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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第8回逆襲の『金々先生』】
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仲間が増えることは、嬉しいだけなのか?
アホ鈍感の次郎兵衛ですら気づいた、鱗形屋復活に伴う蔦重の苦境。
瀬川は当然のことながら不安なのか、稲荷に佇む蔦重の元へ向かいます。
「重三! これ見たかい!」
息を弾ませて蔦重に声をかける瀬川。青本を初めて面白いと思ったんだってよ。蔦重も認め、あっという間に読んじまったと言います。
「鱗形屋はそうそうに持ち直したのかい? あんたの仲間入りの約束は守ってもらえんのかい?」
「まあ落ち着けって」
「呑気なこと言ってる場合じゃないだろ!」
ここでガーッと喋る瀬川が、江戸の女らしくていい。
江戸の女はこういうもんでさ。それがどうにも明治以降、西からきた連中がそれを嫌ったようで、女言葉だのなんだのこしらえて、しょうもねえジェンダーの檻に嵌めちまったのさ。
明治の元勲さんら、幕末に吉原や岡場所の女郎が、西軍どもを袖にしたことを根に持ってたんすかね。あんときゃ「情夫(いろ)にするなら彰義隊」だったもんな。
蔦重は、瀬川にこう説明ます。
「そこは親父様たちと話をしてよ」
「話に乗ってくれんのかい?」
驚く瀬川。あの蔦重が、忘八親父どもと話をできるようになったんだから、そりゃ痛快だわな。
なんでも親父様たちは腹を括ったそうで、そうなったらさすがに商いをわかっているようで、妙案を出してきた。
それでも、瀬川は少し動揺しています。
仲間が増えた。扇屋の親父は、地本問屋をまとめて吉原漬けにすると言い出したとかなんとか。
吉原をなんとかしたいと孤軍奮闘していたけれど、そう思うのは二人きりではなくなったということ。瀬川の動揺に気づくはずもない蔦重は、仲間が増えたとただ無邪気に喜んでいます。
嗚呼、鈍感な蔦重
「お前のおかげだよ。今までお前が助けてくれたから、親父様たちもこうなったんだよ。ありがとな」
瀬川の心を踏み躙るようなことを、さらっと言ってしまう蔦重。
しかし彼女も、あんたを助けるためにやったわけじゃないと強がって返すしかない。
すると蔦重が、須原屋に頼んで買ってきた分厚い本を取り出しました。
『女重宝記』
「俺、お前にはとびきり幸せになってほしいんだよ」
要するにこの本はお江戸の花嫁修行の教科書であり、婦人の嗜みをまとめたものです。
瀬川には、身請けされて名のある武家の奥方やら、商家のお内儀になって欲しい。しかし往々にして吉原の女郎は、世間知らずで苦労したり、追い出されてしまうこともある。
そうなってしまわないようにまとめた一冊。
それだけの資質を持つ瀬川なんだから、この一冊がありゃ、鬼に金棒!……ってなところよ。
「……重三にとって、わっちは女郎なんだね。吉原に山といる、救ってやりたい女郎の一人」
「あ〜、けど、とりわけ幸せになって欲しいと思ってんだよ。ガキの頃からのつきあいだし、えらく世話になってるし。ああ、心から報いてえと思ってるよ」
そう言われ、乾いた笑いと共に、瀬川はこう吐き捨てます。
「馬鹿らしうありんす……」
立ち上がり、吹っ切るように瀬川が去ってゆく。
「ありがとうござりんす。せいぜい読み込みいたしんす」
ようやく何か察したのか、稲荷に語りかける蔦重。
「なあ、なんか、あいつ怒ってね?」
すると稲荷が、ナレーターどころか視聴者の代弁を始めます。
バ〜カ!
バカ! バカ!
豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ!
せ〜の!
このべらぼうめっ!
綾瀬はるかさんの愛くるしい声を存分に生かした見事な怒りです。
どんだけ鈍感かって話だ。
そこに悪意は一片もない。蔦重自身での身請けは無理となりゃ、現実的な最適解は、立派な他の誰かにそうされること。
といっても、やり方ってもんがありますよね。
マブにはなれなくても、もっと何かあるだろうよ。せめて思い出となる本を渡すとかあるだろうよ。切ねえな。
でも仕方ないんすよ。
蔦重だって忘八たちに恋心の芽すら積まれちまったんだ。ただの鈍感じゃないんだよな。
地本問屋、吉原に来る
蔦重が帳簿をつけています。江戸時代らしい筆の持ち方で眼福でやんす。
すると鱗形屋がやってきて声をかけてきた。
背後にいるのは地本問屋連中だ。鱗の旦那は赤い衣装から、渋い青灰色に変わり、渋みが増しておりますね。
弾かれたように立ち上がり「ご無事で何よりでございます」と挨拶をする蔦重。
この対応を見れば、鱗形屋のことを本気で心配していたとわかるはずですが……。
「久しぶりだな。息災で何よりだ」
鱗形屋は良くも悪くも真っ直ぐなので、こう低い声で言う時、敵意があるとわかります。
厄介なのは背後でニコニコ笑いつつ、こう言ってくる鶴屋だわ。
「いきなり大勢で申し訳ないが、少し話せますか?」
見ろよ、このツラ。隣の松村屋は「お仕事で吉原来ちゃった、えへっ♡」という微笑が滲んでいるのに対し、なんかこうドス黒いもんを感じるぜ。
さて、迎え討つのは忘八どもだ。
蔦重が大文字屋と話しています。策士の扇屋は、酒に持ち込もうと画策中だとか。
地本問屋と忘八が、膳を前に居並びました。
そこで扇屋が早速酒を飲ませようとすると、すかさず応じようとする西村屋に対し、鶴屋がキッパリと酒を断り、西村屋も飲まないよう釘を刺されています。
結局、西村屋は策士のようでボロを出す役回りなんですね。
扇屋がなおも勧めると、鶴屋はこうだ。
「女と博打は麹町の井戸。はまればそこが知れぬと聞きますので」
こいつは隙がねえ。忘八たちは鶴屋こそ強敵と察知しています。
鶴屋は自ら話に入ると断り、主導権を握りました。
鱗形屋はあの青本を差し出し、殊のほか評判が良いと語り始め、本屋としての完全復活宣言。
地本問屋としては長い付き合いのある鱗形屋を支えたいと鶴屋は言います。
それが仲間内の総意であるとし、蔦重の耕書堂の仲間入りはなかったことにすると言い出しました。
すかさず蔦重が、うちが出すのは吉原に関わるものだけだと譲歩。
青本、芝居絵本(芝居のノベライズ本)、往来物類(手紙のやりとりを模している・文中に名物や地名をふんだんに取り入れ、読むことで知識の底上げを図る効果もある)は出さないと宣言します。
共倒れはないと安心させるのが狙いですね。
そして陥落しやすいのはあの松村屋あたりだと浮かんでくる……そういや『籬の花』の買い付けにも積極的だったっけな。
しかし、蔦重を睨みつけながら鱗形屋が吐き捨てます。
「でも『細見』は出すんだろうが」
行く手を阻まれるかのように見えた蔦重ですが、さらにアイデアを隠し持っていました。
『細見』は作る!
それを地本問屋の仲間たちにタダで譲る!
前回の印刷製本の地獄っぷりを見ていれば、それがどんだけ太っ腹かわかるでしょう。
これにはチョロい松村屋だけでなく、村田屋も興味を持ち出したぜ。考えねえでもねえとか思い始めてやがる。
地本問屋の空気が一気に傾きかけた、その時につけこみ、扇屋も酒を勧めます。
しかし、どこまでも冷静なのが鶴屋です。
冷たい、底冷えのするような目つきで、他の地本問屋連中を下がらせると、たった一人であの忘八親父どもと対峙する。
なんでも、この場にいない連中から預かっている話もあるんだとよ。ったく、ペラペラと弁の立つやつだな!
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