渋沢成一郎(渋沢喜作)

渋沢成一郎(渋沢喜作・右)と渋沢栄一/wikipediaより引用

幕末・維新

渋沢成一郎(喜作)が彰義隊へ!従兄弟の栄一とは進む道を違えた74年の生涯

こちらは3ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
渋沢成一郎(喜作)
をクリックお願いします。

 


米相場や為替に敗れて借金30億円

もういいよ。聞いてて辛い。

そんな風に耳を塞ぎたくなるような成一郎のリクルート人生も、ここでいったん終了。

次は転職ではなく起業へと向かいました。

「今からやるなら蚕と米がいい。蚕は外国の需要もあるし、米は日本中の誰もが食べるからだ」

成一郎の挑戦に対し、栄一も喜んでアイデアを進言。

程なくして横浜に「生糸問屋渋沢商店」が設立されます。

しかしながら、栄一が語るように成一郎は「投機的」な男でした。

米と蚕糸の商売だけに飽き足らず、米相場(今でいう先物取引)に手を出し、大損失を招いてしまうのです。

この借金については栄一が尻拭いをし「今後は、絶対に米相場には手を出さず、現物の委託販売に留め、原則として生糸のみを扱うこと!」を念押ししました。

「わかった!」

という二つ返事でバクチを止められる人物であれば、最初から米相場に手を出したりしません。

3~4年はおとなしくしていましたが、明治18年(1885年)に今度は弗相場(ドル相場:今でいえばFX)に手を出してしまうのです。

彼曰く「始めるとこれがなかなか面白く、簡単にはやめられない」ということですが……そりゃダメでしょ!

栄一も相当呆れていたようで、案の定、成一郎は大失敗します。

「米相場のように生易しい失敗ではなかった」ようで(栄一談)、明治20年(1887年)時点でなんと70万円、今の価値で30億円ほどの巨額負債を作ってしまうのです。

 


隠居を条件に借金を建て替え

借金については栄一が保証人になっているわけでもありません。

支払いできなければ、単に銀行の損害となるだけ。

さすがに栄一としても「無視してもよかった」ようですが、そうは言っても「幼少の頃より生死をともにした間柄であり、むざむざ商売をつぶすのは惜しい」と考えます。

そこで次のような条件を出し、成一郎の借金を建て替えてやりました。

・成一郎は隠居する

・息子の渋沢作太郎に店を譲る

・家業には口出しせず、手出しもしない

建て替えた30億円もの大金は、成一郎の息子・作太郎が返済することになっていました。

が、誰より驚いたのは父の成一郎だったかもしれません。

己の息子には紛れもなく商才があり、店はみるみる繁盛。20年計画の借金返済が、その約半分12年で完了してしまったのです。

残念ながら作太郎は若くして亡くなってしまいましたが、跡を継いだ成一郎の三男・義一も優秀な経営者でした。

店は変わらず繁盛し、成一郎もそれを見て大層喜んだと語ります。

隠居してからも若干の「おイタ」はあったようですが、大したことではなかったので栄一がその都度補填してやりました。

なかなか懲りない人ですね。

そして息子たちの活躍を見守った成一郎は、大正元年(1912年)8月30日に74歳でその生涯を終えました。

イトコの栄一や息子たちとは異なり、まったく商才のなかった成一郎。

栄一も「はた迷惑な男である」と言いつつ、困ったときには常に手を差し伸べていて、人間的には信頼していたのでしょう。

商才を発揮した息子たちとは親子のように親密な関係を築いていたともいいます。

確かに商売の才能はありませんでしたが、もしかすると教育者には向いていたのかもしれませんね。

 


追記(2025年8月29日)

渋沢成一郎に関連する画像を本文中に9枚追加しました。

なお、渋沢栄一や渋沢成一郎と縁が深い飯能市公式サイトでは「飯能戦争」に関する史料が確認できます。

ドラマの中で渋沢平九郎が自害を遂げた戦争ですね。

飯能市の公式サイトでは振武軍の記念碑などもご確認できます。

▼更新履歴
・2025年8月29日:命日にあわせ肖像などの画像を追加

・2021年5月24日:記事公開

あわせて読みたい関連記事

渋沢栄一
渋沢栄一には実際どんな功績があったか「近代資本主義の父」その生涯を振り返る

続きを見る

尾高惇忠
栄一の嫁兄・尾高惇忠は学問に通じるも実業はサッパリ?富岡製糸場で大赤字

続きを見る

尾高長七郎
「北武蔵の天狗」と呼ばれた剣士・尾高長七郎は渋沢栄一の従兄弟で義兄だった

続きを見る

渋沢敬三
なぜ渋沢敬三は大富豪・栄一の後継者となったのに“絶望”の涙を流したのか

続きを見る

平岡円四郎
慶喜の腹心・平岡円四郎の生涯~渋沢を見出すも突如暗殺された理不尽な結末とは

続きを見る


参考文献

  • 公益財団法人渋沢栄一記念財団(編)『渋沢栄一を知る事典』(渋沢栄一記念財団, 2010年, ISBN: 9784490108248)
    出版社: 渋沢栄一記念財団
    Amazon: 商品ページ
  • 渋沢栄一/守屋淳(訳・編)『現代語訳 渋沢栄一自伝:「論語と算盤」を道標として』(ちくま新書, 筑摩書房, 2010年, ISBN: 978-4480065353)
    出版社: 筑摩書房
    Amazon: 商品ページ
  • 土屋喬雄『渋沢栄一』(人物叢書, 吉川弘文館, 新装版2009年, ISBN: 978-4642051590)
    出版社: 吉川弘文館
    Amazon: 商品ページ
  • 鹿島茂『渋沢栄一 上 算盤篇』(文春文庫, 文藝春秋, 2020年, ISBN: 978-4167590079)
    出版社: 文藝春秋
    Amazon: 商品ページ
  • 安藤優一郎『江戸のいちばん長い日:彰義隊始末記』(文春新書, 文藝春秋, 2018年, ISBN: 978-4166611669)
    出版社: 文藝春秋 |
    Amazon: 商品ページ
  • 渋沢栄一記念財団「実験論語処世談 22巻 4.渋沢喜作との関係」
    公式ページ (最終閲覧日: 2025年8月28日)

TOPページへ


 

リンクフリー 本サイトはリンク報告不要で大歓迎です。
記事やイラストの無断転載は固くお断りいたします。
引用・転載をご希望の際は お問い合わせ よりご一報ください。
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

とーじん

上智大学文学部史学科卒。 在学中から歴史ライターとブログ運営者として活動。 各メディアでのライティングを手掛ける一方、歴史エンタメ系ブログ「とーじん日記」ならびに古典文学専門サイト「古典のいぶき」も運営。 専門は日本近現代史だが、歴史学全般に関心を持ち、映画やアニメなどエンタメ方面でも記事を執筆している。 2023年にサンクチュアリ出版から『胸アツ戦略図鑑 逆転の戦いから学ぶビジネス教養』を発売。

-幕末・維新
-