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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第6回鱗剥がれた『節用集』】
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鱗形屋は「丸屋源六」ではないか?
蔦重が鱗形屋を出て歩いていくと、須原屋の「書林」の前でなにか揉めていたようです。
使用人が憎々しげに塩を撒いています。なんでも大坂の柏原屋という本屋が、何かを出したんじゃないか?と難癖をつけてきたとか。
『節用集』です。どうにも「偽板」だそうで、今で言うところの「海賊版」です。この海賊版の業者「丸屋源六」のことを「須原屋じゃないか?」と疑ってきたとか。
字引なんざ誰が書いても違えねえと須原屋はこぼしています。
すると蔦重の脳裏に、何か暗いものが浮かんできます……。
「丸屋源六が見つかったら大阪の本屋はどうするのか?」
「そりゃおめえ、お役人に訴えて出るさ。あの荒い鼻息だとな」
蔦重、ますます考え込んでしまいます。
その夜、蔦重は九郎助稲荷のところで座っています。
鱗形屋こそ……偽板「丸屋源六」の正体ではないか?と、気づいちまったんですね。
隠れて何かを摺っていた。
儲かってねえはずなのに摺損じがたくさんあった。
とはいえ、金繰りも厳しいというのに訴えられたら潰れるかもしんねえ。
そこまで考えています。稲荷は潰れたらとって替われると納得しますが、この大河の舞台は太平の世。
そんな真田昌幸みてぇな発想にはなんねえのよ。
「あ〜! 告げ口ってのはクズ山クズ兵衛だよな」
稲荷は、悩む前に確かめては?と思うものの、眼の前の人間にその思い届かない。
「俺、確かめるわ!」
って、通じてんじゃねえか! 蔦重は稲荷にお礼を言って神社から出て行きました。
そうなりゃ行動は早い――翌朝、蔦重は鱗形屋へ向かい、腹痛を装って厠へ向かいます。
そこで紙を確認すると……ありましたぜ!
「丸屋源六」の文字がよ!
懐に証拠を入れて出て行こうとすると、話し声が聞こえてきます。
あの高笑いは西村屋与八ではないか!
なんでも『雛形若菜』は信じられないくらいの評判だそうで、鱗形屋さんの手引きのおかげだと語っております。蔦重をはめた金を受け渡してやがるんですね。
西村屋から蔦重の様子を聞かれ「うちのために駆けずり回ってくれてらあ」と満足げに語る鱗形屋。
西村屋の狙いは、蔦重という忠犬に首輪と縄をつけることであり、そうする理由も吉原から出てきた自前の板元なんて生まれたら最後、自分たちは甘い汁を吸えなくなると言いやがりました。
こいつら……どこまでも外道なんじゃ!
さしもの蔦重も、証拠を持って奉行所にでも駆け込むかと思ったところが、行き先は近場の書林の須原屋です。
しかし、お人好しの蔦重は誤魔化して帰ってしまいます。まぁ、太平の世だからな。
稲荷に顛末を報告する蔦重。腹は立つが、告げ口は性に合わねえとこぼします。そりゃ仕方中橋だと稲荷。
蔦重は「運天」にしました。
運を天に任せるってことは、つまり何もしねえで、なりゆきですってよ。
田沼意次の屈服
松本秀持のもとへ「社参取りやめ嘆願書」を届けにきた者がおりました。
応対する秀持は、嘆願書の下に小判がギッチリと詰まっていることに気づきます。
なんでもこの家中の中に、偽板出版に噛んだ家臣がいるとか。それを大阪の板元が探していて、訴えが上がってきてしまう。そうなったら当家は切断処理をして欲しいという嘆願でした。
ケッ、裏金で政治も動かせるってかい! 江戸時代も今も、そこは同じってことかよ。
田沼意次は嘆願書を集め、家治のもとへ提出しにやってきました。
将棋を指しつつ、家基からの懸念を伝える家治。

徳川家治/wikipediaより引用
意次は政治を言いなりにしている。そして幕府を骨抜きにしている。成り上がりの奸賊だと考えているとか。
「奸賊……」
そう噛み締めるように言う意次。
成り上がりであることは認めつつ、眉間に皺がよります。
しかし、こうもキツい言葉を家治が発したのは、自らの死後を懸念してのことでした。
家治の死により寵愛を失えば、田沼一派は排除されると懸念しているのです。
これは江戸幕政の宿命であり、かつては柳沢吉保や間部詮房も、主君の代替わりにより権力を失ってきました。
しかし家治と意次の場合、改革を長いスパンで捉えていると伝わってきます。
結局、社参は実行ということで決まってしまいました。
松平武元が老中たちの前で、勝ち誇ったような態度を見せています。
さらに「田沼は馬に乗れるのか? 武具や兜はどこで誂えるか知っておるか?」と煽ってきます。なんという嫌味か。
田沼意次を演じるのは、あの渡辺謙さんですので、より屈辱的に思えます。本人へのあてこすりというだけでなく、田沼家中には三浦庄司はじめ、武家以外の成り上がりが多いことも皮肉っているのでしょう。
意次も、右近将監と「高家吉良様」のように指南して欲しいと当てこすりを言う。
『忠臣蔵』でおなじみの悪役ですね。浅野内匠頭をネチネチいびった態度そっくりだな! そう「うがち」をやられているわけです。
ここも歴史の教訓を思い出します。
馬だの兜だの、田沼意次ならばもう古いと把握できていてもおかしくない。
しかし頭が固いとそうはなりません。それが発揮されたのが幕末水戸藩の【天狗党の乱】でした。
天狗党の面々はまるで戦国武士のように着飾り、景気付けに日光東照宮に参拝してから上洛しようとし、東照宮側から断られています。
そして彼らは破滅するわけですが、御三家である水戸として威光を振り翳しても無力だった一例のように思えてなりません。
田沼意次の正しさ、その先見性は歴史が証明しているといえるのかどうか。
田沼邸には貧乏旗本の佐野政言がやってきました。慇懃な調子で意知に名乗り家系図を差し出してきます。
意次は帰宅し、苛立ちつつ武具や馬の手配を進めています。
そこへ意知が、佐野政言の巻物を見せてきます。
なんでも田沼家は、佐野家末端の家来筋にあたるとか。その由緒を改竄することを条件に、よいお役目につけて欲しいと依頼してきたとか。
意次はその巻物を手にし、庭の池に投げ捨ててしまいます。
「由緒などいらん」
そう意知に言い捨て、意次は去ってゆきます。
天下太平でも、世に事はあり
鱗形屋で、蔦重が「団扇の方」と話がついたのか?と聞いています。
問題なかったと確認すると、蔦重は暗い顔をして店を眺めつつ、こう呟きます。
「天下太平、世は事もなし」
するとそこへ客として「カモ平」と呼ばれるようになってしまっていた長谷川平蔵宣以がやってきました。
今日はピョロリとした後毛である「シケ」はありませんね。
「字引はあるか?」
じっと見つめる蔦重に、鱗形屋が「知り合いか?」と尋ねてきます。吉原の客だと返す蔦重。
平蔵は本を手にすると、それを掲げながら宣言します。
「あったぞ、偽板だ!」
平蔵の声に応じ、ぞろぞろと与力が入ってきました。
「上方の板元、柏屋与左衛門より訴えがあった!」
そう容疑を読み上げる与力。鱗形屋はシラを切ろうとするも、与力の号令のもと、同心が店に入ってきます。
店の者が連行される中、蔦重が身分を聞かれると「この店抱えの……」と答え、鱗形屋と共に捕まりそうになると、平蔵が首をピッと振りつつ、こう言います。
「おう! そいつはまこと吉原の茶屋のもんだ。関わりねえ!」
その瞬間、鱗形屋が憎々しげに蔦重を睨みつけます。
告げ口野郎と誤解したのでしょう。同心は証拠となる偽板の本を見つけています。
鱗形屋は穴が開きそうなほどの憎悪と共に蔦重にこう言います。
「おめえか?」
「いや……違います!」
「おめえが漏らしたのか?」
「違ぇ、俺じゃねえ! 俺は本当に何も言ってねえんです!」
「このままで済むと思うな! 必ず後悔させてやるからな!」
毒づきながら連行されていく鱗形屋の後を万次郎が叫んで追いかける。
「おとっつぁん! おとっつぁん!」
もはや父を見送るしかありません。こういう泣き叫び方をするガキは、後に父の仇討ちをしたりするんだよなァ。大丈夫か?
ま、お武家じゃねえから切った張ったにはなるめぇが。
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