鬼滅の刃外伝

『鬼滅の刃』外伝/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

『鬼滅の刃 外伝』って何かがおかしい?義勇らに漂う違和感の正体はこれだ!

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鬼滅の刃 外伝レビュー
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佩狼=土方歳三説

なぜ土方歳三が佩狼のモデルとされたか?

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各記事を読んでいると、こんな根拠が挙げられておりました。

・人間時代に銃殺された

→銃に倒された隊士は他にもいて、それだけで土方と特定するのもムリがありそうです。

・土方は「これからは刀や槍の時代じゃない」と嘆いたとされる

→土方のイメージや言動は司馬遼太郎はじめフィクションも多いので要注意です。

程度の差はあれ、幕末の諸藩でも武装や洋式調練はしています。

新選組だって、そこを踏まえて刀剣以外の武器も使っていました。庄内藩のように東軍でも最新鋭の装備をしていた例もあります。

あの描写は「官軍は最新鋭の装備、賊軍は刀剣」という古い偏見由来ありきのようで、問題がありかつ古いと感じてしまいます。

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ガトリング砲を土方が奪って使用したことがある

→これも複数の隊士が該当します。

土方本人というよりも、土方と函館転戦した隊士という設定が妥当かと思います。

なまじ有名な実在隊士だと結びつけると、トラブルの元になりかねない。

では、新選組に佩狼のモデルは実在しないのか?

と問われたら、結論としては

土方と箱館戦争まで転戦した架空の隊士

あたりが落とし所ではないでしょうか。

 

拷問は土方や新選組だけに非ず

箱館戦争に傘下した架空の隊士が落とし所――とは申しましたが、土方説についてもう一つだけ付け加えさせてください。

それは根拠の一つとして挙げられる

【拷問】

であります。

「拷問を得意とした人物といえば?」

そんな風にして、必ず持ち出されるのが【池田屋事件】です。

新選組の隊士たちが突入する前に

「土方が、古高俊太郎の足の裏に五寸釘を刺して、拷問をしたではないか」

という話です。

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この一事でもって、土方だけが特殊であり、拷問が得意と見なすことはできません。

というのも江戸時代は、拷問による自白強制は他でも行われています。

幕末の他勢力の者だって、拷問、暗殺、人体損壊をしておりました。新選組だけに特有の事例ではないのです。

そもそも新選組特有の思想は実際のところそう多くはなく、諸勢力に比して大差ありません。

ではなぜ彼らが際立って危険で残忍だとされるのか?

というと知名度とフィクションの問題でしょう。

勝った側の歴史は簡単に塗り替えられます。

土方個人にせよ、新選組にせよ。残酷で野蛮な言動があるとすれば、個人や組織の問題ではなく、時代と価値観の問題であり、後世で大きく取り上げられてしまえば誤認でもまかり通ってしまうものです。

新選組の場合は、明治政府が広めたいプロパガンダ問題もあり、ともかく悪い側面ばかりが強調されました。

さらにそこへジャーナリズムの問題も加わり、記者が面白おかしく強調することは、現代の報道体制を見ていてもご理解いただけるでしょう。

結果として、史実では確認できないエピソードが強固に根付き、修正は難しくなります。

ネットで広がる【佩狼=土方歳三説】は、そうした状況があって拡散したのでしょう。

日光を嫌う鬼の性質や、幕末の混沌とした状況を考えると、わざわざ函館くんだりまで遠征して土方を鬼にする理由がわかりません。

そこまでせずとも、日本全国で怨恨を抱いた強者たちが死んでいった時代です。

上野の彰義隊士でも、戊辰戦争の諸藩士でも、好きなだけ鬼にスカウトできますので。

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要するに、土方説にはかなり無理があります。敢えてハッキリと言いますが、悪質であるとさえ思えます。

 

固有の組織や個人を避ける理由

幕末の有名人物には、今も現代社会で活躍しているご子孫がおられます。

戦国武将にしたって、江戸期を通じて数多くの血筋が繋がっているほど。

ゆえに、あまりに史実からかけ離れて悪意のある描写は、名誉毀損とまでは言いませんが、時に抗議にも値するものでしょう。

実は『鬼滅の刃』本作の秀逸な要素の一つに、その辺の取り組みがあったりします。

特定の身分、人種、宗教、階層、政治思想、地域といったものと鬼を紐付ていないのです。

人類にとって普遍的な善悪正邪の乱れを、鬼であれ人であれ、業のように描いていて、誰かを特定する要素はない。

新選組は、フィクションであまりに雑で気軽に扱われているため、スルーされがちですが、かなり政治的な存在です。

2004年『新選組!』が大河になった際には、国会で取り上げられたほど。

そういう政治的な色がついた団体構成員を鬼とすると、差別と紙一重になり、面倒なことになります。

『鬼滅の刃 外伝』においては、そういうことを避ける巧みさがなく、話題性のためでしょうか、新選組隊士を鬼にしたことは、大変残念でした。

 

『鬼滅の刃』の配慮と稗史重視

前述の通り、下弦の弍を土方歳三とする見解には反対です。

しかし、すでに各種のレビュー記事や解析サイト等で同説が提唱されています。

時既に遅しかもしれませんが、改めて考えて欲しいことがあります。

・どうして正典『鬼滅の刃』では、実在の人物を鬼にしないどころか、出さないのか

・歴史上の組織なり人物を堂々と出す方が面白いと思ったことはありませんか?『Fate/Grand Order』という好例があるじゃないですか!

・そもそも鬼が、そのへんの一般人ってつまらなくないですか

実はそこには、ワニ先生の配慮があると思います。

『鬼滅の刃』には、稗史(民間で語り継がれた歴史)を重視する傾向があります。

歴史上の人物を不死身にできるのならば、有名人を出せば盛り上がるに決まっている。

けれども、歴史とは教科書に名を残すような英雄だけのものではありません。

名もなき人が生きていた。

そういう人々の姿を重視していると感じるのです。

例えば妓夫太郎と堕姫の二人。

江戸時代に吉原の最下層でうごめき、生き抜いていた庶民のことなんて、歴史の授業では習うことはないでしょう。試験対策にもなるとは思えません。

けれども彼らのように苦労し、声すらあげられず、忘れられてしまった人の声を拾い、苦労を知ることだって、十分に歴史を学ぶ意義がありましょう。

以下の記事に記載させていただいておりますが、『鬼滅の刃』は日本のフィクションよりも、海外の吸血鬼ものの影響を感じます。

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日本の教育にせよフィクションにせよ独特の特徴があって【英雄史観】とでもいいましょうか。

教科書に出てきくるような人物を中心に学ぶことがあまりに多いのです。

海外ではそうではなく、名もなき民衆視点から歴史を見る取り組みが、様々な面でなされています。

そう考えると、日本は特殊かつ歴史観として古いと思わざるを得ません。

結果、弊害はいくつも出てきています。

歴史モノに庶民目線の展開を入れると、

「オリキャラは邪魔」
「こんなの歴史じゃない」
「ファンタジーでしょ」

という意見がつく。

古今東西、歴史ものでも庶民視線や架空の人物は出てくるものです。

日本では、民衆の生活や文化史の軽視傾向が強い。

歴史好きであると言いながら、自国の庶民や文化を語れないのだとしたら、それは問題ではありませんか?

中央重視のあまり地方史――特に琉球やアイヌの歴史を軽視する風潮もあります。ハッキリ申せば、それは差別に等しいでしょう。しかし……。

そうした観点から見ても『鬼滅の刃』本編には明確に新しいセンスがありました。

 

価値観の時計を巻き戻したような……

極端な稗史軽視であった日本の歴史観を、漫画を通じて自然に興味を持てるように誘導する。

実に素晴らしい『鬼滅の刃』本編の取り組み。

しかし、残念ながら外伝では、そうした特徴が感じられませんでした。

旧来のフィクションにあったようなウケ重視の要素を詰め込み、結果、価値観の時計を巻き戻したような印象すら受けます。

編集サイドの意向が反映された可能性もありますが、それ以前に、ワニ先生が特別だということでしょう。

外伝の出来が悪いとは思いません。楽しんだ方も多い。ファンにとっては十分面白いでしょうし、佳作だとも感じます。

ただ……これを公式とすることには疑念を感じるのは上記の説明通りです。

ワニ先生は、歴史的配慮とインプットが鉄壁です。

セリフの語彙力、時代考証の確かさ。わかっていてそこをアレンジする柔軟性もある。作画も崩れることはあっても基本的なデッサン力がある。

世間で受けている最大公約数よりも、自分なりの信念と描きたいものを突き詰めていく。

やはり特別だと思えました。

集英社や『ジャンプ』にも様々な事情があるのでしょう。

作者の負担を重くし過ぎず、なるべくビジネスとして展開し、ファンの心も掴んでおきたい。

そういった妥協点模索の結果がこの外伝かもしれませんが、どうにも納得できかねるというか……。

そこで僭越ながら提案です。

ワニ先生がすべて手がけたものを『正典』と呼ぶのはいかがでしょう?

シャーロッキアンと呼ばれるシャーロック・ホームズのファンは、聖書にならった呼称を用います。

コナン・ドイルが手がけた作品を『正典』と呼び、それ以外のパスティーシュ等、膨大な量の作品は『外典』等と呼ぶのです。

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一介の書き手がこんなことを指摘するのは恐れ多いことではあります。

しかしそう言わずにはいられない。

外伝を読んで抱いた感想は率直なところそうなります。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考】
『鬼滅の刃 外伝』(→amazon
『鬼滅の刃』アニメ(→amazonプライム・ビデオ

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