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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第12回「思いの果て」】
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庚申待の夜のこと
庚申待(こうしんまち)の夜となりました。
一体なんのことなのか?
道教では、人の体の中には三尸虫(さんしちゅう)がいると考えていました。
この虫が庚申の日になると、天帝に悪事を告げに行ってしまう。それを防ぐために、寝ずに起きていることが庚申待ちの夜です。
今でもこの信仰にまつわる庚申塚が全国各地にあるほどですね。
「虫の居所が悪い」という言い回しも、この信仰をもとにしています。
そうした由来は、なにも怖いことだけではありません。夜人と集まって楽しんだり、地域の団結力を高めたりする役目がある行事といえます。
藤原為時の家には、まひろと藤原惟規、そしてさわが集まっていました。
まひろがまるで妹のようだとさわを持ち上げると、俺がいなくても寂しくないなと惟規。
そしてこうきた。
「俺に惚れてもダメだよ」
なんでも姉は賢くて強くて立派だけど、自分はロクな男じゃないとか。
何を気取っているのかと姉に突っ込まれつつ、惟規は厠へ向かいます。
さわは、天帝に告げられて困る罪はあるのか?とまひろに聞いてきました。
「あるわ」と返すまひろ。母が死んだのは自分のせいであり、そのことでさんざん父を傷つけ、嘘をつき、好きな人も傷つけてしまった。
勘の鋭いさわは、文を送ってきた背の高いしゅーっとした人か?と問いかけてきます。
外にでた惟規が、百舌彦の存在に気付きました。
乙丸を呼んで欲しいと言われた惟規が、乙丸はしっかりやっていると話しかけると、百舌彦はまひろ様宛だという。
「あぁご苦労、渡しておこう」
面白がって何がなんでも読んでやろうと惟規が受け取ります。
そして中を読み、「道長とは誰か?」とまひろに迫る。三郎か?と、からかう惟規。まひろがあわてて奪い取ると、さわは優しい文字だと感心しています。
よかったですね、道長! 行成の指導を受けた甲斐がありましたよ。
道長から文をもらい、居ても立っても居られなくなったまひろ。妾(しょう)でもいい、あの人以外の妻にはなれない――そう決意を固めて、逢瀬へ向かいます。
「すまぬ。呼び立てて」
「いえ、私もお話ししたいことがございました」
二人が向き合います。すると道長が、思いもよらぬことを話し始めました。
左大臣家の一の姫に婿入りする。それを伝えねばならぬと思い参ったのだとか。
急な話に激しく動揺するまひろは、それを隠しながら「倫子様はおおらかな素晴らしい姫様だ」と語り、「どうぞお幸せに」と続けます。
幸せではないけれども、力を得て、まひろの望む世を作るのだと精一杯尽くすと言う道長。
まひろは「楽しみにしております」と返します。
妾(しょう)でもよいと言ってくれ!
心の中でそう叫ぶ道長が、まひろに問いかけます。
「お前の話とはなんだ?」
道長様と私はやはりたどる道が違う――そう申し上げるつもりだったと答えるまひろ。
「私は私らしく、自分の生まれてきた意味を探してまいります。道長様もどうかお健やかに、では」
二人とも心は一致していたはずでした。
妾(しょう)でもいい!
妾(しょう)でもよいと言ってくれ!
しかし、結局は別れざるを得ませんでした。
まひろはきっと引き裂かれたのでしょう。道長への愛と、倫子への友情に。
他の姫ならばともかく、倫子を裏切ることはまひろにはできないのだと思います。
道長と倫子の結婚
道長は、その後、左大臣家へ向かいました。
文もよこしていないのにと驚く、倫子の母・藤原穆子は、同時にこう指示を出します。
「いいわ、入れておしまい」
手順を無視してやってきた道長。無礼を承知で来たと言い、側によってよろしいですかと尋ね、御簾を超えて倫子の前へ進みます。
見上げる倫子。抱きしめる道長。
身を重ね、倫子は感激しながらこう言います。
「道長様、お会いしとうございました」
照明の玄妙さ。御簾を動かす道長の手つき。そこからのぞく道長の顔。期待と緊張に固まった倫子の可憐さ。優美な音楽。
何もかも美しく、なんて素晴らしいのか――これぞ平安絵巻ではないかとうっとりしました。
こんなに可憐で花のような倫子が幸せなら、もう何もかもいいじゃないか!
そう雅信の気持ちになりかけて、ハタと気づきます。
これは将来、禍根を残しかねない結婚になりそうです。
というのも、文を送っていません。今の倫子は恋に燃えて夢中で、そんな苦さには気づかないでしょう。
しかし今後、愛に疑念が湧いた時、チクリと痛んでくるかもしれません。
そもそもあの人は、最初の晩から文もよこさなかったのだと。
もしも、その背景にまひろの影が見えたら、いったいどうなってしまうのか?
『源氏物語』にもあります。光源氏最愛の女君である紫の上は、桜に喩えられる最愛の存在として六条院に君臨し続けます。
しかし、光源氏が初めて紫の上と同衾した翌朝、彼女は泣いてなかなか起きてこられませんでした。
初めて肌を重ねた時、彼女は心を深く傷つけられていたのです。
塞がっていたように見えたその傷は、光源氏が女三宮という妻を迎えたことを契機に開いてしまいます。
そういう心のひだを描いているところが『源氏物語』の魅力です。
では、この倫子と道長の仲はどうなるのか。
確かに今はそれどころではないかもしれませんが……。
一方、全てが燃え尽きたようなまひろが家に戻ると、惟規とさわに迎えられます。
酒を勧められる「酔ってしまうかも」と返すまひろ。さわはこらえずともよいと言います。
「何をえらそうに」
そうからかう惟規。
まひろは酒を飲み干し、こぼれそうな涙をこらえています。
こうもぐいぐいと女性が酒を飲む場面は珍しいし、吉高由里子さんは酒を飲み干す姿が似合います。まさしく酔芙蓉の美です。
能天気な惟規とさわも愛おしい。まひろの意志の強さもある。
まひろは恋にこそ破れたけれど、友情や家族愛、そして使命を見つけ、強い目で夜空を見上げます。
ここのところのまひろはズタボロのようで、常に意志が通っています。
彼女こそ『源氏物語』を書き上げることができるのだという説得力が、回を負うごとに増しているのです。
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