武田信玄

武田信玄/wikipediaより引用

武田・上杉家

武田信玄は本当に戦国最強の大名と言えるのか 戦歴や人物像に迫る53年の生涯

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正妻・三条夫人は悪妻だった?

かつて信玄のフィクション作品と言えば、正妻の三条夫人が悪者で、側室の諏訪御料人を美人で描く傾向が見られました。

義信が謀反騒動で討たれ、勝頼が跡を継いだ。

そうしたことから、諏訪姫&勝頼を持ち上げた方がストーリーを展開させやすかったのでしょう。

しかし、実際の三条夫人が悪妻であった可能性は低いと思われます。

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まず、彼女は今川義元の斡旋によって輿入れが実現し、かつては敵対関係であった武田と今川の両家に緊張の緩和をもたらしました。

実際、今川の家督争い(花倉の乱)では、武田が義元を支持。

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信虎の長女が義元の正室にもなり、武田氏は中央貴族や京都寺院との結びつきが強くなります。

後に信玄が信長包囲網を敷くときに、三条夫人を通じて石山本願寺と連携をはかったこともよく知られます。

三条夫人の妹が本願寺顕如に嫁いでおり、それぞれの妻を通じて義兄弟の関係になっていたんですね(ちなみに三条夫人の姉は管領・細川晴元に嫁いでいる)。

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信長との争いの前には、本願寺(越中の一向宗門徒)を通じて、越後の上杉謙信を牽制する働きかけも行われております。

なにより信玄と彼女の間には、

・義信
・竜芳
・信之
・黄梅院
・見性院

と5人もの子供がおります。

三条夫人が悪妻かつ不仲であったら、さすがにここまでの関係を築くことは不可能だったのではないでしょうか。

彼女は内助の功だけでなく、外交という信玄の武器にも不可欠だったのです。

 


側室と子どもたち

武田信玄には、正妻・三条夫人の他に側室がハッキリしたところで3名、他に数名いたのでは?と考えられてます。

それは以下の通り。

・諏訪御料人(諏訪姫)

・油川夫人

・禰津夫人

・勝沼氏の娘ほか数名(詳細不明)

それぞれ簡潔に説明しておきましょう。

側室で、最も印象深いのが諏訪御料人ですね。

実父の諏訪頼重と弟・竜王丸を信玄に殺されながら、武田勝頼という跡継ぎを産みました。自身は二十代の若さで亡くなっています。

勝頼の息子・信勝が当主候補で、勝頼は代行に過ぎなかったという指摘(上記の通り甲陽軍鑑に記された信玄の遺言)もありますが、いずれにせよここで滅びてしまったので致し方ない話でしょう。

油川夫人の出身・油川家は、もともと武田家とは同族の名門です。

信玄の祖父である武田信縄(のぶつな)。その弟・油川信恵(あぶらかわのぶよし)が祖となって甲府の南部に勢力を張っておりましたが、信虎との争いに敗れて同家は滅亡しました。

家柄が良いだけでなく子宝にも恵まれ、

・仁科家を継いだ五男の盛信

・葛山氏の養子に入った六男の信貞

木曽義昌に嫁いだ真里姫

・信長嫡男の織田信忠と婚約した松姫

上杉景勝の妻菊姫

などがいます。

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禰津夫人は、信濃の高遠一族の出身です。七男・信清を産んだこと以外は知られておりませんが、この信清は武田家滅亡後、姉である菊姫のツテで上杉景勝に仕えました。

こうして見ますと、冷静沈着に政略結婚を繰り返した――なんて思うかもしれませんし、実際そうなのかもしれません。

が、だからといって愛情がなかったとも判断できないでしょう。

信玄は、黄梅院北条氏政の嫁に送るとき、実に10,000以上の騎兵を伴わせたと言います。

この数字はさすがに盛り過ぎのため、仮にその1/10だとしても1,000を超えるのですから、娘に対して深い愛情を抱いていたことがうかがえます。調度品も相当な品揃えでした。

ただ……。駿河侵攻で黄梅院は離縁で甲府に戻され、失意のうちに急死してしまいます。

信玄は大泉寺に所領を寄進してまで、彼女の魂を弔ったと伝わります。

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【信玄の妻と側室・子どもたち】

◆男

三条・義信(廃嫡した嫡男)
三条・竜芳(海野二郎)
三条・信之(夭折)

諏訪・勝頼 - 信勝(孫)

油川・盛信(仁科五郎盛信)
油川・信貞(葛山十郎信貞)

禰津・信清(安田三郎信清)

◆女

三条・黄梅院(北条氏政室)
三条・見性院(穴山信君室)

油川・真理姫(木曽義昌室)
油川・菊姫(上杉景勝室)
油川・松姫(織田信忠と婚約)

息子の多くが他家の養子となったのは、支配力を強めるためであり、武家の間では古くから行われておりました

 


キング・オブ・戦国大名

さて、こうして信玄の人生をみると、まさに戦国大名の代表という気がしませんか?

とにかく戦いと謀略にまみれている。

しかし、戦国大名の全員が戦いに明け暮れた、というワケでもありません。

特に信玄の息子世代より以降、豊臣政権から派手な戦なんてそうそう起きてはおらず、例えば伊達政宗あたりなんかも、戦績は前半生の数年間のみに集中しています。

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一方、信玄です。

戦いに満ちた生涯は、まさに「キング・オブ・戦国大名」。

乱世の申し子という印象を受けます。

しかも滅法強く、満を持した戦いではほぼ全勝でした(主な負けは村上、上杉、北条相手に都合4度)。

合戦だけではなく、外交や謀略にも長けていたのだから、そりゃあ戦国武将の中でも突出した人気を誇るわけです。

自らの無念の死ですら、強烈な存在感を強めている。

「ミロのヴィーナスは腕がないからこそ想像の余地があって美しい」と言われますが、信玄の人生も、同じように未完の美しさを感じます。

それは、まさに戦国ロマンそのもの――。

では教科書から削除されるのはどうか? というと、私は仕方ないと思います。

ロマン補正を差し引くと、信玄の功績はあくまで有力な地方大名の一つ。

結局、教科書に掲載されていようがいまいが、歴史ロマンを求める人は自然に嗅ぎつけ、そうでない人には伝わらないというだけです。

もはや武田信玄という強烈な存在感の前で、教科書なんて些末なこと。

戦国史に興味を持てば、確実に武田信玄という大きな壁に突き当たり、感服せざるを得ない――それだけで十分ではないでしょうか。

なお、以下に

・武田信虎
・武田義信
・武田勝頼

という個性豊かな信玄ファミリーの人記事も掲載しておきました。

よろしければ併せてご覧ください。

武田信虎
武田信虎はなぜ息子の信玄に追放された?強国の土台を築いた生涯81年

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武田義信
なぜ信玄の嫡男・武田義信は廃嫡へ追い込まれたのか 最期は病死だった30年の生涯

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武田勝頼
武田勝頼は最初から詰んでいた?不遇な状況で武田家を継いだ生涯37年

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【甲斐源氏の流れ】

甲斐源氏19代を以下に記しておきます。

生年-没年も付記しておきますので、平安時代から続く武家の重厚な血脈を想像してみてください。

1代 源義光 1045-1127(甲斐源氏の始祖・甲斐守)

2代 源義清 1075-1149(常陸国“武田”郷の地から甲斐へ)

3代 源清光 1110-1168

4代 武田信義 1128-1186(甲斐武田氏の始祖)

5代 武田信光 1162-1248(源頼朝と共に挙兵)

6代 武田信政 1196-1265

7代 武田信時 1220-1289

8代 武田時綱 1245-1307

9代 武田信宗 1269-1330

10代 武田信武 1292-1359

11代 武田信成 不明-1394

12代 武田信春 不明-1413

13代 武田信満 不明-1417

14代 武田信重 1386-1450

15代 武田信守 不明-1418

16代 武田信昌 1447-1505

17代 武田信縄 1471-1507

18代 武田信虎 1494-1574

19代 武田信玄 1521-1573

20代 武田勝頼 1546-1582

源義光の子・源義業が初代佐竹氏(信玄とはかなり遠い親戚です)

文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link


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【参考文献】
笹本正治『武田信玄―芳声天下に伝わり仁道寰中に鳴る (ミネルヴァ日本評伝選)』(→amazon
平山優『武田信玄 (歴史文化ライブラリー)』(→amazon
奥野高広『武田信玄 (人物叢書 新装版)』(→amazon
萩原三雄『武田信玄 謎解き散歩 (新人物文庫)』(→amazon

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