徳川家康像/wikipediaより引用

どうする家康感想あらすじ

『どうする家康』はペース配分がヤバい?1983年の家康大河と徹底比較

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どうする家康のペース配分
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“シン・大河”に挑んだ?

これぞ新解釈だ!

古沢マジックだ!

“シン・大河ドラマ”だ!

放送開始前は、そんな盛り上げムードの記事が出ていた『どうする家康』。

いざ蓋を開けてみると、3月12日放送の視聴率が7.2%という惨憺たる結果となってしまいました。WBC戦とかぶっていたのでそこは考慮するとして、問題はそれまでの視聴率です。

第7話13.1%
第8話12.1%
第9話11.8%

WBCがあってもなくても、10%ギリギリの攻防だったかもしれないのです。

いったん離れた視聴者は来年まで大河を見なくなるリスクもある。

視聴率はもはや信頼度の足る指標ではないにしても、NHKオンデマンド(VOD)での成績が良いという報道もでない。

ここまで視聴者ニーズを外しているとなると、やはり根本的な戦略ミスがあったのではありませんか。

ゲームのようなVFX。

ダークな衣装。

軽快なノリ。

家康と瀬名がキス寸前となるラブシーン。

遊び女やくノ一が出てくるセクシー狙い。

プロレス技まで使うアクション。

素っ頓狂なナレーション。

そして頼りない家康。

その他もろもろ……。

どれもこれも絶望的なまでに噛み合っていませんが、その謎を解く手がかりとなる記事を見つけました。

各種メディアで派手な宣言をしていた『レジェンド&バタフライ』が、赤字になるというニュースです。

そこでは『どうする家康』と同じ脚本家起用の狙いが記されていました。

◆番宣23本出演、普段とは違うキムタクを見せたが…木村拓哉“信長映画”がそれでも赤字の理由(→link

問題の部分はこちらです。

「当初は10億円ほどの製作費で撮る予定でした。

古沢さんは低予算で撮れるラブコメを描こうとしたのですが、出来るだけドラマティックに描きたいという監督の思いもあり、製作費が徐々に嵩んでいった」

低予算で撮れるラブコメを描こうとした――。

これが大河でも求めていたものではないでしょうか。

低予算で、従来の大河ファンが求める映像は撮影できずとも、軽快なラブコメタッチならできるし、ヒットするかもしれない。そんなニーズを踏まえての起用かもしれません。

大河ドラマは、その路線で成功した先例もあります。

2021年『青天を衝け』です。

あのドラマはコスパがよく、【桜田門外の変】や【長州征討】そして【戊辰戦争】は、2013年『八重の桜』にはるかに及ばない出来でした。

パリでのロケが制限される状況で、VFXを駆使し、その出来は不自然さが目立ちました。

渋沢栄一の実績は、明治以降が重要です。

幕末は大した存在でないにもかかわらず、明治維新に入る以前を引っ張り、渋沢が成し遂げた商業成果の描き方はおざなり、上っ面だけなぞって、何ら詳しい説明のない描写ばかりでした。

ゆえに幕末史や日本近代史に詳しい人に感想を尋ねたら、いずれも苦笑あるいは憮然とされたものです。

それでもドラマとしては、成功したとされます。

渋沢栄一と千代の夫婦愛。

徳川慶喜の存在感。

『あさが来た』に続く二度目の五代友厚となったディーン・フジオカさんへの盛り上がり。

そうした視聴者側のキャラ萌え需要と、供給が一致していました。

明治以降の経済史――そんな堅苦しくて骨太な描写を求める視聴者は少なく、美男美女が繰り広げる恋愛ドラマとなれば数字が見込める。

需要と供給の一致が、ヒットへ繋がったのでしょう。

 


家康大河が本当に必要だったもの

本稿を書き進めていて、ネットミームとなった「顧客が本当に必要だったもの」を思い出しました。

ITビジネスにおけるシステム開発の迷走を風刺した絵です。

◆ 風刺画「顧客が本当に必要だったもの」の風景は実在した!? オチの絵にそっくりなタイヤのブランコが発見される(→link

『どうする家康』からは、そんな迷走を感じます。

そもそもの要求にこんな無理があったのではないでしょうか(あくまで私の妄想です)。

NHKが説明した要件

徳川家康の大河を頼むよ」

「できれば若者にも受けるようにしてね」

「低予算でいけると助かるなぁ」

「難易度上げないでね。『青天を衝け』戦国版みたいな感じでどうかな」

それに対して、スタッフはこんな風に考えた(あくまで私の妄想です)。

甲の理解

「承知いたしました」

「でも、家康なんて……関ヶ原と大坂の陣まであるのに低予算とはなぁ……」

「そもそも家康って、若者に人気だっけ?」

乙の理解

「まぁでも、最近は『戦国BASARA』や『戦国無双5』でもイケメンで若いんですよ。発想を転換してみればあるいは……」

「よし、徳川史観を打破しましょう!」

丙の理解

「恋愛メインなら予算も抑制できるハズ。ジャニーズにしよう。『軍師官兵衛』も『青天を衝け』も、主役や準主役をそうしたじゃないか!」

「美男美女を揃えてこそ大河ですよ!」

丁の理解

「『鬼滅の刃』読んでます? もうめっちゃ面白くて。ああいう和風の世界観って、若い子も好きじゃないですか」

「で、『鬼滅』の魅力は彼! 我妻善逸くんです♪ ヘタレで泣いちゃうけど強い。そういうギャップ萌えですよね」

「和風の世界観でギャップ萌え、これですよ! ヒロインは禰豆子ちゃんみたいな感じはどうかな」

戊の理解

「最近、フェミがSNSなんかでうるさいよね。ちょっとエロいだけで大騒ぎしてさぁ。でも、エッチな路線が好きな男の子っていると思う! そういうちょっと懐かしいセクシー路線でいきましょう! ゲームや漫画でもあるし」

「なるほどー、若者ウケを狙えそう!」

己の理解

「そういう男性だけが得するようなサービスはいかがなものでしょうか?」

「腐女子のことも考えて!『鎌倉殿の13人』はボーイズラブあったでしょ!」

「イケメンドS王子の信長様なんていいじゃないですか。決め台詞は“俺の白兎”なんてどうですか?」

「もちろんイケメンに脱いでもらわないと♪」

庚の理解

「まあ、予算ケチるっていうし、そういうウケ狙い連発しかないかなあ」

「SNSを活用しましょうか。そういうウケ狙いを連発していけば、ハッシュタグも盛り上がるし。ファンアートも投稿されるし。そういう軽いノリが今どきの若い層にはウケますよね」

辛の理解

「そうすね。人間、案外自分の頭使ってねえし。若者なんか倍速視聴してじっくり見ないし。大丈夫っしょ。戦国時代は人気あるし」

「SNSのコメントをまとめたニュースをバンバン流せば、ま、なんとかなるっしょ。じゃあその辺考えていきますわ」

壬の理解

「映画とのタイアップも進めていきましょう!『レジェンド&バタフライ』というヒット間違いなしの大作映画と脚本家が同じです。こんなチャンスはありませんよ! 宣伝対策、オッケーです!」

「テーマがマニアックだった『鎌倉殿の13人』もウケたし。『青天を衝け』もなんだかんだで成功したし。大丈夫ですよ」

「じゃあウチからの隠し球『岸辺露伴は動かない』映画版とも絡めないと!」

癸の理解

「ええっと、恋愛メインでコメディ要素強くて、ドジっ子ヘタレ家康を描くってことか……」

「じゃあ、あの脚本家さんがいいっすね!」

一方、視聴者は?

視聴者

「まっとうな、オーソドックスな、家康の人生が見たかったんだよね」

「大河は勉強になると思ってみているけど、これは見た瞬間になんか怪しいって思えるんだよ」

「ちがう、こんなものは求めてない!」

長々と私の妄想にお付き合いいただき、ありがとうございました。

こんなにダラダラと書かずとも、「船頭多くして船山に登る」ということわざ一つでも表現できますね。

しかし、それでも成功作を生み出せる達人もいます。

大河は長丁場です。その方が成功することもありるのです。

典型例が『青天を衝け』の大森美香さんです。

彼女は朝の連続テレビ小説『あさが来た』を手がけました。

このドラマで五代友厚の人気がフィーバー状態となると、五代の出番を増やしたように思えます。そのせいか回収されなかった伏線があり、かつモデルの人物業績を端折るような構成になったのです。

それでも、それゆえにか、伝説的なヒット作となりました。NHKもその前歴を見込んで大河に抜擢したのでしょう。

『どうする家康』は、柔軟な脚本にしたのだと推察できます。

ざっと流してみて、手応えのある要素を分厚くして、そうでないところを薄くする――そういう手法が有効な場合もあります。

マイナーな時代や主人公ならば、アラが気づかれにくく、それでも問題がないこともある。

しかし、よりにもよって『どうする家康』は、日本史上屈指の有名人である徳川家康を扱ったのです。

小手先でペース配分をするような題材ではありません。

もしも、これがもっとマイナーな題材や時代であれば、かえって成功したかもしれません。

 

車の速度を気にする前にまずはパンク修理だ!

一方で、頑固な脚本家もいます。

2020年『麒麟がくる』です。あの作品は脚本家が複数いるチーム制でした。

しかし設定がぶれるとか。つなぎがおかしくなるとか。テーマが歪むとか。そういうことは無かった。

脚本家である池端俊策さんは、オファーを受けたことから、テーマや主役の選定まで、講演会で語っています。

その話からすると、NHK側が彼の作家性に合わせていることがわかるのです。

『麒麟がくる』は難解で個性的な作品です。

わかりやすさやウケ狙いばかりを考えていたら、ああした作風にはならなかったでしょう。ましてや複数の脚本家体制ですから、強固な思い入れあっての作品のはず。

『鎌倉殿の13人』は、三谷幸喜さんが先例ともいえる『草燃える』の大ファンだったことが重要に思えます。

三谷さんのそんな好みを理解したNHK側が持ち込み、かつスタッフは『ゲーム・オブ・スローンズ』を意識していたことを公言していました。

『草燃える』をベースとして、そこに2020年代らしい『ゲーム・オブ・スローンズ』のようなアレンジを加える。最新研究も反映させる。これで面白くないワケがない。

池端さんも、三谷さんも、歴史のおおよその流れは理解していて、噛み砕くことができる。

そんな基礎がしっかりしているからこそ、斬新な作品が生み出せたのです。

そうした基礎ができていない状態で、歴史ドラマにチャレンジしたらどうなるのか?

しかも、目新しさを狙うような取組をしたら?

SNSやニュースで盛り上げようにも限界はあります。『鎌倉殿の13人』はトークショーや祭りが賑わいましたが、それはドラマそのものに力があったからこそ成立できた。

思えば三谷さんも、舞台や民放でのヒットを提げて大河に起用されました。

もしも彼なら、今年はどう表現したか?

『鎌倉殿の13人』を『徳川家康』に置き換えると、想像できます。

先例ともいえる『徳川家康』をベースにし、かつ海外ドラマや今の潮流を入れつつ、最新研究を反映させる――それでよかったのでは?

『どうする家康』は、ペース配分が速いとも、遅いとも言えない。

ただ、根本の狙いが間違った。ゆえに速いとクレームをつけられ、遅いと批判される。

そして進んでも退いても苦戦する状況に追い詰められてしまったのでしょう。

車が走っている。

パンクしているのに、そのまま走っている。

その車の速度を考えますか?

それよりもまずタイヤ交換だろ!

と、なりますよね。

『どうする家康』のペース配分を考えるということは、この状況のようなもの。スピードが適切かどうか考える前に、まずタイヤ交換について考えねばならないのです。

それぐらい今年の大河は壊れている。

この状況で「パンクくらいどうでもいいよ」と走らせようとする者がいれば、その人は楽観的か無責任か、そんなところでしょう。

背水の陣で巻き返せるかどうか。

まだ序盤ですが、既に正念場です。

どうする製作陣――。

家康は幾度も窮地を抜け出し、江戸時代を切り開きました。そんな家康を扱うドラマの作り手は、どうなるのでしょうか。

みなさん不満なんですかねえ。


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文:武者震之助note

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