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【ドラマ大奥感想レビュー第7回】
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仁もない、智もない
右衛門佐と綱吉が漢籍を読んでいます。
人を愛して親しまれずんば、其の仁に反(かえ)れ。
人を治めて治まらずんば、其の智に反れ。
人を礼して答えられずんば、其の敬に帰れ。
『孟子』
人を愛しても親しまれないのであれば、自分の仁を反省しなさい。
人を治めて治まらないのであれば、自分の智を反省しなさい。
動揺を見てとったのか。右衛門佐が、別のものにしましょうか?と提案すると、綱吉は続けるよう促します。
すると右衛門佐は、生類憐れみの令の取り下げを願います。
赤穂浪士の一件も、生類憐れみの令さえなければ、民衆も理解したのではないか? 桂昌院の言いなりになるよりは……と続けようとすると、綱吉は立ち上がります。
「たかが大奥の総取締ごときが政治に口を出すな!」
そう突っぱねられた右衛門佐が立ち上がって綱吉を追いかけようとしますが、頭痛がするのか、こめかみを押さえながら動けません。
綱吉は、桂昌院のところへ。仏壇の前で、若紫の祟りについて詫びられます。
右衛門佐とこの桂昌院、どちらが正しいか?
聡明な綱吉にわからないわけがない。
幼い徳子は、仁を思えば近くに来るという孔子の教えをおもしろいと感じました。
しかし成長して将軍となり、自分の仁、自分の智、それに自信が持てなくなっていると、孟子の言葉に突き当たってしまうのです。
幼き姫は、人の愛と慈しみを知る
綱吉の前に、紀州徳川家一門の光貞とその姫たちが挨拶に来ました。
父の身分が低い三女の信は外にいたので、中に入れるよう綱吉が命じます。
江戸の印象を聞かれ、華やかだと優等生的な褒め言葉を口にする光貞の姫たち。
しかし、地味な服を着た信は、物価の上昇と民の困窮を指摘します。
母の光貞が慌ててたしなめるも、綱吉は彼女の観察眼を誉める。おそらく物怖じしない気質にも感心したのでしょう。
綱吉は若い頃に使っていた簪を姫たちの前に並べ、好きなものをもってゆけ、と選ばせます。
少し躊躇しながら姉二人が一つずつ選ぶと、信はあろうことか「残りを全ていただきたい」と申し出ました。
地味ななりの信が、それほど簪を欲しがったことが意外なのか。なぜさほどに興味があるのかと綱吉が質問してきます。
「自分が使うのではなく、家来衆に分けてやりたい」
綱吉が、その聡明さにますます感心する一方、何か考えるような目つきをしている吉保。
聡明さと言う点では、幼い頃の徳子と信は似ているのかもしれません。
綱吉は、信の心がけを褒めつつ、自身の身なりにも気を遣ったほうがいいと助言します。いずれ夫や側室を持つときのために。しかし……。
「そうなのでしょうか」
信は思わぬ返答をすると、綱吉に許されるまま反論します。
私は特に美しい男に興味がない。
美しい男に興味がない女がいるということは、美しい女に興味がない男もいるはず。
そうした者を選べばよいのではないだろうか?
娘の大胆な発言に思わず光貞が謝ると、綱吉は声を上げて笑い始めました。
美貌という甘い蜜で誘えば、それだけを求めて群がってくる。
なぜ私の中身を見てくれぬのか?と思っていたけれど、いつの間にか、自分自身からそうしていた――そんな呪いに気付き、綱吉は笑うしかありません。
吉保は、悲しい目でその様子を眺めている。
そして綱吉に気に入られた信は、三万石を与えられたのでした。この信こそ、幼き日の吉宗でした。
綱吉と吉保が、信の話をしています。
吉保は後継者に甲府でなく紀州を推せば、桂昌院も納得するのではないかと進言しています。
ここで、幼い頃の自分が出てきた場面を読む、吉宗の姿が映し出されます。隣には加納久通も。
あの日、信が綱吉からもらった簪を受け取った久通は、それをどうしたのか?
吉宗に尋ねられると「上様にいただいたからしまっている」と答えます。
つけどころがなかったのでは?とからかう吉宗に対し、あまり遅くまで起きていないように釘を刺しつつ、久通が部屋を出て行きます。
その顔には何かが宿っています。柳沢吉保とは異なる何か。
久通は、色恋など一切なく、主君の智そのものを信じている――そう感じさせる強さがあります。
それにしても、幼い吉宗の逸話も勉強になります。
こういう幼少期から“ただものではない”という逸話は、東洋における英雄伝の定番です。
近年問題視されるルッキズムへの批判でもありますね。
ルッキズムを信奉すると見失うものがあると突きつけるようで、凄まじい切れ味でした。
孔孟から、老荘へ
やつれた表情で鈴の廊下を歩く綱吉。
白髪混じりの髪となり、打掛も重たく見え、歩みも弱々しく見えます。
跡目の六代将軍は誰にすべきなのか。老中たちが話し合っています。
甲府を推す者たちを、柔らかいようで断固とした言葉で押さえつける吉保。
なぜそこにこだわるのか?
というと、年老いた桂昌院が、断固として甲府を拒んでいるからでした。
お夏への憎しみを未だに口にする桂昌院には天下国家をどうするかという考えはなく、怨恨だけに囚われ、まだ綱吉に子を作るよう促しています。
廊下を歩く綱吉が、右衛門佐が漢籍を読む声に足を止めます。
どこか生気のなかった顔に、何かが灯る。
其の愚を知る者は、大愚にあらざるなり。
其の惑を知る者は、大惑にあらざるなり。
大惑なる者は終身さとからず、大愚なの者は終身霊ならず。
『荘子』
その愚かさを知る者は、大いに愚かなのではない。
その惑いを知る者は、迷いきっているわけではない。
大いに惑う者は、死ぬまで理解できないし、大いに愚かな者は、生涯気づくこともできない。
「今のは荘子か」
そう尋ねる綱吉に、右衛門佐は見事な手つきで茶を献じます。
甲府推しか?と尋ねられ、黙ったまま居住まいを正す右衛門佐。
「政治には口を挟むなと言われております」
そう返すと、綱吉はおもしろくなさそうに、こちらから聞いていると促します。
琭琭(ろくろく)、玉の如きを欲せず、珞珞(らくらく)、石の如きか。
『老子』
宝玉のように輝かなくてもいい。石のように転がっていてもいい。
そう老子を引きつつ、不相応なことは望まないとかわす右衛門佐。
自分は総取締であり、政治に関わるようなことは言わないと逃げる。
のみならず、誰かと己を比較するなんてやめようということを引用しています。
そんな断りを入れておいた上で、今の桂昌院ならば甲府を据えて紀州と言っても気づかないのでは?と提案します。綱吉はその狡猾さに呆れたように、父のことを庇います。
母である家光は忙しく、幼い自分を全く構ってくれなかった。一方で父はずっと自分のことを思ってくれてきた。
父を裏切れないとしみじみと語る綱吉に、右衛門佐は桂昌院こそ最も欲得ずくで綱吉に関わってきたと言います。
利用価値ありきであり、それにすがる綱吉もまた哀れだと。
綱吉は、そんな右衛門佐に、孔子の言葉を引いて返します。
巧言(こうげん)令色(れいしょく)鮮(すく)なし仁。
『論語』
言葉巧みで愛想がいいものは、仁が欠けている。
そこまで言うなら、あの日、抱いて欲しかったと続ける綱吉。
錯乱した彼女を閨で抱きしめた日のことです。
体を差し出さずに権力を得たいからには、己ごときでそこを変えたくなかったと言います。
「そなたは、とどのつまりは、父上と同じではないか?」
その言葉に静かな動揺を見せる右衛門佐です。
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