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【よしながふみ原作『大奥』】
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愛のかたちも人それぞれ
男女逆転していようが、いまいが、血統により権力を継ぐことは残酷であり、かつ無理がある。
そのこともこの作品ではよくわかります。
最初の女将軍である家光の時点で、有功との間には子ができません。
いくら二人が愛し合おうと、いつまでも一緒にはいられない。そんな残酷な史実が突き刺さります。
これは代替わりしてもそうであり、生殖と愛情が一致しないことの方が多いのがこの作品の特徴です。
ロマンチックで甘ったるい話どころか、実は常に苦い思いがつきまとうのも宿命といえます。
これだけ長い時代を扱うだけに、人間が血を継いでいくことの困難さも、史実を踏まえてみせてくる本作。
実際の江戸時代にしても、多くの大名家で血が途絶えてしまい、養子によりなんとか家が保たれていたのが実情です。
幕末編になると、こうした史実を生かしつつ、新たなる家族についても考えさせるのが、本作の傑出したところ。
この作品の家茂と和宮は、女性同士で夫婦となります。
そんな二人が養子をとることで家族を作り上げていく。それが自然に、あっさりと為されていく様は痛快ですらあります。
血のつながりだけによらぬ家族。多様性にまでこの作品は踏み込んでゆきます。
NHKドラマ版の意義
NHKが、そんな大傑作を幕末までドラマにした。
ドラマ版では原作からカットされている部分はあります。
シーズン1は3、5、8代将軍編とされており、その間の4、6、7はカットされています。江島・生島事件のような有名な事件は描かれておりません。
一方で、描写が大幅に増えていることもある。
赤面疱瘡の設定が増やされ、吉宗が小川笙船や大岡忠相、そして水野祐之進改め進吉とその対策に挑む描写はドラマオリジナルといえます。
小川笙船が吉宗と共に日本中へ広めた医療改革~今まさに見直される東洋医学史
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この描写は、赤面疱瘡が人獣共通感染症であることを示唆し、かつ東洋医学に基づく医療制度の限界点に挑むという秀逸な展開になっています。
原作の世界観を崩すことなく、史実をふまえて膨らませ、吉宗の偉大さを再認識させるという離れ業を見せているんですね。
大奥の外から小川笙船と水野進吉が大きな役割を果たすことも、シーズン2での平賀源内たちの活躍への導線となっています。
ここまでアレンジしても原作ファンを納得させる。
まさしく離れ業といえます。
NHKドラマ版は、大河ドラマやEテレで培ってきたNHKの強みを活用しきった傑作と言えます。
時代考証では、原作を変えてでもより正確な描写にしている箇所があります。家重のような、暗君とされてしまった人物に寄り添う優しさもあります。
原作の構成を丁寧に再構築する。
同じセリフでも入れるタイミングを変えることで、テーマを強くする。
そんな超絶技巧が張り巡らされています。
多様性への配慮もあります。
平賀源内はトランスジェンダー男性ではないかと思える描写になっていました。NHKドラマ版は、2023年という時代にこの原作を描く意義を存分に発揮した大傑作といえます。
そしてこのドラマは、江戸時代後期を映像化するという大きな一歩でもあります。
繰り返しますが、江戸時代後期はなかなか映像化されない。
けれどもこの変革へ向かう時代の印象がつかみにくことが、近現代史理解を阻害していることは否めません。
それを補うべく、『大奥』シーズン2、そして2025年大河ドラマ『べらぼう』に繋がっていくと思えます。
歴史総合の時代に相応しいドラマとして、新たなる挑戦への序章として、NHKは『大奥』に挑みました。その挑戦は成功したといえます。
戦国と幕末の英雄譚を楽しんでいるだけの時代ではないと示す。大きな一歩がこのドラマです。
森下佳子さんたちが挑むこの挑戦をこれからも見届けていきましょう。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
よしながふみ原作・漫画『大奥』(→amazon)
NHKドラマ10『大奥』公式サイト(→link)