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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第14回蔦重瀬川夫婦道中】
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吉原者は「四民の外」になった
蔦重の目にはいつもの吉原も違って見えるのか。番所に目が行くようです。
すると「親父が大事な話があると呼んでいる」と次郎兵衛が告げてきます。
大事な話とはなんぞや?
というと吉原者は市中の地所や屋敷が買えなくなったというものでした。
大文字屋が項垂れつつ説明します。
事の起こりは、彼が神田に屋敷を買おうとしたこと。たしかに張り切っていましたね。
実際、話はまとまり、手付金の二百両も払ったのに、町名主がこの町内に吉原の女郎屋がいたことなんてないと言い出したのだとか。
大文字屋としても、前例があればこんなドジは踏まねえ。なんでも浅草橋に寮を買ったときは通ったそうで、納得できず奉行所に訴え出たんだそうです。
すると奉行所は、そもそも吉原は「四民の外」であり市中に家屋敷を得るなど甚だ不届至極だ!と、訴えを退けたんだとか。
吉原者は見附内の土地を買わないと証文を出せとまで、言われたそうです。
見附内とは江戸城周辺の番所である見附周辺ですな。結構な広範囲ですぜ……。

弘化年間(1844年-1848年)改訂江戸図/wikipediaより引用
「四民の外……」
あの呑気な次郎兵衛も、衝撃を受けたように呟きます。
こうなっちまったのも、大文字屋が奉行に訴えちまったことがあるんで、反省しているんですね。
手をついて謝る大文字屋。
周囲はお前のせいじゃねえ、悪くねえと庇い、あの若木屋も「ツラあげろこの野郎」と慰めておりやす。
そして、りつは悔しそうに続ける。
「こちとら町役もこなして、運上冥加だって入れてるってのに、何だってんだよ、ねえ!」
「町役をこなす」とは、街の運営維持のために行う義務のこと。
例えば町火消しだってその一部です。江戸市中に住む者はこれをこなすので、年貢は免除されていました。
それに加えて金まで入れておいて、権利を制限されるとはどういうことでぇ。りつとしちゃ、おさまらねえんですよ。
松葉屋は苛立ち、払うの辞めちまうかと言い出した。んで、忘八は荒稼ぎしてやると言い出す。
ゲスなように見えますが、これも他の岡場所と違って運上冥加を入れているからにゃ、成立する言い訳っちゃそうですね。
手放すことでしか、愛を得られない鳥山玉一
蔦重は瀬川に、この一件を話しています。
「公に線引きされちまったのはキツい」という彼女の言葉は他人事ではありません。蔦重が吉原の外に出ていけるか?という話になりますね。
そこへ管理人はつが松葉屋からの文を届けてきました。奉行所からの呼び出しです。
松葉屋と共にお白洲(おしらす・当時の裁判所)に座る瀬川。

東映京都撮影所にある「お白州」のセット/wikipediaより引用
検校も連れられてきました。
井上和彦さんが扮する声のいい奉行が、ここで仕置きを申しつけると宣言します。まずは妻である瀬以の裁きから。
悪徳検校の寵をよいことに、善良なる民から搾り尽くした金で遊興、贅の限りを尽くしたことは許し難き悪行である――そう言いながら「幼き頃に吉原に売られ、夫より他に寄る辺なき身の上であったことは憐れむべきだ」と続けます。
二度と遊蕩を繰り返さぬことを条件に、「きっと叱りおく」と言い渡します。
「急度叱り」ですな。民衆が課された刑罰で、こうやって奉行に叱られて反省するという刑罰でやんす。
さらに奉行は、鳥山玉一との絶縁し、よき民として暮らすようにと言い渡します。
この刑罰は頭の隅にでも入れておきましょう。なぜなら、もっと重い処罰を受ける人が後に登場するでしょうから。
瀬川と松葉屋は離縁か?と驚いています。
なんでも鳥山は、これより先は妻の面倒を見ることは遠慮したいと言ったそうです。
「お奉行様、夫に、話をいたしましてもよろしいでしょうか」
「手短にな」
瀬川は驚き、夫の背中に声をかけます。
「旦那様……私は決してよい妻ではございませんでした。どこまで行っても女郎癖の抜けぬ振る舞いはお心を深く傷つけたことと存じます。にもかかわらず、なんでも望みを叶えてくださった。今、ここに至っても……」
「そなたの望みは何であろうと叶えると決めたのは、私だ」
「私はほんに幸せな妻にございました!」
そう瀬川の透き通った声を聞き、鳥山検校はかすかに笑います。
彼が心の底から聞きたかった声色の言葉なのでしょう。愛のある声。手放すことでしか、愛を確認できないとは、なんという辛さなのか。
かくして高い秋の空のもと、瀬川は自由になりました。
おめえをずっと大事にして、守り抜くから
離縁状を手にして、蔦重の前にやってきた瀬川。
夢じゃないかと頬を殴り始める蔦重。
抱き合う二人を、蔦屋の向かいのつるべ蕎麦から半次郎も見守っています。ようやくこうすることができたのです。
このあと二人は床に寝そべりつつ、瀬川ものの筋書きを考えています。
検校を亀の化身にするのはどうか?と語る瀬川。身請けされて竜宮城にいくと語ると、蔦重は浦島太郎だとつっこんでいます。
それで楽しく遊んでマブのところに帰ると続ける瀬川。よその人は検校を悪役に書けるけど、わっちにはできない。それはもう大事にされたとしみじみと語ります。
「めぐる因果は、恨みじゃなくて恩がいいよ。恩が恩を生んでいく。そんなめでたい話がいい」
「大事にする」
瀬川にそう語りかける蔦重です。
駿河屋は、花魁と所帯を持つと蔦重に言われ困惑します。
吸っていた煙管を盆に荒々しく叩きつける駿河屋。
煙管の扱いというのは大事なもんで、煙管に入る煙草の量は少ない。それを落とす盆がセットになります。この所作を粗くすることで心理状態を示すわけです。
小栗忠順はこの煙管の扱いが見事だったそうで『逆賊の幕臣』の松坂桃李さんの所作にも期待して待ちましょう。
「刺されそうになったんだぞ! 花魁を外になんか出したらどうなると思うんでえ!」
「だからこそでさ!」
蔦重は大門口には面番所がある、五十間の入り口にも町番所があって見張りがいる、市中で暮らすより安全だと理屈をつけます。

『新吉原の桜』歌川広重(1835年3月頃)/wikipediaより引用
お裁きをひっくり返すためにも必要だと言います。
吉原が四民の外にされてるのは忘八の里だから。親父様たちの女郎の扱いはひどい。四民の外が嫌なら内から変わらなきゃいけない。困った女を食い物のするのではなく、助けるところにする。
それで見る目を変えると言い切ります。
そのためにも瀬川を厄介者として放り出すのではなく、吉原はその後も面倒を見たということにする。
それを世に示すと大きな話をぶち上げました。
「チッ、しゃらくせえ」
そう言うしかない駿河屋。ふじが「ん」と夫に水を注いで勧めます。
墨を擦りつつ、こういう駿河屋。
「能書きは正しくても、風当たりは弱くねえと思うぜ。ちゃんと花魁を守り切れよ!」
「へえ、ありがとうございやす!」
かくして蔦重は望みに一歩、近づきました。
そのころ江戸城では、田沼意次が8検校、2勾当を闕所(財産没収)不座(当道座追放)にしたと家治に報告しています。
家治が、接収した証文の処理を聞くと、意次は違法な利息を処理し直し、幕府が取り立てると答える。
反発するのが徳川家基。
それではお上が富を奪うことになるとのことですが、検校たちは金を貸す際「お上の金」と言っていたとして、お上の蔵に返すだけだと道理づけます。
家治は感心しています。
道理に従い、苦しむ者を救いつつ、幕府の金蔵を潤すとは、一石二鳥というわけです。
意次は道理をうまくつかってこそ政治だと言い、年末の挨拶をします。
納得できないのでしょう。家基が爪を噛んでいます。
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