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【鉄甲船】
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伊勢志摩水軍vs村上海賊
伊勢志摩を拠点とする水軍の九鬼嘉隆(元海賊)。
彼等と共に石山本願寺攻めを担当した佐久間信盛は、援軍に現れた毛利家傘下の村上水軍に木っ端微塵にやられてしまいました。
第一次木津川口の戦いと言います。
せっかく石山本願寺を取り囲んで兵糧攻めにするところまでいったのに、目の前で悠々と食料や弾薬を運び込まれた二人に信長はプッツン。
さっそく当事者にお呼び出しをかけます。
信長「毛利の水軍にやられない船を作れ」
嘉隆「と言いますと?」
信長「毛利にやられた原因は何だ?」
嘉隆「村上水軍の焙烙火矢です」
※会話はイメージです
焙烙火矢(ほうろくひや)とは、陶器に火薬を入れた手榴弾みたいな武器のこと。
火をつけてから投擲する武器で、敵の船体に着弾すると、あっちこっちに火薬と陶器の破片が飛び散らす厄介なシロモノです。
九鬼水軍はこれを船(木造)にぼんぼん投げられて、一面ファイヤー状態になってしまい負けました。
第一次木津川口の戦いで村上水軍にフルボッコ!焙烙火矢の恐怖 信長公記138話
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そこで信長が……。
信長「鉄なら燃えねーだろ!鉄で船作りやがれ!」
嘉隆「し、しかし鉄は錆びて長持ちしませんし……」
信長「カネなら惜しむな、とっとと作りやがれ!!」
というわけで、焙烙火矢に対抗するために作られたのが【鉄甲船】というワケです。
当時、鉄を精錬するのにはかなりの資金を必要としました。
ただでさえ鎧などの武具にも使うのに、船を覆えるほどの量を短期間に作るというのですから余計にそうです。
しかし、既に安土城の建築を始めるなど、信長には潤沢な資金がありました。
理由は色々ありますが、昔から商人を取り込み、肥沃な濃尾平野を手に入れていたことや、楽市楽座令などで経済を豊かにし、お金の流れを安定させることに注力していたことが大きいでしょう。
恐らくは戦費調達のために、予め備えていたのでしょうね。
こういう長期的なものの見方・原因を解決するための分析力などを見ると、「やっぱり信長ってスゲー!」と思わざるをえません。
本当に鉄で覆われていたのか?→証拠なし
しかし、この鉄甲船が本当に「鉄で覆われた船」だったのか?
というと、証拠がハッキリ残っているワケではありません。
英俊さん(延暦寺の荒れっぷりを嘆いたお坊さん)の日記にも「信長が鉄の船を作ったらしいよ。鉄砲が効かないようにしてあるんだってさ」と曖昧な記述しかありません。
『信長公記』にも、宣教師オルガンティノ(フロイスの弟分みたいな人)の手紙にも少し出てくるだけで、我々が確信できるような詳細は何も記されていないのです。
鉄甲船が実践配備された【第二次木津川口の戦い】では、首尾よく毛利に勝利しておりますので、焙烙火矢に対抗できるスペックではありそうなのですが……。
完全に鉄で覆われた船かどうかはともかく、重要な部分だけ鉄で覆ったという説もあります。
案外、完全な鉄甲を備えていたかもしれません。
信長が鉄甲船を見たとき、建造に当たった九鬼嘉隆・滝川一益の二人と、その部下達に黄金や加増など多くの褒美を出しているんですね。
一目見て満足するような船というと、やはり相応のモノだった可能性は否めません。
織田vs毛利「丹和沖の海戦」信長は九鬼に命じて大船建造! 信長公記167話
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ちなみにリベンジ後はやっぱり錆びて使えなかったのか。
鉄甲船は記録からきれいさっぱり姿を消してしまいます。
江戸時代になってからの鎖国で大型船自体の建造が禁じられてしまうので、それ以降日本の造船技術が飛躍的に上昇することはありませんでした。
もし鉄甲船の技術が磨かれていたら?
幕末ごろには黒船なんかメじゃないくらいの戦艦ができていたかもしれませんね。
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長月 七紀・記
【参考】
国史大辞典
太田 牛一・中川 太古『現代語訳 信長公記 (新人物文庫)』(→amazon)
谷口克広『織田信長合戦全録―桶狭間から本能寺まで (中公新書)』(→amazon)
谷口克広『織田信長家臣人名辞典』(→amazon)
峰岸 純夫・片桐 昭彦『戦国武将合戦事典』(→amazon)