区切れるものではないとわかる気がする。

吉田さんの久秀には、マクベスの香りもあった。マクベスも史実ではそこまで悪どくないけれども、シェイクスピアの筆が達者すぎてあそこまで毒々しくなった功罪はあります。

吉田さんの久秀は「きれいはきたない、きたないはきれい」と人の心を弄ぶようなところもあって、見ていて興味が尽きなかった。

玉虫色の輝きがいつもある、とても綺麗な松永久秀でした。こういう人間像を見られるという幸せを噛み締めた回でした。

信長を2度も裏切った松永久秀は梟雄というより智将である~爆死もしていない!

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あ、そうそう、これは願望ですが。松永久秀が生まれ変わって、徳川幕府を仕切る大和ゆかりの男・柳生宗矩に生まれ変わったという設定が私の中には成立しつつあります。

柳生一族の陰謀』のみならず、『魔界転生』も吉田さんの宗矩でやってくれないかなぁ。柳生十兵衛は溝端淳平さん続投でお願いします。

 

総評

最終盤ともなれば、だらけきってしまいそうなところ、ますます緊張感が高まってきます。

生まれもった先天性、そんな光秀と信長の気質が見えてくる。

光秀は不幸なのか、幸せなのかわからない。

松永久秀にせよ、帰蝶にせよ、帝にせよ。彼と会って話したくなる。心を開いて向き合うことができる。思えば光秀はそういう存在だった。

もちろん妻とも心が通じ合っていた。彼の心がもつ清らかさに人は惹かれる。

一方で信長は、何かが噛み合わずに避けられてしまう。

彼は贈り物をする。けれども、猫が人間の枕元に鼠を置くようなもので、ありがたがいと思われることはない。

常に愛が一方通行。

帰蝶以外に彼の妻は出てきませんが、たとえ子を産んでいようが、心が通じないからには出す意味がないと本作は判断したのでしょう。

信長は鳥の群れに放り込まれた猫のよう。仲良くできるわけもない。

常に食われそうだと相手は逃げることが悲しくて、虚しくて、情けなくて、悔しくて……そう思うからこそ、唸るように泣いてしまうのでしょう。

そんな中の今回――松永久秀が圧巻で、いろいろと考えさせられる内容でした。

久秀は、信長ですら世の中を変える気構えがない、昔からの血筋だのなんだのにこだわると悔しがる。

もう人間としての生存本能を超えて、世の中を変えてやるという執念に飲み込まれてしまっていた。

これはすごい描き方だと思った。

信長といえば改革、斬新さの象徴のようで、そうではないと久秀は怒り、断罪する。

納得できないこともありません。

信長が久秀を評したという悪事の数々は、どうにも引っかかるものはあった。

三好長慶の家を乗っ取った。けれどもこれは斎藤道三も同じようなことをしている。

将軍義輝を弑逆した。とはいえ義昭への振る舞いを思えば信長こそ言えた義理でもない。

大仏を焼いた。失火での焼失であり、久秀が悪いと断言できない。

それよりも、信長だって仏像を粗末に扱っている!

要するに「信長、お前に言えた義理か?」と言いたかった。釈然としないそんな思いを決着つけてもらえたようで、今回は圧巻です。

久秀はむしろ【徹底的に世の中を変えない信長】に失望したのだと。

そんな本作の解釈は斬新で、フィクションだからこそできる境地に踏み込みました。

人間はもっとよい世界を作りたいと思い、生きるものだけれども、それはなんとも大変なことだ。

そう思わされる本作は、こういう時代に即したドラマだと思えます。

紛れもなく傑作だと言い切る一方、毎週日曜夜は疲れ切る。

そんな幸せな時間が過ぎてゆくのでした。

※著者の関連noteはこちらから!(→link


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文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
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