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【麒麟がくる第7回】
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光秀のすごい力とは、誰かの心を動かして、引き出すところなのです。帰蝶自身、現実逃避して鶴を見たいと強がっていた可能性はあります。
「十兵衛は幼い頃よう泣いていた。木から落ちて泣き、蜂に刺されて泣き、それを私に見られて、武士の子が面目ない。頼むから誰にも申すな、母上にも内緒にしてくれ。そう申した。それゆえ誰にも言わず、ずっと黙って通した。一番親しい身内と思うているゆえ、約束を守った。今度は私を守って欲しい。尾張などへ嫁へは出してはならぬ。皆にそう申して欲しい」
帰蝶は、胸の奥にずっとしまっていた悲しい気持ちを全部訴えてしまうのです。
心を閉ざし、強がるけれど。光秀は小さな頃から、痛いことがあれば泣いて心を剥き出しにする人物だとわかります。
今は成長して、隠すことは覚えました。とはいえ、そう思いますか? 実はそうでもないのです。
「はぁ?」
「侍大将ぉ〜〜〜!」
そういう態度を結構見せますよね。
彼は自分自身にも素直なのです。賢いようでガードが甘くて、感情が出る。幼い頃から持つそんな本質は、まだ彼に残っています。
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牧と駒の問答から見えてくるものは?
駒は牧に、質問があると切り出しております。
稲葉山城で、小見の方に会った。そういう中で、帰蝶様のお輿入れについて聞いたのだと。牧はここでたしなめます。
「そのようなこと、国の大事ゆえ、軽々しく口の端にのせることは控えねばなりません。よろしいか」
牧は律儀で真面目。光秀はこの母の影響もあるとわかります。
牧は、儒教的な道徳心も説く。
女子はいずれ然るべき方へ嫁ぎ、子を産み、育てねばなりませぬ。それは誰にでも言えること。帰蝶様も、駒さんも。皆等しう、そういう時を迎える。それが今日か、あすかはわかりませぬが。そう言い切るのです。
それはこの世界の大原則のようで、残酷さもあるとわかる。駒は言い返します。
「それができぬものは、どうすればよいのでしょうか?」
「できぬもの?」
「思うても、思いが遂げられぬ者もおりましょう。身分のこと。暮らし向きのこと。さまざまなわけがあり、嫁ぐことが叶わぬ者は……」
ここで十兵衛がやって来ます。戸惑った顔のまま、すすめられた干し柿をもくもくと食べる。美濃にはまだ、水飴のような高級菓子はありません。
秀逸な問答だとは思いました。
かつての大河には、悪しき伝統はあった。政略結婚を否定するために、やたらと木に登ったり、馬を止めるヒロインが出てくる。ウダウダと、お見合いを否定するようなことを口調で喋らせる。
ああいうのが、薄っぺらい女性向けだのなんだのされて来たものですが、現実も、人の認識も、進歩します。
この問答からは、21世紀の歴史劇にふさわしい、結婚ができぬ苦しみへのアプローチが感じられました。
ポリコレがどうこう、配慮がフィクションをつまらなくするとは言われております。そういうエログロバイオレンス、脳内想定PTAがキーキー言うようなものだけが、トレンディな若者センスだなんだと言うのはそろそろ終わりにしましょう。
海外コンテンツは、そこを配慮した上で、きっちりとおもしろい傑作を世に送り出しております。
本作が受けない原因として、こんな分析もあるようです。
「主人公が真面目すぎてつまらない!」
真面目すぎる主人公だとつまらない?
そういう理屈は、サスペンス漫画にどっぷりハマった中学生のようではありませんか。
ならば、どういう主人公がよいのでしょう? 我が子の祝言で暗殺をする真田昌幸? ノリノリで毒入り茶を飲ませる斎藤利政? それはそれでいかがなものでしょうね。毎週殺伐としそうだなぁ。
娘が敵として歯向かってくる可能性も
稲葉山城で、光安と光秀は斎藤利政と向き合うことになります。
ここで光安は釘を刺す。
「よいな。余計なことは申し上げるなよ。どこまでも帰蝶様が仰せになったことを、そのまま仰せになるのだ。そなたの意見は仰せになるな」
「はいはい……」
光秀、感じ悪いぞ!
そうそう、本作の光秀は別に生真面目なだけではない。かったるいと思うと、素直に出てしまう。まだ若いからかもしれませんが、そういうところはあります。完璧超人ではありません。
むしろガードがゆるくて、愛嬌も感じるのです。
光安は愚痴をこぼす。
「身内であるだけに、損な役回りじゃ。なぁ、十兵衛……」
はい、出迎える利政は足の爪を切っています。伸びただけ? まぁ、そういう可能性はあります。ただ、演じるということは敢えてやらせているということは考えたい。
手先を動かして、集中したいのかもしれません。
『真田丸』の真田昌幸。彼は掌の中で胡桃を回しておりました。あれは『真田太平記』の昌幸と同じ仕草であるという解釈はもちろんできます。
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頭を刺激するという理由もある。そういう名目のもと、販売されているものもあります。
じゃあ、ここでやってみましょう!
くるくる回して、賢くなれるかな?
それにそこは現代社会ですから、胡桃の代用品はあります。ハンドスピナーとかね。あれは賢くなるというよりも、単純作業で心を落ち着かせている可能性はあります。
はい、爪切りを終えまして。利政はこう宣言します。
「人を説き伏せるには、まず自らがそれが正しいと思うことが大事ぞ」
一応、なんでも思うことは申してみよと促してはおります。しかし、相手はあの蝮です。
斎藤利政と本音トークタイム「帰蝶を尾張へやることは正しいのか?」
光秀:織田へ嫁がれるということは、人質として行かれるということでもある。戦となれば、まず斬られるのは人質。情としてそれは忍びない。
ここでちょっと補足しておきますと。
人質としてそうなることもあります。利政はその点どうでもよさそうではありますし、帰蝶もそうでしょうが、儒教道徳では嫁ぎ先に従うことが正しい。
織田と戦になれば、娘が敵として歯向かってくることもあるわけです。
【情】と【理】を天秤にかけ
はい、ここで利政が怒り出す。
感情論で言えば、父であるわしが、胸が張り裂ける! わかるか、されどじゃ、その情を断ち切るだけの値打ちがこの和議にあるのかどうか! そこを知りたかったわけです。
はい、利政は自分の【情】と【理】を天秤にかけております。
理詰めで話して欲しいのに、情のことを持ち出されて、心理的にダメージを受けております。
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利政は、なるべく感情を排除して生きている。そうであればこそ、平然と娘婿に毒を盛っていられた。
これは『真田丸』の真田昌幸もそうでした。我が子の感情を無視できればこそ、次男・真田信繁の祝言で暗殺をするという最低最悪のことができました。
自分の感情か。
周囲の感情か。
この方向性の違いがあれど、『おんな城主 直虎』の小野政次も、感情を遮断できました。周囲が自分をいかに憎み罵ろうと、そのことで傷つく己の心さえ遮断できれば、家のためになるとああいう生き方を選んだのです。
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こういう感情を遮断し続けると、本人でも無意識の内にストレスがたまるもの。そんな悲しい利政を見てゆきましょう。
光秀は素直です。
この十兵衛、和議の値打ちを未だわかりかねている、私に帰蝶様を説得できないことは無理だと断言するのです。
利政、ここで怒り出す。
「用はない、帰れ!」
「わかりました。帰ります!」
そうさっさと去ろうとする相手に「このうつけ者!」と物まで投げて怒る。そんな利政なのです。
ここで息を切らして、光安も気まずい思いなのに、彼はこう言い切りました。
「十兵衛を呼び戻せ!」
利政は寂しい。それに、織田信秀と平手政秀のやりとりも思い出してください。
政秀は賢く、主君の聞きたい意見を先回りする。そういう器用なところがありました。不器用な光秀と好対照なのです。
でも、だからこそ利政は心の底から光秀を求めている。自分の耳に痛い諫言をしてくれる。本音をぶつけ合うことで、気持ちの整理もできる。セラピーのような効果もある。
甘っちょろい褒め言葉だけでは、ものごとは解決できない。利政は、自分を蝮として恐れるのではなく、本音を言ってくれる相手が欲しくてたまらないのでしょう。
ありのままの本音を語る。そういう人間には独特の力があるのです。
利政も悲しいのですが、政秀も切ないものがあるのです。
信秀相手では通じたスマートな会話術が、信長だと通じない。それどころか酷い目にあわされ、地獄の本音トークバトルにつっこんで、悲惨な末路を辿る。そんなことになりそうで、苦い何かを感じるのです……。
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光秀はフランクでぶっきらぼうでありえないと言われますが、そこが彼の力だということも考えてゆきましょう。
長谷川博己さんの演技力です。彼ほどの役者が、丁寧な所作ができないはずがないのです。ぶっきらぼうに見えるのだとすれば、それも本作の策の一端でしょう。
マネーの力 国力の源
光秀が戻ると、利政は落ち着いてこう言ってきます。
松永久秀殿から文が届いた。三好長慶殿のご側近で、なかなかのやり手。それが明智十兵衛に世話になったとお礼状を書いて寄越された。
京都で何があったかわからぬが、褒めてつかわす。そう告げる。
やはり寂しさを感じますね。遠い場所にいながら、なんらかのシンパシーを感じる梟雄同士。自分を理解されないと言う悲しみに、本人すら気づいていないのかもしれない。
そのうえで、京都で内裏を見てきたのかと問いかける。
「は?」
そう素直に返す光秀に、御所じゃと説明をする。帝のおわす、都の要。長い塀があり、中は見えなかったと光秀は言います。
そのうえで、利政はあの長い塀が洪水で長され、目も当てられぬ惨状になったと語ります。
ここで明かされるのがマネーの力です。
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本作は盤石です。お見事!
当時の貨幣価値を計算できなくとも、こうして並べられればその違いは圧倒的にわかる。
ここで利政は、父が油や紙を売る商人であったと前置きし、その父の言葉を持ち出します。
貿易の力は大きい。地道に田畑を作る、そういう努力を上回る利益を、交易は生み出すのだと。
海のメリット
・海は交易ができる。船便で材木、織物、諸国の品が届く
・市場が立てば、商人たちがそこで商売をする。大きな利が動く
・尾張はそういう国です! アットホームでオープンな港です!
・美濃は海がない。川はある。しかも洪水ばっかり……
本作はすごいところに突っ込んできます。
この時代は世界的にも、海が利益を生む世紀。日本の隣の中国大陸、明朝は江南が未曾有の発展を遂げた時代です。
政治の中心は北京がある中原ではあるものの、南京のある江南地方は経済と文化の力で大発展を遂げました。「南船北馬」という言葉があります。北は馬、南は船。水運が経済力を生み出し、花開いた時代です。日本も、そんな江南文化に憧れを抱き続けました。
もっと目を西に向けると、大航海時代です。
イベリア半島のスペインとポルトガルが、このころ大勢力を持っていたのは、海を制覇した力によるもの。南米大陸から銀を手に入れ、世界規模で経済を変えました。
その影響は日本にも、宣教師というかたちで現れます。その過程は、Amazonプライムの『MAGI』がおすすめ。
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これより後、資源が乏しく、人口も少ないイギリスが世界帝国として発展を遂げます。その理由は、彼らが海を制したことにある。
かつて、歴史は優れた人種や宗教あっての発展だと思われてきました。21世紀現在、それは違うのではないかと明かされつつあります。特定の人種だけが特別優れている。そんなものは思い込みに過ぎないのだと。
地理的な位置関係や条件こそ、重要な要素ではないか? そう研究が進んでおります。
そういうグローバルヒストリー論に通じることを、長いセリフで語る本作からは、挑戦する意気込みを感じます。『MAGI』を作られたのに、英雄だけを描いていては滅びの道あるのみでしょう。そこを、NHKがわかっていないはずがないわけです。
本作は、長いセリフがつまらないだのなんだの言われますが、違うのではないでしょうか。
新たな歴史研究を踏まえて、その説明として長くしたセリフをそう捉えられては、作る側も悲しくなる。そこを踏まえ、私はもっともっと考えていこうとは思います。ほっこりきゅんきゅん――そういう他の誰かが書くことは深掘りする必要性を感じません。大河の前は、きっちり長時間の昼寝をする。SNSは見ない。そういう注意力を節約する対策も考えました。よし、がんばっていこう!
山ではなく海を狙う国富論
利政はしみじみと語り出します。
利政の考える国富論
・国を豊かにするのであれば、海を手に入れること
・あの尾張には海がある。我らが戦をするのは、海を手に入れるため
・その尾張が手を差し出してきた!
・和議を結べば、海が近くなる!
・わしの仕事は戦をすることではない。国を豊かにすること。豊かであれば国は一つになる。一滴の地を流さずに豊かになる。それが今回の和議
斎藤利政とは、別に血も涙もないわけではない。
戦争は外交の延長――そういうところに突っ込んできました。梟雄になりたいわけじゃない。国を豊かにしたいだけ。そういう願いがそこにはある。
画期的なところに突っ込んできたかもしれない。
どうしたって、戦国時代には「天下統一がゴール」というイメージがあるかもしれない。『信長の野望』思考かな。しかし……。
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