長保3年閏12月22日(1002年2月7日)は藤原詮子(せんし/あきこ)の命日です。
大河ドラマ『光る君へ』で吉田羊さんが演じ、全国にその名が知られるようになりましたね。
藤原道長の姉であり、ドラマの中では藤原兼家の子供たちの中で「最も父に似ている」と評され、後に道長が朝廷のトップに立てたのも彼女の力があったからとされます。
そこで気になるのが史実における詮子の存在でしょう。
実際に道長は姉のおかげでトップにたてたのか。
そもそも彼女はどんな女性だったのか?
藤原詮子の生涯を振り返ってみましょう。
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藤原兼家と嫡妻・時姫の娘
藤原詮子は応和2年(962年)、藤原兼家を父、藤原時姫を母として生まれました。
この時代は一夫多妻制度であり、かつ父母の血統が重視される双制系です。
どの母親のもとに生まれるか?
子供にとってはそれが重要であり、彼女は道隆・超子・道兼・道長らきょうだいと同じく、兼家の嫡妻(時姫)の子でした。
時は、藤原氏による外戚政治がますます強化されていく最中です。
兼家は天皇の寵愛を得るにふさわしい教育を詮子にほどこしたことでしょうし、冷泉天皇に入内している姉の藤原超子も手本とできたはず。
歴史を振り返ると、女性の苦労には様々なものがあります。
しかし、この時代の藤原氏出身女性はかなり独特かもしれない。
天皇の寵愛を得るべく、美貌と才知を磨くことはできる。むしろそれがつとめ。
とはいえ、期待されるのは愛され、男子を産むことばかり。決して自分の思う通りにはいかない――。
生まれた時から決まったそんな運命だなんて、なかなか残酷と見るか、贅沢な悩みとするべきなのか。
繰り返しますが、こんな悩みはそうそうありません。
外戚政治は問題視されるものであり、完璧ではないながら排除の仕組みもあります。何代にもわたり外戚の輩出に成立し続けた藤原氏が特殊なのです。
藤原北家九条流の外戚政治
藤原氏にしても、最初から何もかも上手くいったわけではありません。
偶然や運命も重なって、この状況が生まれたと言える。
いわば日本史上における外戚政治最高潮の時代であり、藤原詮子から見た当時の状況を整理しておきましょう。
なかなか凄まじいことになっていて、頭が混乱するかもしれませんが……。
◆藤原詮子から見た当時の状況
【村上天皇】詮子の伯母の藤原安子が中宮/安子の父である藤原師輔は詮子の祖父
【冷泉天皇】村上天皇の第2皇子で母は藤原安子/詮子の姉である藤原超子と従姉の藤原懐子(藤原伊尹の娘)が入内する/伊尹は兼家の長兄
【円融天皇】藤原詮子が入内/従姉の藤原媓子(藤原兼通の娘)が入内/兼通は兼家の兄
【花山天皇】父の藤原兼家と、兄の藤原道兼による謀略で出家し退位する
【一条天皇】藤原詮子の子である懐仁親王が一条天皇として即位/姪の藤原定子(藤原道隆の娘)、姪の藤原彰子(藤原道長の娘)が入内する
いかがでしょう?
あまりにも複雑に入り組んでいて、パッと見で理解できる方は少ないと思われます。
人類は、経験則から近親婚をタブー視してきました。
しかし、そうしたリスクより政治権力が重視された結果がこの異常なまでの外戚政治なのです。
早期退位を願われてしまう冷泉天皇
異常事態とも言える政治状況を迎え、当時は天皇すら傀儡になってしまう。
いや、それこそが藤原氏の狙いと言える。
冷泉天皇は藤原安子の子であり、藤原詮子の姉である藤原超子(ちょうし/とおこ)、従姉の藤原懐子(かいし/ちかこ)が入内しています。
しかし、病弱で男子に恵まれず……と伝わっていますが、実際は疑念が生じるところです。
藤原氏による数多の陰謀が駆使されたのではないか?
その証拠は当然残されていませんが、退位後の冷泉天皇に子ができなかったわけではありません。つまり在位の間に男児が生まれる可能性もあった。
「狂気に蝕まれていた」ような表現も声高に語られてきましたが、誇張もあるとされ、どこまでが真実か不明でもあります。
いずれにせよ冷泉天皇の次代を担うべき東宮(皇太子)の候補は、村上天皇の皇子である以下の二人に絞られました。
為平親王(ためひらしんのう)
守平親王(もりひらしんのう)
いずれも藤原安子の子ですが、為平親王の妻は源高明の娘です。
もしも為平親王が即位すれば、源高明を外戚として台頭させることになり、藤原氏としては一歩も引けないところ。
結果、守平親王が東宮になるだけでなく、その2年後、高明は謀反の恐れありと密告され、政治的失脚に追い込まれます(【安和の変】)。
源高明の娘には道長の妻となる源明子もいました。
父の後ろ盾を失った明子はじめその娘たちは、弱い立場に置かれてしまうことになります。
そして安和2年(969年)、冷泉天皇は早くも退位することとなり、守平親王が円融天皇として即位。
冷泉の子ではなく、弟を東宮、そして天皇とする皇統が決まります。
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