江戸時代 べらぼう

『べらぼう』土山宗次郎(栁俊太郎)貧乏旗本が誰袖花魁を身請けして迎えた惨い斬首

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誰袖は何処へ?

誰袖の行方は不明です。

伝説的な女郎とは、歴史の中で権力者のトロフィーのようにその姿を見せることがほとんど。

五代目瀬川も、貨幣経済が強まる時代に咲いた花としての姿を見せておりました。

金貸しとして権勢をふるっていた当道座の鳥山検校に身請けされ、そして落ちぶれてゆく運命は、一つの時代の流れを感じさせたものです。

誰袖の運命は、土山の死と共に賑わいを失った天明狂歌と重なり合うものとなるのでしょう。

そしてそのとき視聴者は、瀬川と鳥山検校の運命はまだマシだったと噛み締めるのかもしれません。

月岡芳年『日進佐渡流刑 地獄太夫』/wikipediaより引用

 


夢から醒めると悪夢が待っていた大田南畝

土山宗次郎の凋落と死は、親しかった大田南畝にとっても悪夢のような日々の始まりでした。

なんせ彼の豪遊は土山の財布あってのもの。そこを睨まれたら死すら有り得ます。

彼は狂歌集から平秩東作が蝦夷地で詠んだ歌を削るなどして、なんとか関係を消そうとしました。

大田南畝(四方赤良)/国立国会図書館蔵

大田南畝が最も冷や汗をかいたと思われることは、吉原が絡んでいます。

松葉屋の新造である三保崎を身請けし、妾としていたのです。

誰袖ほど高値ではなかったとはいえ、まとまった金を貧乏御家人が払えるわけもありません。

スポンサーである土山あってのものだと暴露され、女郎を囲っていることを糾弾されたら、斬首の可能性すら浮かんできます。

狂歌仲間はそのあとも細々と活動を続けたものですが、大田南畝は参ってしまいます。

彼にとっての悪夢は終わりません。

松平定信の時代、

松平定信/wikipediaより引用

その政策を皮肉った狂歌が世に出ました。

世の中に蚊ほどうるさきものはなし ぶんぶといふて夜もねられず

曲がり手も杓子はものをすくふなり すぐなやふでも潰す摺粉木

孫の手の輝きところへとどきすぎ 足のうらまでかきさがすなり

こうした政治批判作品が大田南畝のものではないかと噂され、彼は必死で否定しているのです。

大田南畝はなんとか連座を免れ、旗本として晩年まで勤め上げる余生を送りました。

それでも実力の割には扱いが悪く、出世できないと囁かれたものでした。

狂歌師としての馬鹿騒ぎが軽薄とみなされたとも、土山との関係を問題視されたとも言われております。

『べらぼう』現在のメインステージは天明狂歌です。

蔦重も狂名「蔦唐丸(つたのからまる)」として、妻の「垢染衛門」ともども参加、狂歌関連本も手がけます。

そして喜多川歌麿の名を狂歌集を通して広め、後に当代一の絵師となる地ならしをするのです。

そんな華やかな狂歌の裏には、おそろしい世界が待ち受けています。

五代目瀬川にかわり、吉原随一の名花として登場した誰袖花魁は、土山宗次郎にとっては死神と化す。

狂歌師たちの繰り広げる酒池肉林の日々も、土山の斬首と共に幕を閉じる。

劇中では平賀源内の残した夢として描かれる蝦夷地開発も雲散霧消……。

謀殺、暗殺、合戦がないため地味ともされる『べらぼう』ですが、十分ジェットコースター級の展開が待ち受けているのではないでしょうか。

脚本家・森下佳子さんならではのヘビーな作風というわけでなく、史実準拠でも十分に恐ろしいのです。

江戸中期のドラマだ、泰平の世だ――そう甘く見ているとべらぼうな目に遭うやもしれませんぜ。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
沓掛良彦『大田南畝:詩は詩佛書は米庵に狂歌おれ (ミネルヴァ日本評伝選)』(→amazon
揖斐高『江戸の文人サロン: 知識人と芸術家たち』(→amazon
江上照彦『悪名の論理 田沼意次の生涯』(→amazon
岩崎奈緒子『ロシアが変えた江戸時代』(→amazon

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