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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第16回さらば源内、見立は蓬莱】
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源内は人を斬ったのか?
三浦庄司が慌てて、奉行所からの知らせとして「源内が人を斬った!」と意次に報告します。
荒らされた室内はすでに奉行所が調べていました。
そこへ蔦重が走ってきます。
横浜流星さんのダッシュはすっかりお馴染みですが、実は超絶技巧があります。
今回もクレジットに「インティマシーコーディネーター」として浅田智穂さんが入っております。
性的な場面はないのにどういうことか?
この職掌は、演じる側がどこまで肌を見せるか、話あう役割も果たします。
というのも江戸時代、こと町人男性を考えるうえで、肌の露出度は大変重要でして。
着流し姿は生足チラリズムが半端ねえ。チラリどころかモロだしになりやす。
スリットが長く、生地が薄いロングスカートのようなもんですんで、走ったり強風が吹けば脚が出るわけです。
なもんで、今年の大河は町人のエネルギッシュな動きを、露出させすぎずに出すことが一つの課題なんだとか。
それこそ猛ダッシュなんて、何も考えなかったらえれぇことになりまさ。
この場面一つでどんだけ考えているかってことです。風が吹いたらもう大変よ。
2027年大河ドラマ『逆賊の幕臣』でも、このことは関係してくるでしょう。
遣米使節団参加者は、船の甲板を着流し姿で歩きます。すると潮風に煽られ、脚がモロに見えてしまう。
見慣れていないアメリカ人は「木の棒が2本あるぜ」と驚いていたそうです。こうした経験から、彼らは「洋服を着る時代にしなきゃいけねえなあ」と痛感したそうで。
世界的にみて、これだけ生足を見せる伝統衣装はそうそうないですね。スコットランドのキルトといい勝負でしょうか。

月岡芳年『芳年武者无類』/wikipediaより引用
さて、蔦重はなぜ猛ダッシュして向かったのか?
源内の草稿を回収することも目的でした。
「これか」と同心が血のついた草稿を差し出してくると、一枚しかない。もう少しあると食い下がる蔦重ですが、これしか見当たらなかったと突き放されます。
蔦重は不信感を覚えています。源内は牢内で菰を被り震えるばかり。
蔦重は須原屋を訪ね、草稿を見せました。あの手袋のことが書いてある。
手袋は消えた。草稿も一枚しか残っていない。
しかし、破滅を呼ぶ力は残っている。なかなかゾッとさせられる場面ですよ。
格子越しに向き合う二人
晩になり、牢内にいる源内のもとへ意次がそっとやってきました。
「田沼様?」
気づいた源内。格子越しに二人は向き合います。
「どうしてこんなことに?」
「俺にもわかんねんですよ……」
記憶にあるのは、丈右衛門に噛みついたところまで。意次が、その名を初めて聞いたような反応をすると、源内は田沼様が回してくれた普請話の用人だと主張します。
理解が追いつかない意次が変異を察知し、目にあたたかい憐れみを浮かべ、詳しい話を聞かせて欲しいと言います。
「いなかったのかもしれません。そんな男はいなかったのかも」
「何を言っている! お前のことを疑っているわけではない!」
「けど……お、俺には分かんねえんですよ田沼様。俺には声が聞こえるのに、そこには誰もいねえし……覚えがないのに、人を殺してて……俺ゃもう何が夢で、現(うつつ)だか……」
「夢ではない。俺はここにいる、源内……」
意次はそう言い、格子ごしに手を握り、頭を引き寄せます。
子どものように泣きじゃくる源内。

平賀源内/wikipediaより引用
意次はこのあと、三浦庄司から松本の用人に「丈右衛門」がいるとの報告を受けていました。
何者かが丈右衛門を名乗り、偽りの普請を頼んだということかと理解する意次。松本を呼び、奉行所に申し出るよう命じます。
しかし意知は冷静に、そんなことをすれば松本殿を巻き込んでしまうと言うのです。
「源内の命がかかっておるのだ!」
「次は松本殿の命がかかることになりませぬか?」
「源内を見殺しにせよというのか?」
「ここで手を出せば再び、幕は開いてしまうと申し上げております!」
そうきっぱりと反論する田沼意知。渡辺謙さんに一歩も引かぬ宮沢氷魚さんが見事です。それだけでなく、冷静なようで惑乱している渡辺謙さんが実に素晴らしい。
我が子の反論を受け、意次はようやく己の動揺を自覚しました。
損得勘定を超えて突き動かされるその姿は、まさに愛ゆえにそうしているように思えます。
牢内で凍えた手に息を吐きかけ、源内がこう詠みます。
あめつちの 手をちぢめたる 氷かな
これが彼の辞世とされます。
すると牢の外に白湯を入れた椀がひとつ、置かれます。それは果たして救いだったのか、それとも……。
二人の永訣
意次のもとに、蔦重たちが出向いていました。
源内の無実を主張し、頼んでいた原稿が一枚しか残っていなかったと告げる。あの場に誰かがいた証しだと続け、その原稿に目をやる意次。
須原屋も不可解なことがあると続けます。
源内は刀を売り出し、竹光しか身につけていなかった。酒に酔っての凶行と言うが、そもそも下戸である。
こうした事実を踏まえて、きちんとした裁判をと頭を下げます。
しかし意次は、源内の原稿を読み、顔色を変えながら、ひとまず奉行所に回すとだけ淡々と告げ、さらにはこう付け加える。
「かようなものが証となるかどうか……」
「田沼様はどうお思いなのですか? 源内先生が、飲めぬ酒を飲み、竹光を刀に持ち替え、人を殺めたそんなことがあるとお思いですか?」
「この前、源内に会うてきた。やつはもう、我らが知る源内ではなかった。今の奴ならやりかねん。それが今のわしの見立てだ」
思わず絶句してしまう蔦重。源内がおかしいことくらいはわかっちゃいる。でもだからって……。
そこに意知が入ってきました。
「たった今、知らせが参り、平賀源内が獄死したと」
そう言われ、皆が呆然としてしまう。
意次は立ち上がり、こう言い立ち去ろうとします。
「この度のこと、まこと無念であった」
「田沼様は源内先生に死んで欲しかったんじゃねえんですか。源内先生言ってましたよ、いろいろあった、だから、気、回して、普請の話も回してきたって!」
蔦重は、須原屋にたしなめられ、「無礼者!」と取り押さえられようとしても、なおも叫びます。
「源内先生に何かまずいこと握られてたんじゃねえすか!」
「ありがた山、察しがいいな」
襖から手を離し、蔦重に一歩近づきすごむ意次。

田沼意次/wikipediaより引用
「俺と源内の間には、漏れてまずい話など山ほどある! 何を口走るかわからぬ狐憑きは恐ろしいからな」
蔦重は睨みつけ、こう言います。
「忘八……この忘八が!」
そう吐き捨てるも、意次は去ってゆくだけでした。
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