毎回、涙を誘われながらあっという間に終わってしまった2023年のNHKドラマ10『大奥』をまだまだ見たいんじゃ――そうお嘆きの皆様、何か大事なことを忘れてはいませんか?
本作には、よしながふみ氏の原作漫画『大奥』が1~19巻まであります。
もともとは隔月刊誌『MELODY』の2004年8月号から2021年2月号まで掲載されたもので、当時と今では登場する歴史人物の捉え方が違うこともある。
ゆえにドラマとは一味違うあの傑作をもう一度、ジックリ何度でも味わうことが可能!
では、何がいったい違ったりするのか。
ドラマ版の特徴なども合わせて、コミック版の原作『大奥』を振り返ってみましょう!
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私たちは江戸時代を知っているのか?
歴史の授業や時代劇でお馴染み。
当たり前のように存在する江戸時代のことを私達はどこまで知っているのか?
「江戸時代」と聞いて、誰しもパッと思いつく衣食住のイメージがおありでしょう。
日光江戸村だったり、量販店にあるコスプレ衣装だったり、往年の時代ものコントだったり、身近にありすぎて普段から慣れ親しんでいる……しかし、それは江戸のいつ頃の話なのか。
例えば「江戸の町の風景を思い浮かべてください」と言われたら、どんな絵を想像されます?
おそらく多くの方が以下のように
歌川広重などの浮世絵を思い浮かべるでしょう。
しかし、こうした浮世絵も時代によってかなり色味が違っていて(歌川広重は1797-1858)、我々の記憶は多くが江戸後期に上書きされています。
中期以前はボンヤリとしていて、なんなら、それより古い戦国時代のほうが想像しやすい。
大河ドラマでも“奇妙な現象”は起きています。
一作目『花の生涯』で井伊直弼を主人公にした後、次も外さない定番の題材として選ばれたのは『赤穂浪士』です。
五代・綱吉時代の『忠臣蔵』から八代・吉宗までの江戸中期――長いこと大河ドラマ定番の題材でした。
つまり、かつての大河ドラマは
・戦国
・江戸中期
・幕末
という三本柱から成り立っていたのです。
しかし平成11年(1999年)の『元禄繚乱』を最後に江戸中期の題材は大河から消え、民放での時代劇も気がつけばほぼ全滅。
幕末を除いて、江戸時代は全く人気がない!
そんな苦境に陥っていますが、果たしてこれでよいのか。
近世とは、国民的な文化が生まれ、国民性が形成されていく重要な時代です。
そうした時代を知るフィクションが存在しないのはマズイ……そんな状況を救うかのような作品が、よしながふみ氏原作の漫画『大奥』であり、それを元に作られたドラマ10『大奥』でしょう。
家光時代から幕府の終焉まで、非常に長い期間が描かれるだけでなく、事件や人物に注目しながら時代の流れそのものも理解できる。
歴史を学ぶ上でも役に立つ本作の魅力は一体なんなのか。
積極的に新説を取り入れ、政治性を排除した公正さ
大河ドラマでは長いこと『忠臣蔵』が定番でした。
それが現在では肯定的に取り上げられにくくなったとされます。
綱吉政治が見直され、かつ『忠臣蔵』にかかっていたバイアスが取り除かれつつあるためです。
赤穂浪士の“義挙”については、事件当時から「逆恨みの凶行だろ」という批判がありました。
しかしフィクションとして幾度も取り上げられていくうちに、そうした批判の声は除去され、どんどん美化されていった。
よしながふみ『大奥』は男女逆転のSFであるため、歴史的な整合性や新説とは無縁のように思われるかもしれません。
しかし、それは全くの誤解です。
時代考証はむしろ厳密かつ丁寧。
この作品は権力闘争、政治劇、そしてそれを都合よく解釈する民衆心理まで巧みに描いた良質なフィクションであり、これまでの偏見まで除去される、痛快な瞬間が何度もあります。
いわば歴史作品の“傑作”であり、そうと言えるだけの仕掛けがこの作品の随所にある。
汚職政治家のイメージが強い田沼意次。
こうした人物は最新の研究に基づき、丁寧に再評価がされてゆきます。
男女逆転しているにも関わらず、彼らが誤解された理由までを丁寧に解釈できてしまう――その手際は、まさに傑作だけが持つ強い説得力に溢れているのです。
近代以降を描く意義
NHKドラマ10でシーズン2にあたる後半は、江戸時代そのものの再評価にも挑戦しているのではないでしょうか。
10代・徳川家治の時代は、将軍よりもむしろ市井に生きる平賀源内が、新時代への息吹を吹き込む。
江戸時代は厳格な士農工商があり、窮屈だった――そんなイメージも、実は明治以降に強固となった歴史観由来のものではないかと指摘されるところ。
支配階層の武士だけが歴史を変えたわけではなく、庶民まで高い識字率があり、文化文芸が発展していった。
そうした積み重ねがああったからこそ、明治以降の急速な転換が成し遂げられたのではないか?と見直されているのです。
『大奥』は、これまで何度も映像化されています。
しかし前半部、女将軍と美男の一風変わったシンデレラストーリーとしての需要が高かったように思えます。
『大奥』を歴史作品として見るならば、市井の人々が歴史を動かす描写の意義こそ、重要ではありませんか?
市井の人々と、城中にいる田沼意次が協力する。
その過程において、遊女とオランダ人の間に生まれた青沼が重要な役割を果たす。
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身分を超え、偏見を捨てることにより、道が拓ける。
公共福祉という概念が確固たるものとなってゆく。
そう描くことで、歴史とは何か? を考えさせる意義まで有していると思うのです。
『大奥』は終始一貫して傑作であるといえます。
それが後半に突入することで、ますます輝きが増してゆく。歴史を学ぶ意義が一段あがる。
驚異的な作品であり、めったに出会えるものではないでしょう。
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