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【日本人にとって大河ドラマとは?】
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民放、映画との切磋琢磨があったが
大河ドラマを貶す決まり文句として以下のようなものがあります。
「韓流ドラマかよw」
「中国のドラマみたい!」
こうした言葉がそのものが、2020年代ならではの特徴でしょう。もしもこれがもっと前の時代であれば、比較対象は民放時代劇や映画でした。
日本人にとって時代劇は娯楽の王者。
どのテレビ局でも映画会社でも花形時代劇を競い合い、大河と切磋琢磨しながら名作を作り上げていったのです。
そんな中で大河の個性といえば?
テレビドラマ時代劇で初となる「時代考証」の採用でしょう。
大河ドラマの時代考証・担当者はどこまで責任を負わねばならんのか?
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一年という長い放送期間やNHKならではの重厚さが特徴として磨かれ、民放時代劇お得意の『水戸黄門』や『大岡越前』、『暴れん坊将軍』と棲み分けができていました。
しかし、民放でも時代劇は徐々に見られなくなってゆきます。お年寄りの古臭い娯楽とされるようになっていったのです。
トレンディドラマはじめ軽妙な現代劇が若者向けでこれからの娯楽だとされました。
そんな嗜好の変化のみならず、終わらない不況下では時代劇は予算がかかりすぎることもあったのでしょう。
日本で時代劇が衰退してゆく中、変化していったのが隣の韓国と中国です。
東アジアでは若者にも時代劇が人気である
韓国は朝鮮戦争や軍事政権の傷が残り、娯楽そのものが遅れをとっていました。
韓国のテレビクルーたちは九州から電波を拾い大河ドラマを見て、こうため息をついていたとされます。
「我が国でも、こんな歴史ドラマを作れたらなぁ……」
中国では文化大革命や、政府による娯楽の規制もあり、やはり遅れをとります。
しかし、1980年代から改革開放が始まると、中国では香港や台湾の武侠小説が大ブームとなり、彼らは思い出しました。
自分たちの国には、歴史エンタメが溢れていたことを――。
かくして韓国と中国が力を付け始め、自国史をモチーフとした時代劇の制作に取り掛かります。
代表的な作品が以下の2つです。
中国では1994年制作の『三国志演義』。
韓国では2003年制作の『宮廷女官チャングムの誓い』。
こうした中韓の時代劇が日本でも放映されますが、まだまだ本格的なドラマは日本の大河が強い、そんな余裕がありました。
しかし、2020年代はどうでしょう?
そもそも時代劇の制作本数は激減していて、大河ドラマやNHK金曜時代劇がかろうじて残っているような惨状です。
2010年代は、それでもまだ深刻とは言えません。
海外のドラマとなればBSの有料放送か、ソフトレンタルに限られていて、その間は影響が限定的でした。
しかし、VOD、つまり動画のインターネット配信が普及すると状況が変わり始めます。
気軽に海外ドラマが見られるようになり、しかも放映時間が関係がないとなると、一気に拡散。
このころになると、韓国でも中国でも時代劇が大人気となり、制作本数がとにかく多いため、自由度が高い。
つまり新しいことにチャレンジできる。
韓国には「フュージョン時代劇」(歴史改変やタイムスリップといったSF要素も加味したもの)があり、若い世代でも大いに楽しんでいます。
ウェブトーン(スマートフォンで閲覧するカラー漫画)原作ものも多く、若者世代にはハードルが低いのです。
そして中国は、2010年代頃からウェブ小説全盛期を迎え、そうした作品を原作とした時代劇が『陳情令』はじめ数多あります。
作風も自由度が高い。かつ、中国は露骨な二番煎じをやる。一本当たったらそのテーマに殺到し、最近ではブロマンス時代劇がその代表例となっています。
中国ではさらに、SFや歴史改変との融合を時代劇でも模索し始めました。
世界的に大ヒットしたSF小説『三体』は各国で度肝を抜きました。
その自由な発想は時代劇まで及び、現代人がタイムスリップするような歴史ものは、日本が一歩先をゆくような印象はすでに過去のものとなってしまいました。
中国では、時代劇は若者や特に女性に人気があるとされます。スマホアプリでも、男女双方をターゲットにしたものが多くあり、女性向け着せ替えゲームや乙女ゲームでも、時代劇の衣装は定番で欠かせません。漢服コスプレも大流行しています。
若者受けを狙ったという奇想天外な発想も、実は韓国や中国時代劇では既にもっと洗練されたかたちで実現していることが往々にしてあるのです。
つまり日本の若者も時代劇そのものが嫌いになったわけではなく、何か別の要因で興味が持てなかっただけではないでしょうか。
大河ドラマは初志が必要かもしれない
こうした現状を踏まえると、大河ドラマは一周回ったのではないかと思えます。
大河には、もはや手強いライバルがいる。
ライバルと切磋琢磨しつつ、斬新で、おもしろい、時代劇の王者を目指すしかない――そんな時代ではないでしょうか。
2022年『鎌倉殿の13人』は、脚本の三谷幸喜さんはじめ、海外ドラマの影響を受けたことを明かしていました。
2023年は大河ドラマ『どうする家康』が振るわない一方、ドラマ10『大奥』こそ大河ドラマの初志を取り戻したようだと評価されています。
◆(テレビ時評)「大奥」は時代劇か 太田省一(→link)
大河ドラマというブランドは、もう飽和状態かもしれない。そんな煮詰まった状況で『大奥』という新たな息吹が生まれてた。
初志のような、ともかく面白い日本一の娯楽時代劇という条件を『大奥』は満たしています。
むしろ今年は『大奥』が大河ではないか? そんな声すら広がりつつある。
これからも大河を守り、それこそ百周年を祝うためには、初期にあった荒削りな衝動に加え、これまで蓄積した技術を用いて、切磋琢磨してゆくことが大事ではないでしょうか。
大河が消えて日本から時代劇がなくなったら、明らかに損失です。
初志を取り戻し、純粋に面白い時代劇を作り続けて欲しい。そう願うばかりです。
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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
鈴木嘉一『大河ドラマの50年』(→amazon)
星亮一/一坂太郎『大河ドラマと日本人』(→amazon)
NHK出版『NHK大河ドラマ大全』(→amazon)
大石学『時代劇の見方・楽しみ方』(→amazon)
能村庸一『実録テレビ時代劇史』(→amazon)
他