大河ドラマ『光る君へ』で石野真子さん演じていた藤原穆子。
劇中では、序盤から終盤までという長寿の女性でしたが、その第一印象は「穆子ってどう読むのだろう?」ということかもしれません。
本作の劇中では「むつこ」という、現代では馴染みのない難しい字。
意味としては「穏やかな様」を表し、春秋時代の秦で第9代の主君に穆公(ぼくこう)がいます。
「春秋五覇」(春秋時代の名君五人)の一人とされ、秦が全土統一する過程を築いた明君とされるのです。
そんな意味深な名を持つ彼女は、藤原道長の嫡妻となる源倫子の母として歴史に刻まれますが、当人は一体どんな人物だったのか?
長和5年(1016年)7月26日はその命日。
実は道長も頭が上がらないとされた、藤原穆子の生涯を振り返ってみましょう。
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道長と女性たちをつなぐ役割を果たす
『光る君へ』では黒木華さんが演じて、お嬢様っぷりが話題となった源倫子。
その父が源雅信で、母がこの藤原穆子(むつこ)となります。
穆子は主人公まひろ(紫式部)の遠縁にあたる設定とされますが、実際はどうだったのか?というと全く無いとは言い切れない状況でしょう。
なんせこのドラマは視聴者が混乱するほどに“藤原”が多い。
平安時代を通して見れば
◆源平藤橘(源氏・平氏・藤原氏・橘氏という四つの有力氏)
なんて言葉もありますが、本作の舞台ではとにかく藤原氏が際立ってた時代です。
それもほんの一握りの家系に権力が集中。
近新婚もタブー視されておらず、異母きょうだいの結婚や、おじおばと甥姪の婚姻すら日常的に行われていました。
そんな狭い範囲で婚姻を繰り返しているのですから、藤原同士、どこで親族が繋がっているかわからないほど。
紫式部と藤原宣孝の夫婦も遠い親戚とされます。
親族同士で語り合い、そこで縁談が決まっていくのであれば、設定に無理はないですし、当時の世界観を示すうえで秀逸と言えるかもしれません。
父は百人一首に選ばれた三十六歌仙の一人
藤原穆子とまひろとの繋がりで、もう一つ考えたいのが両者共に“歌人の娘”ということです。
穆子の父は藤原朝忠。
三十六歌仙の一人であり、小倉百人一首では44番中納言朝忠として知られます。
逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらまし
全く逢えない人となってしまえば、あの人のことで恨みがましく思ったりしないのに……
すれ違う心の動きを詠んだ歌ですね。
劇中には出てきませんでしたが、内容的には『光る君へ』にはピッタリ。
まひろと道長は、出会えるようで出会えない……出会えないようで偶然出会ってしまう……そんなすれちがいが見どころになっていました。
これほどに切ない恋心を詠んだ朝忠の娘・穆子だって、キラリと光る言語センスを受け継いでいても不思議ではないでしょう。
ちなみに父の朝忠には「肥満体だった」という伝説があります。
悩んだ中納言がダイエットのコツを医者に聞いたところ、「冬は湯漬け、夏は水漬けにしましょう」と言われました。
しかし医者に診せて安心しきったのか。大量の湯漬けと水漬けを食べてしまい、いくら経っても痩せない。
医者は呆れました。
「食べる量がこれじゃ痩せるわけないでしょ……」
この笑い話は子ども向け百人一首書籍で読んだ記憶があります。
ただし人ちがいで、別の中納言の話であるとのこと。穆子の父が太っていたわけではないようです。
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