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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第2回「吉原細見『嗚呼(ああ)御江戸』」】
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吉原は古臭ぇのか?
重三郎に連れられ、銭内と新之助は吉原にやってきました。
客は年配の者ばかり。遠いし、金はかかるし、しきたりにはうるさい。
そう歩きながら吉原の問題点を列挙します。
銭内はさらにこうだ。
「古臭えって思われてんじゃねえの? 今どき吉原に行くのは金持ちの爺と田舎もんだけだって」
さすがの重三郎も色を成した顔になりますが、銭内は松葉屋に行きたいと言い出します。
奥の方が気軽に楽しめる、と誘導しようとするも、銭内が松葉屋だと粘るため重三郎も折れるしかありません。
その松葉屋で、花の井はお茶っ引き。今夜は客がつかないと松葉屋半左衛門に報告しています。
すると銭内がきて「瀬川」はいないのか?と女将のいねに聞いてきました。
今はいないと謝るいね。銭内が名残惜しそうに、今いないというのは出ているのか?と聞けば、かなり昔の名跡で、不幸があって今は誰も継いでいない、商売あがったりだと返します。
「そうか。ここにももう瀬川はいねえのか。うん、じゃあもう誰でもいいや」
あの明るい銭内が湿りを帯びた顔と声でそう呟く。
重三郎はあんまり高くしないようにといねに言い、屋敷にあがってゆきます。
吉原に天女はいるのか?
宴席が始まりました。
重三郎は、源内への執筆依頼を銭内に頼もうとすると、吉原のどこを褒めたらよいのか?と聞き返してきます。
「楽しんでいるじゃないか」と返事をするも、「どうにもわかんない」とどこか虚な目で返す銭内。他の岡場所と比べて何がいいのか?と聞き返してきます。
「そりゃなんたって女が綺麗です」
重三郎がそういうと、うつせみがニッコリと微笑みます。銭内は悪かないと認めます。
重三郎は芸者も確かだと続けると、深川芸者はみ〜んな三味できると返す銭内。
台の物もこのように華やかだと手を広げる重三郎に対しては、味がひでえと笑い飛ばしました。
「ああ……まあとにかく、好みの女が必ず見つかります。なんせ三千もいますから!」
実際に三千いるかどうかはさておき、白居易が『長恨歌』で「後宮佳麗三千人」と詠んだことからの決まり文句ですね。「青楼」という漢語由来の遊郭を指す言葉もあります。
日本の遊郭は全く青くはありませんが、収まりの良い言葉なんですね。
「じゃ、連れてきてよ。俺にとってのいい女とやらをさ。そしたら源内先生に会わせてやるよ」
そう言う銭内に対し、好みのタイプを聞くと「この世のものとは思われぬ天女のような女」ときました。ったく、貴公子に無茶振りするかぐや姫気取りかよ。
一方、純粋な新之助は、うつせみの姿から目を離せなくなっています。
重三郎が去っていくと、そのうつせみがいじらしく、ちょっと首を傾げてこう言います。
「わっちでは天女とはいきんせんもんね」
「然様なことはござらぬ!すまぬ、驚かせてしまったか……」
そう即座に新之助が否定しました。
彼は天女を見つけた顔をしています。隣の女郎がその恋の熱気にあてられたように煙管を咥えている。
銭内は若い恋を面白がるように、少し微笑むのでした。
重三とは馬鹿の三段重ね
花の井が熱烈な恋文を書いております。
『光る君へ』のころのかな書道とは違い、営業スキルという言葉も思い浮かびますね。
文体からしても、やりすぎでわざとらしさ感が出ております。これを信じるヤツはよほどおめでてぇな。いるとすりゃ、あの長谷川平蔵か。
廊下で重三郎は、松葉屋にお代を相手につけるよう交渉しています。どうやら一杯食わされたと流石に気づいたようでして。
ここで通りかかった、夫よりも気の強そうな女将は、食った食わされたのはそっちの都合、払うもんは払えと凄みます。
「んじゃ、まぁ、駿河屋につけとくわ」
「えっ? いやそれだけは……ああ〜!クソッ」
だから重三郎、もっと後先のことを考えろと……危なっかしいヤツだ。
すると花の井がやってきて、何がどう一杯食わされたのか?と尋ねてきます。平賀源内に引き合わせてくれるっつうから連れてきたと答える重三郎。
花の井はこうきた。
「馬鹿らしうありんす。馬鹿馬鹿馬鹿。重三とは馬鹿の三段重ねでござりんす」
重三郎は、ただの山師じゃねぇにおいもしたとかなんとか言います。田沼様の話もするし、学もある。
すると花の井は、重三郎が小間物屋のために奔走しているわけではないと見抜き、ズバリ何をしているのかと問い詰めようとすると……。
「源内先生!」
突然、声が響き渡ります。
「源内先生、その節はお世話になりました!」
平沢常富という客が声をかける相手は銭内でした。銭内の三文芝居もこれでおしまい。
「平賀源内先生だったんすか〜〜〜〜!」
犬のようなかわいい顔で走っていく重三郎です。
平賀源内は男一筋だ
「悪かった悪かった悪かったよ!」
そう謝る源内は、あんまり一生懸命だったんでからかってみたくなり、たまには新之助にもいい思いもさせてやりたかったんだとか。
あいつにとってのいい女は見つかったと満足しています。あの二人はこの先どうなるのでしょうね。
重三郎は、じゃあもう書ける? 吉原のいいとこその目で見たよね!と迫ってきます。
「けど真面目な話、俺じゃねえ方がいいと思うんだけどなぁ」
「今さら何言ってんすか!」
「あのさ、俺、男一筋なのよ」
「あっ……」
気づくのが遅ェ! 笑い飛ばし、その顔は忘れていたと見抜く源内。
「はあ〜そうだ。平賀源内っていやぁ有名な男色じゃねえかよ」
源内はさらに、別口で『吉原細見』の「序」を書いたことがあると言います。
気持ちが入ってこなくてつまんねえ出来だったとか。遊んでみたらどうかと思ったけど、やはり駄目なようで……さっきのお侍(平沢常富)は結構筆が立つからどうかと言い出します。
それでも重三郎は「源内先生じゃなきゃいけない!」と粘ります。
源内先生だからこそ、男一筋の源内先生でも夢中にするとなると粘ります。紙を手にして、源内に難しく考えずに書いて欲しいと近づく重三郎。
勢いで書こう、男一筋の俺ですら蕩かす女がいたって……そう迫る重三郎。
「だ〜か〜ら〜それがいないんじゃな〜い!」
そうごろりと寝転がる源内、ふてくされて座る重三郎。すると源内、気づいちまいましたぜ。
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