こちらは2ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【『べらぼう』感想あらすじレビュー第8回逆襲の『金々先生』】
をクリックお願いします。
お好きな項目に飛べる目次
誰も彼もが瀬川目当てなのに、こいつは…
「お兄さん♡」
蔦重の背後から、女の声音で平賀源内が声をかけてきました。あの鬼の割付・校正をやらされた新之助もおります。
今日は何をしに?と問われると、源内はこうだ。
「もちろん瀬川よ♡」
一体どんな妓(こ)かと聞かれ、蔦重は花の井の襲名だと明かします。驚く新之助、納得する源内です。
その瀬川は、次から次へとお座敷に顔を出すような、実にハードなスケジュールをこなしていました。
平賀源内と新之助のもとには蔦重だけが来て、瀬川が会えないことを伝えます。それから新之助には、うつせみが会いたがっているのでこのままあがって欲しいと伝えます。
「かけもちにはなっちまうようですが……」
一晩で二人以上客をとることで、新之助はどうも肌が合わないと断ります。
彼女の過労を心配しているのでしょう。新さん、あんた、優しい男だよ。蔦重も「新さん」と呼んでいて、すっかり仲良しだね。
源内は窓から外を見て、人出の多さに驚いています。謙虚な蔦重が『細見』でなく瀬川のおかげだと答える。
「俺ァ何をすりゃあいつに報えんのか、考える時があります」
源内は、瀬川の言葉を思い出しています。
――重三が誰かに惚れることなどござんすのかねぇ。どの子も可愛や、誰にも惚れぬ。あれはそういう男でありんすよ――。
そして蔦重にこう告げました。
「んじゃいっそ、おめえさんが瀬川を身請けしてやりゃどうだい?」
ギョッとする蔦重。
身請けとは、女郎が客に身の上を引き受けてもらうことだと稲荷ナビが説明します。そして、相手の妻や妾になる。
女郎の幸せといえば身請けだと源内が蔦重の背中を押すのですが、「できるわけねえ」と即答します。
身請けの費用はいくらぐらいなのか?
新之助にそう尋ねられ、どんなに安くとも百両~二百両、瀬川ともなれば千両を超えるんじゃないかと蔦重が答える。
なんせ花魁の身請けには、花魁の体重と同じだけの黄金が必要になる、なんて話もあるくれえでして。
新之助は「そんなに!」と驚くばかりです。そりゃあ、彼も辛いよな……。
それでもなお「小せえ頃に大きくなったら一緒になろうね」なんて考えたことはなかったのかと源内に尋ねられ、蔦重は幼少期を思い出しています。
彼女の宝物であった根付けが井戸に落ち、それを掬おうとして、やっぱりダメだ……と柯理(からまる)が諦めようとすると、あざみが引っ叩いてきた。
「偉そうに。あんた誰の稼ぎで食ってんだい!」
昔から気の強い相手だったなぁと回想する蔦重に、どんな女に惚れるのか、今まで惚れたのはどんな女だったのか?と源内が深堀りしてきます。
「いや〜いねえっすね!」
否定する蔦重を見て、新之助は吉原にいて女に惚れたことがないことに驚いています。
「吉原もんは、その手の心根、抜かれちまうんですよ。女郎には死んでも手出しちゃなんねえって叩き込まれますし。誰かをてめえのもんにするとか、考えたこたねえっすね」
「虚しい話だねえ、どうも」
「そうっすよねえ」
「おめえさんじゃねえよ」
窓の外を眺めつつ、そうつぶやく源内。キョトンとして気づいていない蔦重。
吉原者は、女性だけでなく男性も何かを封じ込められて生きていることが見えてきますね。
そのころ瀬川は客の隣で目を覚ましています。
身体の痛みに呻きながら呟く。
「はぁ、ちくしょう……めちゃくちゃしやがって」
そして気だるげに煙管でタバコを吸いつつ、『細見』の表紙に目をやるのでした。
吉原から打開策を思いつく源内
平賀源内が田沼邸にいます。
炭の件の進捗を確認する意次に尋ねられ、順調な様子が伝わってきます。
田沼家では社参の準備中でした。
白眉毛子と松平武元がいちいちケチをつけてきて苦労したそうで……くだらんこの上ない!と吐き捨てる意次。

田沼意次/wikipediaより引用
すると源内が、吉原の瀬川のことを持ち出します。
花魁道中を見るために吉原に客が殺到する――これをヒントにして、社参も民衆向けのイベントにしたらどうか?と提案するのです。
「社参を見せものにして、金を得る場にせよと?」
源内はこれを機に、宿場の商いを盛り立てるなど、容易いことだと請け負います。かつ、そこでの儲けをうまく使って、二朱銀への置き換えも進められる、と。
さぁ、うまくいきますかね?
確かに武士の行事を町人が見物することは実際にありました。
福島県相馬市の「相馬野馬追」という行事がありますよね。
江戸時代ともなりますと、周辺諸藩から見物にくることが定番化。
神事だ、武士の鍛錬だなどとは言われますが、見ていて面白ければレジャーになるということですね。
社参もそんなイベントにできるのか?
千客万来でも、問題はある
蔦重が松葉屋に本を貸しにいくと、瀬川の姿が見当たりません。
なんでも昨夜の客がひどい「強蔵」だったんだとか。
それを聞いた蔦重が、松葉屋の女将のいねに「なんでそんな客つけてんすか!」と迫るも、あっさりシラを切られてしまう。
すると、その場にいた松の井がつっこむ。
「強蔵なんて女郎やってりゃ誰だって当たりんす。瀬川だって初めてでもござりんそう」
「けどあいつは今、誰より忙しいんすよ! 親父様、そんな客をつけないでくだせえ!」
そう松葉屋に懇願するのですが……ここで煙管を叩きつける松の井。
「ならば、わっちなら構わぬと? うつせみなら構わぬと? 瀬川でないのならよいと? 誰かが相手をせねばならぬのでありんす!」
二人の様子を見かねたのか、うつせみが止めようとするも、その彼女の首にも、絞められたような赤い筋が浮いています。
愕然とする蔦重に、松の井は冷たく続けます。
「自ら手を挙げた瀬川がきついのは自業自得。それより、その尻拭いをするわっちらの身にもなってほしいものでありんす」
本作は本当に画期的だと思います。
女たちはイケメンを取り合うどころか、嫌な相手をいかに避けるのかを考えている。地に足がついた吉原の残酷さがそこにはある。
光が眩ければ眩いほど、落ちる影は濃くなるものです。
つるべ蕎麦で、蔦重は次郎兵衛にこのことを話しています。
無粋な客が松の井に「瀬川か?」と話しかけたり。瀬川に会いにきたという野暮も山のようにいたり。
半次郎がこのことをまとめます。
「客がねえのも困りもん。来たら来たでも困りもんか」
「ああ……一体女郎ってなぁ、どうやりゃ報われんだ」
嘆く蔦重に対し、次郎兵衛が身請けだと答えると、すかさず半次郎は身請けよりマブだと言います。マブはつとめの憂さ晴らしだとよ。
「マブか。いなそうだな、あいつ」
煙管を吸いつつ、そう思う蔦重。そのころ“あいつ”こと瀬川は、赤本『塩売文太物語』を手にしていました。
これはかつて柯理(からまる)が、根付けをなくしたあざみにくれたもの。
そこへいねが来て、予定を告げていきます。休む暇もない激務が続いていました。
鱗形屋復活を画策する鶴屋
鱗形屋が鶴屋に新作を見せているようです。
しかし鶴屋は「まずはあえて少なくまきましょう」と、ムカつくことを言い出しておりやす。
流通量絞るたぁ、汚ねえ商売だよ。
鱗形屋は「売れそうもないのか……」と早合点しますが、むしろ逆、鶴屋は売れると踏んでいました。
本好きのファン心理を刺激するため煽りに煽る。そして頃合いを見て一気に売り出す。そうすることで、青本は鱗形屋さんだと評判を高めるというのです。本当にムカつく売り方だな。
鶴屋が裏もなく鱗形屋を助けようとは思っていない。復活させることで、新規参入しようとする蔦重を追い出そうという狙いですね。
「大事にすべきは鱗形屋さん。吉原の引き札屋ではないと」
最後の最後で、魂胆を明かすのでした。
※続きは【次のページへ】をclick!