【写真左】渋沢栄一とその家族(右端が後妻の兼子)【写真右】先妻の渋沢千代/wikipediaより引用

幕末・維新

女遊びが強烈すぎる渋沢スキャンダル!大河ドラマで描けなかった史実

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渋沢栄一の女性スキャンダル
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渋沢一族のキリスト教活用

渋沢栄一の妻・兼子の発言については、明治に受容されたキリスト教の影響を考えねばなりません。

キリスト教では嫡子と庶子の区別が厳格です。

例えばナポレオンには、父そっくりの庶子アレクサンドル・ヴァレフスキがおります。それでも母が愛人であったマリア・ヴァレフスカであるため、ナポレオン2世としては扱われませんでした。

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こうした相続制度から「キリスト教は性的に潔癖である」という印象がありますが、そんなことはありません。

フランス上流階級は婚外交渉がないと「枯れちゃったの?」と思われるほど奔放。

その影響は王政が終わろうと残り続けます。

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プロテスタント国のイギリスでも、ヴィクトリア女王の息子たちがあまりに奔放で、散々そのことが問題視されていました。

ドイツでもスキャンダルはある。

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それでも問題視されるだけまだマシであるし、清く正しいプロテスタントとして生きる人々もいる。

日本初のプロテスタント式婚礼によって結ばれた新島襄と八重夫妻は、異世界に生きるように思われてもおかしくはありません。

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そう不満を漏らせるところが、兼子は明治の女性であるとも思えます。

幕末を生き抜いた千代は、そんな愚痴すら言わず、黙って涙を落とすばかりであったのですから。

そんな兼子は、キリスト教を自分なりに受容し、適用したと思えることがあります。

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渋沢一族と正式に認められる子は、嫡子のみとされました。

大勢いた庶子は認められず「渋沢同族会」に入れないとされたのです。

千代と兼子の子だけが、公式に渋沢一族として認められました。そうしなければならないほど、渋沢栄一には愛人との間の庶子が多かったのです。

 


抜群の自己プロデュースと力で隠し通す

時代は明治です。

栄一や慶喜がいくら言い訳をしたところで、食べ物にすら困っていた幕臣、奥羽越列藩同盟の藩士、屯田兵からすれば、二人の暮らしぶりは不愉快極まりないものがあったことでしょう。

渋沢栄一と気が合わなかったという、福沢諭吉がそんな苦い思いを代表して炸裂させています。

「洋の東西、下劣なものはいくらでもいる。しかし、西洋と比べて我が国はどうだ? あまりに堂々としていて慎みがない!」

今なら週刊誌に掲載されていそうと思われるでしょうが、明治の世にもジャーナリズムはあります。

むしろ今では考えがたいほどの突撃取材もできる。

こうした醜聞は見逃されるはずがありません。

実際、明治31年(1898年)、気鋭のジャーナリストである黒岩涙香は『万朝報』にスクープ連載を掲載しました。

「弊風一斑 畜妾の実例」

現代風ならば、こんな感じですね。

「スクープ暴露! あの有名人のゲスの極み愛人とは!?」

住所と実名つきで、渋沢の二十代妾2名が暴露されたのです。

ただし、世間の反応はそこまで激烈でもありません。というのも当時は他にもスキャンダルが多すぎて、渋沢については埋没したのです。

どうしてそうなったのか? 原因を推理してみますと……。

・外面がよい

→福祉事業に力を入れていたこともあり、悪辣な印象が薄かった。醜聞が明らかになっても「えっ? 伊藤博文や桂太郎ならわかるけど渋沢栄一まで?」という反応もあったとか。

・相対的にマシだった

→彼と仲の良かった伊藤博文や井上馨、長州閥の政治家は政治力が強い上にもっと派手に遊んでいました。それと比較すればマシですので、ジャーナリストもスクープ種としてそちらへ向かうのでした。

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・妾がキャラ立ちしていない

→栄一本人、兼子の厳しい目線や管理もあったのか、悪目立ちするほどの存在はおりません。

当時、世間の憎しみを買ったスキャンダル女王には、山縣有朋の紹介で桂太郎の愛妾となったお鯉がいます。

このお鯉は当時典型的な悪婦とされ、日比谷焼討事件では「桂とともにお鯉を殺せ!」と叫ばれたとか。殺害脅迫状も大量に届いていたそうです。

そんな女性と比較すると、おとなしい女性を選んでいたわけですね。

・財力、権力、筆力がある

→長州閥の大物と仲がよろしいうえに、幕臣出身のジャーナリストである福地桜痴らとも交流があります。

なまじ節義にあつい幕臣は、清貧を選んだが故に権力と財力がない。しかし渋沢栄一にはある。口に糊をするためにも、渋沢栄一の意向を受けてごまかす人は出てきます。

彼はある程度ジャーナリズムまで支配下におき、世論操作に長けていたんですね。

・カモフラージュ

→嘘をつくときは、ほんの少し真実を入れるとよいとされます。聖人君子じゃありません、美女は好き……そう告白すれば、世間はそれ以上突っ込もうとはしない。そんなカラクリはあります。

彼自身、女性関係では恥じるところがあるとおおっぴらに認めている。

その一方で、本当に隠蔽したかったであろう天狗党関連については口が重く、大正時代の最晩年にならねば追悼すらしていません。

実は「色好み」が目眩しとして使える話になっていたんですね。

・お笑い草にできた

→現在、昭和時代のコメディを見てギョッとすることはありませんか?

女性を性的にからかい、おちょくることで笑いを取っていた。今からすればとんでもない、そんな笑いがありました。

人間の進化とともに、かつての笑いが差別になることは普遍的な現象です。

渋沢栄一の女性関係の話は、ユーモア混じりで語られていることが多いもの。女性の嘆きは笑い話になる時代だからこそ、問題にはならかったのでしょう。

「いやあ、愛人宅にまで社長を呼びに行ったんですけど、絶対いるのにシラを切るんですよ。アハハ」

こんなふうに語られるだけで、終わってしまうのです。

もちろん、だからといって誰もが納得していたわけでもありません。

渋沢栄一の伝記『渋沢栄一伝』を執筆した幸田露伴は、誰かが渋沢栄一の話をすると逸らすようになりました。

なまじ外面がよいだけに、面と向かって批判はし難い。

信じてもらえず、逆に自分がおかしいと思われかねない。ゆえに幸田露伴は話を逸らすしかなかったんですね。

 

「明治の倫理観」は受け入れられるのか?

2013年の大河ドラマ『八重の桜』放映時、こんなハッシュタグがSNSに登場しました。

#あんつぁまを鴨川に重石をつけて投げ込め

ヒロイン八重の兄である覚馬が、京都で時栄という愛人を作り、会津に残してきた妻・うらが離縁とされてしまった一件なのですが……。

覚馬は視力と脚の自由を失い、面倒を見る女性が必要ではありました。

それでもうらの涙に視聴者が感情移入し、あんな奴は鴨川に沈めろ!と怒りのハッシュタグをつけ、投稿していたのです。

この動きについては、あのドラマならではの誠意と、会津藩の事情があります。

会津藩では婚外の性的交渉は男女ともに禁止でした。

破れば離婚。

『八重の桜』では山本覚馬と梶原平馬(妻は山川ニ葉)が当てはまります。

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この後も朝ドラと大河では「不誠実だったり浮気をする男性は河川に投げ込むべきだ!」という投稿がされました。

『青天を衝け』放映中の朝ドラでも、『おちょやん』でのヒロイン夫の不倫からの離婚が放映されると大反響。

『おかえりモネ』では、こんなことがありました。

◆朝ドラおかえりモネ「昭和の倫理観」トレンド入りでネット総ツッコミ!BSではトムさん→火野正平の奇跡のリレーも(→link

長くなりますが、引用させていただきます。

登米市でジャズ喫茶店を営む田中は肺がんを患っている。現在は独り身で、田中がなぜこうなったかを百音に明かす場面があった。

若いころは家族で生活していた田中だったが、複数の女性と浮気してしまい、愛想を尽かした妻が娘を連れて家を出て行ってしまったのだという。

この告白に百音はドン引き。

田中は「引くな、引くな、引くな…。いや、(当時は)割とよくある話だったんだよ。昭和の、倫理観だよ」と言い訳したが、平成世代の百音にその考えは理解できず、百音は「ひどい…ひどすぎます!奥さんかわいそう!」と怒りをあらわにした。

ちなみに田中は、同診療所の医師、菅波光太朗(坂口健太郎)にも自身の過去について打ち明けたが、菅波も百音と同様に「えっ…」と絶句。

田中は「ハハ…おいおい、先生もドン引きかよ。潔癖だねぇ」と苦笑いするしかなかった。

田中の衝撃告白にネットは総ツッコミ状態。

ツイッターには

「昭和の倫理観って何だ?昭和でもNGだぞトムさん」

「昭和の倫理観…って、んなモンで通るかい」

「昭和の倫理観ってそんな乱暴なwいつの時代でも顰蹙じゃないっすか?」

「昭和の倫理観w田中の倫理観では?w」

「モネちゃんが昭和を知らないのをいいことに昭和の歪んだ倫理観で押し通そうとするトムさん」

「昭和を知らない子が聞いたら『へぇ~昭和ってそんな感じだったんだ~』ってなってしまわんかこれw」

などの書き込みが殺到し、大ブーイングとなった。

「昭和の倫理観」ってなんなんだ?

そんな言い訳をしたところで酷いものは酷く、許されたものではない。

それが今の見方で、人間の倫理観も変わるものだと感じます。

だからこそ不思議でなりません。

『青天を衝け』ではむしろ夫婦愛をプッシュしている。

SNSにはこんな意見すらありました。

「史実の渋沢栄一なんてどうでもいい! 千代とこんなにステキなカップルなんだから、都合の悪いことは隠して欲しい」

不都合な史実よりも、甘い嘘が好まれるとはいかがなものでしょう。

それほどまでに甘ったるく夫妻を描くドラマの作り手の力量には感服するばかりです。

でも、それって大河でしてよいことなの?

都合の悪いことは隠して好感度で世間の目を逸らす。そんな高度なテクニックを『青天を衝け』の作り手は渋沢栄一本人から学んだとすら思えてきます。

怖い作品です。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
鹿島茂『渋沢栄一』(→amazon
土屋喬雄『渋沢栄一』(→amazon
芳賀登『幕末志士の世界』(→amazon

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