『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』/amazonより引用

おんな城主直虎感想あらすじ

『おんな城主 直虎』感想レビュー第10回「走れ竜宮小僧」 ブレイク!高橋一生さんの小野政次

 

瀬名の命を救うため、今川の女領主へ直訴!するも……

瀬名は次郎にとって、たった一人の同性の親友です。
駿府についた次郎の前に、すっかり白髪になってしまった佐名がよろめき現れます。短い出番で可能な限り最大のインパクトを残す佐名。白髪に変わり、取り乱した姿から悲嘆と混乱が見てとれます。
佐名は、どうにかして瀬名を救って欲しいと懇願します。一方で井伊谷に残った政次は、次郎の性格で命乞いができるのか、疑念を抱くのでした。

次郎は早速、亡き義元の母である寿桂尼に面会します。
一瞬だけ次郎の成長に目を細めた寿桂尼ですが、あっさりと助命は無駄だから帰るようにと突き放します。この「大きくなったのう」から「去ね」と発する一瞬の間に、貴婦人から迫力に満ちた女大名に変貌する寿桂尼。彼女はとても怖い人です。

次郎は瀬名の書状を見せ、夫はともかく瀬名は忠義にあついのだから見逃して欲しいと頼みます。
寿桂尼は、岡崎の元康の元へ次郎が向かい、和睦に応じたら褒美に瀬名とその子は助命しようと持ちかけます。あまりに厳しい条件にひるむ次郎ですが、切り返しを思いつきます。
岡崎まで向かうからには瀬名とその子も同行させるべき、自分の留守中に瀬名とその子を殺されたら意味がないのだから、と啖呵を切る次郎。寿桂尼は次郎の覚悟をおもしろがります。

これが駄目な大河なら、この無茶苦茶な提案がそのまま通るかもしれません。次郎がお手製のお菓子を土産にしていて、それで寿桂尼がほだされるかもしれません。女性ならではの優しさとやらが突然発動されて、寿桂尼がほろりと次郎を許したかもしれません。
しかし、本作は簡単にはいきません。
ここで使者が、鵜殿長照が元康に責められ自害したとのしらせをもたらします。

長照は寿桂尼にとっては孫。静かな怒りに燃える寿桂尼は、次郎に「瀬名に引導を渡してやれ」と言い放ち、次郎を捕らえ瀬名の元に放り出します。次郎は親類を救って欲しいと情に訴えようとしましたが、寿桂尼もまた息子の義元をはじめ、同じ血を引く大切な人たちを失っているのです。
肉親への愛情は刃となって相手を切り裂くこともあるのです。孫の死を知った寿桂尼は、静かに激しく、その刃を次郎たちに向けました。

 

せめて竹千代と亀姫だけは助命して欲しい

こうして、複雑な事情ながらも久々に再会した次郎と瀬名。もはや助からないと絶望の底にある瀬名を、次郎は励まします。
そこへ使者が参り、明日龍泉寺で自害することになったと瀬名に告げます。せめて竹千代と亀姫だけは助命して欲しいと嘆願し、泣き崩れる瀬名でした。

翌朝、朝食を前に瀬名を説得する次郎です。まだ引導を渡していないとゴネたならば助命ができるはず、その間に今川館が焼け落ちるかもしれぬ、逃げ出す隙もあるかもしれぬ、元康が救出に来るかもしれぬ、とたたみかける次郎に瀬名はあきれます。
しかしその友を思う熱意に動かされた様子です。次郎の、このうまくいくかはわからないけど、相手を救うためにまっすぐに立ち向かってゆく姿は、先週テレビ放映された『アナと雪の女王』のヒロイン・アナを思わせるところがあります。
同性相手にマウンティングをしたり、男受けばかり気にしているのではなく、友情のためならばいてもたってもいられずに走り出す、そんなヒロインが見たかったんだよなあ、としみじみ思いましたね。2010年代の女性大河として、あるべき姿を本作は見せていると思います。お姫様でもなければ、誰かの母や妻でもない、一人の女性として困難に立ち向かう。そんな次郎の姿は実に爽やかです。

そしてついに、寺へと瀬名を運ぶ駕籠が到着します。
まだ引導を渡していない、瀬名にちゃんと引導を渡さないと祟るぞ、怖くないのか、と脅しながら粘る次郎。家臣に突き飛ばされ、ハラハラする場面ではありますが、セコム傑山が待機しているので安心感があります。

そこへ、早馬が駆けつけてくるのでした。先週に引き続き、この終わり方は気になります。

 

MVP:寿桂尼

先週、桶狭間の泥の中で踏みつけられた扇からは、義元の死と今川の失墜が見てとれました。
そして今週、この人の姿を見た時、まだまだ今川は死んではいないと思えました。見た瞬間にただ者ではないと思わされるのは、実のところ義元以上に彼女ではないかと思った次第です。

そしてこれは彼女だけではありませんが、本作は「女性だから」優しいとか、慈悲深いとか、そういうことは特にないのです。
「彼女だから」優しい、ということはあっても、性別がこうだからそうなるだろう、というわけではありません。寿桂尼もまた、短い出番から苛烈な性分を見せ付ける、強い女性の一人です。

次点は瀬名。ツンツンした序盤は奈々緖さんの十八番というところでしたが、今週は我が子を思い必死ですがる姿、悲嘆と諦念、友を信じる心の動きを絶妙に演じわけておりました。今後の彼女の運命を思うと辛いものがありますが、その時の奈々緖さんの演技を見るのが楽しみになってきてもいます。

 

総評

「日日是好日」という言葉が今週、そして本作のキーワードであると思います。
日々穏やかに生きてゆきたいというささやかな願い。次郎の死は、実は織田信長の「本能寺の変」と同年(1582年)ですので、その願いは死後にしか叶いません。しかも『真田丸』で語られたように、幾多の犠牲があって成り立つわけです。

そんなわけで、本作の人物たちは今週生まれたばかりの井伊直政も含めて、ほんとうの意味で穏やかな日々を見ることなく世を去るわけですが、それでも何事もない日はあったわけです。
写経に励む政次、弓を鳴らして我が子の誕生を待つ直親らの日常はそうした貴重な瞬間であると思えます。

何故こんなことを書くかと言いますと、来週以降今週の穏やかさがきっと懐かしくなるだろうと思うからです。この穏やかさは嵐の前の静けさなのでしょう。

そして今週気になったのが、松平元康の描き方です。井伊家にとっては救世主ともいえる存在ですが、本作はそう素直に描くつもりはないようで、瀬名と我が子をあっさり見捨てる冷酷さ、三河・遠江をひっかき回す恐ろしさが表現されていました。

こういう描き方はなかなか珍しいと思います。
元康は井伊家を救うのですが、同時に次郎にとって大切な人の命を奪う存在でもあります。昨年の家康は老獪さで主人公たちと苦しめましたが、今年の元康は若さゆえの鋭敏さで、次郎とその周辺をかき乱すことでしょう。

昨年とはひと味違う黒い家康像が楽しみです。

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著:武者震之助
絵:霜月けい

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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link

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