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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第20回「帰ってきた義経」】
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武芸同様に音曲に励んだ重忠
なんでも畠山重忠は武芸同様に音曲を学んでおり、工藤祐経は武芸そっちのけで鼓に命を懸けてきたとか。そんなことだからあなたは……と突っ込みたい。
そして、呼ばれてもいないのに三浦義村もいました。
静御前を間近で見たいんだってよ。相変わらず、なんなんだ。
しかし義村が、こんなもんテキトーに叩いていればいいんだと開き直っていると、突然、重忠がキレました。
「音曲を侮るな! 私がこの域に達するまでどれだけの年数がかかったとお思いか!」
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義村は、舐め腐った態度の坂東武者代表格かもしれません。
静の宿にドヤドヤ押しかけた坂東武者たちはいて、中には口説き始めた不届者も。まったくろくでもない。
そして肝心の音曲ですが、琴や笛ではありませんね。そういう京都の貴族のようなものではなく、打楽器を演奏している。
演奏は神事にも用いられるので、信心深い重忠は熱心に稽古したのでしょう。そもそも神頼みが好きでもない義村は、心の底から興味がないと。
坂東武者のこういう音曲も、それこそ京都から来た文官からすればこうなるかもしれない。
「えっ! そ、素朴ですね」
「嵆康(けいこう)の『広陵散』のお話なんてご存じですか? ああいうね、琴を弾くのがうちらのやり方で」
「でも、ま、その、坂東では早いんですかねえ……」
鎌倉の文化文明はこれからですね。がんばろう。
かくして静が舞うことになりますが、動きがぎこちない上に扇子を落としてしまいます。
頼朝が呆れたように言う。
「これが静か……」
他の観客たちも「下手すぎる……」とざわついています。
そんな静の脳裏には、義経の言葉が浮かんでいる。
「生きたければ、黙っていろ」
しかし……。
しづやしづ 賤(しず)のをだまき繰り返し 昔を今になすよしもがな
静よ、静よ。そう私の名を繰り返し呼んでくださったあの方。あの九郎様が輝いていたころにまで、世が戻ればよいのに。
義経への思いを歌い、本気で舞いを始める静。
もはや彼女が本物であり、義経を愛していると宣言したようなものです。どこかボーッとしていた義村も、思わず顔がキリッと引き締まります。
大姫が呟く……。
「どうして」
「女子の覚悟です」
政子が目を光らせてそう言い切ります。
「覚悟?」
「あなたが挙兵されたとき、私も覚悟を決めました。それと同じことです」
政子の言葉で、頼朝も理解できた顔になっています。
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何があろうと、この愛だけは譲れない。かつて頼朝を愛した政子には、静の気持ちがわかるのでしょう。
そして大姫も、女子の覚悟を理解できたのかもしれません。
あんなに幼い頃、義高を救うために刃を喉につきつけた自分のことを、思い出したのかもしれません。
静はその後、鎌倉に置かれ、四ヶ月後、子を産みました。
奥州が助かるには義経の首しかない
「あいつらしい」
そんな風に彼女の話を聞いていた義経が、続けて義時に尋ねます。
「どっちだった?」
「男でございました」
ため息をつく義経。静は止めても赤ん坊は連れて行かれ、殺されました。
その後の静は行方が不明だとか、青墓の宿で静に似た遊女を見たとか。
「お伝えすべきではなかったでしょうか」
「いや……聞いておいてよかった」
義経は暗い声で返します。外では里も、この顛末を聞いていました。
このあと、刀を抜いて人形を切る義経を見て、義時は確信します。
「うまく運んだようだ」
義時は、泰衡に迫ります。義経の鎌倉への憎しみが抑えきれぬところまで膨らんでいる。国衡と挙兵するつもりではないか。
義時に、そうそそのかされた泰衡は、なぜ兄が出てくるのか! 戦など誰がするか! とイラつくことしかできない。
鎌倉に楯突く気なんてない。それを信じさせるにはどうしたらよいか?
思わず義時にすがると、こう教えられます。
「手はひとつ。九郎殿の首を取り、鎌倉殿に届ける。それしか道はありません」
奥州を救うようでいて、実は罠にハメるための謀略をスラスラと泰衡に説明する義時。
さらに追い打ちをかけます。
鎌倉が攻めて来れば平泉は火の海だ。たとえ義経であろうと守りきれない。四代にわたって栄えてきた一門をご自分の代で潰してしまってよいのか?
もはや泰衡は腰砕け。だから義経を迎えたくなかったんだと今にも崩れ落ちそうです。
ならば「不意打ちせよ」と勧める義時。なまじ強い相手だけに、そういう卑劣な手段も正当化できなくもありません。
と、そこへ弟の頼衡がやってきました。
「兄上、なりませぬ! 亡き父の言葉をお忘れですか!」
この頼衡は、義時の魂胆にどこまで気づいているのか。泰衡に、平泉の行く末は私が決めると言われると、今度は義時に直接言葉を突きつけます。
「何をしに平泉に来た! お前の魂胆は何だ!」
同時に刀を抜き、義時に斬りかかろうとしたところで、善児が素早く仕留めます。
弟を死に追いやり、もう後には退けないと義時が泰衡に断言。
事は、義時の思惑通りに進んでゆきました。
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里を小刀で一突き
「九郎殿は腹を括られた。戦になるぞ」
仕事を終えた義時が、善児に話しかけます。
「種は蒔いた、鎌倉へ参る。先に帰って鎌倉殿に伝えよ」
そうして善児を先に行かせるわけですが……あの善児もだいぶ毒気が抜けた感がありますね。
義時相手となると饒舌でしたし、自分のことすらペラペラしゃべっていた。何気ない雑談で気が緩めば弱点がさらされるから、あの手の仕事を生業とするなら、口が軽くない方がよいでしょう。
一方で、善児が油断したというのでもなく、義時が黒くなってきた現れと見るべきかもしれない。
今の義時はそう簡単に騙せないし、殺せなくなっている。だから善児相手だろうと安心できるといえばそう。
善児の使い方を学ぶことも大事であり、義時はこなしつつあります。順調によく育っている逸材です。
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義経は死が近づきつつあるのか。亡き秀衡の幻を見た後、自宅へ戻ると、里に覚悟を告げます。
「ここらが潮時のようだ」
「私はこんなところで死にたくありませんから」
「これも宿命(さだめ)だ、あきらめろ」
里は不満そうだ。ついてきたくなかった。畑仕事もしたくなかった。
そう愚痴を言ってから、こう言います。
「でもひとつだけ嬉しいことが……。聞いてましたよ。静のこと。いい気味だわ」
「そんなに静が憎いか」
里はここで、京都で刺客に襲われた時のことを告白します。あの者たちを手引きしたのは私だ。あの女を殺すつもりだったと。
「お前が呼んだのか。兄の策ではなかったのか。お前が、呼んだのか、お前が!」
怒りに我を忘れ、小刀を手にして迫った義経は、里を刺し殺してしまいます。
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「すまぬ、里、すまぬ、すまぬ」
泣きじゃくる義経。
鎌倉攻めの答え合わせは……
義時が馬で進んでいると、その進路に何者かが立ちはだかります。
弁慶です。主人である義経が呼んでいると義時に告げる。
そのころ義経の館には、泰衡の兵士たちが進んでいました。
罠を避けるために、裏へ回った弁慶と義時。
館の中に案内されると、義経はあっけらかんとしていました。いったん弁慶は外へ出て行きます。
表情の明るい義経でしたが、部屋の床には筵をかぶせた妻子の遺骸。
泰衡の手勢が来ていると話しながら、その上で今回の一件は義時が一枚噛んでいることを見抜いています。
「私は人を信じすぎると言ったのはお前だ。私も少し賢くなった」
二人が話している間に、木の板で武装した弁慶がその姿を義経に見せてきます。
「いいねぇ!」と気楽に返す義経。
義経は、なぜ義時が静の話をしたのか不思議に感じていました。
そして考えた。義経が鎌倉に対する憎悪を抱いてなければ、兵を差し向けるわけにもいかない。
そうして義時の思惑を暴いている最中にも、またまた弁慶が武装姿を確認しに来ます。
笑いとばし「よし、今だ!」と弁慶を送り出す義経。
「武蔵坊、世話になった!」
「やめてください」
今生の別れでも、どこかじゃれあう犬のような主従です。
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あいつがしばらく時を稼いでくれると義経は言い、扉を閉めるとさらに話を続けます。
「自分の手は汚さず、泰衡に私を討たせる。兄上の考えそうなことだ」
「それがわかって何故……」
「そこまで兄上にとって私は邪魔なのか。そう思うとどうでもよくなった。この首で平泉が守れるなら本望だ。見せたいものがある」
義経は、ずっと鎌倉攻めの戦術を考えていました。地図を広げながら、その計画を義時に明かす。
北から攻める構えを見せ、南側の海から浜に上陸する。鎌倉を包囲し、すべての切り通しを防ぎ、袋の鼠にしてから町に火を放つ。
「どうだ?」
「素晴らしい。ただ……」
船団が三浦半島から丸見えだと義時が指摘すると、三浦を味方につけておくと義経が返す。
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「おそれいりました」
義時がそういうと、仔細を書いたものを梶原景時に届けて欲しいと義経は言います。
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外から弁慶の声が聞こえてきます。
思わず、はしゃいでしまう義経。
義時に対して、来た道から帰るように促します。そうでないと罠があるのでしょう。
そして、こじんまりとした衣川の館で、源義経は死を遂げるのでした。
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