漫画やアニメに始まり映画もグッズも大爆発!
今や社会現象となった『鬼滅の刃 外伝』が2020年12月4日に発売されました。
冨岡義勇と煉獄杏寿郎のスピンオフ作品ですから、これはもう誰もが読みたいところでありましょうし、実際に私もウキウキ気分で購入しました!!! しかし……。
何かが違うのです……。
しかし、その何かを説明するのが難しい……なんて思っていたら、弊サイトにて『鬼滅の刃』分析記事を担うライターの小檜山青が、実に的確な回答をくれました。
一言でいえば「問題アリ」な作品だということです。
では一体何が問題なのか?
その芯に迫る【鬼滅の刃 外伝レビュー】をお送りします。
※本稿は『鬼滅の刃』を心より愛するライター小檜山本人が躊躇するところを編集サイドの意向で無理に書かせました。よろしければ当人の過去記事もコチラ→【鬼滅の刃】よりご覧になってください。
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女マタギ・八重は現実的か?
この外伝は、北が舞台とされます。設定からして秋田県の阿仁が舞台でしょう。
ただ、ちょっとマタギが出てくることで、おかしな点はあります。
・ツキノワグマが人を食べている
人間を殺傷するツキノワグマはおりますが、好んで食べるとなると相当珍しい……というか、ありえない話だと思います。
ただし本編でも、炭治郎が、人喰い熊らしきものを退治する父を目撃していますので、創作範囲とも考えられます。
・寒さ対策
義勇にせよ、しのぶにせよ。
冬の秋田でこの服装は薄すぎて危険です。
・女のマタギはありなのか?
これは今、ホットな話題とも言えます。
かつて女性ではありえないとされた職業でも、考古学の結果、常識を覆す発見が相次いでいるのです。
◆男は狩り、女は採集と限らない 古代に女性ハンター(→link)
数千年前の南米大陸では、大型動物を捕獲する人類のうち30~50%が女性ハンターだった可能性がある――上記の記事は、主にそんな内容です。
本作のマタギは八重という名前ですが、女性狙撃手が主役である大河ドラマ『八重の桜』もありました(2013年)。
新島八重の軌跡を辿れば幕末と会津がわかる~最強の女スナイパー86年の生涯
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あるいは漫画『ゴールデンカムイ』のアシリパは、女性でありながら狩りを得意とします。
アイヌでも狩りをするのは男性であるとされてきましたが、調査の結果、少数ながらも女性狩人がいると判明しました。
では『鬼滅の刃 外伝』における八重は?
果たして女マタギである可能性はどうでしょう?
南米大陸でのニュースは、あくまで考古学での発見。数千年前の話ですから、近現代の設定に照らし合わせるのは難しいところであります。
女性の社会進出は、必ずしも時代の流れに比例して活発化するものでもなく、時代が下ることで排除される部分もあります。
典型例が相撲でしょう。
相撲の歴史は意外の連続~1500年前に始まり明治維新で滅びかける
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和人の女人禁制には「穢れ」という発想と深い関係があります。
生理的な機能が穢れているという発想であり、その思想が強固であるからには
【八重=女性マタギの設定はやや厳しい】
と思います。
悪いとは言いません。
ただ、女マタギが主役の連載作品で、その生い立ちなども細かく描くならばまだしも、あくまで脇役であることを踏まえると、テーマの割に説明の尺が不足している感が否めないのです。
秋田訛りや衣装についても、そこまで考証が厳密でもないところも気になります。
考証が鉄壁な『ゴールデンカムイ』あたりの作品と比較するのもよろしくないと言えば、そうなのですが……。
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冨岡義勇が“普通”では……
マタギの設定云々は、フィクションゆえにありとしまして……。
最も違和感を覚えたのが冨岡義勇の設定です。
しのぶは天然ドジっ子だと解釈していて、本作もその設定で描かれているとは思います。
しかし義勇については、思考過多でありインプットとアウトプットのバランスが取れていないという性質が、描ききれてないのでは?と感じました。
解釈の違いですかね?
ともかく例を挙げていきますと……。
まず、鬼を倒す段階でカッコつけたポーズをして、カッコいいセリフを言うところ。
この時点で妙な感じがしてしまいました。
本当に義勇なのか? カッコ良すぎやしないか? 話すのが嫌いなはずなのに、なんだか普通すぎる……。あの感じの悪さ、めんどくささ、ややこしさ、不気味さが薄れている。
その辺の強弱は、ワニ先生でないと絶妙に描けないのかもしれない。そんな風に痛感してしまったのです。
義勇でしたら、鮭大根を見たところで「パアア」とはならず、無言で食べてからニヤニヤ気持ち悪い笑を浮かべる――そういう反応のほうが自然ではないかと思っちゃうんですよね。
胡蝶しのぶの和装が見られたのはよいことではあるのですが、彼女なら和洋折衷で足元ブーツ、帽子を被っていてもよいかなぁと、ついつい求めてしまいます。
ともかく義勇については、
堂々と柱と名乗れたっけ?
こんな人だったっけ?
これでは、大して嫌われないのでは?
率直にそう感じてしまいました。
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煉獄杏寿郎外伝
煉獄杏寿郎外伝については炎柱になる前の話です。
因縁ある下弦の弍との死闘が描かれました。
こういう細かいことを突っ込むとキリがないし、こちらの根性が悪いようで控えたいところですが……敢えて言います。
明治以降の食物考証は地雷原です!
当時の食事情は非常にややこしくて、まず和食・洋食が入り込んでくるものでした。
現在とは呼称も違う。
一体どこの国由来なのか? とか、そういうことが頻繁に起きて、かなり面倒なのです。
蜜璃がおやつを食べるところを描きたい気持ちはわかりますが、洋菓子を食べさせると罠に陥る危険性が高まります。
すいーとぽてとか。それはただの“サツマイモ”のことであって、お菓子の名称ではないでしょう。
スイートポテトケーキはあるものの、見た目が異なります。
サツマイモは甘藷として江戸時代には根付いているので、そう珍しいとも思われないはずです。
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警察はどうしたのだろう?
こういうことは『るろうに剣心』あたりでも突っ込んでしまう話ですけど、帝都で爆弾テロをするわりには警察が動いていないような気がするのです。
どうにも、大正時代における爆弾の使い方というより、もっと後のフィクションにある爆弾の使い方では?と感じます。
ほんと、めんどくさいツッコミをして申し訳ありません。
煉獄杏寿郎の父・槇寿郎が……
この作品で最も問題だと思ったのは、元炎柱である父・煉獄槇寿郎のことでした。
彼が暴力的で酒浸りになってしまった理由は、愛妻・瑠火の死が原因とみなせます。
それがこの読み切りでは、炎柱の現役時代のかなり以前から勤務中にも飲酒し、鬼を拷問するような人物のように思えます。おまけに敵を逃すという失態までしている。
ここまでしておいて、柱になれるほど鬼殺隊は甘い組織ではないのでは?
それに『鬼滅の刃』は、自分のことしか考えずに愚かな拷問をするような者には、鬼殺隊員であろうが悲惨な運命が待ち受けています。
作品を貫くテーマから、この描写は外れているように思えて違和感があるんですね。さらに……。
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