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【平賀源内】
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晩年と最期
源内には肖像画が残されています。
若い頃からやや太り気味であった体重は、年齢と共に増加、出仕せずとも暮らしていくことはできました。
ただし、事業や知識の吸収に金を使いすぎ、経済状況はいつも順風満帆だったとは言えません。
火浣布や羅紗は中途半端に終わり、源内焼も中途半端で、戯作もヒットせず。
そして安永5年(1776年)に手掛けたエレキテルが、彼にとってストレスの決定打となります。
偽物が出回ったり、原理を理解できぬものから「山師だ」と誹謗中傷されたり。
若い頃は「山師と呼べばいい」と泰然自若としていたものの、歳を取ってからは辛くなることもあったのでしょう。
50歳の歳には、自虐的にこう詠んでいます。
功ならず名ばかり遂て年暮ぬ
そして安永8年(1779年)、源内は生涯最期の引越しをします。
今で言う「事故物件」が転居先であり、破格の安さで広い家を手に入れたのです。
この頃の源内は、発明家や作家としても行き詰まり、それまでのように活き活きとした作品を生み出せなくなっていました。
だからでしょう。後輩に難癖をつけたり、厄介者扱いされるようなふるまいが増えてゆきます。
殺人事件未遂の真相は
この年、さる大名屋敷の改築計画がありました。
さる町人が見積を出したところ費用が嵩み、そこでその大名が源内に見積を出すと、やたらと安い。
当然ながら大名は源内に任せようとすると、先に請け負っていた町人が不服を申し立て、間に入った役人が話をまとめ、結局、町人と源内の共同工事となりました。
町人は、源内と役人が出席する和解の酒宴で尋ねます。
「どうしてあんなに安くできるんですか?」
「それはだな……」
酒に酔いながらも源内は説明。
そのうち役人は帰宅し、源内は寝てしまいました……が、目覚めると、設計書がありません。
「おい、盗んだな!」
「違います! 知りません!」
横にいた町人に尋ねると、相手は否定するばかり。源内はカッとなって町人を切りつけてしまいます。
とどめを刺すには至らず、相手はその場から逃げ出しましたが、あの怪我では助かるまい、と覚悟を決め、源内は切腹しようとします。
そしてその準備をしているうちに、箱の中から設計図が……。
『無実の者を勘違いで殺してしまった!』
もはやこれまで!と腹を切ろうとしたところで、結局、源内は逮捕され、11月21日、小伝馬町に投獄されたのでした。
そして12月18日には獄死。
死因は破傷風で、享年は52とされます。
墓碑銘は盟友の杉田玄白が手掛けました。
いくら非常の才を持つからといって、死に方まで非常でなくともよいだろうに――玄白はそう嘆いたのでした。
源内を支えたのは田沼意次だった?
平賀源内は、時代に即した人物でした。
フリーランスでマルチタレントとして生きていけたのは、それだけ社会が爛熟していたからでしょう。
新井白石から始まり、吉宗の時代に高まっていた、「輸入品ではなく国内産を高める熱気」に彼はうまく乗りました。
なんだかんだで彼の事業を最も支えたのは、開明的な幕僚・田沼意次だったのです。
盟友の杉田玄白や前野良沢といった錚々たる面々も、彼の才能を磨きました。
しかし、この後が続いていないように見えます。
歴史に「もしも」を持ち込むのであれば、この田沼意次路線が続いていたことを考えてしまいます。
源内のような人物が理解されやすく、新技術の開発や文化的な取組も、より一層活発化したことでしょう。
実際はそうならず、田沼時代の開明的な空気は閉ざされ、幕末へ……なんて言うと、ひたすら暗い気持ちになりそうですが、源内のような人物が開いた扉は確かに未来へ繋がります。
誤解されがちですが、江戸幕府は閉ざされて停滞していただけではありません。
近世から近代へ向けて、そこには確かな胎動があり、幕末に黒船が来航した後、オランダが幕府に輸出できる品を揃え、貿易するように助言しています。
大名の中でも開明的なものは、名産品を作るべく努力しました。
源内はまるでそうした未来を予見していたかのように、斬新なものを開発していました。
時代を先んじ過ぎたからこそ適応できない――そんな悲劇があったものの、だからこそ魅力的であるのが平賀源内という人物ではないでしょうか。
2023年『大奥』シーズン2での活躍に続き、2025年大河ドラマ『べらぼう』でも我々を楽しませてくれそうな予感は大。楽しみに待っています。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
新戸雅章『平賀源内「非常の人」の生涯』(→amazon)
城福勇『人物叢書 平賀源内』(→amazon)
土井康弘『本草学者 平賀源内』(→amazon)
他