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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第12回「思いの果て」】
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怨念を抱く明子女王
姉の藤原詮子から「倫子の顔は見たのか?」と問われている道長。
素っ気なく「見ていない」と返事をしています。
何か魂胆でもあるのか……と思いきや、詮子は「とっておきの美女がいる」と言い出します。
明子女王です。
醍醐天皇の孫であるとかで、姉からは妻にするよう迫られますが、道長は、顔は一度見かけたことがあると素っ気なく答えるだけ。
詮子には狙いがありました。
明子の父である源高明は藤原氏により失脚し、太宰府に流された。
そんな高明に祟られてはまずいから、忘れがたみの明子を妻にして怨念を抑え込み、高貴な血を入れる。最高じゃないか!と詮子は言い出します。
つくづく父の兼家に最も似ている姉ですね。
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投げやりな弟の態度をぼやきつつ、明子を見せる手筈を整える詮子。思わず「今日なの!」と驚いてしまう道長。
かくして源明子が出てきました。
どこか日陰にひっそりと咲く花のような風情を見せる明子。
なぜ詮子が気遣ってくれるのか。その思惑をわかっているような佇まいを見せています。
衣装の色もあり、スズランを思い出しました。可憐で無力なようでいて、毒のある花です。
詮子はいそいそと、兄弟の中で一番好きな弟の道長はどうかと言いながら、御簾をあげ、二人を対面させようとします。
ゆっくりと巻き上がる御簾が平安時代らしく期待感があがると、そこに道長の姿はありませんでした。
明子が高松殿に戻ると、兄の源俊賢がいました。
この縁談で醍醐天皇の血筋に光が当たると喜んでいますが、彼女の本心は、藤原からの施しを受けたくはない。
すでに受けていると冷たく返す俊賢。それでも明子は、道長の妻となれば兼家に近づけると納得しています。
憎き兼家の毛一本でも手に入れば、兼家を呪詛できる!そんな復讐心をたぎらせているのです。
俊賢は妹をたしなめ、今は藤原の力がなければどうにもならないとすっかり諦め気分で、道長の妻として幸せと栄達を手にせよと進めてきます。
明子の復讐心は、そんな簡単には晴れないようで、必ず兼家の命を奪い、父の無念を晴らすと決意を語ります。
いやはや、とんでもないことになってきました。
この兄と妹は、これまで出てきた人物とはガラリと変えてきて、本作のセンスが光ります。
策士の兄と、復讐を誓う妹。おもしろいですね。
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道長の覚醒と、公任の焦燥
道長も、彼なりに自身の進むべき道を考えていました。
まひろに甘えていた。金輪際、甘えは断ち切らねばならない。
そして行成のかな書道指導を受けています。
「ふぅ、かなは難しいな」
そう語る道長ですが、だいぶ上達してきました。これ以上、上手になってしまうと道長らしくない、そんなギリギリのところを攻めてきています。
それにしても、藤原行成が書を指導をする場面があるなんて素晴らしいですね。全国の書道家が悶絶しそうな話です。
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合戦シーンなど無くても、藤原行成の書道指導という伝説的なシチュエーションが出てくるのだから素晴らしい。
たしかに、気合を入れて書道場面を見ている人は多くはないと思いますし、芸能ネタにもならないし、視聴率にも繋がらないでしょう。
しかし、作り手の誠意とプライド、そして愛情の問題です。
伝説的な人物はそれにふさわしい場面にする。そんな誠意を感じさせる本作の書道はともかくよい。
斉信が「道長がやる気を出すなんて初めて見た」と言いながらも普段通りであるのに対し、公任の顔には焦りが浮かんでいます。
公任はその後、父の藤原頼忠に「摂政家の道長が本気を出してきた」ことを報告しました。
これまで公任は、己が最も賢く先頭を登っていくつもりだったと打ち明ける。
そんな息子からのプレッシャーを受け流すように、頼忠は「内裏に出仕することをやめようと思っている」と話し始めるのです。
お飾りの太政大臣は恥を晒しているようで、もはやこれまで。
そう腹を決めた父に対し、公任は困惑するばかり。後ろ盾を失えば、ますます立場が弱まってしまいます。
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それでも父に後を託されたら、応じるしかない公任。
頼忠が、そんな息子に対し、一つだけアドバイスを送ります。
摂政家では道兼につくように――。
花山天皇の退位騒動で最も目覚ましい働きをし、やる気に満ちていたのは道兼だった。
そんな父の言葉を律儀に受け止める公任ですが、実に素晴らしい場面ですね。
これから暗くなる夕刻の光が満ちていて、公任の顔に当たっている。
橋爪淳さんの優しくも弱々しい頼忠。そして町田啓太さんの公任にヒビが割れてきたところが素晴らしい。
これまでの公任は、自分より賢いものはいないという自信に満ちていました。傲慢でした。
その自信に微かなヒビが入り、焦りが滲んだ顔はさらに磨きをかけたように美しい。
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町田啓太さんは、大河枠として山本耕史さんと比較されます。
二人とも土方歳三を演じ、上半身を脱ぎました。
しかし、それだけではないと私は思います。
高慢なぐらい自信に溢れ、己の知性に絶対的な信頼を見せていた男。
それがライバルに追い抜かれ、置いていかれ、だんだんとプライドが崩れていく、いわば崩落の美貌が両者にはあります。
『鎌倉殿の13人』では、三浦義村を演じた山本さんが実に素晴らしかった。
後半になって、主人公である義時に出世から離されて苛立ち始めます。苛立ち、扇子を叩きつける場面は最高としか言いようがありません。
公任にもこれからそんな瞬間がきっとある。
落ちゆく公任は至上の美を見せてきます。彼が公任を演じて本当によかった。
作り手もそんな公任の落ちる様を見るべきだというように、道兼につくという父の指示を見せてしまいました。
確かに、このあと出てくる道兼は周囲に一目置かれ、摂政の後ろ盾を持ち、本人も精力に満ちた姿を見せていました。
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