ドラマ大奥レビュー

ドラマ『大奥』公式サイトより引用

ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ大奥感想レビュー第8回 空気を読めない吉宗と情緒に敏い藤波

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ドラマ大奥感想レビュー第8回
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大岡越前の腕前とは?

吉宗は忙しい。恋をしている暇はない。

まずは財政です。

幕府の財政は米が大事。石高で藩の規模は決まりますが、江戸中期ともなると、どうにもうまくいかない。

人口増加に経済が追いついていません。そこをなんとかしたいのが吉宗です。

そこで市中より米を買い上げ、米価釣り上げを狙うのですが、三人いる老中は「前例がない」「銭金勘定したくない」「商人は苦手だ」と尻込みするばかりです。

吉宗と久通は「予想通りだ」とサッパリ。

なんでも領地で茶が取れるとか、商人とやりとりがあって金に困っていないとか、自分の懐さえ暖かければどうでもいいというスタンスで、吉宗は老中らに苛立っています。

すべては徳川に所領を安堵されているからではないか――そんな武士の忠義を感じる心が薄れているんですね。

いずれも世襲の殿様だと吐き捨てる久通。

この作品は、一代記ではなく江戸時代を通して描くことに意義を見出しているとか。

吉宗という中興の祖の時点で幕府には綻びが生じていると、丁寧に示してきます。

・外国勢力に襲われる

・世襲のお殿様が自己保身と儲けることばかりを考え、徳川への忠義を忘れる

・経済が行き詰まる

このあたりが危ういですが、国の存亡を考えられない老中に、吉宗は失望するばかり。

とはいえ、スケールの大きな考えができる人の方が少なく、それは吉宗も薄々わかってはいるとは思えます。

その吉宗に、久通が会わせたい者がいると推挙します。

大岡越前忠相(ただすけ)――そう、あの大岡越前です。

かくして“大岡裁き”の実際が見えてきます。どうやら、双方の言い分を聞き、落とし所を探るところのようです。

久通は、主君である吉宗の欠点を理解している。

聡明だけど強引に自分の考えを押し通す。そんな欠点を補う人材として、大岡忠相はよい。そう考えているのでしょう。

吉宗は、米価下落と物価上昇をどうすべきか?と尋ねます。

すると、パッと「米価の供給量を落としてはどうか」という回答が忠相から出てきます。出回った米を幕府が買い上げて、流通をコントロールする策ですね。

吉宗は大満足し、大岡を町奉行にして、この件を一任すると言います。

しかし大岡は、杉下と同じく無欲です。銭勘定は素人だし、老中に任せた方がよいと焦っている。

もしここで大岡が喜んだら、どうなったでしょう? 吉宗は無欲な者を高く評価しますから、贈収賄をしそうな者ならば御役を与えず、下がらせたかもしれません。

吉宗は久通に人事を投げ、計画を進めてゆきます。

自分が得意でないことはあっさり人に任せられる。それも才能の一つでしょう。

久通は笑顔を浮かべたまま老中たちを罷免するのですが、貫地谷しほりさんの笑顔が何ともおそろしい……。

そして彼女は、薬草探索を行う「採薬使」の設置も提案します。

田嶋屋や本草学者からの要望でもあるとかで、全国津々浦々をめぐり、薬草を探し、諸国の薬の実情をみる役目です。

吉宗は本草学者ともやりとりしている水野に、感心して喜んでいます。

本草学者とは、東洋医学で使う薬草を研究する学者です。次に始まる朝の連続テレビ小説『らんまん』の主人公のような職種といえます。

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父? お腹様? どうでもよい

大岡忠相は、米相場の鍵を握るのは大阪であると進言しつつ、いくら江戸で買い上げても無駄であると結論付けました。

ここにも幕府崩壊の要素があります。

経済の西高東低です。

誰かが幕府を倒すとなったら、その軍資金はどうするのか? というと、京都や大阪商人と結託すれば捻出できる。

江戸時代後半には、どの藩も財政難に苦しんでおりましたが、西国の薩摩藩には貿易という抜け道もありました。

さしもの大岡も、大阪商人は見返りがなければ交渉できないと言います。

すると吉宗は、ゆるさん、応じねば罰する……と、言いながら口元を押さえます。

「もしや!」

久通は素早く気付きました。ご懐妊です。

藤波と杉下が、吉宗の懐妊を話し合っていますが、どうにも藤波には複雑な気持ちがあるようです。

上様は誰を相手に懐妊したのかわかっていない。杉下すら困惑しています。

流石に見当がついているのではないか?と返すものの、久通は父は定めないという上様の意思をシレッと語ります。

これに藤波が怒る。

男の夢をなんだと思っているのか!

そう語る藤波は、悪どい男というよりも夢見がちなおじさんのようで愛くるしさすら出てきました。

ここの流れは、日本でも大ヒットした韓国の小説『82年生まれ、キム・ジヨン』の仕掛けを思い出しました。

あの作品では、女性の名前は出てきますが、男性は「父」や「弟」としか表現されない。

「ミラーリング」という手法です。

日本、韓国、中国といった国では女性が「〇〇の娘」や「××の母」といった呼び方で残っていることがよくあります。

それを逆転したらどれほど異常であるか?を示しているんですね。

片方の親だけに顔があって、もう片方がない。それを権力が堂々と認めるおぞましさがわかります。

杉下は藤波を見張るというよりも、むしろ吉宗との落とし所を探る役割を果たします。おそらく藤波は、もう叩いても何の埃も出そうにありません。

そして杉下の提案により、大奥の男たちがズラリと稽古場に集められました。

「稽古総覧」とのことで稽古場へ呼び出された吉宗。

そこにいる男たちは、キラキラした服装ではありながら、平伏する場所が稽古場ということも相まってか、綱吉時代より衣装も地味ですね。

この男たちは吉宗の腹にいる子の父親候補ですね。

上様、どれだけ手をつけたんですか! 驚異的な場面……ですが、この吉宗はいやらしさがまったくない。

こぼれるほどの愛嬌と艶っぽさがあった綱吉との落差が凄い。単なる事務的作業の相手だったのだと思えます。

少しでも羞恥心があれば、頬が赤らんでも良さそうなのに、平然としたままの吉宗。

杉下が「稽古着のない稽古をした相手」とやんわりと告げたことで、やっと気付きます。

しかも、その上で見当たらないと言い出す。その一人とは、あの庭掃除をしていた卯の吉だそうです。

結局、子の父は卯の吉だったようで……杉下からそう聞かされた彼は思わず気を失ってしまいます。

この場面で吉宗はなおも、父なぞ定めなくてもよいと突っぱねているところも重要でしょう。

杉下が父を定めぬと「勝手に名乗る者が出て世継ぎ争いが起こるかもしれない」と忠言したため、ようやく吉宗も折れたのでした。

大岡忠相を主人公とした講談『大岡政談』には「天一坊事件」という話があります。

ある山伏が勝手に、自分は吉宗の御落胤(ごらくいん/貴人がよそで作った落とし種のこと)を自称した、というものです。フィクションとはいえ、元ネタはあったのです。

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真偽はさておき、吉宗が身分を問わず、気ままに手をつけた女性が多いと言う噂は絶えなかったものです。

このシーンにおいては、吉宗だけでなく、久通も、杉下も、色気がないところが実に素晴らしい。

久通は、柳沢吉保とちがい、自分の主君の欠点をふまえつつも、有能だから敬愛している。名馬の手綱をとる喜びを覚えているようにすら思えます。そこに色気や惚れた弱みはない。

杉下も、自分が種無しだと言い切る時も、こんな無茶苦茶なことをやる時も、あっさり淡々としています。風間俊介さんの個性をうまく活きていますね。

風間さんは『麒麟がくる』では徳川家康を演じました。

家康は、側室や子宝に恵まれながら、どこか情愛が欠けていると指摘されます。家を盤石なものとするため子作りに励んだという見方があります。

築山殿と信康を処刑する時も、信長の命令に困惑したものの、後に妻子に落ち度があったとわかるとサッパリした顔すら見せていました。

ドロドロした感情に囚われず、サッパリと物事を進めていく。そんなスマートな流れになってきています。

 


江戸っ子も上様に納得した

吉宗は江戸の町に「質素倹約を旨とするお触書」を出します。

江戸っ子はケチをつけるどころか、吉宗が率先垂範して取り組んでいるからむしろ感心しているとのこと。

食事場面も出ますが、確かに質素です。白米でなく玄米だし、魚も小さい。

それにしても、町人たちは当たり前のように立て札を読んでいましたね。

江戸時代を通して右肩上がりであった識字率は、世界史的に見ても相当高いところに達しました。

立て札は行書体でした。

江戸時代は、現代人が親しんでいる楷書では書きません。書道を習うにしても楷書はやらない。素早く書けるから行書や草書で書く。

幕末に来日した外国人は、看板や瓦版を読みこなす江戸っ子に驚いていたとか。特にロシアの場合、あえて農奴を学問から遠ざけておりました。

江戸は、教養をもとに民衆の声が醸成される社会ではあったのです。そんな社会だから、読み書きができることを前提とした目安箱も設置され、民も声を届けようとする。

裏表のない吉宗の姿勢に、江戸っ子は応じる。

しかし上方の商人は米の買い上げに応じない――さすがに困っていると、陣痛がきました。

大岡忠相が案内された部屋にいたのは、子供を産もうとして、いきむ上様でした。

呆れた産婆から「後にしろ!」と言われて大岡が引き下がろうとすると、即座に上様が引き留める。

大坂商人の対応を聞きながら、さらに上様はいきむ。

と、忠相は、江戸と大阪の違いを説明するのでした。

同じ直轄地といえども、インフラ整備は有力な商人あってこそ成立している。その力は米相場によって手に入れた銭。お上だろうとそこに手は入れさせないのだと。

「侮りおって……くっそおおお、商人めええ!」

上方商人に憤りつつ、姫君出産を成し遂げる吉宗。

ひょっとしてギャグなのか? と思ってしまうほどの安産でした。吉宗は極め付けの安産体質で、こういう人はむしろ極めて少数派なのでご注意を。

それにしても、出産と政治がこうも見事に一体化してしまうと、むしろ女性が政治に携わらないのはおかしいのではないかと思えてきます。

パワーあふれるユーモアを描かせるとき、脚本家の森下さんはノリノリで輝いていますね。

そしてそんなパワーあふれるセンスで見えにくくなりますが、この江戸と大阪の対立は、時代の対立にも思えてきます。

人間の持つ権力も、時代とともに変わります。

中世となると宗教が強い。ヨーロッパではローマ教皇には王ですら頭を下げねばどうにもなりません。

近世へ向かうとなると、商人が権力をつけてきます。

貴族だけでなく、商人が蓄えた富で学問や知識を身につけるようになる。王侯貴族もその金欲しさに権力を与えるようになっていく。

日本の場合は交易を考えると、海へひらけた西日本が強くなります。

幕末へ至る道があらゆるところへ見えてきたのが、吉宗編の特徴でもあるのでしょう。

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