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【『SHOGUN 将軍』の歴史描写は緻密で正確なのか?】
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正統進化を遂げた見るべきドラマは他にある
半世紀前、冷戦下のしょうもない歴史観に酔いしれるアメリカ。それに喜ぶ日本。
あまりに不健全な空気に息が詰まります――と、書いてくると、反論はあるでしょう。
ならば2020年代にふさわしい、日本史を描いた歴史ドラマはあるのか?
これがあるのです。3作品を挙げてみましょう。
①2007年 イギリス・BBC『ウォリアーズ 歴史を動かした男たち』エピソード4「SHOGUN」
サブタイトルが一致する作品ですね。
徳川家康以下、全員が英語を話すドラマであり、英語圏制作ドラマとして登場人物の省略といった、『SHOGUN 将軍』にも見られる欠点はあります。
しかし一話完結、放映時間の短さを踏まえると許容範囲。
BBCのこのドラマでは、家康が【関ヶ原の戦い】で勝利をおさめた要因として、小早川秀秋をクローズアップしています。
単純化しているものの、毬子の説得が勝利の決定打とされる『SHOGUN 将軍』よりずっと良心的でしょう。
イギリス制作なのに三浦按針は登場せず、日本でも自力で導入した火器が戦場を左右していたと説明がなされています。
『SHOGUN 将軍』ではカットされた【関ヶ原の戦い】がこのドラマのクライマックスであり、そのことを思えば、どんなに言い訳をしようと『SHOGUN 将軍』は竜頭蛇尾だと思わされてしまいます。
『SHOGUN 将軍』はVFX効果が喧伝されました。
『ゲーム・オブ・スローンズ』路線ならばそれでよいのでしょうが、日本で城を用いてロケしたほうがよいこともこのドラマからはわかります。
『SHOGUN 将軍』の持つ欠点をカバーした、むしろBBCの方が勧められる「SHOGUN」といえます。
②2019年 アメリカ Amazonプライム『MAGI 天正遣欧少年使節』
天正遣欧使節を描いたドラマです。
これも『SHOGUN 将軍』に欠落した要素がみっちりと詰まった傑作といえます。
このドラマはカトリックとしてローマ教皇に謁見する少年使節をテーマとしながら、むしろキリスト教の持つ罪を問いかける作品といえます。
近世において、キリスト教による文明化を掲げた西洋諸国が、世界各地でどれだけ破滅的な結果をもたらしてきたのか。
そのことを投げかけているのです。
このドラマに登場する宣教師の中には日本人を見下し、侮蔑の眼差しを投げかける者もいます。
船倉に押し込められ、奴隷として売られてゆく日本人の姿も描かれます。
織田信長は西洋との交易に可能性を見出すものの、豊臣秀吉は警戒し、弾圧する様も描かれました。
このドラマの斬新なところとして、宣教師の活動を聞いた秀吉が、朝鮮出兵のアイデアを得る場面があげられます。
近世につきまとう侵略という問題を、歴史的に問い直す刺激的なドラマとなっているんですね。
原案は若桑みどり氏。
脚本と音楽は、大河ドラマ経験がある鎌田敏夫氏と大友良英氏が起用されました。
台詞も音楽も違和感がないだけでも『SHOGUN 将軍』で感じるストレスがありません。むしろ引き込まれます。
日本ロケ、バチカンロケも美しく、衣装や小道具まで、見応えがあり珍しいものがたくさんみられます。
③2020年 日本 NHK大河ドラマ『麒麟がくる』
このドラマは『SHOGUN 将軍』の歴史観とは真逆にあるといえます。
日本近世は朱子学を基に築かれたと描く作品です。
日本に染み込み、歴史修正の根幹にある「脱亜入欧」を否定する描写を意欲的にしています。
主人公である明智光秀が初めて目にする織田信長の姿は、船に乗って海から浜辺に上陸するものでした。
織田家が支配する尾張は海に面しており、交易で財を為していることが象徴された場面といえます。
しかしその交易国はあくまで明です。
ドラマ後半になると信長のもとには宣教師が訪れるとはいえ、それより遥か前に信長は明との交易を志向していたとはっきり描かれている。
信長が西洋の甲冑や衣類を身につけ、ワインを飲む場面はしばしばフィクションにおいて登場します。
しかし『麒麟がくる』の信長はそのようなことは一切ありません。
本作で大きく掲げられているのがタイトルにもある「麒麟」です。
麒麟とは儒教の聖獣であり、泰平の世とともに到来すると考えられています。
信長はこの麒麟を花押に用いていました。
光秀は漢籍を引用し、儒教理念を掲げ、その実現を目指します。
しかし、最終回に近づくと、光秀は信長ではなく、家康こそ実現ができるのではないかと見出してゆく。
日本の近世はあくまで朱子学の理念のもとで実現するという、本来の姿を取り戻す作品といえます。
こうした良質な作品を見ることは、『SHOGUN 将軍』鑑賞後のデトックスになるかもしれません。
時代背景が異なるとはいえ、日本版『ゲーム・オブ・スローンズ』を見たいのであれば、2022年大河ドラマ『鎌倉殿の13人』がおすすめできます。
スタッフが『ゲーム・オブ・スローンズ』を鑑賞し、意識したというこのドラマは、衝撃的な場面が繰り返されてゆきます。
標的に信頼させておき、唐突に暗殺する場面。
弟・義経の首桶を抱きしめて号泣する兄・頼朝など。
史実を基にして十分衝撃的なドラマが作れると証明した作品です。
『SHOGUN 将軍』のシーズン2はあるのか?
『SHOGUN 将軍』は原作部分がドラマ化されています。
シーズン2を望む意見もありますが、果たして現実的な話かどうか考えてみましょう。
私としては、厳しいと言わざるを得ません。
メインヒロインである毬子は【関ヶ原の戦い】の前に殺害されています。この作風ならば毬子が徹底抗戦して討ち死にしそうな気もしますが、どうでしょうか。
あるいはブラックソーンが乱入して、救い出すシナリオもありかもしれません。
【関ヶ原の戦い】のあと、ブラックソーンは重用されるかというと、これも難しいところです。
あくまで交易の窓口としては重用されるものの、幕府に欠かせぬ重臣になったらなったで、トンデモ展開になりそうな予感がします。
そもそもが東の『ゲーム・オブ・スローンズ』ともいえるサムライウォーズは【関ヶ原の戦い】で一旦は終結します。
一気に早送りして【大坂の陣】を迎える展開もあるのかもしれませんが、原作がないからには下り坂になると想像できます。
これはあの『ゲーム・オブ・スローンズ』にもあてはまります。
あの作品も途中で原作該当分が尽きてからは、展開が急激につまらなくなったと酷評されたものです。
いずれにせよ『SHOGUN 将軍』は、シーズン2が作られるかどうかはわかりません。もしそうなれば「どうしてシーズン1で終わらせなかったのか……」と嘆かれる出来となるのではないでしょうか。
2020年代の歴史ドラマはどうなるのか?
オリジナル版『SHOGUN 将軍』放映後に起きたことから、予測できることもあります。
1981年に第一作が発売されたアメリカ産RPG『ウィザードリィ』には、職業としてサムライとニンジャが採用されました。
サムライはもとは「レンジャー」だったものが『SHOGUN 将軍』に夢中になった制作者が急遽変更。
結果として、サムライは戦士でありながら魔法使いの呪文が使えるという、珍妙な職業となったのでした。
もとは「アサシン」であったニンジャも無茶苦茶です。
装備が何もない、つまりは全裸の時にこそ一撃必殺攻撃成功率があがるという設定です。
モンスター側にもサムライとニンジャは出てきますが、これはプレイヤーキャラクター以上に無茶苦茶な設定でした。
モンスターがアニメとして動くようになった作品からは、サムライはわけのわからない奇声を発していたものです。
このことは、まっとうな日本史を学ぶわけでもなく、ノリでジャパンを消費する需要が高まったことを示した一例とも言えるかもしれません。
『SHOGUN 将軍』の成功は日本が魅力的だと誘導したい見解はよく見かけますが、オリジナル版の需要を踏まえるとある程度想像ができるのではないでしょうか。
ニンジャを全裸斬首ユニットにされて無邪気に喜んでいる場合だったのかと、私は考えてしまうのですが。
そしてもう少し『ウィザードリィ』の話を続けますと、また予測できることがあります。
このシリーズは後に「モンク」という職業が登場します。
少林寺僧をモチーフとしているとわかる職業です。
このように、日本要素が一歩先を行っていても、やがて中国要素も加わってきます。
この流れが今後VODドラマでも進むとすれば『SHOGUN 将軍』の後継枠としてマテオ・リッチやカスティリオーネを扱った明清を舞台としたドラマが登場することもあるのかもしれません。
もっとも、そうなるとすればむしろ『MAGI』の流れを汲むので、私としてはそうならないだろうとは思いますが。
では中国要素は無視できるのかというと、私はそうは思えません。
これはむしろアメリカよりも日本の大河ドラマが先行しています。
前述した通り『麒麟がくる』は明からの影響を重点的に描いていました。
『鎌倉殿の13人』にも、『光る君へ』にも、宋人が登場して重要な役割を果たしています。
こうした作品に対する中国人大河ドラマファンの意見を見ていると、ここが狙い目かと思えたものでした。
中国では廃れた文化が日本に残っていること。
日本において漢籍教養が重視されていること。
こうした要素が、中国人視聴者を惹きつけるフックとして機能しているとわかったのです。
『SHOGUN 将軍』のような、日本人女性サービスカットで惹きつけるよりも、こちらの方がはるかによいものだと私には思えました。
日本においても、韓流ドラマと華流ドラマの人気は高まっています。
配信で海外ドラマを見るのであれば『SHOGUN 将軍』よりも面白い海外の時代劇はいくらでもある時代です。
『SHOGUN 将軍』がフォローしている『ゲーム・オブ・スローンズ』にせよ、2010年代に一世を風靡した作品であり、時代はそこから進んでいます。
『SHOGUN 将軍』で歴史を知ることは確かにできます。
しかしその歴史とは、16世紀後半の日本のものではありません。
20世紀の冷戦下という時代に咲いた徒花のような価値観を学ぶうえでは、確かに有効な教材かもしれません。
そしてその教材は、この徒花は早晩枯れると示しているのです。
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【参考】
『SHOGUN』公式サイト(→link)