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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第11回「許されざる嘘」】
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義円の出立を駆り立てる義経
怪しい叔父こと源行家はイライラしています。
「なぜ頼朝は京に攻め上らぬ!」
義時と盛長が、頼朝に代わって応対。にしても義時は、しょっちゅう貧乏くじを引かされますね……。
行家は兵を一万ほど貸していただきたいと言う。美濃と尾張で平家を討つんだそうで。
義時も、飢饉で兵を貸す余裕はないと即断ります。
そもそも、そんな大軍を簡単に貸せるわけないでしょ。そのまま引き返して鎌倉の御所でも襲撃されたら終わりですからね。
まったく、行家はノリと勢いだけの役立たずだなぁ。
そんな行家は、甥っ子たちに檄を飛ばしています。
全成は「兄上の赦しもなく、鎌倉を離れるわけには参りませぬ」と返答。
義円は「叔父上には京で色々とお世話になりました。お力になりたいのはやまやまですが……」と言葉を濁している。
「この恩知らずめが!」
毒づく行家。
範頼は、叔父上こそ鎌倉殿の元で戦わないのか?とツッコミます。
しかし、この野心家の行家は「家人になる気はない!」と本音を隠そうともしません。
そんな甥っ子の中で、一番危険な義経は離れて座って、このやりとりを聞いている。
彼は察知しました。義円の“義理固さ”という弱点を……。
そんな危険な思惑に露とも気づかず、義経と二人きりになった義円は、つぶやきます。
「叔父上に申し訳ないことをしてしまった……」
「行けばいいじゃないですか」
義経が義円に“毒”を含んだ言葉を飲ませようとします。
勘違いしているかもしれないけど、鎌倉殿はあなたのことをさほど買ってない。遅れたのがよくない。平泉からきた私より遅いとは!
御台所の前で和歌を詠んだのもよくない。鎌倉殿は、ひけらかすのが一番嫌いだから。能ある鷹は爪を隠すとやらなんとやら……。
義円は澄み切った目でこう言います。
「どうすれば?」
仕上げにかかる義経。
鎌倉殿に認めて欲しいんだったら、十郎叔父に従って手柄を立てろとけしかける。追いかけてゆけとけしかけるのです。みんなには自分から話しておくと。
兄に会いたいと義円が訴えると、義経はこうだ。
「鎌倉殿に? どうしてそういう考えになるかな。言い訳とか、ほんとうにあのお方は嫌いなのに」
これは嘘のようで、義経が頼朝の言動を記憶していて、自分がそう感じているということもあるのかもしれない。
ならば、文を書くと言う義円に賛同し、後で渡すと請け負う義経。
話を聞いてくれたと感謝する兄の義円に対し、兄弟なら当たり前と言い切りながら、笑い合っています。
義経が邪悪だと思われるでしょうか? よくも兄を騙せたものだ、と。
義経には、なんてことないかもしれません。
どうせ源行家についていっても軍勢として大したことはできない。討死する可能性もある。騙された記憶ごと死んでくれるのであれば、はなから何もなかったに等しい……とそんな風に考えているのかも。
手紙を破った義経にそれでも甘い頼朝
翌朝、思いを認めた文を義経に託す義円。必ず渡すと請け負っています。
一方で無策の源行家は、自分を助けなかった頼朝はいずれ後悔すると言い捨て、出立するのでした。
義経は、何ら躊躇もせず、義円の文を破り捨てます。
なんと禍々しいのでしょう。
今までの義経像を丸ごと粉砕するようで、腑に落ちる感覚はいつもある。
しかし、こうも己の利益のために生きる心を推察することは、楽しくもあり、苦しくもあること。作り上げる側も大変で、かつ楽しいことでしょう。
その義経が頼朝に呼び出され、こう切り出されます。
「義円がおらぬのだが、心当たりはないか?」
シラを切る義経。言伝もないと言います。
と、そこに破れた手紙が貼り合わせて置かれます。
「なぜ捨てた?」
「私ではありません!」
すると頼朝は、平三(梶原景時)が見ておったと言います。範頼が義円を追いかけていったそうです。
頼朝は怒ります。
「義円が目障りか! 我ら兄弟が力を合わせねばならぬというのに、愚か者! しばらく謹慎して頭を冷やせ!」
横で聞いている義時も、この兄弟のやりとりは、さすがに気まずい。
頼朝はさらに続けます。
「九郎。わしはお前を息子のように思っておるのだ。いずれはあとを継がせてもよいと考えておる」
義円のことをあげて義経が戸惑っていると、頼朝は戦場に真っ先に駆けつけた恩義を言い出します。
「あのとき、どれほどわしが嬉しかったか……」
弟の肩に手を置き、語りかける頼朝。
「心を磨いてくれ、九郎」
感動的なようで、またしても頼朝は源氏の命脈を縮めました。
頼朝はあまりに情けに流されている。兄弟が合流した順序でいえば、全成のほうが義経より早い。
それでも義経に対してああも感激したのは、坂東武者に素っ気ない態度を取られて精神的打撃を受け、人間不信であったところにスッと入り込むようにして義経がやってきたから。さして重要な理由でもないのです。
こんな特別扱いをされて、義円のこともうやむやにしたら、義経は反省するわけがない。内心かえって侮るかもしれない。
それに義経には、背後に藤原秀衡がおります。
なぜ藤原秀衡は義経を二度も匿ったのか~奥州藤原氏の名君は頼朝に対抗する気だった?
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息のかかった義経が権力者になれば、奥州藤原氏にしてみれば、してやったりでしょう。本人が望むか望まないかは別として、義経にはそういう政治力がある。
そして最悪の間違い――それは頼朝が我が子の命を危険にさらしたことです。
跡継ぎ問題で、最も面倒が起きやすい一例が【叔父と甥】の関係。
『麒麟がくる』の場合、明智光安が甥である明智光秀をたて、家督を譲りました。
あんな風に潔く振る舞えない叔父は大勢います。最初は違ったかも知れませんが、徐々に野心が湧いてきて、甥を殺してでも家督を奪うことは近隣諸国でもあります。
中国史ですと明・永楽帝による【靖難の変】。
朝鮮王朝では世祖による【癸酉靖難】。
そんな野望の種を義経の心中に蒔くなんて、頼朝はあまりに迂闊だ。随分と危険なことをしたものです。
義経はどんどん怪物になってゆく。野心が、彼を濁らせてゆく。
そんな義経のブレーキ役が梶原景時ですね。
彼は鎌倉に詳しいから見回りに向いていると自己申告をしていました。
鎌倉への土地勘のみならず、彼には“目”がある。不正を嗅ぎつけると、何かを見てしまう“目”が。
水上戦が重要
義経の企みを全く知らない義円は、源行家に従い、墨俣川で平家とぶつかりました。
功を焦る義円は、敵方の手により、水の中に沈められています。
そして、
「兄上!」
と叫びながら討ち取られました。
義円(義経の同母兄)が墨俣川の戦いで呆気なく討死してしまった理由を考察
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水死という状況にご注目ください。なぜ溺死させたのか。
僧侶を切りたくないから? いえ、それは南都焼き討ちで血を流していた僧侶がいたように関係ないでしょう。
甲冑は、水を吸うと致死率がほぼ100パーセントになります。
かなり先のことですが、北条泰時が川に甲冑のまま馬を乗り入れようとして「そんなことをしたから死ぬからおやめください!」と止められています。
ゆえに、三浦義澄と義村父子が、石橋山の手前で渡河を諦めたのも当然と言えます。
川を挟んだ戦いでの常識すら、源行家は把握していなかったんですね。
戦は下手でもメンタルだけは強い!源行家は墨俣川の戦い惨敗後も粘り続けた
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渡河準備がお粗末でした。
ノリと勢いだけで合戦をしようとしたのでしょうから、勝てるわけがない。
そういう死地だからこそ、頼朝も助けません。武田信義のような脅威になると恐れてもいない。殺すために義円を送り出した義経の思惑通りですね。
そしてもうひとつ重要な点。
水上戦においては、平家に大きく劣る源氏ですが、この先はどうか?
源氏には三浦党(義澄、義村ら)はじめ水上戦ができる坂東武者がいます。
いくら義経が天才軍略家であろうと、水上での戦闘が実践できなければどうにもなりませんが、坂東武者の中にも対応できる勢力がいた。
つまり平家は水上戦でのアドバンテージを失っていたのですね。
もしも水上戦において、造船技術がより重要な役割を果たしていたら、財力のある平家が勝利したかもしれませんが、そうはなりません。
海上貿易となれば、それこそ2012年大河ドラマ『平清盛』に出てきた宋船が必須です。
しかし戦闘自体は、弥生時代からさして変わらぬ原始的な船ですから、そこまで差がつかないのです。
政子の懐妊で祐親に恩赦が
政子が懐妊しました。
妻の手を取り、今度こそ跡継ぎを産むよう願っている頼朝。
豆を食べるといいと実衣が言います。この子はこういうトリビアが好きですね。
しかし、それは子を宿す前だとりくが訂正します。
男児の出産に必要なのは、母親の険しい顔だそうです。そこで政子が般若面のような顔芸をすることに……。
阿野全成が、親が徳を積めば望み通りの子が生まれると言い出しす。
すかさず義時が、先の戦で捕らえられたものを許す恩赦を願い出ました。
「それ、いいかもしれない」
政子も賛同。
りくは、政子に男児ができるのではないかとイライラしています。彼女の野望プランからすれば邪魔者ですからね。
時政は近頃怒ってばかりだという。
「あなたにはわからないと思います!」
そう言い切るりくに、時政は政子の産んだ子が、北条の血が流れた子が鎌倉殿になると喜んでいます。
「私の血は引いていません!」
思わず固まる時政。りくも本音を吐き出してからは、しおらしく「わかってはいる」と言います。
りくの夢は京都に戻ること。それを叶えて見せると笑顔を浮かべる時政。
それでも、やはり彼女は悔しそう。
ただ京都に戻るだけでは済まされない。成功者として戻りたいのでしょう。
跡取りとなるべく男児が生まれてくるように、阿野全成が「変成男子」の法を行うと言います。
弟の源範頼も男子が産まれて欲しいと素直にいい、義経もそこに同意しているようで実際はそうも思えない。
りくも。義経も。権力欲が、人をおかしくする――。
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江間の館を用意した
ともかく頼朝の第二子出産により、伊東祐親と祐清の父子は、恩赦を受けられることになりました。
義時がそれを告げ、さらに条件を提示します。
御所に来て頼朝に頭を下げること。
戸惑いを見せる祐親ですが、いまさらおかしなことを言い出さないで欲しいと祐清が釘を刺します。
祐親が答えます。
以前なら、奴の前で舌を噛み切っていたかもしれん。しかし清盛が死んで、力が抜けた。今は早く八重と暮らしたい。
これには義時もにっこり。
「爺様は、顔つきが柔らかくなりました」
その通りですよね。祐親が優しい顔になっている。何かに取り憑かれていたものがすっと落ちて、透き通った綺麗な顔になりました。
義時はこのことを八重に報告しに行きます。失恋と仕事を分けて考えるえらい男よのぅ。
八重がお礼を言うと、義時はこう返す。
「礼なら、姉上とお腹の子に言ってください」
いや……その通りだけど、頼朝との子を失った八重に、それはちょっとつらい現実かも。義時、やっぱり鈍感だなぁ……。
爺様も憑き物が落ちたように穏やかになったと喜んでいる義時。
これからは親子で暮らせるよう支度をすると告げると、八重が答えます。
「私はここに残ります」
「また……」
「あの人とは暮らせません」
義時はじっくりと説得します。許せない気持ちはあっても、それでも一緒にいるべきだ。
許せないのに一緒にいるのは辛すぎると八重が切ない表情になると、初めだけだ、時はそういうものだと義時は訴えます。江間に戻れば懐かしい景色が待っている。
江間が誰のものかと八重が尋ねると、照れながら「私です」と打ち明ける義時。驚く彼女にこう返します。
「そういう意味ではないので、ご安心を」
”そういう意味“とは、要するに八重とセットで江間をもらったわけではないということでしょう。
いいぞ! 草餅ときのこプレゼントの件はもう忘れよう!
義時には、純粋に八重の幸せが見たいという気持ちがあるんですね。
綺麗事かもしれないけれど、実際にそういう行動に出ていれば、それで良し。欲望で目が濁った連中ばかりの中、義時は透き通っています。
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