ドラマ大奥レビュー

ドラマ『大奥』公式サイトより引用

ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ大奥感想レビュー第7回 学問を通じて恋を成就し死す二人

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ドラマ大奥感想レビュー第7回
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何もない、当事者だけの愛

同性婚を認めるか否か。

現在、加熱しているこの議論に対しては「生殖に繋がらない結婚の是非」という反対論が持ち出されます。

となると「熟年同士の結婚はどうなのか?」という指摘も考えられるでしょう。

かつてフランス貴族は、恋愛を経て結婚に至ることは稀でした。

結婚後、子を為すことではなく、純粋な楽しみのために愛し合う――不倫こそステータスシンボルという価値観だったのです。

フランス貴族は極端であるにせよ、熟年の恋愛、何もなさぬ恋愛へのハードルは、日本よりも海外の方が低いように思えます。

海外のフィクションでは、孫のいる当事者同士がデートを楽しむような場面もある。

そういう大人同士の恋愛が、綱吉と右衛門佐の二人にはありました。

同性婚の議論に合わせたわけでもないでしょうが、傑作とは時勢を切り取る好例であると思えます。

 


忠義か、愛か?

柳沢吉保の深い愛も衝撃的でした。

あれほど綱吉を愛していながら、桂昌院に抱かれるしかない。政治権力でなんとか綱吉を助けるしかない。しかしその綱吉は、右衛門佐と愛し合っている。

何重にもこじれたその愛は、思い返すだけでも酔ってしまいそうな濃密さです。

彼女の場合、忠義と愛が混じっています。

江戸時代は忠義を重視した時代で、それは女性にもあてはまりました。

主君が辱められたとき、侍女が復讐をする。そんな事件があると「あっぱれだ!」と褒められます。

吉保のあの愛は、江戸時代の武家女性らしいものとも言えました。

現代人には、なかなか味わえぬ忠義と愛が一体化した境地とは、どのようなものなのか。

しかも、この忠義と愛と女性同士というテーマは、日本だけでもありません。

サラ・ウォーターズの小説『荊の城』は、イギリスのヴィクトリア朝を舞台に、女主人と侍女の熱愛を描きます。韓国で『お嬢さん』として映画化され大ヒットしています。

中国の古典ポルノ『金瓶梅』には、潘金蓮(はん きんれん)という女主人と、龐春梅(ほう しゅんばい)という侍女のコンビが登場します。

この二人が愛し合っていたというスピンオフは、作品が発表されてほどなくしてから定番の一大ジャンルでした。

日本の山田風太郎によるミステリ翻案『妖異金瓶梅』も、この二人が愛し合っています。

 


何にも縛られぬ、天上へ向かう恋

プラトニックであった綱吉と右衛門佐の愛。

それは二人が孔孟問答をしたときから始まっていました。

この恋は、漢学を通して深まってゆく様がわかります。

綱吉は幼い少女時代から、孔孟の教えに心惹かれてきました。彼女が自信に満ちていたころ、右衛門佐は韓非子をよみ、権棒術数を深めるように導いています。

しかし、松姫が亡くなってしまった。

綱吉は父の娘としては孝も叶わず、主君としては仁も智もないと打ちのめされてしまうのです。

そこで右衛門佐は、今度は老子や荘子を読むようになります。綱吉は癒されてゆきます。

彼らは知性に惹かれ合いました。

山本耕史さんが脱がないことにツッコミがありましたが、劇中の二人が求めたのは知に基づいていたものであり、肉体美は二の次ということでしょう。

老荘思想とは、無為自然を掲げる道教の経典でもあります。

その思想体系を説明すると長くなりますが、官僚や国家形成からすると、そんなものに傾倒してはいけないとされる考え方でもあります。

中国で儒教が掲げられたのは、前漢時代のこと。それが崩壊する後漢末は『三国志』の時代です。

そんな乱世の最中、こう考える人々が出てきます。

「儒教なんかに縛られていたら、人は自由に生きられない! 儒教以外の考え方が欲しい」

黄巾の乱を起こした張角は、老荘思想では重視されます。

黄巾党はアンチ儒教としての側面がありました。

黄巾党消滅後も、老荘思想に傾倒する文人たちが出てきます。

彼らの中にはこう考えるものもおりました。

「儒教は子孫を残すための褥を是とする。しかし、あえて我々は、ただの人と人として愛し合いたい」

後漢のあとの魏晋時代には、そんなアンチ儒教ムーブとしての男色が存在しました。周囲は愛しあう男性同士を「思想を極めているなあ」とむしろ感心して見守っていたとか。

一番有名な二人は竹林の七賢である阮籍(げんせき)と嵆康(けいこう)です。

そうした儒教とその束縛からの脱出が、大ヒット作『魔道祖師』や『陳情令』の背景にもあります。

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話を戻しまして。

アンチ儒教として、老荘を掲げ、ただの女と男して愛しあう二人は、思想史からみても興味深いものがありました。

二人の別離は酷いけれども、生きているうちに、彼らは本物の恋に心を燃やしました。

ならば、何か残ったものはあるでしょう。

彼らは手に手をとりあって、仙人となって天へ昇ったのだ――そう思いましょう。美しい恋でした。

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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link

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