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【戦国廃城紀行】
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城は変化する、そして人の意識も
本書は初版から十年を経て、文庫化されました。
その間の変化が、追記されています。
自治体による調査が始まったこと。
訪問者が増えて、案内板が増えたこと。
市民講座があること。
城主がゆるキャラになったこと。
例えば小西行長をモデルとした
◆うとん行長しゃん(→link)
なんかもその一人。
戦国ファンからしてみれば「どうせひこにゃんあたりの二番煎じだろ……」と受け流しそうになる場面です。
ところが本書を読んだあとですと、これがだいぶ変わってくる。印象が違ってきます。
小西行長がキリシタンであることから、どれだけ悲運の目にあったか。
銅像すら破壊されそうになったかを考えると、感慨深いものがあるのです。
同時に、小西行長の宇土城の章からは【人の意識はそうそう変わるものではない】ということを痛感させられました。

宇土城石垣
キリスト教の禁止から時代がくだっても、銅像建立の際には脅迫事件があったほど。ぞっとするような思いすらあります。
敗者というだけではなく、宗教ゆえに憎まれてきた小西行長。
その憎悪のなまなましさには、本当に驚かされます。
幻のようであったそんな行長が、ゆるキャラになって愛嬌を振りまくーーこれはなかなかすごいことではないかと感じてしまうのです。
戦国大河のお供にも
本書は『どうする家康』の予習にもぴったり、かつ『麒麟がくる』や『真田丸』の復習にも最適。
『真田丸』は最新の学説を積極的に取り入れており、中でも秀次の死は印象深い描写でした。

豊臣秀次/wikipediaより引用
あの描写をふまえてから本書を読むと、秀次像がより身近に迫ってきます。ドラマでは、人は良いのだけれども武将としての器量はそこまででもない、そんな好青年像が窺えたものです。
彼の残した城からも、その像と近い青年が浮かび上がってくることが、本書からはわかるのです。
最新の学説や研究成果、発掘からわかってきた史実をふまえつつ、フィクションにも寄り添うような本書は、まさしく戦国大河のお供に最適な一冊。
たしかに文庫だけあって、写真は全て白黒、かつ小さいし、実用的なお城ガイドならば、他にオススメできるものはあります。
※スマホですぐ読めるKindle版がオススメ(→link)
しかし本書は、上記のようなカラー図版入りかつ実践的なものとはまた違った魅力があるのです。
敗者の城をたどることで、見えてくる歴史の陰影。
そんな陰影を引き立てる、味わいのある名文と筆者の観察眼。
城に到達するまでの、一筋縄ではいかない道のり。
変わりゆく人々の歴史意識や、城をめぐる状況。
2026年大河ドラマ『豊臣兄弟』の前に、一冊、ゆるりと味わってみてはいかがでしょうか。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
著者の澤宮優氏(@twitter)からのツイートもいただきました^^
すばらしい書評をいただき、とても感謝しております。https://t.co/qhLR8QatLe
— 澤宮優 (@hat71520) July 11, 2019
【参考】
戦国廃城紀行: 敗者の城を探る (河出文庫)
→Amazon Kindle版(→link)
→Amazon 文庫版(→link)