どうする家康感想あらすじレビュー

どうする家康感想あらすじ

『どうする家康』感想あらすじレビュー第32回「小牧長久手の激闘」

天正12年(1584年)3月――家康と秀吉の天下を巡る決戦の火蓋が切り落とされた。

そんな字幕が流れ、歌いながら土木工事する人足の姿が映ります。

30回もの放送を過ぎ、ようやく落ち着きのある大河らしさを前面に出してきたようです。

これまでは時系列を逆転するなどの遊びが酷く、見ている側は混乱させられました。

ただ、せっかくの雰囲気も、ナレーションがあの調子では結局台無し。

「決戦の時が迫っております!」

と、盛り上げようとしているようですが、声のトーンが相変わらず講談師のようで、ズッコケそうになります。いっそのこと本職に頼めばよいのに、どうにもチグハグで……。

ナレーションはドラマの土台でしょう。

彼女の声は春日局説もありますが、そんな小手先の話ではなく、もっと全体の骨格をしっかり整えてくれるような語り調のほうがよいのではありませんか。

直後に登場する秀吉の陣羽織も、質感が絨毯のよう。

真田丸』の秀吉も、派手で凄まじいセンスの衣装でしたが、それが似合っていたし納得できた。

このドラマは脚本の流れだけでなく、衣装にも説得力が感じられず、その思いはオープニングテーマを聞いていると、さらに強くなります。

戦国乱世の重厚さどころか、せいぜいが運動会のマーチ程度に思える。

わかりやすさを重視して間違ってしまったのか、背景のアニメも同様に緊迫感がありません。

キラキラした悪趣味なロゴばかりがドーン! と目に飛び込んできて、「いつの時代のセンスで作っているドラマなんだ?」という違和感が拭えません。

 


どうする「赤鬼」

「良いところを無理やりに探す」少女ポリアンナのように、本作の改善点を強引に挙げるらば、床几の導入でしょうか。

しかし、その思いも井伊直政で台無しになります。

彼は顎が細く、色が白い、そして全体的に細い。

2021年大河ドラマ『青天を衝け』では幕末の貴公子として登場したため、違和感はありませんでした。

しかし今回はどうしたって線の細さが目につく。

江戸時代後期以降の白米を食べている印象顔に見えてしまいます。適材適所にできなかったのでしょうか。

 


どうする発声と罵倒

現代ドラマの詐欺師のような本多正信がわざとらしく登場したかと思ったら、秀吉のことを「悪逆非道なり〜」と、何らひねりのない罵倒。

罵詈雑言を浴びせるにしても、他に言葉はなかったのでしょうか?

なぜ脚本の語彙力不足をどこかで加筆修正できないのか。

フィクションであればこそ、こうしたところは書き手の腕の見せ所であり、面白さを出せる場面でしょう。

それが、手垢にまみれた「悪逆非道」という語句では、せっかくの正信の知性もぼやけてしまう。

おまけに腹の底から出ていない発声のせいか、声がペラペラと聞こえて、悲しくなるばかり。

抑揚の付け方、ピロピロしたBGM、何もかもが頭を抱えたくなります。

そもそも、こんなところで怒鳴って、誰に聞かせるつもりなのでしょう?

徳川勢が愚かで品性下劣にも見えてくる。あまりにくだらない場面です。

 


どうする罵詈雑言への反応

悪口が記された看板や紙を池田恒興が秀吉の前に持ってきて、何やら煽っている。

しかし、ここでも言葉が物足りない。

どうせフィクションなのですから、別に戦国時代にこだわらず、『三国志』だって参考にしてもよいでしょう。

例えば、曹操が袁紹と対決したとき、袁紹のプロパガンダ担当者である陳琳が曹操を罵倒する文書を書いています。

私も何度か引用させていただいてますが、これが名文で『文選』に収録されています。

これを読んだ曹操は「これを書いた奴は殺すしかねえ!」と激怒する。

そして袁紹を倒して陳琳を捕縛すると、目の前まで陳琳を連れてきました。そして「おっ、作者発見。俺の前でこれを音読してみ」と声をかけたところ、陳琳は死を覚悟しながら読み上げました。

すると曹操は、

「きみ、煽りの才能あるよ。これからは俺のために俺の敵を煽ろうぜ!」

と許して陳琳を採用。無事、曹操配下を代表する文人となった――というものです。

「ドラマだからフィクションで当然」というならば、なぜこうした過去の名シーンを参考にしてアレンジしたりしないのか。

このとき、秀吉は尻を相手に向けて叩いて挑発したなんて逸話もあります。真偽のほどはわからないものの、このドラマはそういう話でも取り入れてきたじゃないですか。

全く見せ場になっていない。視聴者に「おっ」と言わせるような、ひねりがない。

挙句の果てに、秀吉に

「人の悪口を書いて面白がっている奴は、自分の人生を特別だと思っているんだ!」

なんて言わせてますが、これはどういう意図なのでしょう。

暗に、『どうする家康』を批判する者たちに向けて発せられているんですかね。

あるいは、秀吉のその言葉を肯定的に捉えるのだとすれば「だから徳川軍はダメなんだよな」となってしまいます。急にどうしたのでしょう。

曹操と陳琳のやりとりなんて非常に面白いと思うんですけどね。

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どうするアドリブ頼り

罵詈雑言の看板に対して、秀吉が吐いた台詞。

あれはアドリブの可能性も考えられます。

以前から、脚本ではなくアドリブが目立っている本作、公式ガイドブックの「第32回あらすじ」では、秀吉の台詞が「家康はひざまずく」といった趣旨の一文しか記されていません。

編集者が公式ガイドブックを確認したところ、このシーンでは榊原康政による「野人の子」という言葉に注目されていたそうです。

それが思いのほか長いシーンになっていて、後から脚本家が加筆したのか、それとも現場で追加されたのか、すべては謎。

いずれにせよ当初の予定とは若干異なる展開であり、現場の役者が必死になっている可能性も考えられますね。

 


どうする軍師

なんとなく偉そうな正信。なぜ、ここまで大きな態度でいられるのか。

軍師的ポジションならば、まずは天候の話をするのが自然な流れでは?

風が強ければ火を使うとか。

雨が降るならば水害を利用するとか。

そういう見通しが一切なく、未来を知っているからこその結論(中入り)をドヤ顔で出してくる。

同じ脚本家の映画『レジェンド&バタフライ』の帰蝶もそうでした。

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実際の戦場は、ゲームではありません。敵がどう出るか。軍の動きが何に左右されるか。攻略本などない世界で、必死に思いを巡らせ、少しでも勝率の高いほうへ向かう。

本多正信のポジションでは、そうしたロジカルな説得力が必要とされるのではないでしょうか。

それがいきなり石を落として、三河中入りが怖いぞ、ドーン!って喪黒福造じゃないんだから。

視聴者を納得させて初めて、映像作品といえるはずです。

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